バイオグラフィー

1887年2月6日、イングランド南西部の歴史都市バースに生まれる。機械工学を修め、自動車産業の黎明期において車両設計エンジニアとして活躍した。地元バースに本拠を置く自動車メーカー、ホーストマン・カーズにて、サスペンションシステムの設計に従事。この時期に培われたスプリング機構に関する深い知見が、後の画期的な発明の礎となる。1932年、定張力スプリング機構を応用した革新的なタスクランプを考案し、特許を取得。翌1933年、バネ製造の老舗ハーバート・テリー&サンズ社と提携し、「アングルポイズ」の商標のもと製品化を実現。1947年、60歳にて逝去するも、その発明は現代に至るまで世界中で愛用され続けている。

デザインの思想とアプローチ

カーワーダインの設計思想の核心には、人間の身体構造に対する深い洞察がある。彼は人間の腕の動きを詳細に観察し、その仕組みを機械的に再現することを試みた。人間の腕は、筋肉と腱の絶妙な協調によって、あらゆる位置で静止することができる。カーワーダインはこの原理をスプリング機構に置き換え、「定張力」という概念を照明器具に導入した。

彼のアプローチは、純粋な機能主義に根ざしている。装飾を排し、機構そのものの美しさを前面に押し出すその姿勢は、同時代のバウハウスの理念とも共鳴する。しかしカーワーダインの場合、その機能美は理論からではなく、エンジニアとしての実践的な問題解決から自然に生まれたものであった。自動車のサスペンション設計で培った「動きの中での安定」という概念を、まったく異なる分野に応用するという発想の転換が、彼の最大の功績といえる。

作品の特徴

カーワーダインの照明器具は、独自の四本スプリング機構によって特徴づけられる。この機構により、ランプヘッドをあらゆる方向に自由に動かすことができ、しかも手を離した位置でピタリと静止する。従来のタスクランプにありがちな、重いベースや複雑なカウンターウェイトを必要としない革新的な設計であった。

素材選択においても、カーワーダインは実用性を最優先とした。アルミニウムとスチールという工業素材を用い、大量生産を可能にする設計を採用。これにより、高度な機能を持つ照明器具を、一般家庭にも手の届く価格で提供することに成功した。ベークライト製のシェードは軽量かつ耐熱性に優れ、当時の最先端素材を積極的に取り入れる姿勢を示している。

また、モジュール性も重要な特徴である。基本的なスプリング機構は共通としながら、取り付け方法やアームの長さを変えることで、デスクランプからフロアランプ、さらには産業用照明まで、多様なバリエーションを展開することができた。

主な代表作

アングルポイズ 1208(1934年)

カーワーダインの記念碑的第一作にして、すべてのアングルポイズランプの原型。四本のスプリングによる定張力機構を初めて実用化した製品である。当初は主に産業用途を想定して開発されたが、そのシンプルかつ機能的なデザインは瞬く間に評価を獲得。医療現場、製図室、工場など、精密な作業を要する専門家たちの間で急速に普及した。初期モデルは比較的大型で、強力な光量を必要とする作業環境を想定していたが、その後の派生モデルによって家庭への浸透が進んでいく。

アングルポイズ 1227(1935年)

1208の成功を受けて開発された、よりコンパクトな家庭向けモデル。三本スプリング機構を採用することで、構造の簡素化とコスト削減を実現しながらも、カーワーダインの発明の本質である「どの位置でも静止する」機能は完全に継承された。このモデルは第二次世界大戦を経て戦後復興期の英国において爆発的な人気を博し、アングルポイズの名を世界的なものとした。その優美なシルエットは、今日に至るまでタスクランプの象徴的存在であり続けている。

アングルポイズ 75(1968年 / ケネス・グランジによる再設計)

カーワーダインの没後、英国を代表するインダストリアルデザイナー、ケネス・グランジによって再設計されたモデル。カーワーダインのオリジナル機構を継承しながら、現代的な造形言語で再解釈された。滑らかな曲線と洗練されたプロポーションは、オリジナルへの敬意と新時代のデザイン感覚を見事に融合。このモデルは後に「タイプ75」として知られ、21世紀においてもアングルポイズ社の主力製品として生産が続けられている。

功績・業績

1932年、カーワーダインは「平衡状態を維持するための弾性的に平衡された支持装置」として特許を取得(英国特許番号404615)。この発明は、単なる照明器具の改良にとどまらず、「可動式」と「固定式」という二項対立を超越する第三の概念を提示した。すなわち、「自由に動かせるが、動かさなければ静止し続ける」という、それまでにない機能的価値である。

1933年、ハーバート・テリー&サンズ社との提携により商業生産を開始。同社はバネ製造の専門企業であり、カーワーダインの設計を高品質で量産する技術を有していた。この提携は、発明家と製造者の理想的な協業モデルとして、後世のプロダクトデザイン史においても言及されることが多い。

1937年には、ノルウェーのヤコブ・ヤコブセンにライセンスを供与。ヤコブセンはこの機構を基に「ルクソー L-1」を開発し、スカンジナビアから北米へとアングルポイズの設計思想を広めた。ピクサー・アニメーション・スタジオのマスコットキャラクター「ルクソーJr.」は、この系譜に連なるデスクランプをモチーフとしている。

後世への影響

ジョージ・カーワーダインの発明は、20世紀デザイン史において独自の位置を占める。彼の定張力スプリング機構は、タスク照明の基本原理として世界中で採用され、無数の派生製品を生み出した。アングルポイズランプは、英国デザイン協議会が選定する「英国デザインの古典」に名を連ね、ロンドンのデザイン・ミュージアム、ニューヨーク近代美術館(MoMA)など世界の主要なデザインコレクションに収蔵されている。

より広い文脈において、カーワーダインの仕事は「異分野の知識の創造的応用」の模範例として評価される。自動車工学の知見を照明デザインに転用するという発想は、今日でいうところの「学際的アプローチ」の先駆けであった。また、産業用製品を出発点としながら、やがて家庭に浸透し、ついには文化的アイコンとなるという軌跡は、20世紀のマスプロダクション文化を象徴するものでもある。

さらに、彼の発明が「人間の身体」を参照点としていたことは、後のエルゴノミクス(人間工学)デザインの先駆けとも解釈できる。道具は人間の動きに従うべきであるという思想は、現代のユーザー中心設計の理念に通じるものがある。カーワーダインは「インダストリアルデザイナー」という職能が確立される以前の時代に、まさにその本質を体現した先駆者であったといえよう。

作品一覧

年月 区分 作品名 ブランド
1932年 特許 定張力スプリング機構(英国特許404615)
1934年 照明 Anglepoise 1208 Herbert Terry & Sons
1935年 照明 Anglepoise 1227 Herbert Terry & Sons
1935年 照明 Anglepoise 1209 Herbert Terry & Sons
1936年 照明 Anglepoise Trolley Lamp Herbert Terry & Sons
1937年 照明 Anglepoise Wall Mounted Model Herbert Terry & Sons
1938年 照明 Anglepoise Floor Standing Model Herbert Terry & Sons
1940年代 照明 Anglepoise Military/Industrial Variants Herbert Terry & Sons

※ カーワーダインの定張力スプリング機構のライセンスを受けた製品:

年月 区分 作品名 ブランド
1937年 照明 Luxo L-1(カーワーダイン機構に基づく) Luxo(ノルウェー)
1968年 照明 Anglepoise Type 75(ケネス・グランジ再設計) Anglepoise
2003年 照明 Anglepoise Type 75(ポール・スミス・エディション) Anglepoise
2011年 照明 Original 1227(復刻版) Anglepoise

Reference

Anglepoise Official Website - Our History
https://www.anglepoise.com/pages/our-history
Design Museum Collection - Anglepoise Lamp
https://designmuseum.org/discover-design/all-stories/anglepoise
V&A Museum - Anglepoise 1227 Desk Lamp
https://collections.vam.ac.uk/item/O167826/anglepoise-1227-desk-lamp-carwardine-george/
MoMA Collection - Anglepoise Lamp
https://www.moma.org/collection/works/2256
British Patent GB404615A - Elastic Equipoised Supports
https://patents.google.com/patent/GB404615A/
Herbert Terry & Sons - Company Archive
https://www.gracesguide.co.uk/Herbert_Terry
Dezeen - Anglepoise History
https://www.dezeen.com/tag/anglepoise/