アスタリスク クロックは、20世紀を代表するアメリカのインダストリアルデザイナー、ジョージ・ネルソンが1950年にデザインした壁掛け時計である。中心から放射状に伸びる12本の金属製のロッドと、その先端に配された球体が織りなす幾何学的な造形は、星や雪の結晶を想起させる詩的な美しさを湛えている。従来の時計が持つ文字盤という概念を解体し、時を刻む道具に彫刻的な美を与えたこの作品は、ミッドセンチュリーモダンを象徴するアイコニックなプロダクトとして、今日なお世界中のインテリア愛好家から深い敬愛を集めている。

特徴・コンセプト

アスタリスク クロックの最も革新的な特徴は、伝統的な時計のデザイン言語を根本から覆した点にある。ネルソンは時計の本質的な機能——時刻を知らせること——を損なうことなく、装飾的な数字や目盛りを排除し、純粋な幾何学形態による時の視覚化を実現した。中心のムーブメントから均等に広がる12本の真鍮製ロッドは、時計の12時間を抽象的に表現すると同時に、光を受けて繊細な影を壁面に投じ、時間の経過とともに変化する光のインスタレーションとしても機能する。

各ロッドの先端に取り付けられた木製の球体は、硬質な金属との対比によって温かみを添え、空間に浮遊するような軽やかさを演出している。この有機的要素と幾何学的構造の調和は、同時代のチャールズ&レイ・イームズやイサム・ノグチの作品にも通じる、アメリカンモダニズムの本質的な美学を体現している。「アスタリスク(*)」という名称は、その形態が活字の記号を連想させることに由来し、言語と視覚芸術を横断するネルソンの知的な遊び心を窺わせる。

ジョージ・ネルソンとクロックデザイン

ジョージ・ネルソンは1908年コネチカット州ハートフォードに生まれ、イェール大学で建築を学んだ後、ローマ賞を受賞してヨーロッパに留学した。帰国後は『アーキテクチュラル・フォーラム』誌の編集者として活躍し、1946年にハーマンミラー社のデザインディレクターに就任。以後20年以上にわたり、同社のデザイン哲学を牽引する存在となった。

ネルソンのクロックデザインへの関与は、ハワードミラー社との協働によって始まった。1947年から1970年代にかけて、彼とそのアソシエイツは150種類以上の時計をデザインし、その多くが現在も名作として評価されている。ボール クロック、サンバースト クロック、アイ クロックなど、それぞれが独自の造形言語を持つこれらの作品群において、アスタリスク クロックは最も洗練された抽象性を示す傑作の一つに数えられる。

エピソード

アスタリスク クロックが誕生した1950年代初頭は、第二次世界大戦後の楽観主義と科学技術への信頼が社会全体を包んでいた時代である。原子力の平和利用への期待、宇宙開発競争の幕開け、そして新素材の登場は、デザイナーたちに未来への想像力を大いに刺激した。アスタリスク クロックの放射状のフォルムは、こうした「アトミック・エイジ」の美意識——原子核から放たれるエネルギーの視覚化——と深く共鳴するものであった。

ネルソンはクロックデザインについて、「壁に掛けられた彫刻」であるべきだと語っている。従来、時計は機能的な道具として扱われ、その装飾性は様式的な外枠や文字盤の装飾に限られていた。しかしネルソンは、時計そのものを芸術作品として再定義し、インテリアにおける視覚的な焦点としての役割を与えた。この哲学は、日用品のデザインを芸術の領域へと昇華させようとするモダニズムの理念を、最も純粋な形で具現化したものといえる。

評価と影響

アスタリスク クロックを含むジョージ・ネルソンのクロックコレクションは、発表当時から高い評価を受け、アメリカのモダンデザインを世界に知らしめる象徴的な存在となった。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界各地の美術館がネルソンの時計を永久コレクションとして収蔵しており、20世紀デザイン史における不朽の価値が認められている。

その影響は同時代のデザイナーのみならず、後続の世代にも及んでいる。1990年代以降のミッドセンチュリーモダンへの再評価の潮流において、ネルソンのクロックは最も求められるヴィンテージアイテムの一つとなり、オリジナルの希少価値は年々高まっている。2000年よりスイスの家具メーカー、ヴィトラがハワードミラー社からライセンスを取得し、当時の仕様を忠実に再現した復刻版の製造を開始したことで、新たな世代のユーザーもこの名作に触れる機会を得ることとなった。

素材と仕様

現行のヴィトラ製アスタリスク クロックは、オリジナルのデザインを尊重しながら、現代の製造技術と品質基準を適用して生産されている。中央のムーブメントカバーおよび放射状に配されたロッドには真鍮が用いられ、経年により深みを増す独特の質感が魅力となっている。ロッド先端の球体は上質な木材から削り出されており、金属の精緻さと木の温もりが絶妙なコントラストを生み出している。

本体直径は約25cmとコンパクトながら、放射状のロッドが視覚的な広がりを演出するため、実際の存在感は数値以上のものがある。クォーツ式ムーブメントを採用し、正確な時刻表示と静粛な動作を両立している。壁面への取り付けは背面のフック機構により容易に行え、住宅からオフィス、商業空間まで幅広い環境に適応する汎用性を備えている。

基本情報

デザイナー ジョージ・ネルソン(George Nelson)
デザイン年 1950年
オリジナルメーカー ハワードミラー(Howard Miller Clock Company)
現行メーカー ヴィトラ(Vitra)
素材 真鍮、木材、スチール
ムーブメント クォーツ式
カテゴリ 壁掛け時計
スタイル ミッドセンチュリーモダン