ダンバー ― アメリカンモダンデザインの礎を築いた名門ファニチャーブランド
インディアナ州バーンの地で馬車製造工房として1910年に産声を上げたダンバー(Dunbar)は、20世紀アメリカにおけるモダン家具の歴史そのものといえる存在である。自動車の普及とともに馬車産業が衰退するなか、卓越した木工技術を家具製造へと転換し、やがてエドワード・ウォームリーという稀代のデザイナーとの出会いにより、アメリカンモダンデザインの最高峰へと登り詰めた。
ダンバーの家具は、伝統的なクラフツマンシップと革新的なモダニズムの融合として広く評価されており、ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界有数の美術館にコレクションされている。一点一点が熟練の職人の手により丹念に仕上げられた同社の作品群は、半世紀以上を経た今なお、世界中のコレクターやインテリアデザイナーから深い敬意をもって愛され続けている。
ブランドの特徴・コンセプト
ダンバーの家具づくりを貫く理念は「妥協なき品質と時代を超越するデザイン」に集約される。同社は創業以来、大量生産の道を選ばず、すべての製品を熟練の職人による手作業で仕上げるという姿勢を一貫して守り続けてきた。バーン工場で家具製造に携わった職人たちは、地域に根づいたスイス系移民の末裔であり、その精緻な木工技術は他に類を見ないものであったと伝えられている。
デザイン面においては、エドワード・ウォームリーが30年以上にわたりデザインディレクターを務め、年間約150点もの新作を手がけた。ウォームリーのデザイン哲学は「トランジショナル(過渡的)」と呼ばれ、18世紀フランスの古典様式からスカンディナヴィアン・モダニズム、アール・デコに至るまで、幅広い歴史的モチーフを現代的な感性で再解釈するものであった。その結果生まれた家具群は、流行に左右されない普遍的な美しさと、上質な素材の温かみを兼ね備えている。
素材へのこだわりも特筆に値する。ウォルナット、チェリー、マホガニーといった良質な北米産木材を惜しみなく使用し、真鍮やブロンズ、レザー、ティファニー・スタジオのガラスタイルなど、多様な素材を組み合わせることで、工芸品としての風格を湛えた作品を生み出してきた。ダンバーの家具は、インテリアデザイナーを通じてのみ販売されるという流通形態をとっており、その特別な存在感は購入方法からも窺い知ることができる。
ブランドヒストリー
創業期:馬車工房から家具メーカーへ(1910年代〜1920年代)
ダンバーは1910年、アメリカ中西部インディアナ州バーンにおいて、高級馬車・バギーの製造会社として創業した。当時のダンバー製馬車は、上流階級の顧客に向けた最高品質の製品として知られ、精緻な木工技術と仕上げの美しさで高い評価を得ていた。しかし、ヘンリー・フォードの自動車が急速に普及するにつれ、馬車産業は衰退の一途を辿る。この転換期にあって、ダンバーの経営陣は長年培ってきた卓越した木工技術を活かし、家具製造業への転身を決断した。
ウォームリーとの出会い(1930年代)
1931年、ダンバーの社長ホーマー・ニーダーハウザーは、シカゴ美術館附属美術学校で学んだ後、マーシャル・フィールド百貨店でインテリアデザイナーとして働いていた23歳の青年エドワード・J・ウォームリーを招聘した。大恐慌の最中という困難な時期にあえて若き才能に投資するという決断は、ダンバーの運命を決定づけることとなる。ウォームリーは当初、同社の低価格帯製品ラインを担当したが、すぐにその才能を認められ、デザインディレクターの地位に就いた。彼はダンバーのために毎年二つのライン――伝統的なラインとモダンなライン――をデザインし、1944年にはモダンラインの圧倒的な人気を受けて、伝統的ラインは廃止された。
黄金期:GOOD DESIGN展とアメリカンモダンの頂点(1940年代〜1950年代)
1940年代から1950年代にかけて、ダンバーとウォームリーはアメリカン・モダンデザインの象徴的存在としての地位を確立した。1950年、シカゴ・マーチャンダイズ・マートとニューヨーク近代美術館(MoMA)が共催する「GOOD DESIGN」展が開始されると、ダンバーの作品はその常連として高い評価を受けた。1950年から1955年にかけて、ウォームリーのデザインによる30点もの作品がGOOD DESIGNの指定を受けるという輝かしい実績を残している。この時期、ウォームリーはジョージ・ネルソン(ハーマンミラー)やフローレンス・ノル(ノル)と並び、アメリカの住空間にモダンデザインを浸透させた立役者の一人として広く認知された。
ヤヌス・コレクションと芸術的到達(1957年〜1960年代)
1945年にウォームリーはニューヨークに独立したデザインスタジオを設立したが、ダンバーとのコンサルタント契約は継続した。1957年、ウォームリーはダンバーへの関与を再び深め、ヤヌス・コレクションを発表した。アーツ・アンド・クラフツ運動やカリフォルニアの建築家グリーン&グリーンの作品からインスピレーションを得たこのコレクションは、大きな成功を収めた。特に注目すべきは、オーストリア出身の陶芸家オットーおよびゲルトルート・ナッツラー夫妻との協働により、ティファニー・スタジオのガラスタイルやナッツラー夫妻の手による独自の陶製タイルを木製テーブルに嵌め込んだ一連の作品群であり、これらは今日のヴィンテージ市場において最も高い人気を誇るダンバー作品として知られている。
変遷とレガシー(1970年代〜現在)
ウォームリーは1967年に引退し、その後1970年にダンバーはカリー&カンパニーに買収され、製造拠点がノースカロライナ州ハイポイントへと移された。時代の変遷のなかで所有者の変更を経ながらも、ダンバーの名は途絶えることなく受け継がれてきた。現在のダンバー・ファニチャーLLCは、ウォームリーの精神を継承し、彼がデザインしたアーカイブ作品のカスタムメイド生産を手がけている。同時に、ヴィンテージ市場においてはオリジナルのダンバー製品が世界中のコレクターに熱心に蒐集されており、1stDibs、Chairish、Incollectなどの主要プラットフォームでは常時数百点以上のダンバー作品が取引されている。
主なインテリアとその特徴
ロング・ジョン コーヒーテーブル(Long John Coffee Table)
ウォームリーの代表作のひとつであるロング・ジョン・コーヒーテーブルは、美しい木目を活かしたウォルナットの天板と、ベントウッドのヘアピンレッグが特徴的な低いプロポーションのテーブルである。シンプルでありながら存在感のあるデザインは、リビングルームの中心に置いて映える普遍的な名作として長く生産が続けられた。
リッスン・トゥ・ミー シェーズ(Listen-to-Me Chaise)
1948年に発表されたリッスン・トゥ・ミー・シェーズは、ロココ様式の優美な曲線を現代的に解釈した寝椅子である。その名前の由来は、人が寝そべりながら語り合うことを想定した親密なデザインコンセプトにある。有機的なフォルムと上質なアップホルスタリーが調和した本作は、ウォームリーのデザイン哲学を象徴する逸品として知られる。
テテ・ア・テテ ソファ(Téte-à-Téte Sofa)
向かい合わせに座ることのできるユニークな構造を持つテテ・ア・テテ・ソファは、社交の場における対話を重視するウォームリーならではの発想から生まれた。フォーマルな空間においても、カジュアルなリビングにおいても際立つ存在感を放つ本作は、ダンバーの家具が単なる道具ではなく、人と人との関係性をデザインするものであったことを雄弁に物語っている。
ヤヌス・ウィングチェア(Janus Wing Chair)
1957年に発表されたヤヌス・コレクションの中核をなすウィングチェアは、彫刻的なマホガニーのフレームと豊かなアップホルスタリーが融合した傑作である。伝統的なウィングバックチェアの形態を現代的に再構成し、タフテッド(ボタン留め)加工を施した座面と背もたれが、卓越した座り心地とともに視覚的な美しさを提供する。オットマンとのセットで提供されることが多く、ヴィンテージ市場では特に高い評価を受けている。
ヤヌス・アングルソファ Model 6329
ヤヌス・コレクションを代表するもうひとつの傑作が、Model 6329のアングルソファである。独特の角度をつけたフォルムは、対話を促すコンバセーションピースとして設計されており、どの角度から見ても美しいシルエットを描く。ダークマホガニーのフレームとレザートリムの組み合わせは、ウォームリーの卓越した素材感覚を如実に示している。
ナッツラー・タイルトップテーブル
1956年から1960年代にかけて、ウォームリーはティファニー・スタジオのガラスタイルやオットー&ゲルトルート・ナッツラー夫妻の手による陶製タイルをウォルナットのテーブルに嵌め込んだ一連のタイルトップテーブルを制作した。工業デザインと手仕事の伝統を融合させたこれらの作品は、ダンバーの家具が工芸品の領域にまで達していたことを示す証左であり、現在のヴィンテージ市場において最も高い取引価格を記録する作品群のひとつである。
リーメルシュミット チェア(Riemerschmid Chair)
1946年にウォームリーがデザインしたリーメルシュミット・チェアは、19世紀末ドイツのデザイナー、リヒャルト・リーメルシュミットの作品を再解釈したものである。歴史的デザインへの深い造詣と現代的感性の融合というウォームリーの本質を体現する本作は、ニューヨーク近代美術館のコレクションにも収蔵されている。
シーフ・オブ・ウィート テーブル(Sheaf of Wheat Table)
小麦の束を模した彫刻的な脚部が特徴的なサイドテーブルで、1960年代のウォームリーのデザインを代表する作品のひとつである。トラバーチンやウォルナットの天板との組み合わせにより、有機的でありながら洗練された印象を与える。その独創的なフォルムは、ダンバーの家具がいかに芸術的な高みに達していたかを物語る。
主なデザイナー
エドワード・J・ウォームリー(Edward J. Wormley, 1907–1995)
イリノイ州オスウィーゴ出身。シカゴ美術館附属美術学校で学んだ後、マーシャル・フィールド百貨店のインテリアデザイン部門に勤務。1930年のパリ旅行でル・コルビュジエやエミール=ジャック・リュールマンと出会い、モダニズムに開眼した。1931年にダンバーに入社し、以来30年以上にわたりデザインディレクターを務めた。「トランジショナル」と称される独自のスタイルで、歴史的なデザインの要素をモダンな文脈へと翻訳し、アメリカの住空間にモダンデザインを根づかせた功労者のひとりである。アメリカ・インテリアデコレーター協会エルシー・ド・ウォルフ賞(1962年)、アメリカ・インテリアデザイナー協会トータルデザイン賞(1978年)、アメリカ家具デザイナー協会ディスティングイッシュドデザイナー賞(1986年)など、数多くの栄誉を受けている。
ロジャー・スプランガー(Roger Sprunger)
ミシガン州グランドラピッズのケンドール・スクール・オブ・デザインを卒業後、第二次世界大戦での兵役を経てダンバーに入社。25年以上にわたり同社のレジデントデザイナーを務めた。ウォームリーが主に木材と伝統的な素材を用いたのに対し、スプランガーはクロム、ブロンズ、ガラスといった工業的な素材を積極的に取り入れ、よりミニマルで都会的なデザインを展開した。エグゼクティブデスクやクロムフレームのコーヒーテーブルなど、コントラクト家具における秀作を数多く残している。
トム・ロピンスキー(Tom Lopinski)
1960年代から1970年代にかけてダンバーで活動したデザイナー。ブロンズやローズウッドを組み合わせた彫刻的なコーヒーテーブルを得意とし、その作品はしばしばウォームリーやスプランガーの作と誤認されるほどの高い完成度を誇る。オイルドブロンズとスモークガラスを用いた重厚なコーヒーテーブルは、ダンバー後期の名作として評価が高まっている。
バート・イングランド(Bert England)
カリフォルニア出身のデザイナーで、ジョンソン・ファニチャー・カンパニーやジョン・ウィディコム、ストウ・デイヴィスなど複数の名門メーカーでデザインを手がけた。ダンバーにおいてはModel 5105エグゼクティブオフィスチェアなどのコントラクト家具を1980年代にデザインし、植物タンニン鍛めしレザーとポリッシュドクロームを用いた洗練されたオフィスチェアは、ダンバーのコントラクト部門における水準の高さを示している。
基本情報
| ブランド正式名称 | Dunbar Furniture(ダンバー・ファニチャー) |
|---|---|
| 創業年 | 1910年 |
| 創業地 | アメリカ合衆国 インディアナ州バーン(Berne, Indiana) |
| 現所在地 | アメリカ合衆国 ノースカロライナ州ハイポイント(High Point, North Carolina) |
| 創業時の事業 | 高級馬車・バギーの製造 |
| 家具製造への転換 | 1920年代 |
| 主なデザインディレクター | エドワード・J・ウォームリー(1931年〜1967年) |
| 代表的コレクション | ヤヌス・コレクション(1957年〜)、GOOD DESIGNシリーズ |
| 主な受賞 | MoMA / シカゴ・マーチャンダイズ・マート GOOD DESIGN賞(30作品、1950年〜1955年) |
| 現運営法人 | Dunbar Furniture, LLC |
| 公式サイト | https://collectdunbar.com/ |