ブルータリスト・ウォールスカルプチャー(溶接鋼)は、アメリカン・スタジオ・クラフト運動を代表する金属工芸家ポール・エヴァンスが1960年代から1970年代にかけて制作した壁面彫刻作品である。トーチカットされた鋼材を溶接によって構成し、パティナ処理や彩色を施すことで、粗野かつ抽象的な表現を実現した機能的彫刻である。エヴァンスの壁面彫刻は、家具と純粋彫刻の境界を横断する実験的な試みとして、戦後アメリカのブルータリズム・デザインに独自の地平を切り拓いた。

特徴・コンセプト

金属加工技術の革新性

本作品の最大の特徴は、エヴァンスが独自に開発した溶接鋼加工技術にある。トーチカットによって切断された鋼材の断片を手作業で溶接し、高低差のあるレリーフ状の構成を形成している。表面には酸によるパティナ処理や多彩色の顔料による着色、部分的な金箔の貼付など、多層的な仕上げが施されている。これらの技法により、工業的素材である鋼材に有機的な質感と視覚的深度がもたらされている。エヴァンスは造船業界から着想を得た大規模な金属加工技術を応用し、従来の金属工芸の枠組みを超越した表現を追求した。

ブルータリズムの美学

ブルータリスト・ウォールスカルプチャーは、1960年代のアメリカにおけるブルータリズム・デザイン運動の先駆的作例である。むき出しの鋼材、溶接痕の残存、不規則な表面テクスチャーといった要素は、素材の物質性を率直に提示するブルータリズムの原理を体現している。エヴァンスは建築におけるブルータリズムの概念を家具および彫刻の領域に翻訳し、粗野さと洗練を共存させる独自の造形言語を確立した。作品は装飾性を排しながらも、手仕事の痕跡が刻まれることで、冷徹な工業主義とは異なる人間的温度を保持している。

彫刻とデザインの統合

エヴァンスの壁面彫刻は、純粋芸術としての彫刻と機能的デザインの境界を問い直す実践として位置づけられる。各作品は壁面に取り付けられる装飾的要素でありながら、空間を構成する建築的要素としても機能する。抽象表現主義や集合芸術の影響を受けつつ、日常的環境に統合される造形物としての性格を維持している。一点一点が異なる構成と表面処理を持ち、量産品とは対極にある唯一無二の存在性を主張している。

エピソード

ニューホープ工房での実験

ポール・エヴァンスは1955年にペンシルベニア州ニューホープに工房を構え、木工家フィリップ・ロイド・パウエルとショールームを共有した。金属工芸家エヴァンスと木工家パウエルの協働は、素材の特性を極限まで追求する創造的環境を生み出した。エヴァンスの隣人には世界的な木工家ジョージ・ナカシマが居住しており、半ば孤立した田園地帯が20世紀アメリカ工芸の重要な拠点となった。この環境において、エヴァンスは金属素材の可能性を探求し、初期の壁面彫刻や彫刻フロント・キャビネットの原型を生み出した。

表面処理への執着

エヴァンスの作品制作において、表面処理は単なる仕上げ工程ではなく、作品の本質を規定する創造行為であった。彼は人工的な経年変化を素材に施すことで、時間の堆積を視覚化する試みを重ねた。酸によるパティナ処理は化学反応の偶然性を取り込み、制御と非制御の緊張関係を作品に内包させた。部分的に施される金箔は、粗野な鋼材に貴金属の輝きを対置することで、視覚的コントラストと階層性を創出した。この表面への徹底的なこだわりが、エヴァンス作品を他の金属工芸家から際立たせる要因となった。

一点制作の哲学

1964年にディレクショナル・ファニチャーとの長期的パートナーシップを開始した後も、エヴァンスは大量生産を拒み、すべての作品を手作業で制作する姿勢を貫いた。彼は製造プロセスの各段階を自ら監督し、職人の手仕事を重視する制作哲学を堅持した。このため、同じモデル番号を持つ作品であっても、溶接の配置、表面の質感、色彩の微細な変化により、完全に同一の作品は二つとして存在しない。この一点性こそが、エヴァンス作品を現代の限定版アートファニチャーの先駆として位置づける根拠となっている。

評価

ブルータリスト・ウォールスカルプチャーは、アメリカン・スタジオ・クラフト運動における金属工芸の到達点として高く評価されている。エヴァンスの壁面彫刻は、1960年代における個人制作、職人技、工芸性を重視する運動と、都市建築や先端技術に触発された前衛性を架橋する存在として位置づけられる。ミュージシャンのレニー・クラヴィッツは、エヴァンス作品を「驚くほど美しく、驚くほど醜く、驚くほど安っぽく、驚くほど洗練されている」と評し、その多義的魅力を指摘した。作品は主要な美術館コレクションに収蔵され、ジェームズ・A・ミッチェナー美術館の所蔵する1970年制作の《彫刻鋼壁面コラージュ》は、溶接・パティナ処理鋼材、彩色顔料、金箔を用いた24×24×4インチの代表作として知られている。

21世紀に入り、エヴァンス作品の市場評価は飛躍的に上昇した。壁面彫刻を含む彫刻作品は、オークションにおいて数千ドルから数万ドルで取引され、2024年のラゴ・オークションでは1960年頃制作の初期壁面彫刻が5,670ドルで落札された。ファッションデザイナーのグウェン・ステファニーやトミー・ヒルフィガーを含む著名なコレクターが作品を所有し、現代デザイン市場における確固たる地位を確立している。

制作背景と影響

ポール・エヴァンスは1931年ペンシルベニア州ニュータウンに生まれ、フィラデルフィア・テキスタイル研究所(1950年)、ロチェスター工科大学アメリカン・クラフツマン・スクール(1950年)、クランブルック美術アカデミー(1952年)で金属工芸と彫刻を学んだ。クランブルックでは銀細工師ジョン・プリップとローレンス・コープランドに師事し、金属加工の基礎技術を習得した。1952年から1961年にかけて、エヴァンスはニューヨークのアメリカ・ハウスで作品を発表し、工芸界における評価を確立した。1961年にはパウエルとの二人展をニューヨーク現代工芸美術館(現ミュージアム・オブ・アーツ・アンド・デザイン)で開催した。

エヴァンスの壁面彫刻は、集合芸術家ルイーズ・ネヴェルソンの影響を示している。ネヴェルソンが木材の既製物を組み合わせてレリーフ構成を創出したように、エヴァンスは金属片を溶接によって集積し、抽象的形態を構築した。彼の作品は抽象表現主義の絵画的質と、建築的スケール感を統合する試みとして理解される。1987年3月7日、55歳で心臓発作により急逝するまで、エヴァンスは金属工芸の可能性を拡張し続け、後世のアートファニチャー運動に決定的な影響を与えた。

基本情報

デザイナー ポール・エヴァンス
制作年 1960年代〜1970年代
素材 溶接鋼、パティナ処理鋼、彩色顔料、金箔(部分的に使用)
技法 トーチカット、溶接、酸パティナ処理、ポリクローム仕上げ
分類 ウォールスカルプチャー(壁面彫刻)
様式 ブルータリズム、アメリカン・スタジオ・クラフト
制作地 アメリカ合衆国(ペンシルベニア州ニューホープ、プラムステッドヴィル)
署名 多くの作品に溶接による署名と制作年が刻印される