概要

イサム・ノグチ(1904-1988)は、アメリカの彫刻家・デザイナーである。彫刻を主軸としながら、舞台美術、家具、照明、遊具、庭園へと領域を広げ、いずれも「使われる場に置かれる立体」として扱った点に一貫性がある。ハーマンミラーのコーヒーテーブル、ノルのサイクロンテーブル、岐阜の提灯の製法を用いた照明シリーズ「AKARI」が広く知られる。1985年にニューヨークで自身の美術館を開設し、作品と資料の保存にあたった。

バイオグラフィー

1904年11月17日、ロサンゼルスに生まれた。父は詩人の野口米次郎、母は作家のレオニー・ギルモア。幼少期を日本で過ごし、1918年に単身で渡米してインディアナ州の学校に入っている。1922年にコロンビア大学へ進むが、夜間にレオナルド・ダ・ヴィンチ美術学校でオノリオ・ルオトロに彫刻を学ぶうち、まもなく大学を離れて彫刻に専念した。

1926年にニューヨークでコンスタンティン・ブランクーシの展覧会を見たことが転機となる。翌1927年、グッゲンハイム財団のフェローシップを得てパリへ渡り、ブランクーシの工房で助手を務めた。同年秋には助手の職を離れ、パリ郊外ジャンティイに自身の工房を構えて、曲げた金属・木・石による制作と、動く彫刻やネオン管の実験に取り組んでいる。

1929年にニューヨークへ戻り、バックミンスター・フラー、舞踊家のマーサ・グレアムと知り合った。グレアムとの舞台美術の協働はその後およそ40年にわたる。1930年代には北京で斉白石に筆による描画を、京都で宇野仁松に陶芸を学んだ。1938年にはロックフェラー・センターのアソシエイテッド・プレス・ビル正面のレリーフが完成し、公共空間での大型の仕事が始まる。

1942年、アリゾナ州のポストン戦時転住所に自ら入所し、収容所内の公園と遊具の計画を提案した。この計画は実現していない。1951年3月に日本へ渡り、東京のリーダーズ・ダイジェスト東京支社の庭園を手がける。同年6月から7月にかけて岐阜を訪れ、提灯製造の大関(オゼキ)の工場でAKARIの設計に着手した。

1985年、ニューヨーク・ロングアイランドシティにイサム・ノグチ庭園美術館(現ノグチ美術館)を開設。1988年12月30日、ニューヨークで没した。香川県牟礼のアトリエは本人の遺志により保存され、1999年にイサム・ノグチ庭園美術館として公開されている。

デザインの思想と方法

ノグチが取り組んだのは、彫刻を展示室の台座から降ろすという課題である。見るためだけの対象ではなく、座る・触れる・歩き回るという行為の対象として立体を置いたとき、形はどう決まるのか。家具・照明・遊具・庭園という彼の仕事の広がりは、いずれもこの問いを場所と用途を変えて解き直したものにあたる。

同じ形の部材を組み合わせる

ノグチの立体には、同形の部材を向きを変えて組み合わせ、それ自体で自立させる構成が繰り返し現れる。コーヒーテーブルIN-50の脚部は、同一形状の木の部材二枚を反転させ、一本のピンで結んだだけのものである。部材が二種類に減ることで、彫刻としての形と、量産のための部品構成が同じ答えに収まっている。

産地の工程を借りる

AKARIでは、新しい製法を開発せず、岐阜の提灯製造の工程をそのまま用いた。竹ひごを螺旋状に巻き、和紙を貼り、木型を抜くという既存の手順は変えず、設計として決めたのは輪郭の形と竹ひごの割付、そして骨組みと電気部品の納まりである。産地の側は工程を変えずに新しい製品を作ることができ、ノグチの側は手仕事の質を保ったまま製品の系列を増やせた。彼はこの系列を生涯にわたって拡張し、型番は100を超えている。

舞台での空間の分節

マーサ・グレアムの舞台美術では、数点の可動する立体だけで場面を成り立たせる必要があった。床の高さの変化、抜けのある枠、傾いた面といった少数の要素で空間を区切る手法は、のちの遊具や庭園の計画に引き継がれている。舞台と庭園はいずれも、人が動くことで見え方が変わる立体を扱う仕事だという共通点をもつ。

石を加工しすぎない

後年の石の彫刻では、割肌や自然面をそのまま残し、磨く面を限定する扱いが増えた。加工した面と手を加えない面を隣り合わせることで、素材が元々もっていた状態と、人が働きかけた結果の双方が同時に見える。庭園の計画で石を配置する際にも同じ考え方がとられている。

代表作にみる方法

ラジオ・ナース(1937年)

ゼニス・ラジオ社のために設計した室内モニターの受話器側の筐体で、ベークライトの成形による量産品である。剣道の面を思わせる輪郭は、スピーカーの開口と持ちやすさという機能上の要求から導かれている。彫刻で扱っていた面の交差と丸みを、金型で成形する工業製品に持ち込んだ早い例にあたる。

コーヒーテーブル IN-50(1944年設計)

1930年代にA.コンガー・グッドイヤー邸のために設計したテーブルを作り直したもので、1944年に現在の構成に至った。同形の木部材二枚を直交させ、その上にガラス天板を載せるだけで、接合金物をほとんど使わずに成立している。部材を二種類に絞る構成は、彫刻の形態操作と量産の要求が同じ形で満たされた例といえる。ハーマンミラーが1947年から製造している。→ノグチ コーヒーテーブル

AKARI(1951年〜)

岐阜の提灯製造の工程を用いた照明の系列である。光源を和紙で覆うことで、影の輪郭が柔らかくなり、部屋の中に面としての明かりが置かれる。既存の産地の技術を設計の前提とし、意匠の側だけを新しくするという進め方は、他の産地との協働にも応用しうる方法として参照されている。→Akari Light Sculptures(あかり)

サイクロンテーブル(1954年)

ノルのために設計したテーブルで、細い金属線を撚り合わせた脚部が上下に向かって開く。線材の張力で天板を支える構成は、木の塊で支えるIN-50とは対照的だが、脚部そのものを見せる立体として扱う点では共通している。同じ課題に対し、材料を替えて別の解を出した例にあたる。→サイクロンテーブル

評価と影響

ノグチは一般に、彫刻と生活空間の境界を扱い直した作家として評価されている。家具や照明を彫刻の延長として設計した仕事は、美術と工業製品を分けて考える枠組みそのものを問い直すものとして参照されることが多い。

AKARIについては、産地の既存工程を変えずに新しい製品系列を立ち上げた例として、伝統産業と設計者の協働の先例に位置づけられる。同時に、同じ製法による模倣品が広く流通したことで、正規品と模倣品の区別が問題になった初期の事例でもある。

1968年にホイットニー美術館で米国での初めての回顧展が開かれ、1986年にはヴェネツィア・ビエンナーレのアメリカ館の代表作家となった。晩年の2年間に日米双方から相次いで顕彰を受けている。

受賞・収蔵

受賞

  • 1982年 エドワード・マクダウェル・メダル
  • 1986年 京都賞(思想・芸術部門)
  • 1987年 国民芸術勲章(アメリカ)
  • 1988年 勲三等瑞宝章(日本)

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。

  • MoMA ラジオ・ナース スピーカー(1937年) 収蔵番号 534.1977
  • MoMA テーブルランプ(1948年) 収蔵番号 227.1950
  • MoMA コーヒーテーブル(IN-50、1944年) 収蔵番号 256.2002.a-d
  • MoMA ロッキングスツール(1954年) 収蔵番号 207.1998
  • MoMA AKARI フロアランプ 2P(1968年頃) 収蔵番号 216.1978
  • MoMA AKARI ランプ JP(1960年頃) 収蔵番号 218.1978.a-b
  • MoMA AKARI フロアランプ L2(1975年頃) 収蔵番号 219.1978
  • MoMA AKARI フロアランプ K4(1977年頃) 収蔵番号 220.1978
  • V&A ノグチテーブル(1947年) 収蔵番号 W.1:1, 2-2010
  • V&A ラジオ・ナース(1937年) 収蔵番号 W.16-2007
  • V&A 『リア王』の衣装デザイン(1955年) 収蔵番号 CIRC.68-1960
  • Met ラジオ・ナース(1937年) 収蔵番号 2000.600.14
  • Met AKARI E(1951年頃設計) 収蔵番号 1990.74
  • Met テーブルランプ(1952年頃) 収蔵番号 2001.554a-d
  • Met クロース(1945年) 収蔵番号 53.87a-i
  • Met ウォーター・ストーン(1986年) 収蔵番号 1987.222
  • AIC コーヒーテーブル(1944年設計/1965-67年製作) 収蔵番号 1986.36
  • AIC ロッキングスツール(1955年) 収蔵番号 1976.399
  • AIC チェステーブル(1944年設計) 収蔵番号 2010.227

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド / 場所
1937年 プロダクト ラジオ・ナース Zenith Radio Corporation
1938年 レリーフ ニュース(アソシエイテッド・プレス・ビル) ニューヨーク、アメリカ
1946年 ソファ ノグチ フリーフォーム ソファ Vitra
1944年 テーブル ノグチ コーヒーテーブル Herman Miller / Vitra
1949年 テーブル ラダーテーブル IN-52 Herman Miller
1951年〜 照明 Akari Light Sculptures(あかり) Ozeki & Co.
1954年 テーブル サイクロンテーブル Knoll
1954年 スツール ロッキングスツール Knoll
1957年 テーブル プリズマティック・テーブル Vitra
1958年 庭園 ユネスコ本部庭園 パリ、フランス
1968年 彫刻 レッド・キューブ ニューヨーク、アメリカ
1976年 噴水 ドッジ・ファウンテン(ハート・プラザ) デトロイト、アメリカ
1982年 庭園 カリフォルニア・シナリオ コスタメサ、アメリカ
1985年 庭園 土門拳記念館 庭園 酒田、日本
1988年 公園 モエレ沼公園(2005年完成) 札幌、日本

プロフィール

生没年 1904年11月17日〜1988年12月30日
出身地 アメリカ・ロサンゼルス
国籍 アメリカ
活動拠点 ニューヨーク、香川県牟礼
分野 彫刻、庭園、家具、照明、舞台美術
主な協働ブランド Herman Miller、Knoll、Vitra、Ozeki & Co.

Reference

Biography | The Noguchi Museum
https://www.noguchi.org/isamu-noguchi/biography/biography/
Chronology | The Noguchi Museum
https://www.noguchi.org/isamu-noguchi/biography/chronology/
Representing America: Isamu Noguchi at the 1986 Venice Biennale | The Noguchi Museum
https://www.noguchi.org/isamu-noguchi/digital-features/representing-america-isamu-noguchi-at-the-1986-venice-biennale/
Isamu Noguchi | Kyoto Prize
https://www.kyotoprize.org/en/laureates/isamu_noguchi/
The Museum of Modern Art Collection
https://www.moma.org/collection/works/2526
Isamu Noguchi | Herman Miller
https://www.hermanmiller.com/designers/noguchi/
イサム・ノグチ庭園美術館
https://www.isamunoguchi.or.jp