ステアリングホイール クロックは、20世紀アメリカを代表するインダストリアルデザイナー、ジョージ・ネルソンが1950年代に手がけた壁掛け時計である。ネルソンが生涯を通じて創作した「ウォールクロック」シリーズの一作品として知られ、自動車のステアリングホイール(ハンドル)を想起させる造形美が特徴である。
本作品は、ハワード・ミラー社より発表され、現在はヴィトラ社がその正統な復刻版を製造・販売している。ミッドセンチュリーモダンを象徴する時計作品群のなかでも、工業デザインと日用品の境界を軽やかに超越した秀作として、世界中のコレクターや愛好家から高い評価を受けている。
特徴・コンセプト
ステアリングホイール クロックの最大の特徴は、時計という日常的な道についに彫刻的造形を与えた点にある。文字盤を囲む円環から放射状に伸びる12本のスポークは、自動車のステアリングホイールを彷彿とさせるとともに、時を刻む時計の本質的機能を視覚的に表現している。
デザイン哲学
ジョージ・ネルソンは「装飾は機能から生まれるべきである」という信念のもと、時計のデザインに取り組んだ。従来の時計が数字や目盛りによって時刻を示すのに対し、ネルソンは形態そのものが時間の概念を表現する新たなアプローチを追求した。ステアリングホイール クロックにおいては、スポーク一本一本が時を示す指標となり、視認性と芸術性を高度に両立させている。
素材と構造
本作品は、無垢材とスチールを組み合わせた構造を採用している。中心部のムーブメントハウジングから外輪へと伸びるスポークには木材が用いられ、温かみのある有機的な質感を醸し出す。外周のリングはスチール製で、精緻な工業製品としての完成度を示している。この有機素材と工業素材の対比は、ネルソンのデザイン思想を端的に表現するものである。
時代精神の反映
1950年代のアメリカは、自動車文化の黄金期を迎えていた。ハイウェイの整備とともにモータリゼーションが進み、自動車は単なる移動手段を超えた文化的シンボルとなった。ステアリングホイール クロックは、こうした時代精神を巧みに取り込み、進歩と速度への憧憬を居住空間のなかに表現した作品といえる。
エピソード
ジョージ・ネルソンとハワード・ミラー社との協働は、1947年に始まった。ネルソンは当時、ハーマン・ミラー社のデザインディレクターとして活躍していたが、同社の創業者D.J.デ・プリーの親戚にあたるハワード・ミラーからの依頼を受け、時計のデザインを手がけることとなった。
ウォールクロック シリーズの誕生には、ある逸話が伝えられている。ネルソンと彼のデザインチームのメンバーが夜通しアイデアを出し合い、翌朝までに約100点ものクロックデザインのスケッチを描き上げたという。このブレインストーミングから生まれた作品群のなかに、ステアリングホイール クロックの原型も含まれていた。
ステアリングホイール クロックのデザインには、ネルソンの長年の協力者であるアーヴィング・ハーパーも関わっていたと考えられている。ハーパーはジョージ・ネルソン・アソシエイツに在籍し、ボールクロックをはじめとする数々の名作時計の具現化に貢献した人物である。チームによる創造的協働は、ネルソンのデザインオフィスの特徴であり、その成果は今日でも高く評価されている。
評価
ステアリングホイール クロックは、ミッドセンチュリーモダンを代表する装飾時計として、デザイン史において確固たる地位を築いている。美術館やギャラリーのコレクションに収蔵されるとともに、インテリアデザインの専門誌や書籍においても頻繁に取り上げられる存在である。
デザイン評論家たちは、本作品について「日用品を芸術作品へと昇華させた好例」「工業化時代の詩情を凝縮した一品」と賞賛している。時計という実用品に対する既成概念を覆し、壁面を飾るオブジェとしての新たな価値を創出した点が、特に高く評価されている。
現代においても、ステアリングホイール クロックは時代を超越したデザインとして支持を集め続けている。ヴィンテージ市場においてはオリジナルのハワード・ミラー製品が高値で取引される一方、ヴィトラ社による復刻版は現代の住空間にミッドセンチュリーの息吹をもたらすアイテムとして人気を博している。
ジョージ・ネルソンについて
ジョージ・ネルソン(1908-1986)は、アメリカのインダストリアルデザインを牽引した巨匠である。イェール大学で建築を学んだのち、ローマ賞を受賞してヨーロッパに渡り、近代建築の巨匠たちと交流を深めた。
1946年から1972年までハーマン・ミラー社のデザインディレクターを務め、同社を世界的なモダンファニチャーブランドへと成長させる原動力となった。チャールズ&レイ・イームズ、イサム・ノグチといった才能あるデザイナーを見出し、協働関係を構築したことでも知られる。
家具デザインにおいては、プラットフォームベンチ、マシュマロソファ、ココナッツチェアなど、今日でも生産が続けられる名作を数多く残した。また、時計、照明、収納システムなど、その創作領域は多岐にわたり、総合的なデザイン思想家としても高く評価されている。
基本情報
| 作品名 | ステアリングホイール クロック / Steering Wheel Clock |
|---|---|
| デザイナー | ジョージ・ネルソン / George Nelson |
| デザイン年 | 1950年代 |
| オリジナルメーカー | ハワード・ミラー / Howard Miller |
| 現行メーカー | ヴィトラ / Vitra |
| カテゴリー | 壁掛け時計 / ウォールクロック |
| 様式 | ミッドセンチュリーモダン |
| 主要素材 | 無垢材、スチール |
| 原産国 | アメリカ合衆国 |