スタッキングチェア 40/4は、アメリカのインダストリアルデザイナー、デヴィッド・ローランドが1964年に発表した革新的な椅子である。その名称は「40脚を4フィート(約120cm)の高さに積み重ねられる」という驚異的な省スペース性能に由来する。世界初の本格的なコンパクトスタッキングチェアとして知られ、発表以来60年以上にわたり生産が継続されている20世紀デザイン史における金字塔的存在である。
シンプルかつ洗練されたフォルムは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やメトロポリタン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、ルーヴル美術館装飾美術部門など、世界の主要美術館のパーマネントコレクションに収蔵されている。これまでに800万脚以上が販売され、公共施設から宗教建築、企業オフィスから個人住宅まで、あらゆる空間で愛用されている。
特徴・コンセプト
革命的なスタッキング機構
40/4の最大の特徴は、その卓越したスタッキング性能にある。通常、物を積み重ねる場合、各ユニットは前のものより僅かに大きくなければならない。しかしローランドは、すべての椅子が同一のサイズとプロポーションでありながら、40脚を僅か4フィートの高さに収納できるという画期的な構造を実現した。専用のドリーを使用すれば、一度に40脚を移動させることも可能であり、「教室をクローゼットに収納できる」と評される空間効率性を誇る。
人間工学に基づく快適性
ローランドは人体計測に関する広範な研究を経て、独自の「MOD(Maximum Order Dimensioning)システム」を開発した。これは世界中の人間の身体測定データに基づく寸法体系であり、最大多数の人々に最も快適なフィット感を提供するよう設計されている。座面と背もたれは三次元曲面を描き、座面前端にはウォーターフォールエッジが施され、長時間の着座においても優れた快適性を維持する。
構造と素材
フレームは直径7/16インチ(約11mm)のソリッドスチールロッドで構成され、座面と背もたれは3/16インチ(約5mm)の巻きエッジを持つシートメタルから成形され、ビニールコーティングが施されている。この組み合わせにより、軽量でありながら堅牢な耐久性を実現している。現行モデルでは、ポリアミド、木製突板、メタル、アップホルスタリーなど多様な仕上げが選択可能であり、あらゆる空間のデザイン言語に調和する。
時代を超越する普遍的デザイン
ローランドは「異なるものが優れているとは限らないが、優れているものは常に異なる」という信念のもと、スタイルのためのスタイルを否定した。1968年のスミソニアン協会での講演「デザインの道徳的基盤」において、真の美は目的を果たすデザインから有機的に生まれると説いた。40/4のエレガントな曲線美は、機能性の追求から必然的に導き出されたものであり、ゆえに半世紀以上を経てなお古びることのない普遍性を獲得している。
エピソード
爆撃機パイロットの誓い
40/4誕生の原点は、第二次世界大戦にまで遡る。ローランドは米国空軍のB-17爆撃機パイロットとして従軍し、時に12時間にも及ぶ過酷なミッションにおいて、劣悪な座席に苦しめられた。彼は戦場で「生き延びることができたなら、人生を快適で人間工学的に正しい座席の創造に捧げる」と誓った。戦後、この「平和的な使命」を果たすべく、8年の歳月をかけて40/4を完成させたのである。
困難を極めた商品化への道
1956年に構想を開始し、1963年に特許を取得したローランドであったが、商品化の道は険しかった。多くの企業に持ち込むも断られ続け、1961年にはフローレンス・ノールがノール・アソシエイツでのライセンス契約を結んだものの、僅か6ヶ月で解消となった。転機は建築設計事務所スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル(SOM)のインテリアデザイン部門長デイヴィス・アレンとの出会いであった。アレンはSOMが設計中のイリノイ大学シカゴ校新キャンパスのために17,000脚を発注。この大口契約により、ゼネラル・ファイアプルーフィング社(GF)でのライセンス生産が実現した。
MoMAでの華々しいデビュー
1965年5月、イリノイ大学向けの大量生産が開始される前に、250脚が手作業で組み立てられ、ニューヨーク近代美術館の新館オープニングに設置された。建築家フィリップ・ジョンソンが指名したこの椅子は、MoMAのパーマネントコレクションにも加えられ、40/4は世界の檜舞台で鮮烈なデビューを飾った。
セント・ポール大聖堂と世紀の結婚式
1973年、ロンドンのセント・ポール大聖堂に2,500脚の40/4が導入された。1981年、チャールズ皇太子とダイアナ妃の世紀の結婚式において、世界中が見守る中、ゲストたちはこの椅子に腰掛けた。半世紀以上を経た現在もこれらの椅子は現役で使用されており、その耐久性と時代を超えた美しさを証明し続けている。
評価
デザイン史家クレメント・メドモアは著書『The Modern Chair』(1975年)において、40/4を「美しいシンプルさと完全なる適切さ」を備えた椅子と評した。1988年、インダストリアルデザイン史家A.J.プロスは「製造の経済性、着座・収納・配列の効率性において、このデザインは未だ凌駕されていない」と記している。
建築家メレテ・アンフェルト=モレロップは「40/4の発表以降、多くの企業やデザイナーが同様に成功する対抗製品を生み出そうと試みてきた。実際、毎年ミニマリストなスタッキングチェアが次々と登場する。これらの模倣品や独立した発展は、デヴィッド・ローランドが現代生活を深く表現する全く新しいタイプの家具を創造したという事実を示している」と述べている。
2010年、コントラクト・デザイン・マガジン誌は40/4を「過去50年間のコマーシャルインテリア製品トップ10」の第1位に選出。半世紀にわたる市場での成功と、デザイン的評価の両立を達成した稀有な存在として、その地位を不動のものとしている。
受賞歴・主要コレクション
主な受賞
- 1964年
- 第13回ミラノ・トリエンナーレ グランプリ(アメリカ人として受賞したのはバックミンスター・フラーのジオデシック・ドームに続き史上2人目)
- 1965年
- アメリカン・インスティテュート・オブ・インテリア・デザイナーズ(A.I.D.)国際デザイン賞
- 1965年
- プロダクト・エンジニアリング・マガジン マスター・デザイン賞
- 1968年
- オーストリア政府 家具部門金メダル
- 1968年
- リオデジャネイロ国際ビエンナーレ インダストリアルデザイン賞
- 2010年
- コントラクト・デザイン・マガジン「過去50年間のコマーシャルインテリア製品トップ10」第1位
主要美術館コレクション
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ニューヨーク
- メトロポリタン美術館、ニューヨーク
- フィラデルフィア美術館、フィラデルフィア
- シカゴ美術館、シカゴ
- ブルックリン美術館、ニューヨーク
- パレ・デュ・ルーヴル装飾美術館、パリ
- オルセー美術館、パリ
- ヴィクトリア&アルバート博物館、ロンドン
- デザイン・ミュージアム、ロンドン
- ディ・ノイエ・ザムルング、ミュンヘン
- ヴィトラ・デザイン・ミュージアム、ヴァイル・アム・ライン
- イェール大学アートギャラリー、ニューヘイブン
主要展覧会
- 「Design in America: The Cranbrook Vision 1925–1950」メトロポリタン美術館、1984年
- 「The Modern Chair」シカゴ美術館
- 「Please Be Seated」スミソニアン協会
- 「Dimensions of Design - 100 Classical Seats」ヴィトラ・デザイン・ミュージアム
- 第19回オリンピック競技大会(メキシコシティ)米国インダストリアルデザイン展
基本情報
| デザイナー | デヴィッド・ローランド(David Rowland, 1924-2010) |
|---|---|
| 発表年 | 1964年 |
| メーカー | HOWE a/s(デンマーク)※オリジナル製造:General Fireproofing Co.(1963-2002) |
| 寸法 | 高さ約76cm × 幅約51cm × 奥行約53cm、座面高約45cm |
| 素材 | クロームメッキスチールロッド、ビニールコーティングスチールシート(他にポリアミド、木製突板、アップホルスタリー仕様あり) |
| スタッキング | 40脚を約120cm(4フィート)の高さに積載可能 |
| 累計販売数 | 800万脚以上 |
| デザイナー教育 | クランブルック美術学院(チャールズ&レイ・イームズ、フローレンス・ノール、ハリー・ベルトイア、エーロ・サーリネンらを輩出) |
| デザイナー師事 | ラースロー・モホイ=ナジ(バウハウス創設者の一人)、ノーマン・ベル・ゲデス |