アトーロは1977年、イタリアの建築家兼デザイナーであるヴィコ・マジストレッティによって、イタリアの照明ブランド、オルーチェのために創作されたテーブルランプである。円柱、円錐、半球という三つの純粋な幾何学的形態を組み合わせた本作品は、伝統的なアバジュール(卓上照明)の概念を抽象化し、近代的な視覚言語へと昇華させた。発表から二年後の1979年、イタリアデザイン界で最も権威あるコンパッソ・ドーロ賞を受賞し、テーブルランプの原型として広く認識されるに至った。
現在、アトーロはニューヨーク近代美術館(MoMA)、トリエンナーレ・ディ・ミラノ、フィラデルフィア美術館、チューリッヒ工芸美術館など、世界の主要なデザインミュージアムの永久コレクションに収蔵されており、イタリアンデザインを象徴するアイコンとしての地位を確立している。
デザインの特徴とコンセプト
幾何学的純粋性
アトーロの最大の特徴は、装飾を一切排した幾何学的純粋性にある。半球状のシェード、円錐形の支持部、円柱状の基部という三つの基本的な立体形状が一点で交差し、視覚的な緊張感と均衡を同時に実現している。この構成は、マジストレッティが追求した「形態は機能に従う」という原則を体現しながらも、彫刻的な美しさを兼ね備えている。
光の演出
アトーロは直接照明と間接照明の両方を提供する設計となっている。光源はシェード内部と円錐部に配置され、シェード内側で反射した光が柔らかく拡散される一方、円錐部に当たった光が下方へと反射される。この二重の光源配置により、空間全体に温かみのある均質な光を届けると同時に、本体に独特の陰影を生み出している。メタル仕様では光を透過しないため、より劇的な光と影のコントラストが楽しめ、オパールガラス仕様では全体が柔らかく発光し、より穏やかな雰囲気を醸し出す。
アバジュールの再解釈
マジストレッティは、アトーロを伝統的なアバジュールの抽象的な再解釈として位置づけている。装飾的な布製シェードと繊細な支柱から成る古典的な卓上照明を、幾何学的な形態言語へと翻訳することで、時代や流行に左右されない普遍的なデザインを実現した。この試みは、単なる形態の簡略化ではなく、照明器具の本質的な要素を純粋な形で表現する思想的探求であった。
製品バリエーションと仕様
アトーロは現在、三つの異なるサイズ展開で製造されている。最小の238モデルは直径25cm、高さ35cmで、ベッドサイドやサイドテーブルに適したコンパクトなサイズである。中間の239モデルは直径38cm、高さ50cm、最大の233(235)モデルは直径50cm、高さ70cmと、存在感のある大型サイズとなっている。
素材は大きく分けてメタル仕様とガラス仕様の二種類が用意されている。メタル仕様はアルミニウム製で、ホワイト、ブラック、サテンブロンズ、サテンゴールドの各色展開がある。ガラス仕様はオパール吹きガラスで製作され、乳白色の優しい光を放つ。多くのモデルには調光機能が備わっており、使用環境や時間帯に応じた光量調整が可能となっている。
エピソード
アトーロという名称は、イタリア語で環礁を意味する「atollo」に由来する。珊瑚礁がリング状に連なり、内側に浅い海を抱く環礁の形態は、円形のシェードと基部を持つこのランプの構造と共鳴している。マジストレッティがこの名称を選んだ背景には、幾何学的でありながら自然界の有機的な形態を想起させるという意図があったと考えられる。
マジストレッティは1967年に発表したアルテミデ社のエクリッセランプで既にコンパッソ・ドーロ賞を受賞しており、アトーロは彼にとって二度目の同賞受賞作品となった。この二つのランプはいずれも純粋な幾何学形態を追求しながら、革新的な機能性を実現している点で共通している。エクリッセが蝕をテーマに回転するシェードによる調光機構を提案したのに対し、アトーロは固定された形態の中で光の質そのものを追求した作品といえる。
評価と影響
アトーロは発表以来、テーブルランプの原型として認識されるようになった。その理由は、装飾を排した純粋な幾何学形態が、時代や文化を超えた普遍性を獲得したことにある。1970年代後半のポストモダニズムの台頭期において、マジストレッティは流行に左右されない本質的なデザインを提示し、結果として半世紀近くを経た現在でもなお、現代的な空間に違和感なく溶け込む時代性を保持している。
デザイン批評家たちは、アトーロをイタリアンデザインにおける「合理的美学」の到達点として評価している。機能性と美的完成度の両立、工業生産に適した形態、そして象徴的な存在感という三つの要素を高次元で統合した本作品は、マジストレッティの設計哲学を体現する代表作として位置づけられている。
また、アトーロはオルーチェ社のアイコン的製品として、同社のブランドアイデンティティ形成に大きく貢献した。1945年創業のオルーチェは、ジョエ・コロンボやマジストレッティといった優れたデザイナーとの協働により、イタリア照明デザイン界における確固たる地位を築いており、アトーロはその象徴的存在となっている。
受賞歴
- 1979年
- コンパッソ・ドーロ賞受賞
基本情報
| デザイナー | ヴィコ・マジストレッティ |
|---|---|
| ブランド | オルーチェ |
| デザイン年 | 1977年 |
| 分類 | テーブルランプ |
| 素材 | アルミニウム(メタル仕様)、オパールガラス(ガラス仕様) |
| サイズ | 238:直径25cm×高さ35cm / 239:直径38cm×高さ50cm / 233(235):直径50cm×高さ70cm |
| カラー | ホワイト、ブラック、サテンブロンズ、サテンゴールド(メタル仕様) / オパール(ガラス仕様) |
| 生産国 | イタリア |
| 主要収蔵先 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)、トリエンナーレ・ディ・ミラノ、フィラデルフィア美術館、チューリッヒ工芸美術館 |