概要
深澤直人(1956年生まれ)は、日本のプロダクトデザイナーである。人が意識せずにとっている行為を観察し、そこから道具の形を決める方法をとる。無印良品の壁掛式CDプレーヤー、auのINFOBAR、マルニ木工のHIROSHIMAなどを手がけ、2006年にはジャスパー・モリソンとともに「スーパーノーマル」を提唱した。2012年から日本民藝館の館長を務めている。
バイオグラフィー
1956年、山梨県に生まれた。1980年に多摩美術大学美術学部プロダクトデザイン科を卒業し、同年セイコーエプソンに入社して先行開発の部署に配属された。
1989年に渡米し、サンフランシスコのデザインコンサルティング会社ID Two(現IDEO)に入社する。7年半にわたり米国で実務にあたったのち、1996年に帰国してIDEO東京支社を設立した。
2003年に独立し、NAOTO FUKASAWA DESIGNを設立。同年、auのau design projectで最初の製品となるINFOBARを発表している。1997年からは企業のデザイナーを対象とするワークショップ「WITHOUT THOUGHT」をディレクターとして継続的に主催してきた。
2006年、ジャスパー・モリソンとの共同で「スーパーノーマル」の展覧会を東京で開き、同名の書籍を刊行した。2012年に日本民藝館の第5代館長に就任。多摩美術大学で教えるほか、良品計画のデザインアドバイザリーボードにも加わっている。
デザインの思想と方法
深澤が出発点に置くのは、人が意識せずにとっている行為である。傘の先を溝に立てかける、コードを引く、皿の縁に指をかける——本人が説明できないこうした振る舞いのなかに、道具が満たすべき条件がすでに現れている。設計とは、それを取り出して形にすることだという立場をとる。
行為から形を導く
この方法を「Without Thought(意識のない行為)」と呼ぶ。壁掛式CDプレーヤーは、換気扇のひもを引く動作を音楽の再生に置き換えたものである。使い方の説明を必要としないのは、すでに身についている動作をそのまま利用しているためで、形が動作から導かれた結果になっている。
環境との輪郭を決める
深澤は自身の仕事を、物と環境のあいだの輪郭を決める行為として説明している。物の形を単独で決めるのではなく、置かれる場所や周囲との関係が要請する形を探す、という順序である。この考え方は、置かれたときに違和感がないという結果として現れる。
スーパーノーマル
2006年にジャスパー・モリソンと示した「スーパーノーマル」は、目新しさではなく、長く使われるなかで形が定まった道具の質を指す。東京のアクシスギャラリーで開かれた展覧会では、作者の分からない日用品が、設計者名の知られた製品と並べて展示された。評価の基準から作者性を外すという提案でもある。
民藝との接点
日本民藝館の館長として、柳宗悦が唱えた「用の美」と自身の方法との関係を継続的に論じている。名の残らない職人がつくった日用品に美を見出す民藝の考え方と、意識されない行為から形を導く方法は、いずれも設計者の意図を前面に出さない点で重なる。柳宗理が手仕事の思想を工業生産へ移したのに対し、深澤は使い手の側の無意識を出発点とする。
マルニ木工の歴史や他の製品について詳しくはマルニ木工 ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
壁掛式CDプレーヤー(1999年)
無印良品のために設計した製品である。本体を壁に掛け、下に垂れたひもを引くと再生が始まる。換気扇のひもという既存の動作をそのまま操作に割り当てているため、スイッチの位置や表示を覚える必要がない。行為から形を導くという方法が、最も少ない要素で成立した例にあたる。回転するディスクが見える構成も、動作と結果の対応を示している。
INFOBAR(2003年)
auのために設計した携帯電話である。二つ折りが主流だった時期に一枚の板状の形をとり、ボタンを隙間なくタイル状に並べた。ボタンとボタンの境界をなくすことで、指が置かれる面が連続し、押す位置を目で確かめなくても手で分かる。配色は面の区分として働き、装飾ではなく操作の手がかりになっている。
±0 加湿器(2003年)
家電ブランド±0のために設計した加湿器である。中央に穴のあいた環状の形をとり、蒸気は上面の縁から出る。円環という形は、水蒸気が拡散する方向と、置いたときに正面をもたないという条件から決まっている。家電を部屋の中の物として扱う構成にあたる。
HIROSHIMA アームチェア(2008年)
マルニ木工との協働による木製の椅子である。背から肘掛けへ連続する曲面を、機械加工で削り出したのち手作業で仕上げる。断面が場所ごとに変わるため、腕を置く位置では厚みがあり、背に回る部分では薄くなる。木という材料で連続した曲面をつくる際の加工の手順が、そのまま形の条件になっている。→ヒロシマ アームチェア
クラウド(2011年)
B&Bイタリアのために設計したソファである。座面と背もたれの境界をはっきりさせず、全体を一続きの塊として扱う。姿勢を一つに定めないため、正面を向いて座るほかに、斜めに寄りかかる・脚を上げるといった使い方が成立する。→クラウド
評価と影響
深澤は一般に、2000年代以降のプロダクトデザインにおいて、造形の新しさではなく使われ方から形を導く方向を代表する設計者と評価されている。「Without Thought」と「スーパーノーマル」という二つの言葉が、その方法を示すものとして継続的に参照される。
無印良品、au、±0、マルニ木工との協働はいずれも長期にわたり、単発の製品ではなく製品群として展開されている。マルニ木工とは2010年からアートディレクターも務め、木工の生産設備を前提とした製品構成をつくってきた。
日本民藝館の館長として、民藝運動の思想と現在の設計を結ぶ立場にある。2024年にはフィラデルフィア美術館で回顧展「Naoto Fukasawa: Things in Themselves」が開かれた。
受賞・収蔵
受賞
- 2000年 グッドデザイン賞(壁掛式CDプレーヤー)
- 2010年 グッドデザイン・ロングライフデザイン賞(壁掛式CDプレーヤー)
- ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
- イサム・ノグチ賞
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、AIC=シカゴ美術館)。
- MoMA 壁掛式CDプレーヤー(1999年) 収蔵番号 149.2005
- MoMA INFOBAR 携帯電話(2003年) 収蔵番号 565.2006.1-4
- MoMA ±0 加湿器(2003年) 収蔵番号 566.2006.1-2
- MoMA neon 携帯電話(2005年) 収蔵番号 567.2006.1-3
- V&A 壁掛式CDプレーヤー(1999年) 収蔵番号 W.3:1 to 6-2011
- V&A au INFOBAR(2001年) 収蔵番号 CD.36.2015
- V&A au W11K(2003年) 収蔵番号 CD.37-2015
- V&A au neon(2006年) 収蔵番号 CD.38-2015
- AIC INFOBAR 2(2003年) 収蔵番号 2019.1228
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1999年 | 家電 | 壁掛式CDプレーヤー | 無印良品 |
| 2003年 | 携帯電話 | INFOBAR | au design project |
| 2003年 | 家電 | 加湿器 | ±0 |
| 2005年 | 携帯電話 | neon | au design project |
| 2007年 | 携帯電話 | INFOBAR 2 | au design project |
| 2008年 | 椅子 | ヒロシマ アームチェア | マルニ木工 |
| 2011年 | ソファ | クラウド | B&B Italia |
| 2018年 | 携帯電話 | INFOBAR xv | au design project |
| 時計 | テンポ ウォールクロック | Lemnos | |
| 椅子 | KAMUY LUX ダイニング アームチェアー | カンディハウス |
プロフィール
| 生年 | 1956年8月23日 |
|---|---|
| 出身地 | 日本・山梨県 |
| 国籍 | 日本 |
| 活動拠点 | 東京 |
| 分野 | 家具、家電、日用品 |
| 主な協働ブランド | マルニ木工、無印良品、B&B Italia、Vitra、Muuto、カンディハウス |
Reference
- NAOTO FUKASAWA DESIGN(公式)
- https://naotofukasawa.com/
- 深澤直人 | マルニ木工
- https://www.maruni.com/jp/designer/naoto-fukasawa
- 日本民藝館
- https://mingeikan.or.jp/
- Naoto Fukasawa | Vitra
- https://www.vitra.com/en-us/product/designer/naoto-fukasawa
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325