デンマーク家具の精髄を体現する永遠のダイニングチェア
モデル75は、デンマークの家具デザイナー、ニールス・オットー・モラーが1954年に発表した、北欧モダンデザインを代表するダイニングチェアである。「新しいモダン」シリーズの最初期の作品として誕生したこの椅子は、デンマーク家具の伝統的な職人技と戦後の機能主義的デザイン哲学が見事に融合した逸品として、発表から70年を経た今日でも世界中で高い評価を受け続けている。
モラーが自ら設立したJ.L. Møllers Møbelfabrikにおいて製作されたモデル75は、単なる座るための道具を超え、木材への深い理解と卓越した構造設計が生み出した芸術作品といえる。アームレスのシンプルな形態ながら、計算し尽くされた有機的なフォルムと精緻な構造により、視覚的な軽快さと長時間の使用にも耐えうる快適性を両立させている。
構造美が際立つ設計思想
モデル75の最も顕著な特徴は、その構造的な完成度の高さにある。座面の四隅において木製のダボが相互に嵌合する独創的な接合方式を採用することで、通常のダイニングチェアでは不可欠とされる脚部のクロスコネクションを、構造的には必要としない強度を実現した。しかしながらモラーは、この椅子においてあえてクロスコネクションを配置している。ただし、それを通常よりも高い位置に設けることで、椅子全体の軽快で洗練された印象を損なうことなく、さらなる堅牢性を付加することに成功している。
直線的な脚部は、スカンディナビアデザインの特徴である簡潔さを体現しながら、同時に安定した構造を保証する。フラットな木製の背もたれはアームレスの設計により、テーブルの周囲に配置する際の自由度を高め、限られた空間においても複数脚を効率的に配置することを可能としている。この実用性への配慮は、小規模な住空間が一般的であった1950年代のデンマークにおいて、特に重要な設計要件であった。
使用される素材は、オーク材またはビーチ材の無垢材である。これらの木材は、オイル仕上げ、ソープ仕上げ、ラッカー仕上げといった様々な表面処理が施され、また燻煙オークやブラックステインといった色調の選択肢も用意されている。座面には、伝統的なペーパーコード(自然色または黒)、あるいはファブリックや本革による張地が選択可能であり、多様な室内空間との調和を実現している。
職人の魂が宿る製作過程
モデル75は、今日においても創業時と同じオーフス郊外のヘイビャウにあるJ.L. Møllers Møbelfabrikの工場で製作されている。この工場には組立ラインが存在せず、熟練した職人たちが一脚一脚を手作業で丁寧に仕上げている。各工程に特化した専門職人が細部にまで注意を払いながら製作に従事し、ホゾとホゾ穴による伝統的な接合技法を用いて組み立てられる。最終的な研磨作業も手作業で行われ、最も微細なディテールまで見逃されることがない。
この妥協なき製作姿勢は、ニールス・オットー・モラー自身の哲学を忠実に受け継ぐものである。彼の息子ヨルゲン・ヘンリック・モラーは「父は椅子をデザインする際、決して妥協することがありませんでした。まず素材を見つけ、それから家具をデザインしたのです。各デザインの完成には5年を要しました」と語っている。この徹底した完璧主義が、60年以上の歴史を持つ企業としては比較的小規模なコレクションという結果をもたらしたが、同時にそれこそがモラーの椅子を特別なものとしている。
時代を超えて認められる価値
モデル75は発表当初から高い評価を受け、世界各国への輸出が行われた。1950年代初頭からドイツとアメリカへの輸出が開始され、その後日本市場にも進出している。J.L. Møllers Møbelfabrikは、その卓越した品質と伝統的職人技と近代的製造技術の融合により、1974年と1981年の二度にわたりデンマーク家具賞(Danish Furniture Prize)を受賞している。
1981年の受賞に際しての評価文では「最高の伝統的職人技と近代的家具製造技術を融合させる能力」が特に讃えられた。さらに同年、ニールス・オットー・モラーの逝去直前に、彼の会社はデンマーク女王陛下御用達の栄誉を授与されており、これはデンマークデザインの卓越性と伝統への貢献を認める重要な栄誉である。
今日、モデル75はヴィンテージ市場において高い人気を誇り、1950年代から1960年代に製作されたオリジナル品は特にコレクターから珍重されている。同時に、現行生産品も創業者が確立した品質基準と製造技術を維持しており、デザインの完全性と職人技の継承を体現している。現在、創業者の孫娘であるキルステン・モラーの指揮のもと、家族経営の伝統と品質への妥協なき姿勢は第三世代へと受け継がれている。
デンマークモダンの真髄
モデル75は、デンマークモダンデザイン運動の核心的価値を具現化している。装飾を排した簡潔なフォルム、最高品質の天然素材の使用、そして熟練した職人技による製作という三つの要素が、この椅子を単なる機能的な家具を超えた存在へと昇華させている。
ニールス・オットー・モラーは、優れたデザインは万人がアクセス可能であるべきだと信じていた。そのため彼の作品は広く流通し、手の届く価格で提供された。この民主的なデザインへのアプローチは、エリート主義に陥ることなく最高品質を追求するという、スカンディナビアデザインの本質的な理念を体現している。
モデル75は、発表から70年を経た現在も、世界中のダイニングルームにおいて日々使用され続けている。この時代を超えた普遍性こそが、真に優れたデザインの証である。流行に左右されることなく、世代を超えて受け継がれていくモラーの椅子は、持続可能性と真の価値を重視する現代においても、その存在意義を失うことはない。
基本情報
| デザイナー | ニールス・オットー・モラー(Niels Otto Møller) |
|---|---|
| 製造 | J.L. Møllers Møbelfabrik |
| デザイン年 | 1954年 |
| 分類 | ダイニングチェア |
| 素材 | オーク材またはビーチ材(フレーム)、ペーパーコード/ファブリック/レザー(座面) |
| サイズ | 幅50cm × 奥行47cm × 高さ75cm(座面高44cm) |
| 生産状況 | 現行生産中 |