ヒー・チェアは、デンマークのデザイナー、ヒー・ウェリングが2004年にHAYのために創作したスチールワイヤー製の椅子である。冷蔵庫内のワイヤー棚という意外な着想源から生まれたこの椅子は、原型的な椅子の概念を最小限の要素まで削ぎ落としながら、機能性と快適性を損なわない洗練されたデザインを実現している。ダイニングチェア、ラウンジチェア、バースツールの3つのバージョンで展開され、屋内外の多様な環境に適応する汎用性の高さから、世界的な評価を獲得している。

デザイン哲学と特徴

ヒー・チェアの設計理念は、「原型的な椅子を細部まで完璧にし、本質を骨まで削ぎ落とす」という明確なビジョンに基づいている。ウェリングは、形態と機能の完璧なバランスを追求し、まるで線描画のように数メートルのスチールワイヤーを整然とした直線に巻き上げることで、三次元の鉛筆スケッチを思わせる軽やかな造形を実現した。

構造面では、11mmの太さのスチールワイヤーを電気亜鉛メッキ処理した後にパウダーコーティングを施すことで、錆に強く屋外使用にも耐える耐久性を確保している。機能性と美的価値を高次元で融合させるため、ワイヤーの太さの選定には特に細心の注意が払われた。単一素材の使用は、環境への配慮という側面においても意義深く、不要な輸送経路を削減し、リサイクルプロセスを簡素化する持続可能な設計となっている。

ダイニングチェアは最大8脚、ラウンジチェアは最大15脚まで積み重ねることができ、保管効率に優れている。豊富なカラーバリエーションは、レストランやバー、公共空間、住宅環境など、多様な文脈に調和する柔軟性を提供している。

制作背景とエピソード

ヒー・チェアは、デザイナーのキャリアにおいて画期的な転機となった作品である。家具職人の息子として育ち、父親の工房で木工の伝統技術に親しんだウェリングにとって、全体が金属で構成されたこの椅子の制作は、木工の世界からの大胆な離脱を意味していた。2003年に自身のスタジオをコペンハーゲンに設立した直後に手がけたこのプロジェクトは、HAYとの協働の出発点となり、以降の長期的なパートナーシップの基礎を築いた。

冷蔵庫内のワイヤー棚という日常的な要素からインスピレーションを得たという事実は、ウェリングの観察眼の鋭さと、身近な対象から本質的な美を抽出する能力を示している。この実用的かつ解読しやすいデザインアプローチは、「技術的に優れた製品を幅広い人々に届ける」というウェリングの中心的な理念を体現するものである。

2018年には塗装仕上げが更新され、よりマットな質感へと進化を遂げた。この改良は、時代とともに洗練度を高めながらも、本質的なデザイン言語を維持する姿勢を反映している。

評価と影響

ヒー・チェアは、その実用主義と明快な美学により、公共建築や商業空間において広く採用されている。ノルウェーのオスロ・オペラハウスやオーストラリア国会議事堂といった著名な建築物での採用は、その普遍的なデザイン価値と高い機能性を証明している。

デザイン批評においては、北欧デザインの伝統である形態と機能の調和を現代的に解釈した好例として評価されている。余剰を排除しながらも必要な機能を損なわないミニマリズムの実践、そして環境配慮型の素材選択は、21世紀のデザインが目指すべき方向性を示唆する作品として位置づけられている。

商業的成功も顕著であり、屋内外を問わず多様な環境での使用が可能な汎用性と、スタッカブル機能による優れた保管効率は、コントラクト市場において高く評価されている。HAYの製品ラインナップにおいても中核的な存在となり、ブランドの理念である「機能的でありながらエレガント」を具現化する代表作の一つとなっている。

受賞歴

ヒー・ウェリング自身は、デザイナーとして以下の栄誉を受けている。

  • Bo Bedre Award(デンマーク)
  • Good Design Award(アメリカ)
  • Danish Designer of the Year ノミネート(2013年、2014年)

基本情報

デザイナー ヒー・ウェリング
ブランド HAY
デザイン年 2004年
素材 スチールワイヤー(11mm、電気亜鉛メッキ後パウダーコーティング)
サイズ(ダイニングチェア) 幅475mm × 奥行500mm × 高さ790mm(座面高460mm)
サイズ(ラウンジチェア) 幅720mm × 奥行670mm × 高さ670mm(座面高370mm)
スタッカブル ダイニングチェア最大8脚、ラウンジチェア最大15脚
用途 屋内外両用
バリエーション ダイニングチェア、ラウンジチェア、バースツール