パーヴォ・ティネル 9602 フロアランプは、1935年にフィンランドの照明デザインの巨匠パーヴォ・ティネルによって、ハメーンリンナのホテル・アウランコのためにデザインされた傑作である。「チャイニーズハット」の愛称で親しまれるこのフロアランプは、アジアの伝統的な笠帽子からインスピレーションを得た優雅で軽やかなシェードと、ラタンで覆われた繊細なステムを特徴としている。真鍮のアクセントがベースとシェード上部に施され、自然素材と金属の調和が見事に表現された作品である。
デザインの背景
9602フロアランプは、1935年にフィンランド南部ハメーンリンナに位置するホテル・アウランコのために特別にデザインされた。この時期、ティネルは自身が共同創設者となったフィンランド初の照明器具メーカーOy Taito Abの最高デザイン責任者として活躍しており、建築空間に調和する照明デザインの可能性を追求していた。ホテルという公共空間のために創作されたこのランプは、機能性と装飾性を兼ね備えた照明として、優雅な雰囲気を演出する役割を担っていた。
特徴・コンセプト
独創的なシェードデザイン
このフロアランプの最も特徴的な要素は、直径63センチメートルに及ぶ広い円錐形のシェードである。アジアの伝統的な笠帽子を彷彿とさせるこの形状から「チャイニーズハット」という愛称が生まれた。シェードはキャンバス、籐柳、または竹の3種類の素材で展開されており、それぞれが異なる光の拡散効果と美的表情を生み出す。籐柳と竹のバージョンでは、極細の糸で丁寧に縫い合わされた職人技が光を通して見ることができる。
素材の調和
9602フロアランプは、ティネルが得意とした異なる素材の調和的な組み合わせを体現している。ラタンで覆われた細身のステムは、自然素材の温かみを表現しながら、底部の真鍮リングによって構造的に補強されている。ベースとシェード頂部に配された磨き上げられた真鍮は、自然素材との対比によって視覚的なアクセントとなり、デザイン全体を引き締める役割を果たしている。この素材の組み合わせは、北欧デザインの伝統である自然との共生という思想を反映したものである。
照明としての機能
このランプは、高さ152センチメートルという存在感のある佇まいでありながら、ベースの直径は24センチメートルと小さな設置面積に収まる設計となっている。広いシェードが柔らかく拡散された周囲光を生み出し、リビング空間に穏やかで心地よい雰囲気を創出する。ポールに配置されたスイッチによって操作性も考慮されており、実用性と美的価値が見事に両立されている。
エピソード
GUBIによる復刻
2018年、デンマークのデザインブランドGUBIは、パーヴォ・ティネルの傑作コレクションを待望の復刻として発表した。9602フロアランプはこのコレクションの中核をなす作品の一つとして蘇り、現代の住空間において再び光を放つこととなった。GUBIは、オリジナルの設計図と詳細な研究に基づき、ティネルが追求した品質基準を忠実に再現することに尽力した。この復刻により、コレクターズアイテムとしてオークションで高値で取引されていたティネルのデザインが、より多くの人々の手に届くようになった。
Pierre Freyとの特別版
GUBIは復刻後も9602フロアランプの可能性を探求し続け、パリの名門テキスタイルハウスMaison Pierre Freyとのコラボレーションによる特別版を発表した。この版では、「Le Jardin Du Palais」と名付けられた幻想的な庭園を描いたパターンのファブリックがシェードに採用されている。布地は手作業でプリーツ加工が施され、ティネル自身が初期のデザインで採用していたテキスタイルシェードの技法を現代に継承している。多彩な色彩が織りなす万華鏡のような光の演出は、空間に柔らかさと温もり、そして詩情をもたらす。
評価
9602フロアランプは、ティネルの無限の想像力と永続的な美を創造する比類なき能力を示す作品として高く評価されている。ティネルの作品は1950年から1951年にかけてニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された「Good Design」展に出展され、国際的な注目を集めた。現在、MoMAデザインストアでも9602フロアランプが取り扱われており、美術館が認めた優れたデザインとしての地位を確立している。オリジナルのティネルによる照明作品は、今日ではコレクターズアイテムとして高い価値を持ち、オークションでは数万ユーロの価格で取引されることも珍しくない。9602フロアランプは、ティネルが照明デザインの分野において築いた遺産を象徴する作品の一つとして、デザイン史において重要な位置を占めている。
受賞歴
パーヴォ・ティネルは、そのキャリアを通じて数々の栄誉ある賞を受賞している。1929年にはバルセロナ万国博覧会でデザイン賞を、1933年にはミラノ・トリエンナーレでデザイン賞を受賞した。1950年にはアメリカインテリアデコレーター協会から照明デザイン部門で第一位を獲得し、翌1951年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)のGood Design Awardsで第一位を受賞した。さらに1952年にはアメリカインテリアデコレーター協会からExcellence in Design Awardを受賞している。これらの受賞歴は、ティネルの照明デザインが国際的に高く評価され、特にアメリカ市場において大きな影響力を持っていたことを示している。
基本情報
| デザイナー | パーヴォ・ティネル(Paavo Tynell) |
|---|---|
| デザイン年 | 1935年 |
| デザイン目的 | ホテル・アウランコ(Hotel Aulanko)のための特別デザイン |
| オリジナル製造 | Oy Taito Ab(フィンランド) |
| 現在の製造 | GUBI(デンマーク、2018年より復刻) |
| 別名 | チャイニーズハット(Chinese Hat) |
| 寸法 | 高さ152cm、シェード直径63cm × 高さ20cm、ベース直径24cm |
| コード長 | 200cm |
| 素材 | 真鍮、ラタン、キャンバス/籐柳/竹(シェード) |
| シェードバリエーション | キャンバス、籐柳、竹の3種類 |
| 電球タイプ | E26(US)/E27(EU)、推奨6-10W LED 2700K |
| 調光機能 | 非対応 |