Akari Light Sculptures(あかり)は、20世紀を代表する彫刻家・デザイナーであるイサム・ノグチが1951年から手がけた照明彫刻のシリーズである。日本の伝統的な岐阜提灯の製法と、モダンデザインの感性が融合した作品群は、「光の彫刻」として世界中で愛され続けている。

「Akari」という名称は、日本語の「明かり」に由来し、照明としての光と、物理的な軽さの両方の意味を含んでいる。漢字の「明」は太陽と月を組み合わせた文字であることから、ノグチは太陽と月を様式化したロゴマークを考案し、すべての作品に刻印として使用した。この印は、正規品の証明としての役割も果たしている。

誕生の経緯とエピソード

1951年春、イサム・ノグチは建築家の丹下健三の招きで、広島平和記念公園の平和大橋と西平和大橋のデザインを手がけるため日本を訪れた。広島への移動途中、ノグチは長良川の鵜飼いを見物するため岐阜に立ち寄った。夜の川面を照らす提灯の幻想的な光景に魅了されたノグチは、岐阜市長から地元の伝統産業である提灯製造業の復興への協力を求められた。

提灯製造の老舗である株式会社オゼキ(1891年創業)の工場を訪れたノグチは、竹と和紙による繊細な製造工程に彫刻家としての新たな可能性を見出した。その夜のうちに2つのプロトタイプをデザインし、伝統的な蝋燭の代わりに電球を使用することで、提灯を現代的な照明器具へと進化させた。地元新聞は当初これらのデザインを「変形した」と評したが、ノグチの革新的なアプローチは、やがて世界中から賞賛を受けることとなった。

製造工程の特徴

Akariの製造は、現在も岐阜のオゼキ工場で、1951年当時と同じ伝統的な手法により行われている。まず、楮(こうぞ)の樹皮から作られる美濃和紙を準備し、ノグチがデザインした木型に竹ひごを巻きつけて骨組みを形成する。次に、和紙を細長く切り、骨組みの内側と外側の両面に丁寧に貼り付けていく。接着剤が乾燥し形が固定されると、内部の木型を分解して取り除く。この伝統的な製法により、和紙の縮みやしわがそのまま残され、独特の風合いが生まれる。

特徴・デザインコンセプト

イサム・ノグチは、Akariを単なる照明器具ではなく「光の彫刻」として位置づけた。「電気の厳しさは、和紙の魔法によって太陽の光へと変換され、その温もりが夜の部屋を満たし続ける」と彼は語っている。和紙を透過する柔らかな光は、影のない彫刻作品として空間に詩的な雰囲気をもたらす。

Akariの最大の特徴は、その「折り畳み可能性」にある。伝統的な提灯の構造を継承したこの特性により、平らな封筒や浅い箱に収納して世界中に輸送することが可能となった。ノグチはこの物質性と非物質性の間の遊びを、作品の中心的な概念として重視した。「部屋と畳とAkariさえあれば、家を始めるのに必要なものはすべて揃う」という彼の言葉は、Akariの本質を端的に表現している。

デザインの多様性

1951年から1988年に亡くなるまでの約40年間、ノグチは200種類以上のAkariをデザインした。球形、非対称形、幾何学的形態など、さまざまな形状のシェードと、床置き型、テーブル型、ペンダント型といった多様なベースの組み合わせにより、豊富なバリエーションが生み出された。当初は、シェードとベースを自由に組み合わせられるモジュラーシステムとして構想されたが、後にノグチはより自由な創作を求めて、この制約から解放された。

評価と影響

Akari Light Sculpturesは、モダンデザインのアイコンとして世界的に高い評価を受けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションには複数のモデルが収蔵されており、デザインコレクションの重要な作品として位置づけられている。また、Vitra Design Museum、Cooper Hewitt Smithsonian Design Museum、ノグチ美術館など、世界の主要な美術館・博物館にも収蔵されている。

1952年の鎌倉近代美術館での初公開以来、Akariは芸術作品としてだけでなく、機能的なデザインとしても成功を収めた。1986年のヴェネツィア・ビエンナーレでは、ノグチはアメリカ代表として複数のAkariを展示し、国際的な評価をさらに高めた。「あかりは僕が自信を持って誇れる仕事の一つです」というノグチの言葉通り、Akariは彼の最も成功した作品の一つとなった。

現代への継承

ノグチの死後30年以上が経過した現在も、Akariは岐阜のオゼキ社で製造され続けている。その普遍的なデザインと、和紙と竹という素材の持つ温かみは、現代のインテリアにも完璧に調和する。スイスのヴィトラ社は2002年からノグチ財団と協力して、Akariを含むノグチデザインの復刻版を製造・販売しており、新たな世代にもその魅力を伝え続けている。

受賞歴と展覧会

イサム・ノグチ自身は1987年にNational Medal of Artsを受賞し、アメリカの芸術界における最高の栄誉を得た。Akariは世界各地で開催された展覧会で紹介され、特に以下の展覧会で重要な役割を果たした:

  • 1952年 - 鎌倉近代美術館「イサム・ノグチ展」(Akari初公開)
  • 1955年 - Bonniers(ニューヨーク)での初の国際展示会
  • 1968年 - ホイットニー美術館回顧展
  • 1986年 - ヴェネツィア・ビエンナーレ(アメリカ代表)
  • 1991-1992年 - MoMA「Lighting from the Sixties and Seventies」展
  • 2001-2002年 - Vitra Design Museum「Isamu Noguchi: Sculptural Design」巡回展
  • 2018-2019年 - 東京オペラシティアートギャラリー「イサム・ノグチ -彫刻から身体・庭へ-」

基本情報

名称 Akari Light Sculptures(あかり)
デザイナー イサム・ノグチ(Isamu Noguchi)
デザイン年 1951年~1988年
製造元 株式会社オゼキ(岐阜)
素材 和紙(美濃和紙)、竹、金属フレーム
バリエーション 200種類以上(フロアランプ、テーブルランプ、ペンダントランプ等)
サイズ 直径30cm~100cm(モデルにより異なる)
収蔵美術館 MoMA(ニューヨーク)、Vitra Design Museum、Cooper Hewitt Smithsonian Design Museum、ノグチ美術館 他
正規販売 The Noguchi Museum Shop、Vitra、MoMA Design Store