概要
ゴーストチェアは、1987年にイタリアの建築家チニ・ボエリと片柳トムがデザインした、ガラス家具の歴史に大きな転機をもたらしたアームチェアである。厚さ12mmの一枚のガラス板を曲げて成形し、脚・アーム・座面・背もたれを一続きの面で構成する。フィアム・イタリアが製造する。
特徴・コンセプト
透明なため、背後の床や壁が椅子を通して見える。輪郭は縁の反射と屈折によってのみ現れる。
素材と構造
12mm厚のガラス一枚を切り出し、熱を加えて曲げることで一体成形する。ガラスは接合すると継ぎ目に応力が集中して割れやすいが、一枚のまま曲げれば接合部が生じない。切り出しには水と研磨粉を噴射するウォータージェット加工を用いる。刃物では切断時の衝撃で割れるが、水流なら局所的な力がかからない。耐荷重は約150kgに達する。
透明であること
不透明な椅子では座面と背もたれの面が視界を遮る。透明であれば背後が見通せるため、室内に置いても視線が通る。
エピソード
ガラスで椅子をつくる構想は、フィアム社の片柳トムによる提案が発端とされる。紙で作られた模型が、一枚の面を折り曲げて座面と脚を成立させる形の可能性を示した。
フィアム社は1973年の創業以来、曲げガラスの技術を蓄積していた。約2年の開発を経て、1987年のミラノ・サローネで発表された。
評価と影響
透明な素材で椅子を構成する点では、ポリカーボネートによるルイゴーストとも共通する。あちらは射出成形で任意の断面をつくれるのに対し、ガラスは板を曲げる加工に限られるため、厚みが全体で一定になる。
一枚の面から座面と脚を成立させる構成は、パントンチェアの樹脂成形とも近い。素材が硬く延びないぶん、曲率は緩やかに保たれる。1987年の発表以来、生産が続いている。2022年にコンパッソ・ドーロのプロダクト・キャリア賞を受賞した。
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館)。同館はチニ・ボエリと片柳トムの共同名義で「Ghost armchair」として登録しており、素材はガラスと記録されている。
- MoMA ゴースト アームチェア(1987年) 収蔵番号 335.2025
チニ・ボエリの設計思想や経歴について詳しくはチニ・ボエリプロフィールページをご覧ください。
フィアムの歴史や他の製品について詳しくはフィアムブランドページをご覧ください。
基本情報
| デザイナー | チニ・ボエリ、片柳トム |
|---|---|
| ブランド | Fiam Italia(フィアム・イタリア) |
| 発表年 | 1987年 |
| 素材 | 曲げガラス(厚さ12mm) |
| 寸法 | 幅 約94cm × 奥行 約79.5cm × 高さ 約62cm(座面高 約33cm) |
| 耐荷重 | 約150kg |
| 仕上げ | エクストラクリア、スモーク |
| 生産国 | イタリア(マルケ州タヴッリア) |
| 収蔵美術館 | MoMA(ニューヨーク)、ヴィクトリア国立美術館(メルボルン)、トリエンナーレ・デザイン・ミュージアム(ミラノ)他 |