ピエロ・リッソーニ:現代イタリアデザインの巨匠
ピエロ・リッソーニ(Piero Lissoni、1956年7月23日 - )は、建築、インテリアデザイン、プロダクトデザイン、グラフィックデザインの全領域において卓越した業績を残す、現代イタリアを代表するデザイナーである。ミニマリズムと詩的な美学を融合させた彼のデザイン言語は、世界中の高級ホテルから日常の家具に至るまで、幅広い分野に影響を与えている。2024年6月、イタリアデザイン界最高峰の栄誉であるコンパッソ・ドーロ・キャリアアワードを受賞し、40年近いキャリアにおける多大な貢献が認められた。
バイオグラフィー:ミラノから世界へ
初期の経歴と教育
1956年7月23日、イタリア北部ミラノ近郊のセレーニョ(ブリアンツァ地方)に生まれる。1985年、ミラノ工科大学建築学科を卒業。在学中からデザイナーとしてのキャリアを開始し、1978年には早くもプロフェッショナルとしての活動を始めた。建築学の厳格な訓練を受けながらも、彼の関心は建築の枠を超え、家具、照明、グラフィックデザインへと広がっていった。
スタジオの設立と発展
1986年、ニコレッタ・カネージ(Nicoletta Canesi)とともに、ミラノに「スタジオ・リッソーニ・アソシエイティ(Studio Lissoni Associati)」を設立。この時期、彼はBoffiのキッチンおよびバスルームデザインを手がけ、デザイナーとしての地位を確立していった。スタジオは建築、インテリア、プロダクトデザインを統合的に扱い、トータルデザインというアプローチを追求した。
1996年、ブランドアイデンティティ、カタログ、広告、パッケージデザインを専門とするグラフィックデザインスタジオ「Graph.x(グラフ・エックス)」を設立。弟のマッシモ・リッソーニが指揮を執るこのスタジオは、2007年から2016年まで ヴェネツィア国際映画祭のビジュアルコーディネーションを担当するなど、グラフィックデザインの分野でも高い評価を得た。
2013年、国際的な建築プロジェクトの増加に対応するため、「リッソーニ・アーキテッチュラ(Lissoni Architettura)」に社名を変更。さらに2015年には、アメリカ、カナダ、中南米市場のインテリアデザインを展開するため、ニューヨークに「リッソーニ社(Lissoni Inc.)」を設立。2023年にはニューヨークオフィスに建築専門のスタジオを新設し、事業を拡大した。現在、ミラノとニューヨークに拠点を置く「リッソーニ&パートナーズ(Lissoni & Partners)」は、70名を超える建築家、デザイナー、グラフィックデザイナーを擁する国際的なデザインファームとして、世界中でプロジェクトを展開している。
現在の活動
現在、リッソーニはAlpi、B&B Italia、Boffi、Living Divani、Lema、Lualdi、Porro、Sanlorenzoの8社のアートディレクターを務めながら、Alessi、Cassina、Kartell、Knoll、Flos、Fritz Hansenなど、世界を代表する多数のブランドのためにプロダクトデザインを手がけている。また、イタリア国立21世紀美術館(MAXXI)の理事、ミラノ工科大学の客員教授、アルタガンマ国際評議会の名誉会長を務めるなど、デザイン界のリーダーとして教育と文化振興にも尽力している。
デザインの思想とアプローチ:モダニズムの継承と革新
デザイン哲学の核心
リッソーニのデザイン哲学の中核にあるのは、「決して特定の機能や目的のためだけにデザインするのではなく、人間のためにデザインする」という信念である。この人間中心主義的アプローチは、彼の全ての作品に貫かれており、機能性を超えた詩的で感情的な次元をデザインにもたらしている。彼は語る:「椅子は座るためのものだが、それは同時に時代、エロティシズム、本質、人間の感情、夢をも表現する」。
コンパッソ・ドーロの審査員は彼のキャリアを次のように評した:「モダニズムに基づいた一貫性と方法論によって特徴づけられるキャリア。安心感と抑制された眼差しを、高揚させる詩情と組み合わせる能力を持つ。異なるデザイン分野を探求し統合することで、創造的行為の統一性という理念を体現してきたキャリア」。
影響とインスピレーション
リッソーニのデザインは、20世紀北欧モダニズムの巨匠、特にアルネ・ヤコブセンとポール・ケアホルムから深い影響を受けている。彼らの厳格な幾何学、素材への誠実さ、そして機能美の追求は、リッソーニの作品にも明確に反映されている。しかし彼は単なる模倣者ではなく、北欧の禁欲的ミニマリズムにイタリア的な温かみと洗練された感性を注入することで、独自のデザイン言語を確立した。
全体論的デザインアプローチ
リッソーニの特筆すべき特徴は、建築、インテリア、家具、照明、グラフィックデザインを統合的に扱う全体論的(holistic)アプローチである。彼のスタジオは単に個別の製品をデザインするのではなく、空間全体のアイデンティティを創造する。ショールーム、ホテル、ヨット、企業本社など、彼のプロジェクトの多くはトータルデザインであり、建築の外観から内部空間、家具、照明、グラフィックに至るまで、一貫したビジョンによって統合されている。
このアプローチは、明確で即座に認識可能なスタイルコードと視覚的アイデンティティを確立し、リッソーニの作品を他の追随を許さない独自の領域に位置づけている。彼の仕事は厳格さとシンプルさに触発され、細部への配慮、一貫性、優雅さ、そして特にプロポーションとハーモニーへの注意によって特徴づけられる。
作品の特徴:ミニマルな形態に宿る詩情
形態言語:シンプルさの中の複雑さ
リッソーニの作品は、一見すると極めてシンプルで抑制された形態を持つ。しかしその単純さの背後には、綿密に計算されたプロポーション、微妙な曲線、精緻なディテールが存在する。彼のデザインは「視覚的に軽い」構造を特徴とし、どのような空間にも溶け込みながら、同時に静かな存在感を主張する。この微妙なバランスこそが、リッソーニの作品を時代を超えた普遍性へと導いている。
彼の家具は、空間関係とプロポーションを巧みに調整し、視覚的な軽やかさを維持しながら、十分な快適性と機能性を提供する。例えば、Knollのためにデザインした「Avioソファ」は、薄くエレガントな構造を持ちながら、招待的な座り心地を実現している。この形態と機能の完璧なバランスが、彼の全ての作品に貫かれている。
素材の選択と表現
リッソーニは素材に対して誠実であり、各素材の本質的特性を尊重しながら、その可能性を最大限に引き出す。木材、金属、ガラス、レザー、ファブリック—それぞれの素材が持つ固有の美しさと特性を活かし、無理な加工や過度な装飾を避ける。特に、超薄型デザインで素材革新の限界に挑戦したKartellの「Piumaチェア」は、軽量でありながら構造的強度を持つ、彼の素材理解の深さを示す代表例である。
色彩とテクスチャー
色彩の使用においても、リッソーニは抑制と洗練を重視する。彼のパレットは主にニュートラルトーン—白、グレー、ベージュ、黒—を中心とし、時折アクセントカラーを戦略的に配置する。このモノクロマティックなアプローチは、形態とプロポーションをより明確に浮かび上がらせ、空間に静謐さと落ち着きをもたらす。テクスチャーの対比—滑らかな表面と粗い質感、光沢と艶消し—によって、視覚的な豊かさと触覚的な興味を創出している。
時代を超越する普遍性
リッソーニのデザインは流行を追わない。一時的なトレンドではなく、普遍的な美の原則に基づいているため、彼の作品は時間の試練に耐え、数十年を経ても新鮮さを失わない。1990年代にデザインされたCassinaの「Mexソファ」や「Metソファ」は、今日でも現代的であり続け、世界中のインテリアで愛用されている。この時代を超越する品質こそが、リッソーニのデザインの最も価値ある特徴の一つである。
主な代表作:革新と優雅さの結晶
Mexソファ / Metソファ(Cassina、2000年代)
Cassinaのためにデザインした「Mex」および「Met」ソファシステムは、リッソーニの代表作の一つである。モジュール式の構成により、空間や用途に応じて自由に組み合わせることができ、住宅からホテルのロビーまで幅広い空間に対応する。特に「Mex Cube」は、ダウン充填のクッション、取り外し可能なカバー、スチールフレームを特徴とし、快適性とメンテナンス性を両立させている。このシリーズは、リッソーニのモジュール式家具デザインへの深い理解と、使用者のニーズに応える柔軟性を体現している。
Extrasoftソファシステム(Living Divani、2000年代)
Living Divaniとの長年の協働から生まれた「Extrasoft」は、その名の通り、極めて柔らかく心地よい座り心地を提供するソファシステムである。低い背もたれ、深い座面、そして豊富なクッションは、リラックスした現代的なライフスタイルに完璧に適合する。このシステムは継続的に拡張され、新しいモジュールが追加されることで、常に進化し続けている。2017年には、Extrasoftベッドバージョンが「Wallpaper* Design Awards」の「Best Sleepover」部門を受賞するなど、高い評価を受けている。
Avioソファコレクション(Knoll、2016年)
2016年にKnollのためにデザインした「Avio」は、視覚的に軽い構造を持ちながら、空間関係とプロポーションを巧みに調整したソファコレクションである。薄いアルミニウムフレームと繊細なステッチが施されたレザーまたはファブリックの組み合わせは、エレガンスと快適性を見事に融合させている。どのような環境にも溶け込む適応性を持ちながら、独自の個性を主張するこのデザインは、リッソーニの成熟した美学を示している。
Alphabetソファシステム(Fritz Hansen、2008年)
デンマークの名門ブランドFritz Hansenのためにデザインした「Alphabet」は、2008年に発表されたモジュール式ソファシステムである。その名の通り、アルファベットの文字のように様々な要素を組み合わせることで、無限の構成が可能となる。リッソーニの北欧デザインへの敬意と、イタリア的な優雅さが融合したこのシステムは、住宅からオフィス、公共空間まで幅広く採用されている。
PL200シリーズ(Fritz Hansen、2006年)
Fritz Hansenとの協働の始まりを告げた「Lissoni(PL200)」シリーズは、クリーンなラインと人間工学的な快適性を兼ね備えた椅子とテーブルのコレクションである。北欧デザインの伝統を尊重しながら、イタリア的洗練を注入したこのシリーズは、企業のカンファレンスルームから高級レストランまで、幅広い空間で使用されている。
Piumaチェア(Kartell、2018年)
イタリアのプラスチック家具ブランドKartellのためにデザインした「Piuma(羽)」チェアは、その名の通り羽のように軽量でありながら、驚くべき強度を持つ革新的なダイニングチェアである。超薄型デザインで素材革新の限界に挑戦したこの椅子は、現代的な製造技術と美学の完璧な融合を示している。積み重ね可能で多目的に使用できるPiumaは、住宅から商業空間まで理想的なソリューションを提供する。
照明デザイン:Claraウォールランプ(Flos)
イタリアの照明ブランドFlosのためにデザインした「Clara」ウォールランプは、洗練された現代的な作品であり、雰囲気のある照明を創出するリッソーニの技術を体現している。ミニマルなフォルムと柔らかな光の拡散は、空間に静謐さと温かみをもたらす。このランプは、現代的なインテリア照明の定番として、世界中で愛用されている。
キッチン用品:Y3.3エスプレッソマシン(KnIndustrie)
KnIndustrieのためにデザインした「Y3.3」エスプレッソマシンは、日常のキッチン家電を芸術作品へと昇華させた好例である。美しいエンジニアリングとデザインの融合により、機能的な道具が視覚的な喜びをもたらすオブジェとなる。このプロジェクトは、リッソーニが家具やインテリアの領域を超えて、あらゆる生活用品にデザインの質を持ち込む姿勢を示している。
建築とインテリアデザイン:空間の詩学
リッソーニの建築およびインテリアデザインのプロジェクトは、世界中に広がっており、ホテル、レストラン、企業本社、個人住宅、ヨットなど多岐にわたる。これらのプロジェクトは、彼のプロダクトデザインと同じ美学—ミニマルな優雅さ、細部への配慮、素材の誠実な使用—によって特徴づけられている。
主要建築プロジェクト
- Shangri-La Shougang Park, Beijing(2021年)
- 2022年北京冬季オリンピックのために実現したこのホテルプロジェクトは、歴史的な製鉄所をラグジュアリーホテルへと変容させた画期的な取り組みである。2022年AHEAD Global Awardsで「Hotel Conversion」および「Lobby and Public Spaces」部門を受賞した。
- The Ritz-Carlton Residences, Miami Beach(2020年)
- マイアミビーチの高級レジデンスプロジェクト。海辺のロケーションを最大限に活かした、開放的で洗練されたインテリアデザインを実現。
- Grand Park Hotel, Rovinj, Croatia(2019年)
- クロアチアの美しい海岸都市ロヴィニに位置するこのホテルは、地中海の伝統とモダンデザインを融合させた傑作である。
- Camparino Bar, Galleria Vittorio Emanuele II, Milan(2019年)
- ミラノの象徴的なガレリアにある歴史的なバー「カンパリーノ」のリスタイリング。歴史的価値を尊重しながら現代的な感性を注入した。
- The Middle House, Shanghai(2018年)
- 香港のスワイアホテルズグループのために上海にデザインしたブティックホテル。東洋と西洋の美学を繊細に融合させ、静謐で洗練された空間を創出した。
- The Oberoi Al Zorah Beach Resort, Ajman, UAE(2017年)
- アラブ首長国連邦アジュマーンのビーチリゾート。砂漠の風景と調和する、ミニマルでエレガントなデザイン。
- Oceana Bal Harbour, Miami(2017年)
- 240戸のコンドミニアム。マイアミの光と海を最大限に取り込んだ、開放的な空間デザイン。
- Casa Fantini, Lake Orta, Italy(2017年)
- イタリア北部オルタ湖畔のブティックホテル。湖の静謐な美しさと調和する、詩的な空間を実現。
- Conservatorium Hotel, Amsterdam(2012年)
- アムステルダムの歴史的な音楽院を高級ホテルへと変容させたプロジェクト。2014年にPrix Villégiatureで「ヨーロッパ最優秀ホテルインテリア」を受賞。
- Teatro Nazionale, Milan(2009年)
- オランダの多国籍企業Stage Entertainmentのために、ミラノの歴史的な国立劇場を改修。
ヨットデザイン
リッソーニは高級ヨットのインテリアデザインでも高い評価を得ている。Sanlorenzo造船所のためにデザインした一連のヨット—SX112(2020年)、SX88(2017年)、SX76(2018年)—は、海上における洗練された生活空間を提供する。特にSP110オープンクーペヨットは、2024年のコンパッソ・ドーロでプロダクト賞を受賞し、リッソーニ自身のキャリアアワード受賞と同じ夜に二重の栄誉を得た。
企業本社とショールーム
リッソーニは、自身がアートディレクターを務めるブランドをはじめ、多くの企業本社とショールームをデザインしている。Living Divaniのアンツァーノ・デル・パルコ本社(2007年)、ミラノ近郊のGlas本社(2010年)とMatteograssi本社(2011年)、ミラノのLa Rinascente Group本社(2006年)、イスタンブールの8階建てBenettonストア(2009年)などがある。これらのプロジェクトは、企業のアイデンティティを空間として具現化する、リッソーニの全体論的アプローチの成果である。
功績と業績:デザイン界のリーダーとして
受賞歴
- 2024年:コンパッソ・ドーロ・キャリアアワード(Compasso d'Oro alla Carriera) - イタリアデザイン界最高峰の栄誉。30年以上にわたるキャリアで、建築、ランドスケープ、インテリア、プロダクト、グラフィックデザインの異なる分野を統合し、創造的行為の統一性を体現したことが評価された。
- 2024年:コンパッソ・ドーロ プロダクト賞 - SanlorenzoのSP110ヨット(インテリアデザイン)に対して。キャリアアワードと同じ夜に受賞という二重の栄誉。
- 2023年:AHEAD Europe Outstanding Contribution賞 - ヨーロッパのホスピタリティデザインへの卓越した貢献に対して。
- 2022年:AHEAD Global Awards「Hotel Conversion」「Lobby and Public Spaces」部門 - Shangri-La Shougang Park, Beijingに対して。
- 2017年:Wallpaper* Design Awards「Best Sleepover」部門 - Living DivaniのExtrasoftベッドに対して。
- 2016年:Prix Villégiature「中東最優秀ホテル」 - Mamilla Hotel, Jerusalemに対して。
- 2016年:「NYC Aquarium & Public Waterfront」コンペティション優勝 - Arch Out Loud主催、ニューヨーク。
- 2014年:コンパッソ・ドーロ(XXIII Compasso d'Oro) - LualdiのL16ドアシステムに対して。
- 2014年:Prix Villégiature「ヨーロッパ最優秀ホテルインテリア」 - Conservatorium Hotel, Amsterdamに対して。
- 2005年:Hall of Fame - I.D. Magazine International Design Award(アメリカ)。
- グッドデザイン賞(Good Design Award)- 複数回受賞。
- レッドドット・デザイン賞(Red Dot Design Award)- 複数回受賞。
アートディレクター職
リッソーニは8社のアートディレクターを同時に務めるという、デザイン界でも類を見ない地位を確立している。これらの企業のために、彼は製品デザインだけでなく、ブランドアイデンティティ、ショールーム、カタログ、展示会ブースなど、あらゆる視覚的要素をディレクションしている。
- Alpi - 木材パネルメーカー
- B&B Italia - イタリアを代表する高級家具ブランド
- Boffi - キッチンおよびバスルームシステムの名門ブランド。1980年代半ばからの長年のパートナーシップ。
- Living Divani - コンテンポラリー家具ブランド
- Lema - システム家具ブランド
- Lualdi - ドアおよび室内建具メーカー
- Porro - 家具システムブランド
- Sanlorenzo - 高級ヨット造船所
教育と文化活動
- イタリア国立21世紀美術館(MAXXI)理事
- ミラノ工科大学客員教授およびアドバイザリーボードメンバー
- アルタガンマ国際評議会名誉会長
- バガッティ・ヴァルセッキ美術館(ミラノ)の支援者。2015年より展覧会の空間デザインをキュレーション。
- フォンダツィオーネ・パラッツォ・テの支援メンバー。2018年から展覧会のデザイン、グラフィック、カタログを手がける。
展覧会キュレーション
リッソーニは芸術への関心から、複数の一時的展覧会のデザインも手がけている。写真家ジョヴァンニ・ガステルの回顧展(ミラノ、パラッツォ・デッラ・ラジョーネ、ジェルマーノ・チェラント監修)、ルネサンス画家「ベルナルディーノ・ルイーニとその息子たち」展(ミラノ、パラッツォ・レアーレ)、「ティツィアーノ/ゲルハルト・リヒター:地上の天国」展(2018年、パラッツォ・テ)、「ジュリオ・ロマーノ:芸術と欲望」展(2018年)などがある。
評価と後世への影響:現代デザインの指針
デザイン界における位置づけ
ピエロ・リッソーニは、「現代デザインの巨匠の一人」として広く認識されている。彼のキャリアは、20世紀後半から21世紀にかけてのイタリアデザインの進化を体現しており、モダニズムの原則を継承しながら、それを現代的な文脈で再解釈し、発展させてきた。
彼の影響力は、単に製品や建築の優れたデザインにとどまらず、デザインプロセスそのものの在り方にまで及んでいる。異なる分野を統合する全体論的アプローチ、ブランドアイデンティティの包括的なディレクション、そして建築からグラフィックまでを一貫した美学で貫く姿勢は、多くの若いデザイナーにとっての模範となっている。
イタリアンデザインの継承者
リッソーニは、ジオ・ポンティ、アッキーレ・カスティリオーニ、ヴィーコ・マジストレッティといった20世紀イタリアデザインの巨匠たちの系譜に連なる存在である。彼らが確立したイタリアンデザインの伝統—機能と美の融合、職人技術への敬意、革新への開放性—を継承しながら、グローバル化された現代社会に適応させてきた。
2024年のコンパッソ・ドーロ・キャリアアワード受賞は、この継承と革新の両面における彼の貢献を公式に認めるものであった。この賞の過去の受賞者には、ジオ・ポンティ、アッキーレ・カスティリオーニ、マリオ・ベリーニ、安藤忠雄、パオラ・アントネッリなど、デザインと建築の歴史を形作った人物が名を連ねており、リッソーニはその栄誉ある系譜に加わったのである。
国際的な影響
リッソーニの影響は、イタリアの国境を越えて広がっている。世界中のデザイナー、建築家、企業が、彼のミニマルで洗練されたアプローチを参照し、学んでいる。特に、北欧の厳格さとイタリアの優雅さを融合させた彼独自のスタイルは、グローバルなデザイン言語として広く受け入れられている。
彼がデザインしたホテル—上海、アムステルダム、北京、マイアミ、クロアチア—は、それぞれの都市で文化的ランドマークとなり、現代的なラグジュアリーとホスピタリティデザインの新しい基準を設定している。これらのプロジェクトを通じて、リッソーニの美学は世界中の人々に体験され、影響を与え続けている。
持続可能性への貢献
近年、リッソーニのデザインは持続可能性の観点からも評価されている。時代を超越する普遍的なデザインは、トレンドに左右される短命な製品とは対照的に、長期間使用され愛され続ける。この長寿命性こそが、真の持続可能性であるという認識が広がっている。また、彼の作品の多くは修理可能で、部品交換やカバー交換が可能な設計となっており、製品寿命の延長に貢献している。
未来への遺産
ピエロ・リッソーニのデザイン哲学—人間のためのデザイン、形態と機能のバランス、異なる分野の統合、細部への配慮、時代を超越する美—は、21世紀のデザインにとって重要な指針であり続けるであろう。彼の作品は、テクノロジーと人間性、革新と伝統、グローバルとローカルといった現代の二項対立を超えて、調和のとれた全体を創造する可能性を示している。
リッソーニ自身が2024年の受賞スピーチで語ったように、「私にはまだやるべきことがある」。60代後半を迎えた今もなお、彼は新しいプロジェクトに取り組み、デザインの可能性を探求し続けている。その旺盛な創造力と探求心は、後続世代のデザイナーたちに、決して満足することなく常に高みを目指すことの重要性を示している。
作品一覧
以下は、ピエロ・リッソーニの主要作品を可能な限り網羅的にまとめたリストである。彼の40年近いキャリアにおいて、無数のプロジェクトを手がけているため、ここでは特に重要な作品および製造されている製品を中心に掲載している。
| 年代 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1980年代後半 | キッチン・バスルーム | 初期キッチンシステム | Boffi |
| 1990年代 | ソファ | Twin Sofa | Living Divani |
| 1995年 | ソファ | Balestro Sofa | Living Divani |
| 2000年代初期 | ソファ | Met Sofa | Cassina |
| 2000年代初期 | ソファ | Mex Sofa / Mex Cube | Cassina |
| 2000年代 | ソファ | Extrasoft Sofa System | Living Divani |
| 2000年代 | ソファ | Wall Sofa | Living Divani |
| 2000年代 | ソファ | Box Sofa | Living Divani |
| 2000年代 | ソファ | Bubble Rock Sofa | Living Divani |
| 2005年 | ヨット | Ghost (27m sailing yacht interior) | Studio Brenta Yacht Design |
| 2006年 | チェア・テーブル | Lissoni Series (PL200) | Fritz Hansen |
| 2007年 | アームチェア | Ile Club | Living Divani |
| 2007年 | 建築 | Living Divani Headquarters | Anzano del Parco, Italy |
| 2007年 | ヨット | Tribù (50m motor yacht) | Mondo Marine / Luciano Benetton |
| 2008年 | ソファ | Alphabet Sofa System | Fritz Hansen |
| 2009年 | 建築 | Teatro Nazionale renovation | Milan, Italy |
| 2010年 | 建築 | Glas Headquarters | Near Milan, Italy |
| 2011年 | 建築 | Matteograssi Headquarters | Near Milan, Italy |
| 2012年 | 建築 | Conservatorium Hotel | Amsterdam, Netherlands |
| 2016年 | ソファ | Avio Sofa Collection | Knoll |
| 2016年 | ソファ | Landscape | De Padova |
| 2017年 | ソファ | Otto and Cube | Cassina |
| 2017年 | ソファ・アームチェア | Rod Bean | Living Divani |
| 2017年 | ソファ | SAKé | B&B Italia |
| 2017年 | アームチェア | Cassis | Bonacina1889 |
| 2017年 | テーブル | Margherita | De Padova |
| 2017年 | テーブル | Mosaïque | De Padova |
| 2017年 | 建築 | Casa Fantini Hotel | Lake Orta, Italy |
| 2017年 | 建築 | Oceana Bal Harbour | Miami, USA |
| 2017年 | 建築 | The Oberoi Al Zorah Beach Resort | Ajman, UAE |
| 2017年 | ヨット | SX88 | Sanlorenzo |
| 2018年 | ソファ | Eda-Mame | B&B Italia |
| 2018年 | チェア | Betty | Kartell |
| 2018年 | チェア | Piuma Chair | Kartell |
| 2018年 | コーヒーテーブル | Thierry Coffee Tables | Kartell |
| 2018年 | 建築 | The Middle House | Shanghai, China |
| 2018年 | 建築 | One Paraiso / Grand Paraiso | Miami, USA |
| 2018年 | ヨット | SX76 | Sanlorenzo |
| 2019年 | ソファ | Dock | B&B Italia |
| 2019年 | アームチェア | Frank Club | Porro |
| 2019年 | シェルビング | Gould | Knoll |
| 2019年 | コレクション | The Uncollected Collection | Living Divani |
| 2019年 | 建築 | Grand Park Hotel | Rovinj, Croatia |
| 2019年 | 建築 | Camparino Bar restyling | Galleria Vittorio Emanuele II, Milan |
| 2020年 | チェア | Matic | Knoll |
| 2020年 | アクセサリー | Curl | Salvatori |
| 2020年 | 建築 | The Ritz-Carlton Residences | Miami Beach, USA |
| 2020年 | ヨット | SX112 | Sanlorenzo |
| 2021年 | チェア | KN Collection | Knoll |
| 2021年 | 建築 | Shangri-La Shougang Park | Beijing, China |
| 2022年 | ソファ | Pochette | B&B Italia |
| 2022年 | コレクション | Ohe Collection | Fendi Casa |
| 2022年 | ソファ | Panoramic Sofa Collection | Knoll |
| 2022年 | テーブル | Tête-a-tête | Glas Italia |
| 2022年 | ソファ | Oolong | Living Divani |
| 2022年 | ソファ | Extrasoft (expanded) | Living Divani |
| 2022年 | コレクション | Borea Collection | B&B Italia |
| 2022年 | アウトドア | Lissoni Outdoor Collection | Knoll |
| 2022年 | テーブル | Alberese | De Padova |
| 2022年 | コレクション | Taiko | Fendi Casa |
| 2022年 | コレクション | Sumo Collection | Living Divani |
| 2022年 | コレクション | Clan Collection | Living Divani |
| 2022年 | アウトドア | Levante Collection | Roda |
| 2022年 | コレクション | Nooch Collection | B&B Italia |
| 2024年 | キッチン | Novanta Kitchen | Boffi (90周年記念) |
| 年代不詳 | 照明 | Clara Wall Lamp | Flos |
| 年代不詳 | 照明 | Tight Light | Flos |
| 年代不詳 | 照明 | Mini Button | Flos |
| 年代不詳 | 照明 | To-Tie Lamp | Flos |
| 年代不詳 | シェルビング | Web Shelving | Porro |
| 年代不詳 | テーブル | Beam Table | Porro |
| 年代不詳 | キッチン用品 | Y3.3 Espresso Machine | KnIndustrie |
| 年代不詳 | キッチン用品 | Illy Milk Frother | Alessi |
| 年代不詳 | キッチン用品 | Stainless Steel Pots and Pans Set | Alessi |
| 年代不詳 | バス用品 | Multiple bathroom systems | Boffi |
| 年代不詳 | ドア | L16 Door System | Lualdi (2014年コンパッソ・ドーロ受賞) |
※この一覧は主要な製品および建築プロジェクトを掲載しており、リッソーニの全作品を網羅するものではありません。特にBoffi、Living Divani、Porro、B&B Italiaなど、アートディレクターを務めるブランドのためには、無数の製品、ショールーム、カタログ、展示会ブースをデザインしています。
Reference
- Piero Lissoni - Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/Piero_Lissoni
- Piero Lissoni | STUDIO | Knoll Japan(ノルジャパン)
- https://www.knolljapan.com/knoll-studio/by-designer/contemporary-designers/piero-lissoni/
- Piero Lissoni ピエロ・リッソーニ - B&B Italia
- https://bebitalia.co.jp/designer/piero-lissoni/
- PIERO LISSONI(ピエロ・リッソーニ) | カッシーナ・イクスシー
- https://www.cassina-ixc.jp/shop/r/r221011/
- ピエロ・リッソーニ - Fritz Hansen
- https://www.fritzhansen.com/ja/inspiration/designers/piero-lissoni
- Piero Lissoni: Italian Contemporary Furniture Designer - Aram
- https://www.aram.co.uk/designers/piero-lissoni
- Piero Lissoni | twentytwentyone
- https://www.twentytwentyone.com/collections/designers-piero-lissoni
- Lissoni & Partners | Timeline
- https://www.lissoniandpartners.com/en/timeline/design/sofas-armchairs
- Piero Lissoni, holistic approach | Biography | Cassina
- https://www.cassina.com/gb/en/contemporanei/piero-lissoni.html
- Piero Lissoni, Tadao Ando, and Paola Antonelli among winners of 2024 Compasso d'Oro Awards
- https://www.archpaper.com/2024/07/winners-2024-compasso-doro-awards/
- Compasso d'Oro, Italian Design Oscar Winners - WWD
- https://wwd.com/home-design/architecture/rei-kawakubo-architect-piero-lissoni-awarded-at-design-oscars-1236457736/
- Piero Lissoni Awarded Prestigious Compasso d'Oro - Interior Design
- https://interiordesign.net/designwire/piero-lissoni-awarded-compasso-doro/
- XXVIII Compasso d'Oro Adi: here are the winners - Interni Magazine
- https://www.internimagazine.com/design/compasso-doro-2024/
- ピエロ・リッソーニ: モダンデザインにおけるミニマリズムを習得する
- https://shopdecor.com/ja/collections/designer-piero-lissoni