アイ クロック(Eye Clock)は、アメリカのインダストリアルデザイナー、ジョージ・ネルソンが1957年に発表した壁掛け時計である。その名が示す通り、人間の眼を想起させる楕円形のフォルムが最大の特徴であり、ミッドセンチュリーモダンを代表するタイムピースとして、半世紀以上にわたり世界中のインテリア愛好家から支持を集めている。
本作品は、ネルソンがハワード・ミラー・クロック・カンパニーのためにデザインした数々の時計シリーズの一つとして誕生した。当初はアメリカのハワード・ミラー社が製造を担い、現在はスイスの家具メーカー、ヴィトラがその遺産を継承し、オリジナルに忠実な復刻版を生産している。
特徴・コンセプト
アイ クロックの造形は、幾何学的な純粋性と有機的な温かみを巧みに融合させている。横長の楕円形ボディは真鍮の光沢を纏い、その中央に配された文字盤は白を基調とした清潔感のある意匠を呈する。時を刻む針は繊細でありながら視認性に優れ、装飾としての美しさと実用性を両立している。
デザインの革新性
1950年代当時、時計は単なる時間を知らせる道具に過ぎないという認識が一般的であった。しかしネルソンは、時計を室内空間における彫刻的オブジェとして再定義することを試みた。アイ クロックは、壁面に設置された際に空間全体のアクセントとなり、見る者の視線を自然と引きつける磁力を備えている。
楕円形という形状の選択は、当時のモダニズムにおける直線的・幾何学的傾向に対する穏やかなアンチテーゼでもあった。柔らかな曲線は、機械的な冷たさを排し、居住空間にオーガニックな温もりをもたらす。
素材と仕上げ
オリジナルのアイ クロックは、真鍮製のケースと白いラッカー仕上げの文字盤を特徴とする。真鍮の経年変化による色味の深まりは、所有する喜びを一層高める要素となっている。現行のヴィトラ版は、オリジナルの素材感と仕上げを忠実に再現しつつ、現代の製造技術により品質の均一性と耐久性を向上させている。
エピソード
ジョージ・ネルソンとハワード・ミラー・クロック・カンパニーの協働は、1947年に始まった。ネルソンは同社のデザインディレクターとして、1970年代まで約150種類以上の時計をデザインしたとされる。その中でアイ クロックは、ボール クロック、サンバースト クロックと並び、最も象徴的な作品の一つに数えられている。
興味深いことに、ネルソン事務所における時計デザインの多くは、アーヴィング・ハーパーをはじめとするスタッフデザイナーたちの手によるものであったと後年明らかにされている。しかしながら、それらの作品群はネルソンの卓越したアートディレクションのもとで生み出されたものであり、「ジョージ・ネルソン・クロック」という呼称は、個人の創作というよりも、一つのデザインビジョンの結晶として理解されるべきである。
アイ クロックというネーミングの由来については、その形状が人間の眼、あるいはアーモンドの実を連想させることから名付けられたと伝えられている。見る角度や光の当たり方によって様々な表情を見せるその姿は、まさに「眼」のように周囲を見つめ返しているかのような印象を与える。
評価と影響
アイ クロックは、発表から半世紀以上を経た現在もなお、ミッドセンチュリーモダンデザインの傑作として高く評価されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界の主要美術館において、デザイン史上の重要な作品として収蔵・展示されてきた。
本作品の成功は、時計というカテゴリーにおける「デザイナーズプロダクト」という概念の確立に大きく寄与した。ネルソンの時計コレクションは、日用品であっても優れたデザインが施されるべきであるという、モダンデザインの理念を体現するものとして、後続のデザイナーたちに多大な影響を与えている。
インテリアデザインの文脈において、アイ クロックは1950年代のアメリカンモダンを象徴するアイコンとして位置づけられている。イームズの家具やノグチの照明器具と並び、ミッドセンチュリーモダンのインテリア空間を構成する不可欠な要素として認識されている。
基本情報
| 製品名 | アイ クロック(Eye Clock) |
|---|---|
| デザイナー | ジョージ・ネルソン(George Nelson) |
| 発表年 | 1957年 |
| オリジナルメーカー | ハワード・ミラー・クロック・カンパニー(Howard Miller Clock Company) |
| 現行メーカー | ヴィトラ(Vitra) |
| 素材 | 真鍮、ラッカー仕上げ |
| カテゴリー | 壁掛け時計 / ウォールクロック |
| スタイル | ミッドセンチュリーモダン |