About A Chair(AAC)とは

About A Chair(アバウト・ア・チェア)は、デンマークのデザイナー、ヒー・ウェリングが2010年にHAY社のために発表した椅子コレクションである。AACの略称で親しまれるこのシリーズは、「目立つシンプルさ」という明確なコンセプトのもとに開発され、現代スカンジナビアデザインの新たな古典として国際的な評価を確立した。ダイニングテーブルから会議室、オフィス、レストランまで、あらゆる空間に調和する多様性を備えた椅子として、HAY社で最も成功したプロダクトとなっている。

About A Chairの最大の特徴は、単一の強力なアイデアから無限の展開可能性を引き出したデザイン哲学にある。基本形態である椅子から始まったこのシリーズは、スツール、アームチェア、ラウンジチェア、さらにはソファへと発展し、それぞれが個別の特性を保ちながら統一された美学を共有している。シェル、フレーム、張地の組み合わせを自由に選択できるシステムは、私的空間と公共空間の双方において比類のない適応性を実現している。

デザインの特徴

曲線的なシェルと統一されたシルエット

About A Chairの核心をなすのは、身体を優しく包み込む曲線的なポリプロピレン製シェルである。わずか10mmの厚みながら、ガラス繊維を10%配合することで必要な強度を確保し、背もたれの形状は最適な快適性を提供する。アームレスト付きモデルでは、アームレストとシェルが一体となって流れるような統一されたシルエットを形成し、機能と美学が見事に調和している。

シェルのデザインは、複雑さを排した明快さを追求している。不要な装飾を一切排除し、人間工学的な必然性から導き出された曲線のみで構成されたフォルムは、静謐な優雅さを湛えている。この簡潔さこそが、多様なインテリアスタイルとの調和を可能にし、私的空間から商業施設まで幅広い環境での使用を実現している。

多様なベースオプション

About A Chairは、シェルとベースの組み合わせにより、用途に応じた最適な選択を可能にしている。木製4本脚ベースは、FSC認証を受けたオークやウォルナットの成形合板で構成され、水性塗料による環境配慮型の仕上げが施されている。丸みを帯びた優雅な脚部は温かみと個性を空間に与え、より高い安定性と長寿命を保証する。

アルミニウム製スイベルベースを採用したモデルは、よりフォーマルな表情を呈する。4本のレッグが中央の回転軸から放射状に広がる構造は、機能性と視覚的バランスの両立を実現している。ポリッシュ仕上げとパウダーコーティング仕上げが選択可能で、オフィスや会議室における動的な使用環境に対応する。

カラーパレットと張地の選択肢

HAY社は2023年に、従来の7色に加えて9色の新色を追加し、より豊かで遊び心のあるカラーパレットを実現した。ブラック、グレー、ホワイトといった定番色から、パステルグリーン、マスタード、ダスティブルー、ペールピーチまで、現代的な色彩が揃えられている。これらの色彩は、100%ポストコンシューマーリサイクルプラスチックの使用によって生じる自然な色調の変化を受け入れ、素材の正直な表現として提示されている。

フルアップホルスター仕様のモデルでは、Kvadrat社やHAY社のテキスタイルコレクション、カモレザーなど、多様な張地オプションが用意されている。20mmから50mmの成形ポリウレタンフォームを用いた張地は、快適性をさらに高め、温かみと柔らかさを空間にもたらす。張地のカテゴリーは4段階に分類され、素材の質感や耐久性に応じて選択が可能である。

サステナビリティへの取り組み

About A Chairにおける最も革新的な側面の一つは、環境への配慮を製品設計の中核に据えた点である。2018年以降、すべてのシェルは100%ポストコンシューマーリサイクルプラスチックで製造されている。この素材は、廃棄されたテレビや洗濯機などの家庭用電化製品から回収された使用済みプラスチックであり、リサイクルプログラムにおいて収集、選別、洗浄された後、新たなシェルへと生まれ変わる。

この取り組みにより、About A Chairシリーズの生産に伴う二酸化炭素排出量は劇的に削減された。HAY社の共同創業者であるロルフ・ヘイは、「シェルにポストコンシューマープラスチックを使用することで、このシリーズの生産に関連する排出量を大幅に削減することができた」と強調している。さらに、木製ベースにはFSC認証林からの木材のみが使用され、責任ある森林管理の実践が保証されている。

About A ChairとAbout A Stoolは、製品のライフサイクル全体を通じた卓越した環境基準の証として、EUエコラベル認証を取得している。水性塗料の採用は、有害物質を含まず、EUエコラベルの全要件を満たす環境配慮型の仕上げを実現している。リサイクル素材の使用により、色調はバッチごとにわずかな変化を見せ、表面の痕跡や不規則性も素材の自然な特性として受け入れられている。これは完璧主義を追求するのではなく、素材の誠実さを尊重する姿勢の表れである。

デザイナー ヒー・ウェリング

ヒー・ウェリング(Hee Welling)は1974年生まれのデンマークの家具デザイナーである。家具職人の息子として育ったウェリングは、幼少期から生産技術、素材、機械への魅力を育んできた。ヘルシンキ芸術デザイン大学で学んだ後、デンマーク王立芸術アカデミーで家具デザインの修士号を取得し、現在は同校でデザイン講師も務めている。

2003年にコペンハーゲンに自身のスタジオを設立したウェリングは、技術的に優れた製品を幅広い層に届けることを中心的な哲学としている。彼のデザインは、卓越したプロポーション感覚と静謐な優雅さによって特徴づけられる。デンマーク郊外で育ったウェリングの自然への生涯にわたる親しみは、彼の作品に見られる正直なミニマリズムに反映されている。

ウェリングは、Bo Bedre Award(デンマーク)、Good Design Award(アメリカ)など数々のデザイン賞を受賞し、2013年と2014年にはデンマークデザイナー・オブ・ザ・イヤーにノミネートされている。HAY社においては、About Aシリーズに加えてHeeコレクションを手がけ、同社の中核的なデザイナーとしての地位を確立している。

多様なシリーズ展開

About A Chairは、2010年の発表以来、継続的な進化を遂げてきた。初期の木製4本脚モデルに始まり、現在では50以上のバリエーションが存在している。AAC 10シリーズは4本レッグのスイベルベース、AAC 20シリーズはアームレスト付きスイベルチェア、AAC 100シリーズはより低い座面と高い背もたれを備えたラウンジ仕様と、それぞれが特定の用途に最適化されている。

About A Stool(AAS)は、About A Chairのデザイン言語をバースツールに応用したものである。異なる高さのバリエーションが用意され、キッチンアイランドやバーカウンター、追加座席として活用されている。About A Lounge(AAL)シリーズは、より寛いだ快適性を提供するアームチェアとソファのコレクションであり、About Aの美学をリビング空間へと拡張している。

2020年代に入り、HAY社はAbout A Chair ECOシリーズを展開している。これは持続可能性をさらに追求したモデルであり、リサイクルプラスチックとFSC認証オーク材の組み合わせが特徴である。このECO版は、環境意識の高い顧客層に向けて、デザインの質を犠牲にすることなく環境負荷を最小限に抑える選択肢を提供している。

評価と影響

About A Chairは、発表から15年以上を経た現在も、デザイン雑誌やインテリア関連の出版物において頻繁に取り上げられている。そのアイコニックなステータスは、シンプルさ、人間工学、温かみの絶妙なバランスによって獲得されたものである。初期モデルの軽いオーク材ベースと包み込むようなポリプロピレンシェルの組み合わせは、多くの人々の共感を呼び、現代スカンジナビアデザインの新たな基準を打ち立てた。

このシリーズは、単一の明確なアイデアから豊かな発展可能性を引き出すことができることを証明した。ウェリングの目標は、ダイニングテーブル、会議室、子供部屋、レストラン、オフィスと、可能な限り多様な場面で使用できる椅子を創造することであった。この野心は見事に実現され、About A Chairは私的空間と公共空間の境界を超えて愛用される存在となっている。

2018年にHAY社がMillerKnollファミリーに加わったことで、About A Chairはハーマンミラーやノルといった歴史的なミッドセンチュリーモダンデザインブランドとの新たな対話を開始した。2022年には、ハーマンミラーとHAYのコラボレーションにより、チャールズ&レイ・イームズの古典的作品がHAYの明るく遊び心のある色彩で再解釈され、両ブランドの美学の融合が実現している。

基本情報

名称 About A Chair(アバウト・ア・チェア)
略称 AAC
デザイナー ヒー・ウェリング(Hee Welling)
ブランド HAY(ヘイ)
発表年 2010年
分類 椅子、スツール、アームチェア、ラウンジチェア
主要素材 100%ポストコンシューマーリサイクルポリプロピレン(シェル)、FSC認証オーク・ウォルナット成形合板(ベース)、アルミニウム(スイベルベース)
サイズ例(AAC 22) 幅59cm × 奥行54cm × 高さ82cm
認証 EUエコラベル認証
受賞歴 Bo Bedre Award(デンマーク)、Good Design Award(アメリカ)