ハスクチェアは、スペイン出身でミラノを拠点に活動するデザイナー、パトリシア・ウルキオラが2011年にイタリアの名門家具メーカーB&B Italiaのためにデザインしたラウンジチェアである。「ソファを見る者は、精神的にも物理的にも快適さを視覚的に感じなければならない」というウルキオラの哲学が結実したこの作品は、硬質なシェルと柔らかなクッションという対照的な要素の融合により、包み込むような安心感と現代的な美学を同時に実現している。

ハスクコレクションは、アームチェア、ダイニングチェア、ソファ、ベッド、ローテーブル、フットレストなど多様なバリエーションを展開し、屋内外を問わず使用できる汎用性の高いシリーズとして発展を遂げている。リサイクル可能な素材の採用と分解可能な構造設計により、環境への配慮と快適性を高次元で両立させた点において、21世紀のサステナブルデザインの指標となる作品といえよう。

特徴とデザインコンセプト

硬と柔の対比による快適性の追求

ハスクチェアの最大の特徴は、堅牢なアウターシェルと柔軟なインナークッションという対照的な要素の組み合わせにある。外殻には、リサイクルおよびリサイクル可能なポリマー素材であるHirek®が使用され、構造的な強度と環境への配慮を実現している。このシェルは、まるで種子を守る殻のように座る者を包み込み、安心感と保護感を視覚的に表現する。

一方、内部のクッションは、人間工学的な配慮に基づいて複数のセクションに分割され、キルティング加工が施されている。このキャピトネ風の意匠は、19世紀の伝統的な室内装飾技法を現代的に再解釈したものであり、視覚的な柔らかさと触覚的な快適さを同時に提供する。クッション各部が身体の曲線に自然にフィットするよう設計されており、長時間の使用においても優れた座り心地を維持する。

サステナビリティへの配慮

ハスクチェアは、デザインの美学と環境への責任を統合した先駆的な事例である。シェルに使用されるHirek®は、再生ポリマーから構成される多層構造の素材であり、製品のライフサイクル全体を通じて環境負荷の低減を実現している。また、製品全体が将来的な分解とリサイクルを前提とした構造設計となっており、使用後の廃棄段階においても環境への影響を最小限に抑える配慮がなされている。

クッションはスナップボタンで固定されており、容易に取り外しが可能である。これにより、ファブリックやレザーの張り替え、清掃、部分的な交換が簡便に行え、製品の長寿命化に貢献している。こうした実用的な配慮は、使い捨て文化への批判と、持続可能な消費への移行を促す設計思想の表れといえる。

多様な空間に適応する柔軟性

ハスクチェアは、そのオリジナリティに満ちた精神性と多様なスタイルとの親和性により、住宅、オフィス、ホスピタリティ空間など、あらゆる環境に調和する。ベースは、固定式の4脚タイプと360度回転式のスイベルタイプが用意され、ダイキャストアルミニウム、スチールプロファイル、硬質ポリウレタン、あるいは無垢材など、多彩な素材と仕上げから選択できる。

シェルのカラーバリエーションも豊富で、ホワイト、ブラック、アンスラサイト、ブラウン、トルトラといったプラスチック仕上げに加え、厚手のレザー仕上げも5色展開されている。クッションは、ファブリックまたはレザーで提供され、シェルのフォルムを反映したキルティングパターンが施される。スタンダード、ラージ、ヘッドレスト付きの3つのクッションタイプと、コーディネートされたフットレストの選択により、使用者の体格や用途に応じた最適な構成が可能となる。

デザイナーとメーカーの協働

パトリシア・ウルキオラは、マドリード工科大学で建築とデザインを学んだ後、ミラノ工科大学でアキッレ・カスティリオーニの指導のもと研鑽を積んだ。2001年に自身のスタジオを設立して以降、B&B Italia、カッシーナ、モローゾ、カルテルなど、イタリアを代表する家具メーカーとの協働を通じて、数多くの革新的なプロダクトを世に送り出してきた。

B&B Italiaは、1966年の創業以来、現代デザインの最前線を牽引してきたイタリアの名門ブランドである。マリオ・ベリーニ、アントニオ・チッテリオ、ザハ・ハディドといった世界的デザイナーとの協働により、数々の象徴的な家具を生み出してきた。同社は1989年にコンパッソ・ドーロ賞を製造企業として初めて受賞しており、デザインと製造技術の卓越性において確固たる地位を築いている。

ハスクコレクションは、ウルキオラの感性とB&B Italiaの技術力が融合した結果であり、両者の長期的なパートナーシップの成果を象徴するプロジェクトといえる。素材研究、プロトタイピング、製造工程の最適化に至るまで、デザイナーとメーカーの緊密な対話を通じて実現された作品である。

エピソード

ハスクコレクションの開発は、従来のソファ製造プロセスを根本から見直すところから始まった。ウルキオラは、快適性を視覚的に伝達することを重視し、見る者が座る前からその心地よさを直感的に理解できるデザインを追求した。この哲学は、「Those who look at a sofa must visually perceive a sense of both mental and physical comfort」という彼女の言葉に端的に表現されている。

2011年の発表当初、ハスクコレクションはアームチェアとして登場し、その後、屋外バージョン、ダイニングチェア、ソファ、ベッドへと展開されていった。各バリエーションは、単なるサイズ変更ではなく、それぞれの用途と環境に最適化された独自の設計がなされている。特にダイニングチェアは、従来の食卓用椅子の概念を超えて、住宅内外の多様な空間で使用できる汎用性を持つ小型アームチェアとして開発された。

2017年から2018年にかけて、フィラデルフィア美術館で開催された「Patricia Urquiola: Between Craft and Industry」展において、ハスクチェアはウルキオラの創作プロセスを示す重要な作品として展示された。初期スケッチから最終製品に至るまでの資料が公開され、伝統的な手工芸技術と現代的な工業製造の融合というウルキオラのアプローチが詳細に紹介された。同展では、ハスクチェアのキルティングクッションが、まるでAmazonの緩衝材のように格子状に配置され、硬いシェル内に柔らかな窪みを形成する様子が評された。

評価と影響

ハスクコレクションは、発表以来、デザイン界において高い評価を受け続けている。サステナビリティと快適性の両立、伝統的な装飾技法の現代的解釈、多様な空間への適応性といった側面において、21世紀の家具デザインの模範として認識されている。

ウルキオラの作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、パリ装飾美術館、ミラノ・トリエンナーレ美術館、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館など、世界各地の著名な美術館のコレクションに収蔵されている。彼女自身も、スペイン政府から芸術功労金メダルとイサベル・カトリック勲章を授与されており、国際的なデザイン誌から複数回「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」に選出されている。

ハスクチェアは、環境配慮型デザインの商業的成功例として、後続のデザイナーたちに大きな影響を与えている。リサイクル素材の使用が機能性や美学を損なうことなく、むしろデザインの強みとなり得ることを実証した点において、業界全体のパラダイムシフトに貢献したといえる。また、キャピトネという歴史的な装飾技法を現代的文脈で再解釈し、新鮮な視覚言語として提示したことは、伝統と革新の対話という点でも示唆に富む。

基本情報

デザイナー パトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola)
ブランド B&B Italia
発表年 2011年
分類 ラウンジチェア
主要素材 Hirek®(リサイクル可能ポリマー)、ダイキャストアルミニウム、スチール、ファブリック/レザー
ベースタイプ 固定式4脚、360度回転式スイベル
コレクション ハスクコレクション(アームチェア、ダイニングチェア、ソファ、ベッド、ローテーブル、フットレスト、屋外版を含む)
生産国 イタリア