概要
D.154.2は、20世紀イタリアを代表する建築家ジオ・ポンティが1953年から1957年にかけてデザインした、包み込むような形状が特徴的なラウンジチェアである。このアームチェアは、ベネズエラのカラカスに位置するヴィラ・プランチャートのために特別に創作された作品であり、ポンティが最も情熱を注いだプロジェクトのひとつとして知られている。アートコレクターであるアナラ&アルマンド・プランチャート夫妻の私邸のために、建築からインテリアデザインに至るまでの全てを手掛けたポンティは、ベネズエラの熱帯植物からインスピレーションを得て、花のような有機的フォルムをこのチェアに結実させた。
2015年にMolteni&Cによって復刻されたD.154.2は、ジオ・ポンティ・アーカイヴスとの緻密な協力のもと、オリジナルデザインの精神を忠実に継承しながら、現代の製造技術を駆使して蘇った。硬質ポリウレタンのシェル、軟質ポリウレタンのカウンターフレーム、そしてクッションという三層構造により、彫刻的な美しさと快適な座り心地を両立させている。Molteni&C Heritage Collectionの中核を成すこのアームチェアは、2016年のWallpaper Design Awards、さらに2024年にはイタリアデザイン界で最も権威あるCompasso d'Oro Career Award for Productsを受賞し、時代を超越した価値を認められた。
デザインの背景と特徴
ヴィラ・プランチャートというプロジェクト
D.154.2の誕生は、ジオ・ポンティのキャリアにおいて極めて重要な位置を占めるヴィラ・プランチャート・プロジェクトと不可分の関係にある。1953年から1957年にかけて設計・建築されたこの邸宅は、プランチャート夫妻がポンティに全面的な設計を委ね、建築家兼インテリアデザイナーとして彼が自身の建築哲学を自由に表現することを可能にした稀有なプロジェクトであった。ポンティ自身が「私はヴィラ・プランチャートの設計に全身全霊を捧げ、その中で建築に対する自分のアプローチを内外ともに自由に表現することができた」と語っているように、この邸宅はイタリアの感性とベネズエラの環境が融合した、彼の理想を体現する作品となった。
1952年から1953年にかけてのラテンアメリカ旅行で得た知見を反映したこの建築は、フィレンツェ様式の要素を取り入れながらも、カラカスの熱帯気候と豊かな植生に呼応するデザインとなった。現在、財団および博物館として一般に公開されているヴィラ・プランチャートは、ポンティの卓越した才能とプランチャート夫妻のアートとデザインに対する情熱的な献身の証として、今日まで多くの人々を魅了し続けている。
有機的フォルムと彫刻的アプローチ
D.154.2の最も特徴的な要素は、その包み込むような貝殻状のフォルムである。ポンティは伝統的なアームチェアの構造に縛られることなく、ヴィラ・プランチャートの庭園を彩る熱帯植物の美しさへの詩的なオマージュとして、このデザインを構想した。花の形態からインスピレーションを得た柔らかく迎え入れるような内部構造は、「家具を彫刻として捉える」というポンティの革新的なアイデアを体現している。
このアームチェアの造形は、曲線を描く優美な輪郭と、硬質な要素と柔軟な要素の調和的な対比から生まれる絶妙なバランスによって、時代を超越した普遍性を獲得している。細身の脚部は真鍮またはクロームスチール仕上げで製作され、視覚的な軽やかさを実現しながらも、構造的な強度を保持している。全体として、彫刻的な存在感と機能的な快適性が見事に融合した、ポンティの創造的ビジョンの結晶といえる作品である。
構造と素材
復刻版D.154.2は、オリジナルデザインの包み込むような形状を忠実に再現しながら、現代の技術と素材を活用して製作されている。その構造は三層から成り、まず硬質ポリウレタンによって形成される剛性のあるシェルが全体の骨格を構成する。これに対して、軟質ポリウレタンのカウンターフレームが内側に配され、座る者を優しく包み込む感覚を創出している。さらに、快適性を高めるためのクッションが加わり、この三つの構成要素が一体となって、比類ない座り心地を実現している。
張地には、Molteni&Cが誇る豊富なテキスタイルおよびレザーのコレクションから選択が可能であり、シェル、カウンターフレーム、クッションの三つの要素それぞれに異なる素材や色を指定することもできる。この柔軟なカスタマイゼーションにより、空間の特性や個人の嗜好に合わせた個性的な仕上がりを実現することができる。また、2023年にはアウトドア環境での使用を想定した耐候性素材を採用したバージョンも発表され、室内外を問わずその美しさを享受できるようになった。
復刻とその意義
D.154.2の復刻は、2012年にMolteni&Cがジオ・ポンティ・アーカイヴスとの協力により開始した「ジオ・ポンティ・コレクション」プロジェクトの成果のひとつである。この取り組みは、ポンティが個人住宅や特別なプロジェクト、限定シリーズのためにデザインした歴史的家具を、長期にわたる調査と研究を経て現代に蘇らせることを目的としている。オリジナルデザインへの深い敬意を保ちながら、最新の製造技術を駆使することで、これらの作品はMolteni&Cのトータル・リビング・コンセプトおよび現代的なライフスタイルに適合する形で再生されている。
2015年に発表されたD.154.2の復刻版は、スタジオ・チェッリ&アソシアーティの芸術監督のもとで実現され、わずか翌年の2016年には権威あるWallpaper Design Awardsを受賞し、Molteni&Cのアイコン的存在となった。さらに2024年、このアームチェアはイタリア工業デザイン協会が授与するCompasso d'Oro Career Award for Productsという栄誉に輝いた。この受賞は、ジオ・ポンティのデザインとイノベーションが現代に至るまで持続的な影響を及ぼしていることを証明するものである。受賞を記念して、Molteni&Cは1950年代にポンティがヴィラ・プランチャートのために構想したオリジナルカラー、サンドとグリーンの2脚の特別復刻版を製作し、1脚をベネズエラのカラカスにあるアナラ&アルマンド・プランチャート財団に、もう1脚をADI(イタリア工業デザイン協会)に寄贈した。
デザイン思想と影響
D.154.2は、ジオ・ポンティの「軽やかさ」と「統合性」というデザイン哲学を体現する作品である。87年の生涯で二つの世界大戦を経験したポンティは、ウィーン分離派、イタリア合理主義、モダニズムといった時代のイズムに留まることなく、また建築、プロダクト、グラフィックなどの分野の細分化にも与することなく、統合的に自身の「眼」を追求した。D.154.2に見られる彫刻的アプローチは、大量生産に対するアートと工芸、ミニマリズムに対する装飾という二元論を軽やかに超越し、住空間における家具の新たな可能性を示唆している。
このアームチェアが約70年を経て現代においても新鮮な魅力を放つ理由は、ノスタルジーではなく、ポンティが追求した幸福感と軽やかに越境する表現が、現代社会が必要とするものと共振するからである。市場や工業的制約に縛られることなく、完全なデザインの自由のもとで創造されたD.154.2は、ポンティの詩的ビジョンを最も純粋な形で表現した作品のひとつとして、デザイン史における重要な位置を占めている。
評価と現代的意義
D.154.2は、発表から半世紀以上を経た現在においても、デザイン界および建築界から高い評価を受け続けている。2016年のWallpaper Design Awardsでの受賞は、復刻版が単なる歴史的再現にとどまらず、現代のデザイン基準においても卓越性を有することを証明した。さらに、2024年のCompasso d'Oro Career Award for Productsの受賞は、この作品がイタリアデザインの伝統と革新の象徴として認識されていることを示している。
美術館やギャラリーにおいても、D.154.2は重要な展示作品として扱われている。2025年3月に東京の21_21 DESIGN SIGHTで開催された「ジオ・ポンティの眼:軽やかに越境せよ。」展においても、このアームチェアはポンティの多面的な創造性を示す代表作として中心的な位置を占めた。現代のインテリアデザインにおいても、その彫刻的な美しさと快適性の両立は、空間に独特の存在感と優雅さをもたらす要素として、世界中のデザイン愛好家やコレクターから求められている。
基本情報
| デザイナー | ジオ・ポンティ(Gio Ponti) |
|---|---|
| デザイン年 | 1953年-1957年 |
| 製造 | Molteni&C(モルテーニ) |
| 復刻年 | 2015年 |
| サイズ | W120 × D81 × H74 cm |
| 素材 | 硬質ポリウレタンシェル、軟質ポリウレタンカウンターフレーム、クッション、真鍮またはクロームスチール脚、ファブリック/レザー張地 |
| コレクション | Molteni&C Heritage Collection / Gio Ponti Collection |
受賞歴
| 2016年 | Wallpaper Design Awards |
|---|---|
| 2024年 | Compasso d'Oro Career Award for Products(イタリア工業デザイン協会) |