ペタル クロック(Petal Clock)は、アメリカのインダストリアルデザイナー、ジョージ・ネルソンが1957年に発表した壁掛け時計である。四つ葉のクローバーを想起させる有機的なフォルムと、ミッドセンチュリーモダンの精神を体現した造形美により、20世紀を代表するクロックデザインの傑作として高い評価を受けている。

本作は、ネルソンがハワード・ミラー社のためにデザインした一連のクロックコレクションの中でも、とりわけ詩的な表現力を備えた作品として知られる。「ラッキー クローバー(Lucky Clover)」の別名を持つ本作は、4枚の大きな木製ペタル(花弁)が中心から放射状に広がり、それぞれが15分を表現している。自然界の有機的な美しさと工業製品としての精緻さを見事に融合させたその姿は、時を刻む機能と装飾芸術の理想的な調和を示している。現在はスイスのヴィトラ社がライセンス生産を行い、世界中のデザイン愛好家に愛され続けている。

特徴・コンセプト

ペタル クロックの最大の特徴は、時計という機能的なオブジェクトを、まるで壁面に咲く四つ葉のクローバーのごとく表現した点にある。4枚のペタル型エレメントはそれぞれ15分を示す指標としての役割を担いながらも、それ自体が独立した彫刻作品としての存在感を放っている。時刻の指標には真鍮製のスタッドが配され、中央の真鍮製サークルが時針と分針を支えている。

有機的造形と幾何学の融合

ネルソンは本作において、自然界に見られる有機的なフォルムと、工業デザインにおける幾何学的な秩序を巧みに調和させている。4枚のペタルは滴形(ティアドロップ)を基調としながらも、その配置は厳密な90度間隔の放射対称性に基づいており、四つ葉のクローバーという幸運のシンボルを想起させる。この自由と規律の絶妙なバランスは、ミッドセンチュリーモダンデザインの本質を端的に表現するものである。

素材と色彩

ペタル部分にはMDF(中密度繊維板)が用いられ、ブラックラッカー塗装により深みのある質感が与えられている。真鍮製のスタッドが時刻の指標として配置され、中央のムーブメント部分も真鍮製のサークルで覆われている。ブラックと真鍮のコントラストは、モダンでありながらもクラシカルな気品を空間に添える。時針と分針にはホワイトラッカー塗装が施されたスチールが採用され、ブラックの文字盤上で視認性と美しさを両立させている。

時を超えるタイムレスデザイン

発表から半世紀以上を経た今日においても、ペタル クロックはその芸術性において些かも古さを感じさせない。数字や目盛りを排したミニマルな文字盤は、時計としての実用性よりも空間を彩るオブジェとしての価値を優先させたネルソンの美学を反映している。この大胆な設計思想は、後のデザイン時計の潮流に多大な影響を与えることとなった。

エピソード

ペタル クロックは、ジョージ・ネルソンとアーヴィング・ハーパーを中心とするジョージ・ネルソン・アソシエイツがハワード・ミラー・クロック・カンパニーのためにデザインした150種以上のクロックコレクションの一つである。このコレクションは「ウォールクロック」「テーブルクロック」など多岐にわたり、ボール クロック、サンバースト クロック、アスタリスク クロックなど、いずれも20世紀デザイン史に残る名作を輩出した。

ネルソン事務所のデザインチームは、時計という日用品を芸術作品の域にまで高めることを目指した。彼らは従来の時計デザインの常識に捉われることなく、抽象彫刻や自然界のモチーフからインスピレーションを得て、革新的な造形を次々と生み出していった。ペタル クロックにおける四つ葉のクローバーをモチーフとした有機的なデザインは、幸運のシンボルを日常の中に取り入れるという遊び心と、1950年代のアメリカで隆盛を極めたバイオモルフィック(生体形態的)デザインの潮流を反映している。

ハワード・ミラー社は当時、高品質な時計製造で知られるミシガン州ジーランドに本拠を置く企業であり、ハーマン・ミラー社の創業者D.J.デプリーの息子であるハワード・ミラーによって設立された。家具と時計という異なる分野において、ネルソンはミラー家との深い協働関係を築き、アメリカン・モダニズムの発展に寄与したのである。

評価

ペタル クロックは、ミッドセンチュリーモダンデザインを代表するアイコニックな作品として、美術館やデザイン機関において高い評価を受けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界有数のデザインミュージアムにおいて、ネルソンのクロックコレクションは20世紀アメリカンデザインの精華として紹介されている。

その芸術的価値は、単なるヴィンテージ品としての希少性にとどまらない。時計という機能的なプロダクトにおいて、装飾性と実用性の理想的な均衡を実現した点において、プロダクトデザインの模範として言及されることが多い。また、有機的なフォルムと工業生産の融合という観点から、イームズ夫妻やエーロ・サーリネンらと並ぶミッドセンチュリーの造形理念を体現する作品として位置づけられている。

インテリアデザインの実務においても、ペタル クロックはその汎用性の高さから重用されている。モダンからコンテンポラリー、北欧スタイルからミニマリズムに至るまで、多様な空間様式との親和性を持ち、住宅のみならずオフィスやホスピタリティ空間においても広く採用されている。

受賞歴・収蔵

ペタル クロックを含むジョージ・ネルソンのクロックコレクションは、以下の美術館・機関においてパーマネントコレクションとして収蔵されている。

  • ニューヨーク近代美術館(MoMA) - アメリカ、ニューヨーク
  • ヴィトラ デザイン ミュージアム - ドイツ、ヴァイル・アム・ライン
  • デンバー美術館 - アメリカ、コロラド州

ネルソンのクロックデザインは、現代においてもデザイン賞の審査基準やデザイン教育のケーススタディとして参照され続けており、その革新性と普遍性は時代を超えて認められている。

基本情報

デザイナー ジョージ・ネルソン(George Nelson)/ ジョージ・ネルソン・アソシエイツ
デザイン年 1957年
オリジナルメーカー ハワード・ミラー・クロック・カンパニー(Howard Miller Clock Company)
現行メーカー ヴィトラ(Vitra)
素材 MDF(ブラックラッカー塗装)、真鍮、アルミニウム、スチール(ホワイトラッカー塗装)
ムーブメント 高品質クォーツムーブメント
サイズ 直径 約45cm(17.75インチ)
カラー ブラック / 真鍮
生産国 ポーランド(ヴィトラ製)
別名 ラッキー クローバー(Lucky Clover)
スタイル ミッドセンチュリーモダン