概要

マイトチェアは、コンスタンチン・グルチッチが2007年に設計したカンチレバー構造の椅子である。BASFが開発したエンジニアリングプラスチックを用い、プランクが製造する。全体を樹脂で一体成形したカンチレバーチェアとしては、パントンチェア以来の例にあたる。

特徴・コンセプト

厚みを連続的に変える

用いられたのはポリブチレンテレフタレート(PBT)系の樹脂で、溶けた状態での流動性が高い。流れやすい樹脂は金型の細部まで行き渡るため、厚い部分から薄い部分へ連続的に変化する形を一度で成形できる。

グルチッチはこの性質を、根元から枝先へ細くなる樹木の構造にあてはめた。荷重の集まる支持フレームを厚く、身体が触れる座面と背もたれを薄くしている。厚みの変化がそのまま外形として現れる。

網目にする

座面と背もたれには穴が並ぶ。面を残したまま樹脂を減らせるため、たわむ量を調整できる。カンチレバー構造は後脚を持たず、座ると全体がしなる。穴の配置と密度が、そのしなり方を決めている。装飾ではなく、素材の性質を調整するための構造にあたる。

屋内外での使用

紫外線と温度変化、薬品への耐性を持ち、屋外でも使える。積み重ねに対応する。

エピソード

名称は、1980年代後半にイタリアのオートバイメーカー、カジバが製造したスポーツバイク「ミト」に由来する。

2006年夏、BASFは自社の樹脂の用途を広げるため、複数の工業デザイナーをルートヴィヒスハーフェンの本社に招いた。グルチッチはこの素材の流動性と強度に着目し、カンチレバーチェアを提案する。開発には当初から製造を担うプランクが加わり、デザイナー、素材メーカー、家具メーカーの三者で進められた。

2006年12月、グルチッチとアシスタントのアレクサンダー・レールは段ボールと発泡スチロールで初期の模型をつくった。翌2007年2月の打ち合わせでは、金型製作者を交えて設計が検討された。通常はここで設計変更を求められることが多いが、この素材の性質により、当初の形をほぼそのまま成形できることが確認されている。

2007年10月、デュッセルドルフのプラスチック産業見本市「K 2007」のBASFブースで初公開され、翌2008年4月のミラノサローネに合わせて市場に出た。

評価と影響

2008年のICFF Editors Awards、2009年のiF Product Design Award、2011年の第22回コンパッソ・ドーロなどを受けている。

カンチレバーチェアは、1926年のS 33 チェアに始まり、チェスカ・チェア(B32)など鋼管によるものが続いた。1960年代のパントンチェアが単一素材による成形を実現し、マイトチェアはその系譜に連なる。2022年にはプランクがより軽量な素材による改良版を発表している。

美術館コレクション

ニューヨーク近代美術館は、BASF Ultradur High Speed による2007年のマイトチェアを収蔵番号441.2008.1-8で登録している(製造元からの寄贈。寸法82×52×53cm)。

基本情報

名称 マイトチェア / Myto Chair
デザイナー コンスタンチン・グルチッチ(Konstantin Grcic)
ブランド プランク(Plank)
素材開発 BASF(ドイツ)
発表年 2007年設計/2008年 市場展開
デザインの成立国 ドイツ
分類 カンチレバーチェア
主要素材 Ultradur® High Speed(PBT系エンジニアリングプラスチック)
製法 射出成形による一体成形
構造 厚みを連続的に変え、座面・背もたれは網目状にしてしなりを調整
機能 スタッキング可、屋内外使用可
受賞 2008年 ICFF Editors Awards/2009年 iF Product Design Award/2011年 第22回コンパッソ・ドーロ ほか
収蔵 ニューヨーク近代美術館(441.2008.1-8)

Reference