Éditions Serge Mouille(エディション・セルジュ・ムーイユ)── 光の彫刻を守り継ぐフランスの照明工房

Éditions Serge Mouille(エディション・セルジュ・ムーイユ)は、20世紀フランスが生んだ最も偉大な照明デザイナーの一人、セルジュ・ムーイユ(1922–1988)の作品を正統に継承する唯一の工房である。1999年、ムーイユの未亡人ジン・ムーイユとクロード・デルピルーにより設立された同社は、デザイナーが生前こだわり抜いた手仕事の精神を忠実に受け継ぎ、フランス・エーヌ県モンティエのアトリエにおいて、オリジナルと同一の金型・素材・技法を用いた照明器具の製作を続けている。

均一に黒く塗装されたスチールの細いアーム、有機的なフォルムのアルミニウム製リフレクター、そして真鍮のボールジョイントが織りなす優美なコントラスト──セルジュ・ムーイユの照明は、単なる光源を超えた「光の彫刻」として、ミッドセンチュリーモダンの金字塔に位置づけられている。ジャン・プルーヴェ、シャルロット・ペリアン、イサム・ノグチらとともにパリのステフ・シモン・ギャラリーで紹介されたその作品群は、半世紀以上を経た今日もなお、世界中のコレクターと建築家から深い敬愛を集めている。

ブランドの特徴・コンセプト

Éditions Serge Mouilleの照明コレクションを貫く根本思想は、セルジュ・ムーイユ自身が掲げた「光における彫刻的美学の追求」にある。1950年代初頭、イタリア製照明器具が市場を席巻していた時代に、ムーイユはその過度な装飾性を批判し、自然界の有機的なフォルム──昆虫の関節、貝殻の螺旋、葉脈の網目構造──に着想を得た、簡潔にして力強いデザインを志向した。

フォルム・ノワール(Formes Noires)の美学

ムーイユの代名詞ともいうべき「フォルム・ノワール(黒い形態)」シリーズは、均一な黒色塗装を施したスチールロッドとアルミニウム製シェードから成る照明群の総称である。黒という色彩の選択は偶然ではなく、光そのものを際立たせるための意図的な決断であった。黒い骨格は空間の中で一本の線描のように存在し、灯された瞬間、白いリフレクター内面からの柔らかな反射光が空間に彫刻的な陰影を生み出す。この「闇と光の対話」こそが、ムーイユ作品の本質である。

手仕事への徹底したこだわり

セルジュ・ムーイユは生涯を通じて工業的な大量生産を拒み、すべての照明器具を手作業で製作することに固執した。1960年代初頭、増大する注文に対して教育者としての職務との両立が困難になった際も、工業化ではなく製作の停止を選んだ逸話は、その信念の揺るぎなさを物語っている。Éditions Serge Mouilleは、この哲学を忠実に継承し、フランスの自社アトリエにおいて熟練した職人の手によって一点一点を製作している。すべての製品にはシリアルナンバーが刻印され、真正性証明書(Certificat d'Authenticité)が付属する。

コレクションの全体像

現在のコレクションは、フロアランプ、シーリングランプ、ウォールランプ、デスクランプを含む約45モデルで構成されている。代表的なシリーズとしては、1950年代の「フォルム・ノワール」シリーズと、1960年代の蛍光管を用いた「コロンヌ(柱)」シリーズの二系統が存在する。前者は有機的な曲線と可動式アームを特徴とし、後者はミニマルな直線性と新素材への挑戦を体現している。いずれもブラック仕上げを基調とし、一部モデルにはホワイト仕上げも用意されている。

ブランドヒストリー

銀細工師から照明デザイナーへ ──セルジュ・ムーイユの軌跡

1922年12月24日、パリの庶民的な地区に生まれたセルジュ・ムーイユは、警察官の父と仕立て屋の母のもとで育った。幼少期から自然界の造形に深い関心を抱き、パリ植物園(Jardin des Plantes)に通い詰めては、植物や動物のスケッチに没頭した。葉脈の精緻な構造、貝殻の成長パターン、動物の骨格と関節のメカニズム──これらの自然の造形原理は、後の照明デザインにおける有機的なフォルムの源泉となる。

図画教師の勧めにより、ムーイユは13歳(一説には15歳)でパリ装飾美術学校(École des Arts Appliqués)の入学試験に合格し、同校史上最年少の生徒となった。金属工芸と銀細工を専攻し、高名な彫刻家・銀細工師ガブリエル・ラクロワ(Gabriel Lacroix)の薫陶を受ける。1941年の卒業後はラクロワの工房で研鑽を積み、1945年には自身の金属加工アトリエを開設するとともに、母校で教鞭を執り始めた。

ジャック・アドネとの出会い(1951–1953年)

ムーイユの人生を決定的に変えたのは、1951年のジャック・アドネ(Jacques Adnet)との出会いであった。フランス芸術会社(Compagnie des Arts Français)の総支配人であったアドネは、南米の顧客向けに大型照明器具のデザインを依頼する。この挑戦に応えて誕生したのが、後に世界的アイコンとなる「三本アームのフロアランプ(Lampadaire Trois Bras)」である。ムーイユは職人から創造的芸術家へと飛躍を遂げ、「フォルム・ノワール」シリーズの展開を開始した。

ステフ・シモン・ギャラリーと黄金期(1956–1960年代初頭)

1956年、パリ・サンジェルマン大通り145番地にステフ・シモン・ギャラリーが開廊した。シャルロット・ペリアンがインテリアを手がけたこの画廊は、ジャン・プルーヴェ、シャルロット・ペリアン、イサム・ノグチらの作品を扱うアヴァンギャルド家具の最前線であり、セルジュ・ムーイユの照明もここで展示・販売されることとなった。ムーイユの作品は瞬く間に国際的な評価を獲得し、アントニーの大学都市、ストラスブールやマルセイユの学校施設、チュニジアのビゼルト大聖堂など、公共施設の照明計画も手がけるようになる。

この時期の逸話として、ムーイユの照明に魅了されたハリウッド俳優ヘンリー・フォンダが、入手経路が分からずアトリエの階段に座り込んで面会を待ったという話が伝えられている。

コロンヌ・シリーズと教育者への転身(1960年代)

1960年代に入ると、蛍光管という新たな光源技術に触発されたムーイユは、従来の有機的フォルムとは一線を画す「コロンヌ(Colonnes)」シリーズを創出した。白熱灯と蛍光灯を組み合わせたこの新シリーズは、あまりに急進的な方向転換であったため、当初は理解を得られず、評価は分かれた。ノール・インターナショナル(Knoll International)を通じた販売の試みもフローレンス・ノールの反対により実現しなかった。

増大する注文と教育活動の両立に限界を感じたムーイユは、工業生産への移行を拒み、1963年頃に照明器具の製作を停止する決断を下した。以降は装飾美術学校における金属工芸・銀細工の教育に専念し、ジュエリーデザインにも取り組みながら、1988年12月25日、66歳の誕生日の翌日にこの世を去った。

Éditions Serge Mouilleの誕生(1999年–現在)

1999年、ムーイユの未亡人ジン・ムーイユとクロード・デルピルーは、Éditions Serge Mouille(ESM)を設立し、オリジナルの金型・素材・技法を忠実に用いた照明器具の製作を開始した。ムーイユのかつての教え子フレッド・バーンリーとカール・ソヴァドの技術指導のもと、デザイナーの手仕事の精神を現代に蘇らせることに成功する。2000年には最初の真正性証明書が発行された。

2009年にジン・ムーイユが、2016年にクロード・デルピルーが相次いで世を去った後は、クロードの息子ディディエ・デルピルーが経営を引き継ぎ、セルジュの息子パスカル・ムーイユが営業開発を担当している。家族経営の独立企業として、ムーイユが晩年を過ごしたモンティエの近隣に構えたアトリエから、世界中に照明器具を届け続けている。

主なインテリアとその特徴

三本アームのフロアランプ(Lampadaire Trois Bras Pivotants)── 1952年

ジャック・アドネの依頼により誕生した、ムーイユ最初期にして最も象徴的な作品である。三脚のベースから伸びる細いスチールの支柱に、それぞれ異なる高さと角度で取り付けられた三本の可動式アームが特徴。各アームの先端には手作業で成形されたアルミニウム製の「シャポー(帽子)」型シェードが真鍮のボールジョイントで接続され、自在に向きを変えることができる。黒いラッカー塗装の外面と白い反射面の内側というコントラストが、柔らかく温かな光の拡散を生む。コレクション中、最も多用途性に富む一作として高い評価を受けている。

ウイユ(Œil / Eye)ウォールランプ── 1953年

「ウイユ(眼)」の名は、そのシェードの形状に由来する。小ぶりながら存在感のあるこのウォールランプは、フォルム・ノワール・シリーズの真髄を凝縮した一作であり、壁面に取り付けることで空間にアクセント照明を提供する。シンプルな構造ゆえに多様な空間に適応し、住宅からギャラリー、ホスピタリティ空間に至るまで幅広く採用されている。

フラム(Flammes)ウォールランプ── 1954年

「炎」を意味するこのウォールランプは、ムーイユの有機的造形美が結実した作品の一つである。揺らめく炎を思わせる曲線的なフォルムが壁面に優雅な影を落とし、光と影の対話を空間に演出する。

サテュルヌ(Saturne / Saturn)── 1957年

惑星土星の環を想起させる二重構造のシェードを持つこのデザインは、ウォールランプ、テーブルランプ、デスクランプなど複数のバリエーションで展開されている。環状のリングと球体の組み合わせが宇宙的な印象を与え、ムーイユのデザインの中でも特に詩的な造形として知られる。

エスカルゴ(Escargot / Snail)シーリングランプ── 1955年

「カタツムリ」の名を持つこのシーリングランプは、渦巻状のシェードが天井面に優美な光の模様を描く。小型(Petit)と大型(Grand)の二種が存在し、コンパクトながらも彫刻的な存在感を発揮する。

三本アーム回転式シーリングランプ(Plafonnier Trois Bras Pivotants)── 1958年

フロアランプの三本アームの美学を天井照明に昇華させた作品。異なる長さの三本の回転式アームが天井から放射状に伸び、各シェードは首振りと傾斜が可能で、空間の照明を自在にコントロールできる。ダイニングルームやリビングルームの主照明として、またギャラリー空間の展示照明として広く用いられている。

コロンヌ(Colonnes)シリーズ── 1962年

ムーイユ後期の代表作であるコロンヌ・シリーズは、蛍光管を用いた柱状の照明群であり、フォルム・ノワールの有機的曲線とは対照的なミニマルな直線性を特徴とする。トーテム・コロンヌ(Totem)とシグナル・コロンヌ(Signal)の二系統があり、白熱灯と蛍光灯の光を一体の器具内で共存させるという革新的な試みであった。発表当時は賛否が分かれたが、現在では先駆的な実験として再評価されている。

その他の主要モデル

上記に加え、コレクションには以下のような注目すべきモデルが含まれる。アントニー・デスクランプ(Antony、1955年)は、アントニーの大学都市のために設計された機能的なデスク照明。ココット・デスクランプ(Cocotte、1957年)は小型ながら愛らしいフォルムで人気を集める。アグラフェ(Agrafée)デスクランプは壁面や棚に留め付けるクリップ式の実用的なモデルである。ビブリオテーク(Bibliothèque)シーリングランプは、図書館照明のために考案された直線的かつ機能的なデザインとなっている。

主なデザイナー

Éditions Serge Mouilleのコレクションは、セルジュ・ムーイユ(Serge Mouille, 1922–1988)のデザインのみで構成されている。銀細工師としての卓越した金属加工技術と、自然界の造形原理に対する深い洞察を融合させたムーイユは、20世紀フランスを代表する照明デザイナーとして、ジャン・プルーヴェ、マチュー・マテゴ(Mathieu Matégot)らとともに、金属工芸に新たな軽やかさとエネルギーをもたらした先駆者である。

なお、2013年にはÉditions Serge Mouilleの姉妹会社として「リーニュ・ド・デマルカシオン(Lignes de Démarcation)」が設立され、ミシェル・ビュッフェ(Michel Buffet)、フランソワ・アザンブール(François Azambourg)、ジャン=ルイ・アヴリル(Jean-Louis Avril)など、ムーイユの精神と親和性を持つ他のデザイナーの作品のエディションも手がけている。

受賞歴・主な評価

シャルル・プリュメ賞(Prix Charles Plumet)(1955年)
フランスの装飾芸術分野における優れた業績に対して授与された。
ブリュッセル万国博覧会 名誉賞状(1958年)
国際的な舞台において照明デザインの革新性が認められた。
国家産業奨励金メダル(1962年)
フランスの産業発展に貢献したデザイナーとして表彰された。
パリ市特別メダル 手工芸専門家部門(1963年)
手仕事の卓越性に対する最高の栄誉が贈られた。
装飾芸術家協会(Société des Artistes Décorateurs)会員(1955年–)
フランス装飾芸術界への正式な貢献者として認定された。
フランス国立芸術協会(Société Nationale des Beaux-Arts)会員(1955年–)
芸術家としての地位を国家レベルで承認された。

基本情報

正式名称 Éditions Serge Mouille® / エディション・セルジュ・ムーイユ
設立 1999年
創業者 ジン・ムーイユ(Gin Mouille)、クロード・デルピルー(Claude Delpiroux)
現代表 ディディエ・デルピルー(Didier Delpiroux)
事業開発 パスカル・ムーイユ(Pascal Mouille / セルジュの息子)
所在地 フランス エーヌ県 モンティエ(Monthiers, Aisne, France)
事業形態 家族経営の独立企業(SARL)
従業員数 約18名
コレクション規模 約45モデル(フロアランプ、シーリングランプ、ウォールランプ、デスクランプ)
仕上げ ブラック(基本)、ホワイト(一部モデル)
公式サイト https://www.serge-mouille.com/
公式オンラインショップ https://www.luminairesergemouille.fr/