タービン クロックは、アメリカのモダンデザインを牽引したジョージ・ネルソンが1949年に発表した壁掛け時計である。ハワード・ミラー社のために設計された「ネルソン・クロック・コレクション」の一作品として誕生し、ミッドセンチュリー・モダンを象徴する傑作として今日まで愛され続けている。中心から放射状に伸びる真鍮のロッドが、まるでタービンの羽根のごとく優雅に広がる意匠は、機械時代の美学と有機的な造形美を見事に融合させたものである。数字を排した革新的なデザインは、時を刻む道具としての時計を、空間を彩る彫刻作品へと昇華させた。
特徴・コンセプト
タービン クロックの最大の特徴は、文字盤上の数字を完全に排除し、真鍮製のロッドのみで時を表現するという大胆な発想にある。中心のウォールナット材のコアから12本の真鍮ロッドが放射状に伸び、その先端には小さな真鍮の球体が配されている。この構成により、時計としての機能性を保ちながらも、壁面に動的な彫刻作品を設置したかのような視覚効果を生み出している。
ネルソンは「時計を見る時、人は数字を読んでいるのではなく、針の位置を見ている」という洞察に基づき、従来の時計デザインの常識を覆した。タービンという名称は、その放射状のフォルムが蒸気タービンやジェットエンジンのタービンブレードを想起させることに由来する。戦後の技術革新と楽観主義の時代精神を、日用品のデザインに昇華させた象徴的な作品といえよう。
素材においては、温かみのあるウォールナットと工業的な輝きを放つ真鍮の組み合わせが絶妙なコントラストを生み出し、有機的なものと無機的なものの調和というミッドセンチュリー・モダンの美学を体現している。
エピソード
タービン クロックを含むネルソン・クロック・コレクションの誕生には、興味深い逸話が残されている。1940年代後半、ネルソンのスタジオでは若いデザイナーたちが活発な議論を交わしていた。ある夜、スタジオのメンバーであったアーヴィング・ハーパーを中心としたチームが、従来の時計デザインの概念を根本から見直す実験的なスケッチセッションを行った。この創造的な夜が、後に100種類以上のデザインを生み出すネルソン・クロック・コレクションの礎となったのである。
ハワード・ミラー社との協業は、ネルソンがハーマンミラー社のデザインディレクターとして活動していた時期に実現した。ハワード・ミラー社はハーマンミラー社の創業者一族が経営する時計メーカーであり、両社の緊密な関係がこの革新的な時計コレクションを世に送り出す原動力となった。タービン クロックは発表当時、その前衛的なデザインゆえに賛否両論を巻き起こしたが、次第にモダンインテリアに欠かせないアイコン的存在として認知されるに至った。
評価
タービン クロックは、20世紀を代表するプロダクトデザインの傑作として、世界各地の美術館やデザインミュージアムに収蔵されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめ、多くの権威ある機関がネルソンの時計作品をパーマネントコレクションに加えており、その芸術的・歴史的価値は揺るぎないものとなっている。
デザイン史家たちは、タービン クロックを「時計というカテゴリーを再定義した作品」と評価している。機能主義一辺倒ではなく、日常の道具に詩情と遊び心を吹き込むネルソンのアプローチは、後のポストモダンデザインにも影響を与えたとされる。発表から75年以上を経た現在もなお、Vitra社によって忠実に復刻生産が続けられていることは、そのデザインが時代を超越した普遍性を持つことの証左である。
インテリアデザインの実務においても、タービン クロックはミッドセンチュリー・モダンスタイルの空間には欠かせないアクセントピースとして高い需要を誇っている。その彫刻的な存在感は、単なる時計の域を超え、壁面を芸術作品で飾るという感覚で選ばれることも少なくない。
受賞歴・収蔵
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)パーマネントコレクション
- ヴィトラ・デザイン・ミュージアム コレクション
- 各国のデザインミュージアムにおいて、ミッドセンチュリー・モダンの代表作として展示・収蔵
基本情報
| デザイナー | ジョージ・ネルソン / George Nelson |
|---|---|
| 発表年 | 1949年 |
| オリジナルメーカー | ハワード・ミラー / Howard Miller |
| 現行メーカー | ヴィトラ / Vitra |
| カテゴリー | 壁掛け時計 |
| 素材 | 真鍮(ロッド・球体)、ウォールナット(センターコア) |
| サイズ | 直径 約76cm |
| コレクション | ネルソン・クロック・コレクション |