バイオグラフィー

1976年、コロンビアの首都ボゴタに生まれる。ホルヘ・タデオ・ロサノ大学(Universidad Jorge Tadeo Lozano)工業デザイン学部に学び、1998年に工業デザインの学位を取得。在学中の1997年にはコロンビアのデザイン・建築分野における最優秀学生に贈られるマリオ・サント・ドミンゴ賞(Premio Mario Santo Domingo)を受賞し、早くからその才能を認められた。同年、イタリアのワールプール・ヨーロッパ社のCID(Central Industrial Design)部門にてインターンシップを経験し、ヨーロッパのインダストリアルデザインの現場に初めて触れる。1998年には卒業論文の一環としてロンドンのビジネス・デザイン・センターで開催された「New Designers」展に参加。

卒業後、さらなる研鑽を求めてイタリアへ渡り、ミラノの名門ドムス・アカデミー(Domus Academy)にてプロダクトデザインの修士号を1999年に取得。ドムス・アカデミーでの学びについてトーレスは「ドムス・アカデミーは私の人生とデザイナーとしての成長において根本的な役割を果たした。すべてはそこから始まった」と語っている。2000年にはドムス・アカデミーのバチラボ(BaciLab)プロジェクトに参画し、ステファノ・ジョヴァンノーニの指導のもとバチ・ペルジーナ社のチョコレートパッケージデザインを手がけた。

2000年から2004年までの約5年間、イタリアを代表するプロダクトデザイナーであるステファノ・ジョヴァンノーニのスタジオにてデザイナーとして勤務。この経験はトーレスのデザイン哲学の礎となり、遊び心と合理性を共存させるデザイン言語の形成に大きな影響を与えた。

2004年、自身のデザインスタジオ「Design by Rodrigo Torres」をミラノに設立し、独立。以来、ヨーロッパ、アジア、北米、中南米の国際的なブランドと協業を重ね、家具、照明、水栓、家電、文具、玩具に至るまで多岐にわたるプロダクトデザインを展開している。主なクライアントには、アレッシィ(イタリア)、ポリフォルム(イタリア)、オラス(フィンランド)、カッシーナ・イクスシー(日本)、ランドスケープフォームズ(アメリカ)、ナイキ(アメリカ)、マイクロソフト(アメリカ、MNMLとの共同)、ドモディナミカ(イタリア)、ポトッコ(イタリア)、チャレンジャー(コロンビア)、MUMA(コロンビア)、ザヴォッティ(スペイン-メキシコ)、ジエンテ(コロンビア)などが名を連ねる。

ドムス・アカデミーではプロダクトデザインおよびインタラクションデザインの修士課程において客員教授・プロジェクトリーダーを務め、トリノのイスティトゥート・エウロペオ・ディ・デザイン(IED)でも客員教授として教鞭を執っている。イタリア、メキシコ、アメリカ、コロンビアの大学や企業においても講演やワークショップを数多く開催しており、次世代のデザイナー育成にも積極的に貢献している。コロンビアとイタリアの二つの文化的背景を持つコロンビア系イタリア人デザイナーとして、その活動は国際的な広がりを見せている。

デザインの思想とアプローチ

ロドリゴ・トーレスのデザインは、ラテンアメリカの文化的感性とヨーロッパのモダニズムを併せ持つ。ドムス・アカデミーで学んだ「物語としてのデザイン」という考え方を軸に、一つひとつのプロダクトが固有のナラティブを持つことを重視している。

ステファノ・ジョヴァンノーニのもとで培った、遊び心(whimsical)と合理性(rational)を共存させる姿勢は、トーレス作品の核をなす。鉛筆削りから都市照明、スマート水栓から高級家具まで、その造形は誠実さを保ちながら、どこかに親しみやすさと驚きを宿している。

トーレスが核心に据えるのは「シンプリシティ」である。「シンプリシティこそが鍵である」と語るように、最小限の造形で最大限の効果を生み出すことを目指す。遠くからは空間に溶け込み、近づくと細部が微笑みを誘う——建築やランドスケープとの調和を意識したデザインを理想とする。

また、美しさに倫理的な価値を結びつけることも重視する。人間の行動をより良い方向へ促すスマート水栓「Sense」はその一例であり、テクノロジーと人の手触りの両立を通じて暮らしに寄与することを目指している。

作品の特徴

トーレスの作品に共通するのは、流麗で有機的なフォルムと機能美の両立である。家具では、包み込むような座面や柔らかなカーブが身体の動きに沿い、見た目の美しさと座り心地を両立させている。ポリフォルム社のマンタチェアの滑らかなレザー、ハーモニーチェアの秩序と混沌の共生など、素材と造形の可能性を押し広げてきた。

照明では、ランドスケープフォームズ社との「Torres Lighting」がミニマルな造形にLED技術を収め、現代建築にも伝統建築にも調和する。水栓「Sense」は、彫刻のような造形の内側にスマートテクノロジーを備え、手の動きに応答する。

小物にも同じ美意識が及ぶ。アレッシィ社の鉛筆削り「Kastor」はビーバーのモチーフを精緻に造形し、「Chip」はマグネット式のクリップホルダーに優美さと実用性を同居させた。スケールを問わず、人とものの間に新しい所作を生み出すことを意識した設計が、トーレス作品の特徴である。

主な代表作とエピソード

Morfeo(モルフェオ) — Domodinamica, 2004年

ステファノ・ジョヴァンノーニとの共同デザインによるベッドソファ。フレキシブルライトを備えた独創的なデザインは、ソファとベッドという二つの機能を優雅に統合した。トーレスの独立後最初期の作品の一つであり、2005年にコロンビアのデザイン賞「Lápiz de Acero」を受賞。彼のキャリアの出発点となった作品である。

Manta(マンタ) — Poliform, 2007年

ポリフォルム社との初の協業作品であり、トーレス自身が「キャリアにおけるマイルストーン」と呼ぶレザー張りチェア。エッセンシャルなラインが特徴の包み込むようなフォルムは、ダイニングテーブルの伴侶としても、書斎のデスクチェアとしても際立つ存在感を放つ。アームレスト付きとアームレスト無しの二つのバージョンがあり、一体成型のポリウレタンフレームにレザー、ファブリック、またはテクノカバーで仕上げられる。2008年のLápiz de Acero受賞作品。

Harmony(ハーモニー) — Poliform, 2013年

秩序と混沌を共生させた表現力豊かなチェア。一本の細い金属ロッドの繰り返しと回転によって構成される脚部構造は、見る角度によって表情を変え、椅子を「生きたオブジェ」へと変容させる。座面には3Dベニア技術を採用し、有機的かつ快適なサーフェスを30種以上のカラーと仕上げで展開。金属脚バージョン、木脚バージョン、スツールバージョンの3タイプがあり、技術的な新しさと表現力を両立させた作品である。

Kastor(カストル) — Alessi, 2013年

ビーバーが鉛筆をかじるという遊び心あふれるメタファーで伝統的な文具のタイポロジーを再解釈した鉛筆削り。目、歯、手足、尻尾のすべてが動物のフォルムを精緻に規定し、ビーバーの口に鉛筆を差し込むと容易に削ることができる。クロームメッキのザマック製で、堅牢な構造はペーパーウェイトとしても機能する。トーレスの遊び心と合理性がよく表れた作品の一つ。

Sense(センス) — Alessi & Oras/Hansa, 2016年

美しさに倫理的な価値を結びつけた、多数受賞のスマート水栓ファミリー。水栓上部を軽く押すタッチ操作で水流を制御し、自動停止機能により日常的な水使用における大幅な節水を実現する。流体的で本質的な造形は、最先端の節水テクノロジーを美学とユーザビリティを犠牲にすることなく内包している。アレッシィ(イタリア)とオラス(フィンランド)およびハンサ(ドイツ)の三社によるコラボレーションであり、2016年のRed Dot Award、Lápiz de Acero、2017年のGood Design Awardなど数多くの受賞を重ねた。デザイン、テクノロジー、倫理が一体となった、トーレスのデザイン哲学を最も明確に示す作品の一つである。

Torres Lighting(トーレス・ライティング) — Landscape Forms, 2017年

照明デザイナーのチップ・イスラエル(Lighting Design Alliance)との共同デザインによる都市型LED照明コレクション。エリアライト、パスライト、ウォールライト、カテナリーライトを含む包括的なラインナップで、優美なミニマリストフォルムはキャンパスから公園、広場、交通拠点に至るまで多様な都市空間に調和する。先進的なLEDアレイと光学設計により、暖かみのある白色光、優れた視認性、高い演色性、最小限のグレアを実現。2017年のSpark Design Award、2018年のRed Dot Awardを受賞し、2018年にはクーパー・ヒューイット国立デザイン博物館のナショナルデザインアワードのファイナリストにも選出された。

Take-Out(テイクアウト) — Landscape Forms, 2021年

コネクテッドシーティングの概念を再構築した屋外家具コレクション。シングル、ダブル、トリプル、レフトトリプル、ライトトリプルの5つのシルエットを持ち、単独でも組み合わせでも無数のアレンジメントを可能にする。一人で持ち上げられるほどの軽量設計でありながら、堅牢な構造と柔軟な機能性を兼備している。2020年のパンデミックを受けてデザインの目的が進化し、屋外空間を「安全な協働の場」として再定義するプロダクトとなった。2021年のSpark Design Award Platinumに始まり、Architectural Record Product of the Year、IDEA Silver、Red Dot Award、Good Design Awardなど20以上の国際的なデザイン賞を受賞。トーレスのキャリアにおいて最も高い評価を受けた作品である。

Maku(マク) — Zavotti, 2024年

スペイン-メキシコのブランド、ザヴォッティとの協業によるアウトドア家具コレクション。2025年のArchiproducts Design Awardを受賞し、トーレスの近年における屋外家具デザインの展開を示す最新作である。

Aria(アリア) — MUMA, 2024年

コロンビアのブランドMUMAのためにデザインされたアームチェア。2025年のGood Design Awardを受賞。母国コロンビアのメーカーとの継続的な協業を示す作品でもある。

功績・業績

ロドリゴ・トーレスは20年以上にわたる独立したデザイン活動を通じて、国際的なデザイン賞を多数受賞してきた。Lápiz de Acero賞を4回(2005年、2008年、2016年、2023年)、Red Dot Awardを3回(2016年、2018年、2023年)、Good Design Awardを10回以上にわたり受賞。さらに2021年のSpark Design Award Platinum、IDEA Silver、Architectural Record Product of the Yearなど、アメリカを拠点とする権威あるデザインアワードでも高い評価を獲得している。2018年にはTorres Lightingコレクションがスミソニアンのクーパーヒューイット国立デザイン博物館のナショナルデザインアワードのファイナリストに選出された。

クライアントは欧州・アジア・南北アメリカの一流ブランドに及び、三大陸にわたる実績を築いている。ドムス・アカデミーやIEDでの教育活動を通じて、後進の育成にも携わっている。

評価・後世に与えた影響

ロドリゴ・トーレスは、コロンビア出身で国際的に活躍する先駆的なデザイナーとして知られる。ラテンアメリカの感性とヨーロッパのモダニズムを独自にまとめ上げた手法は、地域性と国際性を結ぶ一つのモデルを示した。

ステファノ・ジョヴァンノーニ譲りのイタリアンデザインを基盤に、テクノロジーと倫理を結んだ「Sense」や、パンデミック下の公共空間を問い直した「Take-Out」など、時代の要請に応えるデザインを手がけてきた点は、プロダクトデザインの社会的役割を広げるものとして評価されている。

家具から玩具まで幅広い領域を手がける活動は、コロンビアの若い世代にとって、国際的なキャリアの一つの手本ともなっている。

作品一覧

区分 作品名 ブランド
2004年 ソファ/ベッド Morfeo(ステファノ・ジョヴァンノーニとの共同デザイン) Domodinamica
2005年頃 ソファ Duna Domodinamica
2006年頃 ソファ Mist Domodinamica
2006年頃 テーブル Mist Table Domodinamica
2007年 椅子 Manta Chair Poliform
2007年 椅子 Manta Armchair Poliform
2008年頃 玩具 Joyride Tobeus
2010年 椅子 Fold Chair Poliform
2012年 椅子 Memory Potocco
2012年頃 プロダクト Twister Busso
2013年 文具 Kastor(鉛筆削り) Alessi
2013年 椅子 Harmony Poliform
2013年 スツール Harmony Stool Poliform
2013年頃 文具 Chip(マグネットペーパークリップホルダー) Alessi
2014年頃 キッチン用品 Sushi Alessi
2014年頃 玩具 Koka Toy
2015年 プロダクト Membrane Cassina IXC
2016年 水栓 Sense(スマート水栓) Alessi / Oras / Hansa
2017年 照明 Torres Lighting Landscape Forms
2017年 家電 Signature(ストーブ、オーブン、レンジフード) Challenger
2018年頃 椅子 Delta Chair Zientte
2018年頃 テーブル Delta Table Zientte
2018年頃 デスク Delta Executive Desk Zientte
2019年頃 プロダクト Nest Zientte
2019年頃 テーブル Joy Cassina IXC
2021年 屋外家具 Take-Out(コネクテッドシーティング) Landscape Forms
2021年頃 デスク Blis MUMA
2022年頃 デスク Blis Executive Desk MUMA
2022年頃 照明 Vortex(テーブルランプ) TOG Milano
2023年頃 椅子 Ics & Ipsilon Poliform
2023年頃 屋外家具 Xué Zavotti
2024年頃 椅子 Aria(アームチェア) MUMA
2024年頃 屋外家具 Maku Zavotti

Reference

Rodrigo Torres - About(公式サイト)
https://rodrigotorres.com/about
Rodrigo Torres - Projects(公式サイト)
https://rodrigotorres.com/projects
RODRIGO TORRES | Poliform
https://www.poliform.it/en/designers/rodrigo-torres/
Rodrigo Torres, Designer | Archiproducts
https://www.archiproducts.com/en/designers/rodrigo-torres
Rodrigo Torres, Designer & Entrepreneur | Alumni | Domus Academy
https://www.domusacademy.com/alumni/rodrigo-torres/
Rodrigo Torres | Alessi
https://us.alessi.com/collections/rodrigo-torres
RODRIGO TORRES | Artform Urban
https://www.artformurban.co.uk/rodrigo-torres
Designer Rodrigo Torres: Using Simplicity to Bridge the Fun and Functional | Landscape Forms
https://www.landscapeforms.com/ideas/designer-rodrigo-torres-using-simplicity-to-bridge-the-fun-and-functional
ALESSI Sense by Oras | Oras
https://www.oras.com/en/design-lines/alessi-sense-by-oras/discover
Rodrigo Torres | Potocco
https://potocco.it/en/designers/42/rodrigo-torres.html
MANTA | Chairs | Poliform
https://www.poliform.it/en/products/manta/
Harmony Chair by Rodrigo Torres for Poliform | Archiscene
https://www.archiscene.net/furniture/harmony-chair-rodrigo-torres-poliform/
Take-Out | Landscape Forms
https://www.landscapeforms.com/products/take-out
Torres Lighting | Landscape Forms
https://www.landscapeforms.com/collections/torres
Rodrigo Torres Archives | Smarter Furnishings
https://smarterfurnishings.com/product-category/collections/designer-collabs/rodrigo-torres/