ウルティマツーレは、1968年にフィンランドを代表するデザイナー、タピオ・ヴィルカラによって創造されたガラスウェアコレクションである。イッタラ社より発表されたこのシリーズは、北極圏の氷河が溶けゆく様を想起させる独特の表面テクスチャーを特徴とし、フィンランドガラス工芸の最高峰として世界的な評価を確立した。その名称は、古代ローマ人が「既知の世界の果て」と呼んだ極北の地を意味するラテン語に由来する。半世紀以上を経た今日においても、ウルティマツーレは北欧デザインの象徴として、世界中のコレクターや愛好家から深い敬意を集め続けている。

特徴・コンセプト

ウルティマツーレの最も際立った特徴は、ガラス表面に施された氷のような凹凸のテクスチャーである。この独特の意匠は、フィンランド・ラップランド地方の厳冬期に見られる、氷が徐々に溶けていく神秘的な光景から着想を得ている。ヴィルカラは、自然界の偶発的な美しさを人工物に昇華させるという、きわめて困難な課題に挑んだ。

このテクスチャーは、型吹き技法において溶融したガラスが木型に触れる際に生じる自然な反応を巧みに活用して生み出される。高温のガラスが木型の内面に接触すると、木が瞬間的に炭化し、その過程で不規則な凹凸が形成される。この技法により、同一のデザインでありながら、一点一点が微妙に異なる表情を持つ、手仕事ならではの個性が宿る。

光がこの複雑な表面を透過する際には、氷の結晶を通過するかのような幻想的な屈折と反射が生まれる。グラスに注がれた飲み物は、あたかも北極の氷河から汲み上げられた清冽な水のような涼やかさを帯び、視覚的な清涼感を演出する。機能性と詩情を高次元で融合させたこの作品は、北欧デザインの本質を体現している。

誕生の経緯

ウルティマツーレの誕生は、フィンランド航空(フィンエアー)の歴史的な事業展開と密接に結びついている。1969年、フィンエアーはヨーロッパの航空会社として初めて、極地ルートを経由する北大西洋横断便を就航させた。この画期的な路線開設にあたり、同社は機内サービスに使用するガラスウェアとして、フィンランドの国際的な威信を体現する特別なデザインを求めた。

白羽の矢が立ったのが、当時すでに国際的名声を確立していたタピオ・ヴィルカラであった。彼はこの依頼を、単なる機内用食器のデザインを超えた、フィンランドの自然と文化を世界に発信する機会と捉えた。極地航路という主題から着想を得て、北の果ての大地に広がる氷の世界をガラスの中に封じ込めることを構想した。

こうして生まれたウルティマツーレは、フィンエアーの機内で世界各国の旅客の手に渡り、フィンランドデザインの卓越性を国際社会に印象づけることとなった。航空機という限られた空間において、乗客は北欧の冬景色を想起させるグラスを手にしながら、雲上の旅を愉しんだのである。

デザイナー:タピオ・ヴィルカラ

タピオ・ヴィルカラ(1915-1985)は、20世紀フィンランドを代表する工業デザイナーであり、彫刻家としても活躍した多才な芸術家である。ヘルシンキ中央工芸学校で彫刻を学んだ後、1946年にイッタラ社のデザインコンペティションで優勝し、ガラスデザインの世界に足を踏み入れた。

ヴィルカラの作品は、フィンランドの厳しくも美しい自然環境から深い影響を受けている。彼は自然の形態を抽象化し、現代的な工業製品へと昇華させる独自の才能を持っていた。ガラス、陶磁器、金属、木材など、多様な素材を自在に操り、それぞれの素材が持つ本質的な美しさを引き出すことに長けていた。

ミラノ・トリエンナーレにおいて、彼は生涯を通じて三度のグランプリを含む多数の賞を受賞している。また、フィンランドマルク紙幣のデザインを手がけるなど、国家的なプロジェクトにも携わった。ヴィルカラの遺した作品群は、今日においてもフィンランドデザインの精神的支柱として、後進のデザイナーたちに多大なる影響を与え続けている。

評価と影響

ウルティマツーレは発表以来、国際的なデザイン界から絶大な評価を受けてきた。その革新的なテクスチャー表現と、北欧の自然を詩的に解釈したコンセプトは、ガラスデザインの可能性を大きく拡張するものとして認識された。機能的な日用品でありながら、芸術作品としての価値を併せ持つこのシリーズは、北欧デザインの理念を体現する代表的事例として、世界各地のデザイン教育においても取り上げられている。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界有数の美術館がウルティマツーレをパーマネントコレクションに収蔵しており、デザイン史における重要な位置づけを明確に示している。また、半世紀以上にわたり継続的に生産されてきた事実は、このデザインが時代を超えた普遍的価値を有することの証左である。

現代においてウルティマツーレは、サステナビリティへの意識が高まる中で、長く愛用できる上質な日用品の典型として再評価されている。使い捨て文化への反省から、世代を超えて受け継がれる価値あるものづくりの象徴として、新たな支持層を獲得し続けている。

コレクション構成

ウルティマツーレのコレクションは、発表当初のグラス類から始まり、現在では包括的なテーブルウェアシリーズへと発展している。グラスウェアとしては、ハイボールグラス、オールドファッションドグラス、ワイングラス、シャンパングラス、ゴブレットなど、多様な用途に対応する製品が揃う。また、ピッチャー、ボウル、プレート、キャンドルホルダーなど、食卓を彩る幅広いアイテムが展開されている。

各製品は、特徴的な氷のテクスチャーを共通の意匠として持ちながら、それぞれの機能に最適化された形状を備えている。透明なクリアガラスを基本としつつ、限定色としてアクア、サーモン、レインなどの繊細な色調のバリエーションも展開されてきた。これらの色彩は、北欧の自然に見られる光の移ろいや、氷に反射する空の色を想起させるものである。

基本情報

名称 ウルティマツーレ(Ultima Thule)
デザイナー タピオ・ヴィルカラ(Tapio Wirkkala)
デザイン年 1968年
製造 イッタラ(iittala)
原産国 フィンランド
素材 無鉛ガラス
製法 型吹きガラス
カテゴリー テーブルウェア / ガラスウェア