ウルス・ポレール(Ours Polaire)アームチェアは、フランスのデザイナー、ジャン・ロワイエールが1940年代後半に手がけた、20世紀を代表する家具のひとつである。「Ours Polaire」とはフランス語で「北極熊」を意味し、その名の通り、ふっくらと丸みを帯びたフォルムと、北極熊の毛皮を思わせる柔らかな張地が特徴である。
1947年、ロワイエールは母親のパリのアパルトマン(フォーブール・サントノレ通り234番地)の改装を機に、まずソファを制作した。その後、同じファミリーに属するアームチェアが生まれ、ロワイエールの作品群を代表する一脚となった。モダニズムの合理性に、遊び心と柔らかな官能性を融合させた造形が、このシリーズの個性を形づくっている。
特徴・コンセプト
彫刻的なフォルム
ウルス・ポレール アームチェアの最大の特徴は、その包み込むような丸みを帯びた造形にある。典型的な椅子の構造部品を排除し、ひとつの連続した曲線によって構成されることで、視覚的な軽やかさと同時に、確固たる存在感を実現している。このバイオモーフィック(生命体的)なシルエットは、1950年代に全盛を迎えた有機的デザインの潮流と調和しながら、ロワイエール独自の遊び心に満ちた美学を表現している。
ふっくらとした張地が内部の構造を覆い隠すことで、まるで構造が存在しないかのような印象を生み出す。この手法により、重厚な安定感と視覚的な浮遊感という相反する要素が共存し、彫刻作品のような存在感を獲得している。
素材と職人技
ウルス・ポレール アームチェアの制作には、高い水準の職人技が要求される。フレームにはオーク材やウォールナット材などの木材が使用され、伝統的な木材曲げ技術によって優雅な曲線が形成される。その上に幾重にも重ねられたフォームと、モヘアやウールベルベットといった張地が、雲のような柔らかさと深い座り心地を実現している。
張地の仕立てには、伝統的な室内装飾の技法が採用されており、複雑なフォルムを美しく仕上げるためには、熟練した職人の技術が不可欠である。この丁寧な製作姿勢が、長く愛され続ける理由のひとつとなっている。
評価
ウルス・ポレール アームチェアは、20世紀のデザインにおいて特に人気の高い作品のひとつとして評価されている。機能性と彫刻的な造形、遊び心と洗練を併せ持つ点が評価されており、公式な再版が一度も許可されていないことも、その希少性を高めている。
オークション市場での評価も高く、2016年にはニューヨークのフィリップスでソファが75万4000ドルで落札され、当時の記録となった。1947年から1967年にかけて、3点セット・ソファ・アームチェアのペアがそれぞれ約150のみ製作されたという希少性が、現在の高い評価につながっている。最初期のソファはパリ装飾美術館(Musée des Arts Décoratifs)の永久コレクションに収蔵されている。
基本情報
| デザイナー | ジャン・ロワイエール(Jean Royère) |
|---|---|
| デザイン年 | 1947年 |
| 製造期間 | 1947年-1967年 |
| 分類 | ラウンジチェア / アームチェア |
| 素材 | フレーム:オーク材またはウォールナット材 / 張地:モヘア、ウールベルベット / 充填材:フォーム |
| 寸法 | 幅約98cm × 奥行約94cm × 高さ約74cm(座面高約42cm)※手仕事のため個体差あり |
| 製造数 | アームチェアのペア約150組、ソファ約150台、3点セット約150組(1947-1967年) |
| 所蔵 | パリ装飾美術館(最初期のソファ) |
| 製造国 | フランス |