Emeco(エメコ)

Emeco(エメコ)は、1944年にアメリカ・ペンシルベニア州で創業された、アルミニウム家具の名門ブランドです。第二次世界大戦中、アメリカ海軍の潜水艦と艦船で使用する椅子の製造を政府から委託されたことから、その輝かしい歴史は始まりました。海水、潮風、そして魚雷の爆風にも耐えうる椅子という過酷な要求に応えるべく、創業者ウィルトン・カーライル・ディンギスは、軽量かつ非腐食性、耐火性に優れたアルミニウムという素材に着目。高度な金属加工技術を持つ地元の職人たちとともに、77もの工程を経て手作業で仕上げられる伝説の「1006 ネイビーチェア」を完成させました。

戦後も長きにわたりアメリカ政府の最大顧客として、その卓越した品質と150年とも言われる驚異的な耐久性で信頼を獲得。1998年、現CEOグレッグ・バックバインダーが経営を引き継いでからは、フィリップ・スタルク、ノーマン・フォスター、フランク・ゲーリー、エットレ・ソットサスといった世界的デザイナーとのコラボレーションを積極的に展開。伝統的な製造技術と現代的なデザインの融合により、海軍の食堂から世界中の高級レストラン、美術館、そして現代的な住空間まで、あらゆる場所で愛される家具ブランドへと進化を遂げました。

使用するアルミニウムの約80~85%はリサイクル素材であり、その半分は飲料缶から再生されています。2010年にはコカ・コーラ社との協働により、111本のペットボトルをリサイクルした「111 ネイビーチェア」を発表するなど、環境配慮型のものづくりでも業界をリードしています。「始まりは廃材から。つくるのは永遠に続くもの」――この哲学のもと、Emecoは単なるリサイクルを超えた、真の持続可能性を追求し続けています。

ブランドの哲学とコンセプト

Emecoの製品哲学の根幹にあるのは、「Begin with what's left over. Turn it into what will last.(始まりは廃材から。つくるのは永遠に続くもの)」という信念です。この思想は創業時から一貫して受け継がれており、戦時中の必要性から生まれたアルミニウム再生技術は、現代においては地球環境保護という新たな使命へと昇華されています。

同社が誇る77工程にわたる製造プロセスは、機械化全盛の現代においても、熟練職人の手作業と目利きに委ねられています。成形、溶接、研磨、熱処理、仕上げ、アルマイト処理――それぞれの工程において、人間の目と手による判断が不可欠であり、この妥協なき姿勢こそが、Emecoの椅子が150年の寿命を持つ所以です。「椅子としては全く非効率的な製造方法です。永遠に続く椅子を望むのでなければ」とオーナーのグレッグ・バックバインダーは語ります。

真の持続可能性とは、リサイクルの必要性をなくすこと――この逆説的ともいえる考え方が、Emecoのものづくりを特徴づけています。一度作られた椅子が世代を超えて使い続けられることで、資源の循環サイクルから解放される。優れたデザインと卓越した品質により、製品の寿命を極限まで延ばすことが、最も環境に優しいアプローチであるというのが同社の信念です。

ブランドヒストリー

Emecoの歴史は、1944年、ウィルトン・カーライル・ディンギス(1916-1974)が300ドルの貯蓄と中古の旋盤機械を元手に、メリーランド州ボルチモアのロフトで「Electric Machine and Equipment Company」を創業したことに始まります。当初は実験用アンテナやジェットエンジン部品などの政府契約製造を手がけていましたが、第二次世界大戦中、アメリカ海軍から「潜水艦と艦船で使用できる椅子」の製造を受注したことが、同社の運命を大きく変えることとなりました。

1946年、ディンギスは優れた金属加工技術を持つ職人が集まるペンシルベニア州ハノーバーに工場を移転。アルコア社との協力のもと、1万ポンドのアルミニウムスクラップを入手し、海軍の厳しい要求に応える椅子の開発に着手しました。海水と潮風に耐え、軽量で腐食せず、さらに耐火性を備え、魚雷の爆風にも耐えうる椅子――こうして誕生したのが、のちに「ネイビーチェア」の愛称で親しまれる「1006」です。ディンギスは完成した椅子の堅牢性を証明するため、シカゴの展示会で6階の窓からネイビーチェアを投げ落としたという逸話も残されています。椅子は無傷でした。

1948年までにEmecoはアルミニウム椅子の製造に完全特化し、1955年には年間20万脚を生産する規模にまで成長しました。しかし、精巧な製造工程ゆえに収益性の確保が困難であり、1970年代初頭にディンギスが心臓発作により引退すると、経営は会計士に委ねられ、創造性は失われていきました。冷戦終結後の1979年、政府契約の減少により倒産寸前に陥ったEmecoは、ジェイ・バックバインダーに売却されますが、軍事市場の復活には至りませんでした。

転機が訪れたのは1998年。バックバインダーの息子グレッグがEmecoを引き継いだ際、彼はジョルジオ・アルマーニをはじめとする著名デザイナーたちがネイビーチェアに強い関心を示していることに気づきました。同年の国際現代家具フェア(ICFF)でフィリップ・スタルクと出会ったグレッグは、新たなビジョンを抱きます。軍事市場ではなく、デザインとサステナビリティを軸とした民生市場への転換です。1999年、Emecoは20年ぶりに黒字を達成しました。

2000年代以降、Emecoはデザインアイコンとしての地位を確立していきます。2000年にスタルクがデザインした「ハドソンチェア」はグッドデザイン賞を受賞し、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに選定されました。2010年にはコカ・コーラ社との4年にわたる共同開発により、111本のペットボトルから作られる「111 ネイビーチェア」を発表。この革新的な取り組みは、グッドデザイン賞やiFデザイン賞を受賞し、リサイクル素材の新たな可能性を世界に示しました。2024年、Emecoは創業80周年を迎え、今なおペンシルベニア州ハノーバーの工場で、職人たちの手により一脚一脚丁寧に椅子を作り続けています。

デザインの特徴

Emecoの家具デザインを特徴づけるのは、機能性と美しさの完璧な調和です。航空機用アルミニウムを用いた軽量かつ堅牢な構造は、スチールの3倍の強度を持ちながら、持ち運びが容易という相反する要素を実現しています。特筆すべきは、金具を一切使用せず、12個のアルミニウム部品を溶接と折り曲げのみで一体化する製造技法です。この手法により、腐食の原因となる継ぎ目を完全に排除し、あたかも一つの塊から削り出したかのような滑らかで彫刻的なフォルムを生み出しています。

ネイビーチェアの象徴的な座面の形状は、第二次世界大戦中に人気を博したピンアップガール、ベティ・グレイブルのヒップラインから着想を得たと言われています。人体の曲線に自然にフィットするよう緩やかにカーブを描くこの座面は、アルミニウムという硬質な素材でありながら、驚くほど快適な座り心地を実現しています。実用性を追求した結果が、期せずして美しいデザインを生み出したのです。

表面仕上げも多様性に富んでいます。スタンダードな「ブラッシュ仕上げ(マット)」は、職人が手作業でブラッシングを施した温かみのあるテクスチャーが特徴です。一方、「ポリッシュ仕上げ(鏡面)」は、一脚を磨き上げるのに約8時間を要し、その深い光沢はまさに芸術作品と呼ぶに相応しい美しさを放ちます。また、近年では優れた耐候性を持つパウダーコート仕上げも展開され、屋外使用にも対応するカラーバリエーションを提供しています。

Emecoのデザインアプローチは、時代を超えた普遍性を追求しています。流行に左右されることなく、何十年、何世代にもわたって愛され続けるデザイン――それは装飾を排したシンプルさの中に、機能美と構造美が凝縮された結果です。オペラハウスから科学研究所、ミシュランの星付きレストランから一般家庭まで、あらゆる空間に自然に溶け込むニュートラルな存在感こそが、Emecoデザインの真髄と言えるでしょう。

代表的なプロダクト

1006 ネイビーチェア(Navy Chair)

Emecoの全ての始まりであり、今なお同社を代表するアイコン的存在が、この「1006 ネイビーチェア」です。1944年の誕生以来、80年にわたり連続生産され続けているこの椅子は、単なる家具を超えた工業デザインの金字塔として、世界中で高く評価されています。77工程のハンドクラフトにより生み出される彫刻的なフォルムと、150年とも言われる驚異的な耐久性は、現代においても他の追随を許しません。

特徴的な座面のカーブは人体工学に基づいており、長時間の使用でも快適性を損なわない設計となっています。アームチェア、サイドチェア、バースツール、カウンタースツールなど、多様なバリエーションが展開されており、用途に応じた選択が可能です。世界中の建築家やデザイナーに愛され、有名建築物やレストラン、美術館などで数多く採用されています。アメリカ海軍の食堂で使用されている姿は、まさにその起源を物語る光景です。

ハドソンチェア(Hudson Chair)by フィリップ・スタルク

2000年、Emecoとフィリップ・スタルクの初コラボレーションにより誕生した「ハドソンチェア」は、50年以上ぶりの新デザインとして大きな話題を呼びました。スタルク自身が「ネイビーチェアからディテールを洗い流した」と表現するこのデザインは、ネイビーチェアの本質を受け継ぎながら、より現代的でミニマルな表現へと昇華させたものです。

背もたれと脚部を最低限のラインで構成し、座面の特徴的なヒップラインのみをさりげないアクセントとして残すことで、軽やかさと存在感を両立しています。軽量で持ち運びしやすい形状は、空間を自由に再構成できる現代的なライフスタイルに最適です。グッドデザイン賞受賞、MoMAパーマネントコレクション選定という栄誉が、その完成度の高さを物語っています。

111 ネイビーチェア(111 Navy Chair)

2010年、Emecoとコカ・コーラ社の4年にわたる共同開発の末に誕生したのが、この革新的なリサイクルチェアです。名称の「111」は、一脚あたり111本の20オンス入りペットボトルを原材料としていることに由来します。65%のリサイクルペットボトル(rPET)と35%のグラスファイバーおよび顔料で構成されており、ドイツの総合化学メーカーBASFとの連携により、優れた強度と耐久性を実現しています。

アルミニウム製のオリジナルとは異なるカジュアルな質感と、鮮やかな6色のカラーバリエーション(レッド、ホワイト、グレー、グリーン、チャコールブラック、オレンジ)が特徴です。レッド、ホワイト、グレーは屋外使用も可能で、ガーデンファニチャーとしても活躍します。「廃棄物から希望へ」というコンセプトのもと、毎年数百万本のペットボトルを埋立地や海洋から救い出しているこの取り組みは、グッドデザイン賞やiFデザイン賞を受賞し、サステナブルデザインの新たな可能性を示しました。

20-06 スタッキングチェア by ノーマン・フォスター

イギリスの建築界の巨匠ノーマン・フォスターが2006年にデザインしたこのスタッキングチェアは、一切の装飾を省いた究極のシンプリシティを追求した作品です。スレンダーで超軽量でありながら、なんと1000ポンド(約450kg)の荷重に耐える驚異的な強度を誇ります。フォスター・アンド・パートナーズとEmecoデザインチームの純粋なコラボレーションの結果として生まれたこの椅子は、現代性と過去への敬意を見事に融合させています。

丁寧に磨き上げられたマットなアルミニウムの表面、精密な溶接、エッジの仕上げなど、シンプルであるがゆえに際立つ美しいディテールは、Emecoの高度な技術力を証明しています。オペラハウスから科学研究所まで、あらゆる環境にシームレスに調和し、室内外を問わず使用できる汎用性の高さも魅力です。生涯保証が付いており、文字通り一生使い続けることができる椅子です。

ナインオー(Nine-0)by エットレ・ソットサス

イタリアのモダンデザイン界の巨匠エットレ・ソットサスが晩年に手がけたこのコレクションは、彼がミラノの自宅で愛用していたネイビーチェアからインスピレーションを得てデザインされました。ソットサスらしい鮮やかな色使い――レッド、ブルー、グリーン、オレンジ、グレーの5色展開――は、ミッドセンチュリーの精神を現代に蘇らせています。

実は、世界的デザイナーたちがネイビーチェアに興味を持つきっかけを作ったのがソットサスでした。彼がEmecoチェアを発見し、当代のインテリアデザインプロジェクトとして紹介したことで、サー・テレンス・コンラン、フランク・ゲーリー、フィリップ・スタルクといった著名デザイナーたちがその存在を知ることとなったのです。ソットサスの影響力が、Emecoの現代における復活の礎となったと言っても過言ではありません。

コングチェア(Kong Chair)by フィリップ・スタルク

パリの高級チャイニーズレストラン「Kong」のためにスタルクがデザインしたこの椅子は、スタルクらしい流麗な曲線デザインとアルミニウム素材が美しく調和したエレガントな逸品です。一脚を仕上げるのに8時間もかけられる光沢仕上げの椅子は、オブジェのように美しく輝き、単なる座具を超えた独特の存在感を空間に与えます。レストランという商業空間のために生まれながら、住宅空間においても芸術作品のような佇まいで空間を演出します。

ザ・バースツール(Za Bar Stool)by 深澤直人

日本を代表するプロダクトデザイナー深澤直人が手がけた「Za(ザ)」シリーズは、日本語で「座る場所」を意味するネーミングが示す通り、場所を問わず使える簡素かつ多機能なデザインが特徴です。誰もが無意識に好んで座りたくなる椅子――深澤の哲学である「Without Thought(無意識のデザイン)」が見事に体現されています。リサイクルアルミニウムのマットシルバー仕上げは、和洋を問わずあらゆる空間に調和する普遍的な美しさを持っています。

コラボレーションデザイナー

1998年以降、Emecoは世界的な建築家やデザイナーとの協働により、アルミニウム家具の可能性を大きく広げてきました。各デザイナーがEmecoの伝統的な製造技術と素材の特性を深く理解した上で、それぞれの独自の美学を注ぎ込むことで、多様でありながら一貫したブランドアイデンティティを形成しています。

フィリップ・スタルク(Philippe Starck)
1949年フランス・パリ生まれ。建築、インテリア、プロダクトデザイン、さらには食器に至るまで幅広い分野で活躍する現代デザイン界の巨匠。1998年の国際現代家具フェア(ICFF)でグレッグ・バックバインダーと出会い、意気投合。2000年の「ハドソンチェア」を皮切りに、数多くのコラボレーションを実現してきました。「Emecoと働き、再利用されたアルミニウムを破棄されることのないものに作り変えることができた。一生涯楽しんで利用できる、飽きない、壊れることのない椅子であってほしい。この椅子は一人が所有するものではない。優れた椅子はリサイクルする必要性がない。これが自然と人類を考慮するということである」とスタルクは語り、Emecoの哲学に深く共鳴しています。また、2012年には廃棄ポリプロピレンと再生木材繊維を組み合わせた「ブルームチェア」を発表し、新たな素材の可能性を提示しました。
ノーマン・フォスター(Norman Foster)
1935年イギリス生まれ。現代建築の巨匠として、ロンドンの30セント・メリー・アクス(ガーキン)、香港上海銀行本店ビル、大英博物館グレート・コート、日本の鎌倉歴史文化交流館など、世界中の名建築を手がけてきました。1999年にプリツカー賞を受賞し、イギリスのメリット勲章を受章するなど、数々の栄誉に輝いています。2006年にデザインした「20-06スタッキングチェア」について、フォスターは「フォスタースタジオとEmecoデザインチームの純粋なコラボレーションの結果だ。フォスターの建物とEmecoの椅子は両方とも現代の特徴であり、また過去の象徴への敬意を証明している」と語っています。建築とプロダクトデザインの境界を超えた、時代を超越する作品です。
フランク・ゲーリー(Frank Gehry)
1929年カナダ生まれ、アメリカを拠点に活動する建築界の革命児。ビルバオ・グッゲンハイム美術館、ロサンゼルスのウォルト・ディズニー・コンサートホールなど、彫刻的で有機的なフォルムの建築で知られています。1989年にプリツカー賞を受賞。Emecoとのコラボレーションでは、その建築的アプローチをチェアデザインに応用し、独創的な作品を生み出しました。ゲーリーは「椅子は最も難しいものの一つだ」と語り、シンプルであればあるほど、あらゆる欠陥が見えてしまうからこそ、完璧を追求しなければならないと述べています。
エットレ・ソットサス(Ettore Sottsass)
1917年オーストリア生まれ、イタリアで活躍したモダンデザイン界の巨匠。建築、グラフィック、インテリア、プロダクト、家具など多岐にわたる分野で革新的な作品を生み出し、ポストモダンデザインの潮流を創出しました。1980年代にはメンフィスグループを率い、世界的な一大ムーブメントを巻き起こしました。「椅子はオブジェとして価値がなくてはならない。なぜなら私の母はレディーに椅子をすすめなさいといつも言っていたからだ」とソットサスは語っています。世界的デザイナーの中で最初にEmecoのネイビーチェアを発見し、当代のインテリアデザインプロジェクトとして紹介したことで、スタルク、ゲーリー、コンランといった著名デザイナーたちにその存在を知らしめた功労者でもあります。晩年に手がけた「ナインオー」コレクションは、彼の自宅で愛用していたネイビーチェアへのオマージュです。
深澤直人(Naoto Fukasawa)
1956年日本生まれ。無印良品のアートディレクター、±0のデザインディレクターを務めるなど、日本を代表するプロダクトデザイナー。「Without Thought(無意識のデザイン)」という独自の哲学のもと、人々が無意識に使いたくなる、当たり前の存在となるデザインを追求しています。Emecoのために手がけた「Za(ザ)」シリーズは、日本語で「座る場所」を意味し、場所を問わず使える簡素かつ多機能で、誰もが無意識に好んで座りたくなる椅子として高く評価されています。
エイドリアン・ファン・ホーイドンク(Adrian van Hooydonk)
BMWグループのチーフデザイナー。自動車デザインの第一人者として、BMWの多くのモデルを手がけてきました。「1951年の椅子を現代風にするには100%EmecoのクラシックなEmecoモデルだと賛成した。シンプル、実用的で、男性的。その後のEmecoとのデザイン過程は私にとって人生の中で最も価値のある合作となった。車のデザインにおいても、シンプルでダイナミックな外見を演出するため、機能的な要素を足すことによって発注者に感情的なレベルでアピールした。この椅子にも同様な気持ちが込められている」とファン・ホーイドンクは語っています。
その他の著名コラボレーター
ジャスパー・モリソン、コンスタンティン・グルチッチ、ロナン&エルワン・ブルレック、バーバー・オズガビー、ネンド(佐藤オオキ)、マイケル・ヤング、ジャン・ヌーヴェル、クリストフ・ピエ、アンドレ・ピュットマンなど、建築とデザイン界を代表する錚々たる顔ぶれがEmecoとの協働を実現しています。それぞれが独自の視点からアルミニウムという素材と向き合い、Emecoの伝統的な製造技術を新たな表現へと昇華させてきました。

サステナビリティへの取り組み

Emecoのサステナビリティへのコミットメントは、創業時の1944年から一貫しています。それは単なる環境配慮ではなく、ビジネスモデルそのものが持続可能性の上に成り立っているという点で、他社とは一線を画しています。戦時中の必要性から始まったアルミニウムのリサイクルは、現代においては地球規模の環境問題への解決策として進化を遂げました。

使用するアルミニウムの約80~85%はリサイクル素材であり、その60%は飲料用アルミ缶、残り40%は工業スクラップから再生されています。アルミニウムは地金を生産する際の消費エネルギーのわずか5%程度のエネルギーで再生可能な優れた素材であり、何度でもリサイクルできるという特性を持ちます。Emecoの工場では生産過程で出るアルミニウムの切れ端を全てリサイクルに回し、それが再びアルミニウムシートやチューブとして工場に戻ってくるという完全な循環システムを構築しています。

2010年に発表された「111 ネイビーチェア」は、消費者廃棄物のアップサイクルという新たな挑戦でした。コカ・コーラ社との4年にわたる共同開発により、111本のペットボトルをリサイクルして一脚の椅子を作り出すことに成功。この取り組みにより、毎年数百万本のペットボトルが埋立地や海洋から救い出されています。さらに、ドイツの化学メーカーBASFとの連携により、リサイクルプラスチックでありながら優れた強度と耐候性を実現しました。

2012年には、フィリップ・スタルクとの協働で「ブルームチェア」を発表。これは廃棄ポリプロピレンと再生木材繊維を組み合わせた革新的な素材で作られており、文字通りプラスチック工場と製材所の「ゴミ」から生まれた椅子です。2020年代には、バーバー・オズガビーがデザインした「On & Onコレクション」により、リサイクルPET素材が100%再リサイクル可能となり、古い椅子から新しい椅子を作るという真の循環型モデルを実現しました。

しかし、Emecoが提唱する真の持続可能性とは、「リサイクルを不要にすること」です。一度作られた椅子が150年使い続けられるのであれば、それ以上のリサイクルは必要ありません。優れたデザインと卓越した品質により製品寿命を極限まで延ばすこと――これこそが最も環境に優しいアプローチである、というのがEmecoの信念です。全ての椅子には生涯保証が付いており、修理や部品交換のサポート体制も整備されています。「始まりは廃材から。つくるのは永遠に続くもの」――この哲学が、Emecoのものづくりの全てを貫いています。

受賞歴

  • 2000年 グッドデザイン賞(ハドソンチェア / フィリップ・スタルク)
  • 2010年 グッドデザイン賞(111 ネイビーチェア / コカ・コーラ社との協働)
  • 2011年 iFデザイン賞(111 ネイビーチェア / コカ・コーラ社との協働)
  • 2014年 iFデザイン賞(パリッシュチェア / コンスタンティン・グルチッチ)
  • 2020年 Core77デザイン賞(On & Onコレクション / バーバー・オズガビー)
  • 2022年 Core77デザイン賞 学生部門(サバンナ芸術デザイン大学 / Emecoにインスパイアされた作品)

ハドソンチェアと111 ネイビーチェアは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションに選定されるという栄誉にも輝いており、工業デザインとしての芸術的価値が世界的に認められています。

基本情報

ブランド名 Emeco(エメコ)
正式名称 Electric Machine and Equipment Company
設立 1944年
創業者 ウィルトン・カーライル・ディンギス(Wilton Carlyle Dinges / 1916-1974)
現CEO グレッグ・バックバインダー(Gregg Buchbinder / 1998年~)
本社所在地 アメリカ合衆国 ペンシルベニア州ハノーバー
805 West Elm Avenue, Hanover, Pennsylvania 17331, USA
従業員数 約62名(2024年時点)
主要製品 椅子、スツール、テーブル、アウトドアファニチャー
素材 リサイクルアルミニウム(80~85%)、リサイクルPET、リサイクルポリプロピレン、再生木材繊維
製造国 アメリカ合衆国(ペンシルベニア州ハノーバー工場)
公式サイト https://www.emeco.net/