概要
アントニオ・チッテリオ(1950年生まれ)は、イタリアの建築家・デザイナーである。家具製造の集積地であるブリアンツァ地方に生まれ、ミラノ工科大学で建築を学びながら20代前半で設計事務所を開いた。B&Bイタリア、フレックスフォルム、ヴィトラ、カルテルなどと長期の協働を続け、ソファを中心とするモジュール式の家具を多く手がけている。建築事務所ACPVを共同主宰し、ホテル・オフィス・住宅の設計も並行して行っている。
バイオグラフィー
1950年、ミラノ近郊メーダに生まれた。家具工場が集まるブリアンツァ地方で育っている。1972年、ミラノ工科大学で建築を学びながらパオロ・ナヴァと共同で設計事務所を開き、1975年に建築の学位を得た。
1972年から1981年までナヴァと協働し、主に工業デザインの分野で活動した。1979年、ナヴァとの共同設計によるモジュール式ソファ「ディエシス」をB&Bイタリアから発表している。
1987年から1996年まで、建築家テリー・ドワンと「チッテリオ・ドワン」を組み、ヨーロッパと日本で建築とインテリアの仕事を手がけた。1987年には「シティ」でコンパッソ・ドーロ賞を受けている。1990年代にはグレン・オリヴァー・ローとの協働でカルテルの製品を設計し、1994年に「モービル」で二度目のコンパッソ・ドーロ賞を受けた。
2000年、建築家パトリシア・ヴィエルと「アントニオ・チッテリオ・アンド・パートナーズ」を設立。現在はACPV Architects Antonio Citterio Patricia Viel として、ホテル、オフィス、住宅の設計を行っている。2006年から2016年まで、スイスのメンドリシオ建築アカデミーで建築設計の教授を務めた。
デザインの思想と方法
チッテリオの設計は、家具を単体の物としてではなく、部屋の平面をどう区切るかという観点から扱う。ソファの寸法と構成は、置かれる部屋の広さと動線から決まり、その結果として単位を組み合わせる方式が選ばれる。建築とプロダクトを同じ事務所で扱ってきたことが、この進め方の前提にある。
単位を組み合わせて構成する
1979年のディエシス以降、彼のソファの多くは複数の単位を連結する方式をとる。座面・背もたれ・肘掛けを別々の要素として扱い、必要な位置にだけ配することで、直線形から角形、島形までを同じ部材で構成できる。設計者が決めるのは単位の寸法と連結の方式であり、最終的な配置は使い手と空間が決める。
支持を細くして座面を浮かせる
チャールズでは、細い鋼の脚が座面の下から張り出し、厚みのあるクッションを支える。座面と床のあいだに隙間ができるため、体積のあるソファでも床面が見通せる。同じ座り心地を保ちながら視覚的な体積を減らすという操作であり、部屋の広さに対する圧迫を抑えるための処理にあたる。
座面を低くして姿勢を変える
2001年のグラウンドピースは、座面の高さを通常より大きく下げ、奥行きを深くとった。背筋を立てて座る姿勢ではなく、脚を上げて寄りかかる姿勢を前提としている。座り方を変えることで、同じ面積のソファでも部屋での位置づけが変わるという設計上の判断である。
樹脂成形の収納
カルテルのために設計した一連の製品では、射出成形による樹脂の部材を用いた。モービルは、成形した箱と枠を組み合わせ、車輪を付けて移動できる収納とした構成をとる。金属や木では成立しない薄さと軽さが樹脂で得られるため、収納を固定の家具ではなく動かせる道具として扱えるようになった。
ヴィトラの歴史や他の製品について詳しくはヴィトラ ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
ディエシス(1979年)
パオロ・ナヴァとの共同設計によるソファである。細い金属の枠で座面を支え、その上にクッションを載せる構成をとる。座面と背もたれのクッションが独立しているため、単位を並べる向きと数によって形が変わる。厚みのある箱型が主流だった当時のソファに対し、枠を見せる構成を提示した仕事にあたる。→ディエシス
シティ(1986年)
座面の深さと背の高さを部分ごとに変えたソファシステムで、1987年にコンパッソ・ドーロ賞を受けた。同じ一台のなかで、身体を起こして座る場所と、脚を伸ばして寄りかかる場所が併存する。一つの姿勢を前提としないという考え方が、単位の寸法の差として現れている。
モービル(1993年)
グレン・オリヴァー・ローとの共同設計による、カルテルの収納システムである。射出成形の樹脂で枠と引き出しを作り、車輪を付けて移動できるようにした。用途を固定せず、置き場所を変えて使うことを前提とする。1994年にコンパッソ・ドーロ賞を受け、ニューヨーク近代美術館が収蔵している(収蔵番号222.1998.1-2)。
チャールズ(1997年)
細い鋼の脚が座面の下から斜めに張り出し、厚いクッションを支えるソファである。脚が短く外側に開くため、座面の下に空間が残り、床が見通せる。体積のあるソファでありながら部屋を狭く見せないという要求に、支持部の形状だけで答えている。→チャールズ ソファ
グラウンドピース(2001年)
フレックスフォルムのために設計したソファで、座面を大きく下げ、奥行きを深くとった。背もたれの高さを抑えることで、部屋の中で視線を遮らない。座る姿勢を変えることで家具の役割そのものを変えるという方針が、寸法の設定に直接現れている。→グラウンドピース
評価と影響
チッテリオは一般に、1980年代以降のイタリアの家具、とくにソファの分野で標準的な形式を作った設計者と評価されている。単位を組み合わせる方式と、支持部を細くして座面を浮かせる構成は、その後の製品に広く採用された。
企業との長期的な協働も特徴として挙げられる。B&Bイタリアとは1970年代から、ヴィトラとも数十年にわたり関係が続いており、単発の設計ではなく製品群を継続して開発する体制をとってきた。
建築の側では、ACPVを通じてホテル・オフィス・住宅を手がけ、建物の設計と什器の設計を同じ事務所で扱っている。2006年から2016年までのメンドリシオ建築アカデミーでの教育も、この二つを分けない立場から行われた。
受賞・収蔵
受賞
- 1987年 コンパッソ・ドーロ賞(シティ)
- 1994年 コンパッソ・ドーロ賞(モービル)
- 2008年 ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
- 2022年 コンパッソ・ドーロ賞(生涯の功績に対して)
収蔵
ニューヨーク近代美術館(MoMA)に以下の収蔵が確認できる。いずれもグレン・オリヴァー・ローとの共同名義で登録されている。
- バッティスタ 伸長式テーブル(1991年) 収蔵番号 199.1998
- モービル 収納システム(1993年) 収蔵番号 222.1998.1-2
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド / 場所 |
|---|---|---|---|
| 1979年 | ソファ | ディエシス | B&B Italia(パオロ・ナヴァと共同) |
| 1986年 | ソファ | シティ | B&B Italia |
| 1991年 | テーブル | バッティスタ | Kartell(グレン・オリヴァー・ローと共同) |
| 1993年 | 収納 | モービル | Kartell(グレン・オリヴァー・ローと共同) |
| 1997年 | ソファ | チャールズ ソファ | B&B Italia |
| 1997年 | ベッド | チャールズ ベッド | B&B Italia |
| 2001年 | ソファ | グラウンドピース | Flexform |
| 2003年 | 水栓金具 | AXOR Citterio | Axor-Hansgrohe |
| 2004年 | 照明 | ケヴィン | Flos |
| 2008年 | 建築 | エルメネジルド・ゼニア本社 | ミラノ、イタリア |
| 2010年 | 椅子 | グラン レポ | Vitra |
| 2010年 | ソファ | スイタ ソファ | Vitra |
| 2016年 | ソファ | リチャード | B&B Italia |
| 2022年 | ソファ | エソソフト | Cassina |
| 2023年 | オフィスチェア | ACX | Vitra |
プロフィール
| 生年 | 1950年11月19日 |
|---|---|
| 出身地 | イタリア・メーダ |
| 国籍 | イタリア |
| 活動拠点 | ミラノ |
| 分野 | 家具、建築、インテリア |
| 主な協働ブランド | B&B Italia、Flexform、Vitra、Kartell、Flos、Cassina、Maxalto |
Reference
- ACPV Architects Antonio Citterio Patricia Viel
- https://www.acpvarchitects.com/
- Antonio Citterio | B&B Italia
- https://www.bebitalia.com/en/designers/antonio-citterio
- Antonio Citterio | Vitra
- https://www.vitra.com/en-us/product/designer/antonio-citterio
- Antonio Citterio | Flexform
- https://www.flexform.it/en/designers/antonio-citterio
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325