タラクサカム88は、アキッレ・カスティリオーニが1988年にフロス社のために設計したペンダントライトである。プレス成形して磨き上げた20枚のアルミニウム正三角形パネルを蝶番でつなぎ、正二十面体を組み上げる。各パネルに3個ずつ、計60個のソケットを配し、クリアなグローブランプで満たすという構成をとる。

「タラクサカム」はタンポポの属名(Taraxacum)に由来する。60個の電球が球面上に並ぶ様子が、綿毛を広げたタンポポを思わせることからの命名である。末尾の「88」は、1960年に発表された同名の照明を1988年に改めて設計し直したことを示している。

特徴・コンセプト

正二十面体という選択

構成要素は、電球ソケットを備えたアルミニウムの正三角形パネル1種類のみである。これを20枚組み合わせると、正多面体のなかで最も球に近い正二十面体になる。単一の部材を反復して立体を成立させるこの手法により、複雑な曲面加工を用いずに球形のシャンデリアが実現している。

露出した電球と反射光

クリアガラスの電球はシェードに覆われることなく、そのまま外に向いている。電球から直接届く光と、鏡面に磨かれたアルミニウムパネルに当たって返る反射光が重なり、光は二重に空間へ広がる。既製の電球という工業製品をそのまま造形の主役に据える手法は、カスティリオーニがトイオ(1962年)やパレンテシ(1971年)でも用いたものである。

スケールと光量

直径は約80cm、本体高は約73cm。60灯という光源数は、住宅の一室を照らす照明としては明らかに過剰である。カスティリオーニ自身、この作品について、省エネルギーの観点からは分が悪いが、大型のシャンデリアはロビーや共用空間、特別な機会に多くの光を必要とする部屋のためのものであり、それゆえ装飾的でもあるべきだと述べている。用途を限定したうえで、その用途に徹した設計といえる。

1960年のタラクサカムとの関係

タラクサカム88には、同名の先行作がある。1960年にアキッレとピエール・ジャコモのカスティリオーニ兄弟がフロス社のために設計した「タラクサカム」は、スチールの骨組みにコクーンと呼ばれる樹脂繊維を吹き付けてシェードを成形した吊り下げ照明で、繭のような外形から柔らかな拡散光を放つ。ニューヨーク近代美術館(MoMA)は、この1960年版を収蔵している(Object number 374.1963)。

1988年版は、この初代とは構造も光の質も異なる。共通するのはタンポポという主題と、球体に近い輪郭だけである。光を包む繭から、光源を露出させた多面体へ。同じ主題を28年後に逆の手法で解いたことになる。なお、初代タラクサカムはS1・S2としてフロス社の現行ラインに残っており、両者は今も併売されている。

評価

タラクサカム88は、発表から35年以上を経た現在もフロス社が継続生産している。ホテルのロビーや吹き抜けのあるダイニングなど、天井高のある空間の主照明として採用されることが多い。

光源を隠すことが照明設計の前提とされてきたなかで、電球を隠さず数を増やして見せるという方針は例外的であった。単一部材の反復という幾何学的な合理性と、タンポポという主題を重ねた点が、評価の中心にある。

バリエーション

タラクサカム88 S
1988年発表のペンダントモデル。直径約800mm、本体高約730mm、60灯。現行の国内正規品はLED電球仕様。
タラクサカム88 C/W
正三角形パネル5枚で構成する小型モデル。直径約610mm、高さ約310mm、15灯。天井に取り付けるシーリングライトとしても、壁面のブラケットライトとしても使用できる。
タラクサカム S1/S2
1960年のオリジナルに基づくコクーン樹脂製のペンダント。S2は直径約870mm、高さ約640mm。88シリーズとは光の質が対照的である。

基本情報

製品名 タラクサカム88(Taraxacum 88)
デザイナー アキッレ・カスティリオーニ(Achille Castiglioni)
発表年 1988年(原型のタラクサカムは1960年)
メーカー フロス(Flos)
製造国 イタリア
タイプ ペンダントライト(シャンデリア)
サイズ(88 S) 直径 約800mm × 本体高 約730mm(全長 最大6000mm)
重量 約12.8kg(国内正規LED仕様)
光源 E26/E27口金 クリアボール球(φ125mm)× 60灯。国内正規現行品は専用LED電球(2200K)を同梱、消費電力210W
素材 プレス成形・研磨アルミニウム(正三角形パネル20枚)、スチール
設置 天井直付(電気工事が必要)