概要

ウィルトン・カーライル・ディンゲス(1916年〜1974年)は、アメリカの技術者・実業家である。工作機械を扱う仕事から出発し、米国政府の調達契約を請け負う会社エメコを興した。廃材のアルミニウムを家具に転用する事業を軌道に乗せ、アルコアの技術者と組んで米国海軍向けの椅子1006を開発している。家具の設計者としてではなく、要求条件から製法を組み立てる技術者として仕事をした。

バイオグラフィー

1916年に生まれた。工作機械の技術を身につけ、機械加工を扱う技術者として働いている。

300ドルの貯えと中古の旋盤で、電気機械設備会社(Electric Machine and Equipment Company、略してエメコ)を創業した。創業年は資料により1940年と1944年で記述が分かれる。当初はボルティモアの一室を拠点に米国政府の調達契約に入札し、試験用のアンテナやジェットエンジンの部品を手がけていた。家具の会社として始まったわけではない。

1946年、労働力を確保できる土地としてペンシルベニア州ハノーバーへ移った。この時期に約4.5トンのアルミニウムの廃材を安く入手し、これを食卓の脚に加工することから金属家具の仕事が始まっている。やがて椅子の枠を手がけるようになり、1948年にはアルミニウムの椅子に事業を絞った。

1953年にはハノーバーに4つの工場を構え、1955年には年間20万脚を生産するまでになった。納入先は海軍にとどまらず、刑務所、病院、官公庁の事務所へも広がっている。

1974年に没した。会社はその後、政府調達の減少により経営が行き詰まり、1979年に売却されている。

デザインの思想と方法

ディンゲスの仕事は、形を決めることから始まらない。与えられた要求条件を満たす材と工程を組み立て、その結果として形が定まる。1006はこの手順が最も明確に出た製品である。

海軍が求めたのは、腐食しないこと、燃えないこと、乗員の扱いに耐えることだった。艦内は塩分を含む湿った環境で、木は腐り鉄は錆びる。火災の危険がある場所では可燃物を置けない。アルミニウムはこの二つを同時に満たすが、そのままでは軟らかすぎて家具の強度に届かない。

この矛盾を解いたのが工程の側だった。アルコアの技術者と組み、成形と熱処理を重ねて材の強度を引き上げる手順を組み立てた結果、切断から仕上げまでの工程は77に達した。仕上がった材は鋼の3倍の強度を持つとされる。素材を変えるのではなく、同じ素材を工程で作り替える方向にあたる。

もうひとつの特徴は、出発点が廃材だったことである。安く手に入る廃材のアルミニウムをどう使うかという問いが先にあり、家具はその答えとして選ばれた。エメコが現在も掲げる「余ったものから始め、長く残るものに変える」という言い方は、この経緯に由来する。

接合部の処理にも同じ考え方が及ぶ。溶接した箇所は削り落として一続きの面に仕上げられる。継ぎ目を隠すためではなく、塩分を含む環境で溶接痕の凹凸に水が溜まることを避けるためである。

代表作にみる方法

1006 ネイビーチェア(1944年、エメコ)

米国海軍向けに開発されたアルミニウムの椅子である。プレス成形した座板、板材から起こした脚、背の三本の縦桟を溶接で接合し、溶接の痕を削り落として仕上げる。重量は約3kg。

艦上では、椅子が自由に動くこと自体が危険につながる。軽さは運搬のためだけでなく、緊急時に人が持ち上げて退避できることとも関わっている。初期の海軍向けの個体には床に固定する仕様も用いられた。

1006 ネイビーチェアは発表以来、寸法と製法をほとんど変えないまま生産が続いている。77の工程数も現在まで変わっていない。

評価と影響

1006は、家具として設計されたのではなく、艦内で使う設備として要求条件から組み立てられた製品である。にもかかわらず、その形は以後も変更されずに流通し続けてきた。用途から決まった形が、用途を離れた場所でも通用した例として受け止められている。

いっぽうで、工程の多さは経営上の負担でもあった。1脚あたりの手間が大きく、政府調達の縮小に対して価格で対応する余地が乏しかった点は、後年の経営難と無関係ではない。1998年以降、エメコは建築家やデザイナーとの協働へ舵を切り、同じ製法を別の市場で成立させる方向へ移っている。

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド
1944年 椅子 1006 ネイビーチェア エメコ

プロフィール

生没年 1916年〜1974年
出身 アメリカ合衆国
創業 エメコ(Electric Machine and Equipment Company) ※創業年は資料により1940年と1944年で記述が分かれる
拠点 アメリカ・ペンシルベニア州ハノーバー(1946年〜)
分野 金属加工、アルミニウム家具

Reference

Our Story(Emeco 公式)
https://www.emeco.net/about/story
Emeco|Biography(Cooper Hewitt, Smithsonian Design Museum)
https://collection.cooperhewitt.org/people/18058825/bio
Emeco(Wikipedia)
https://en.wikipedia.org/wiki/Emeco