モデル5465 サイドボードは、アメリカン・モダニズムの巨匠エドワード・ウォームリーが1957年にダンバー社のために設計した収納家具である。ミッドセンチュリー・モダンの黄金期を代表する本作は、ウォームリーの卓越したデザイン哲学を体現している。伝統的なクラフツマンシップと現代的な美学を融合させ、機能性と芸術性を高次元で両立させた傑作として、今日なお高い評価を受けている。
水平に伸びる流麗なシルエット、厳選されたマホガニー材の美しい木目、そしてタンブールドア(蛇腹扉)の精緻な意匠が織りなす調和は、戦後アメリカの洗練された生活様式を象徴するものである。リビングルームやダイニングルームにおける収納家具としての実用性を保ちながら、空間に格調と品位をもたらす存在として、半世紀以上にわたり愛され続けている。
特徴・コンセプト
デザインの特徴
モデル5465の最も顕著な特徴は、その端正なプロポーションと素材の誠実な表現にある。全体を貫く水平線の強調は、フランク・ロイド・ライトのプレーリースタイルに通じる有機的建築の影響を感じさせる。同時に、スカンジナビア・モダンの明快さと温かみを取り入れ、独自の美学を確立している。
筐体には上質なマホガニー材が用いられ、その深みのある赤褐色と美しい木目が表面を優雅に彩る。本作の象徴的な要素であるタンブールドア(蛇腹扉)は、薄い木片を連結して作られた可動式の扉であり、開閉時に省スペースを実現しながら、独特のリズミカルな視覚的効果をもたらしている。
脚部にはブロンズ製のベースが採用されており、木の温もりと対照的な金属の輝きが全体に精緻な印象を与えている。上部には3つの引き出しが配され、タンブールドアの奥には棚板付きの収納スペースが設けられている。この構成により、リネン類、食器、書類など多様な用途に対応する柔軟な活用が可能である。
設計思想
エドワード・ウォームリーは「良いデザインとは、時代を超えて愛される普遍性を持つものである」という信念のもと、流行に左右されない本質的な美を追求した。モデル5465においても、この哲学は明確に表れている。過度な装飾を排しながらも、決して冷たく無機質にならない温かみのある造形は、日常の暮らしに寄り添う家具としての理想形を示している。
タンブールドアの採用は、ウォームリーが好んだ伝統的な工芸技法のひとつである。ダンバー社の製品には、籐張りの座面やウーヴンウッド(編み込み木材)のキャビネット前面など、手工芸的な要素が多く見られるが、タンブールドアもまたその系譜に連なるものである。工業化が進む時代にあっても、手仕事の価値を守り続けた姿勢は、本作の品質と耐久性に如実に反映されている。
エピソード
エドワード・ウォームリーは1931年、弱冠24歳でダンバー社のデザインディレクターに就任した。以来37年間にわたり同社の顔として活躍し、150以上のデザインを世に送り出した。モデル5465は、彼のキャリアの円熟期である1957年に生まれた作品であり、蓄積された経験と洗練された審美眼が結実している。
1950年代後半のアメリカは、戦後の繁栄とモダニズムの隆盛が交差する時代であった。郊外に新しい住宅が次々と建設され、人々は自らの生活空間を洗練させることに熱心だった。ウォームリーは、こうした新しいアメリカン・ライフスタイルにふさわしい家具を提案し続け、モデル5465はまさにその象徴的存在となった。
ダンバー社は当時、ハーマンミラーやノール社と並ぶアメリカを代表する高級家具メーカーとして知られていた。しかし、イームズやネルソンが率いたこれらの競合他社が工業的デザインを推進したのに対し、ダンバー社とウォームリーは手工芸的な品質にこだわり続けた。自動化された生産システムを用いず、ほとんどの作品を手作業で製作するというダンバー社の姿勢は、結果として時代を超えた価値を生み出すこととなった。
評価
モデル5465 サイドボードは、ミッドセンチュリー・モダン家具の傑作として、美術館やデザイン研究機関において高く評価されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界の主要美術館が、ウォームリーのダンバー社での作品をコレクションに加えている。
現代のアンティーク・ヴィンテージ家具市場においても、本作は極めて高い人気を誇る。その希少性と品質の高さから、1stDibs、Wright、Rago、Los Angeles Modernといった名門オークションハウスにおいて、優良なコンディションの作品は数千ドルから数万ドルの価格で取引されている。特に、オリジナルの状態を保ったものや、珍しい仕上げが施された作品は、コレクターの間で垂涎の的となっている。
デザイン史的観点からも、モデル5465はアメリカン・モダニズムの発展を理解する上で重要な位置を占める。ヨーロッパのモダニズムとアメリカの伝統的クラフツマンシップの融合、そして高級家具市場における独自の価値提案は、後世のデザイナーたちに多大な影響を与えた。
エドワード・ウォームリーについて
エドワード・ウォームリー(Edward J. Wormley, 1907-1995)は、20世紀アメリカを代表する家具デザイナーである。イリノイ州オスウィーゴに生まれ、シカゴのアート・インスティテュートで学んだ後、1931年にインディアナ州バーンのダンバー・ファニチャー社に入社。以後、1968年の退社まで37年間にわたりデザインディレクターを務めた。
ウォームリーのデザインは、スカンジナビアン・モダン、アジアの伝統工芸、そしてアメリカのコロニアル様式など、多様な文化的源泉からインスピレーションを得ていた。しかし、それらは決して模倣に終わることなく、独自の解釈と洗練を経て、「アメリカン・モダン」としか呼びようのない独特のスタイルへと昇華された。彼は金属を家具の主要素材として使用することを好まず、籐張りの座面、タンブールドア、モデル5666サイドボード(1956年)に見られるウーヴンウッドのキャビネット前面など、工芸的な要素を好んで取り入れた。
1947年と1953年には、アメリカ工業デザイナー協会(IDSA)からグッドデザイン賞を受賞。その功績は、同時代のチャールズ・イームズ、ジョージ・ネルソン、エーロ・サーリネンらと並び称される。2017年には、アメリカ家具殿堂入りを果たし、その歴史的貢献が改めて認められた。
ダンバー社について
ダンバー・ファニチャー・カンパニー(Dunbar Furniture Company)は、1910年にインディアナ州バーンで創業したアメリカの高級家具メーカーである。熟練の職人技術と最高品質の素材を用いた製品づくりで知られ、20世紀中葉のアメリカ家具産業において独自の地位を築いた。
1931年にエドワード・ウォームリーをデザインディレクターに迎えて以降、同社は伝統的な手工芸の価値を守りながらも、モダニズムの潮流を巧みに取り入れた家具を発表し続けた。ダンバー社は自動化された生産システムを用いず、ほとんどの製品を手作業で製作するという珍しい方針を貫いた。その製品は、当時の富裕層や文化人の邸宅を彩り、アメリカン・ライフスタイルの象徴として広く認知された。
1990年代以降、同社は経営上の変遷を経たものの、ダンバーの名は今日なおミッドセンチュリー・モダン家具の最高峰を表す代名詞として、コレクターやデザイン愛好家の間で敬意をもって語り継がれている。
基本情報
| 名称(日本語) | サイドボード モデル5465 |
|---|---|
| 名称(英語) | Model 5465 Sideboard |
| デザイナー | エドワード・ウォームリー(Edward Wormley) |
| メーカー | ダンバー・ファニチャー・カンパニー(Dunbar Furniture Company) |
| 製造国 | アメリカ合衆国(インディアナ州バーン) |
| 発表年 | 1957年 |
| 主な素材 | マホガニー材、ブロンズ |
| 主な特徴 | タンブールドア(蛇腹扉)、引き出し3杯、棚板付き収納 |
| カテゴリー | サイドボード |
| 様式 | ミッドセンチュリー・モダン / アメリカン・モダニズム |