PH 5(ピーエイチ・ファイブ)は、1958年にデンマークの照明デザインの巨匠ポール・ヘニングセンによって創造された、20世紀を代表するペンダントライトである。デンマーク・コペンハーゲンの工芸博物館で開催された展覧会「ガラス、光とカラー」において初めて世界に披露されたこの照明器具は、発表から60年以上を経た今日においても、北欧デザインの最高峰として世界中で愛され続けている。

名称の由来は、デザイナーであるポール・ヘニングセン(Poul Henningsen)のイニシャル「PH」と、メインシェードの直径が50センチメートルであることを示す「5」を組み合わせたものである。Louis Poulsen(ルイスポールセン)社から発売されたこのペンダントライトは、デンマークにおいて圧倒的な支持を獲得し、「国民的ランプ」と称されるまでになった。デンマークの家庭の2軒に1軒はPH 5を所有しているとさえ言われており、デンマーク製品として海外で知られるようになった最初期のプロダクトの一つでもある。

デザイン哲学と特徴

PH 5の創造背景には、ポール・ヘニングセンの照明に対する深い洞察と、当時の技術的課題への挑戦があった。1950年代、白熱電球の製造業者は頻繁に電球の形状やサイズを変更していた。ヘニングセンはこの状況に対する回答として、どのような光源にも対応できる照明器具の開発に取り組んだ。彼は「運命を受け入れ、ルイスポールセンの承諾のもと、クリスマスライトであろうが金属フィラメントの100ワット電球であろうが、どんな光源も使用できるPHランプをデザインした」と記している。

グレアフリーの革新

PH 5の最大の特徴は、100パーセント・グレアフリーの照明設計にある。複数の異なるサイズのシェードが精密に配置され、電球自体を完全に包み込む構造となっている。どの角度から見ても直接光源が目に入ることがなく、眩しさのない心地よい光を実現している。すべてのシェードの内側にはフロスト加工が施されており、光源からの光は柔らかく反射され、効率的かつ上質な光で空間を満たす仕組みとなっている。

このグレアフリー設計は、ヘニングセンが1926年に開発した「3枚シェードシステム」を基礎としている。対数螺旋という独特のカーブを持つシェードの形状、サイズ、組み合わせを緻密に計算することで、グレアを抑え、光の反射と拡散を完璧にコントロールすることに成功した。PH 5は下方向への照明を主としながらも、横方向へも光を放ち、照明器具自体を美しく照らし出すという特性を持っている。

光の色彩への配慮

ヘニングセンはPH 5において、光の演色性の向上にも取り組んだ。人間の目の感度は光のスペクトルによって異なり、黄色から緑にかけての波長に最も敏感で、赤色と青色の波長には感度が低い。この特性を考慮し、オリジナルのクラシックホワイトには、赤と青の小さなシェードが内部に配置されている。これにより目の感度が低い赤と青の光を補完し、感度が高い黄色から緑の光を抑えることで、夕暮れ時の空のような優しく調和のとれた光色を実現している。

現代の光源技術の進化により、赤と青のシェードによる光色調整の必要性は低下したものの、クラシックホワイトは今なお、ヘニングセンの光へのこだわりを体現するモデルとして高い評価を受けている。一方、モダンホワイトやモノクロームシリーズなど、現代のライフスタイルに適応した新しいバリエーションも展開されている。

エピソード

PH 5の誕生には、ポール・ヘニングセンの母親の願いが深く関わっている。著名な作家であったアグネス・ヘニングセンは、電気照明の眩しさを嫌い、より柔らかく優しい光を求めていた。息子であるポールは、母親の願いに応えるべく、油灯のような温かみのある光を電気照明で再現する研究に生涯をかけた。PH 5は、そうした探求の集大成として生まれた作品である。

1958年の発表時、ヘニングセンは自己批判的なユーモアを交えながら「一世代にわたって、消費者への配慮と常識が勝つと信じてきたが、今や私は運命論者となった」と記している。この言葉には、理想的な照明環境を追求し続けた彼の姿勢と、産業界の現実への皮肉が込められている。

PH 5は2017年に小型版である「PH 5 Mini」(直径30センチメートル)が発売され、より現代的なライフスタイルに適応した提案がなされた。2020年以降は、モノクローム・ブラック、モノクローム・ホワイト、モノクローム・ブルーなどの新色が加わり、2024年にはモノクローム・バーガンディー、モノクローム・ダスティー・インディゴなど、さらなるカラーバリエーションが展開されている。こうした進化は、ヘニングセンの精神を受け継ぎながら、時代に応じた新たな価値を提供し続けるルイスポールセン社の姿勢を示している。

評価と影響

PH 5は発表以来、デザイン界および照明産業において極めて高い評価を受けてきた。1971年には権威あるiFデザイン賞を受賞し、その優れたデザインと機能性が国際的に認められた。2000年には、デンマークのライフスタイル誌「Bo Bedre」の読者投票において「世紀のベストホームアクセサリー」に選出され、デンマーク国民からの絶大な支持が改めて示された。

日本においても、PH 5の著名性は高く評価されており、2016年には立体商標として登録されるに至った。これは照明器具としては極めて稀な事例であり、PH 5のデザインが単なる工業製品の枠を超え、文化的アイコンとして認識されていることを物語っている。

PH 5は60年以上にわたり、ルイスポールセン社のベストセラー製品であり続けている。その普遍的な美しさと機能性は、王道の北欧スタイルからコンテンポラリーなインテリアまで、あらゆる空間に調和する。世界中の住宅、レストラン、ホテル、公共施設において使用され、多くの映画やテレビドラマにも登場するなど、視覚文化においても重要な位置を占めている。

照明デザイナーのリチャード・C・ピーターズは、ルイスポールセン社について「照明の歴史において最も重要な企業である。建築家と建築に対して、ルイスポールセンほどの献身を持つ企業は他にない」と評している。この評価の中核を成すのが、ポール・ヘニングセンとの協働から生まれたPH 5をはじめとするPHシリーズである。

受賞歴

  • 1971年:iFデザイン賞(iF Design Award)受賞
  • 2000年:デンマーク「Bo Bedre」誌読者投票「世紀のベストホームアクセサリー」選出
  • 2016年:日本における立体商標登録

基本情報

デザイナー ポール・ヘニングセン(Poul Henningsen)
ブランド ルイスポールセン(Louis Poulsen)
分類 ペンダントライト
デザイン年 1958年
サイズ 直径500mm × 高さ267mm(オリジナルサイズ)
主な素材 アルミニウム(スピニング加工)
特徴 100%グレアフリー、多層シェードシステム、光色調整機能(クラシックホワイト)
バリエーション クラシックホワイト、モダンホワイト、モノクロームシリーズ、グラデーションシリーズ、メタリックシリーズ(カッパー、ブラス)、PH 5 Mini(直径300mm)