フェイ・トゥーグッド
フェイ・トゥーグッド(Faye Toogood、1977年生)は、家具、ファッション、インテリア、彫刻を横断する英国のデザイナーである。彫刻的なフォルムと素材への誠実さ、そして感情的な深みをもつ作品で知られる。代表作のロリー・ポリー・チェア(Roly Poly Chair、2014年)は現代デザインのアイコンとして世界各地の美術館に収蔵されている。2025年にはメゾン・エ・オブジェの「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」、ストックホルム・ファニチャー・フェアの「ゲスト・オブ・オナー」に選ばれた。
バイオグラフィー
生い立ちと学歴
1977年、英国イングランド東ミッドランズのラトランド(英国で最も小さな州)の田園地帯で生まれ育った。母はフローリスト、父は学者で、夕方には陶芸を制作していた。妹のエリカ・トゥーグッドは、後に彼女のファッションのコラボレーターでありパターン・カッターとなる。テレビのない環境で自然のなかに多くの時間を過ごし、羽根や化石、石、花などを集めては並べ替えることに没頭したという。8歳のときにセント・アイヴズのバーバラ・ヘップワース美術館を訪れて彫刻家を志すが、進路相談を経て、より学問的な美術史の道を選ぶ。1998年にブリストル大学で美術史の学士号を取得した。正式なデザイン教育を受けていないことが、後の「ルールブックのない」自由な創造性の源泉となった。
『ワールド・オブ・インテリアズ』と独立
1998年の卒業後、コンデナスト社の『ワールド・オブ・インテリアズ(The World of Interiors)』誌に入り、伝説的な編集者ミン・ホッグ(Min Hogg)のもとで、スタイリストを経てデコレーション・エディターへと進んだ。南ロンドンのスクワットからマリの宮殿まで、あらゆる対象を同等の敬意で扱うこの雑誌での約8年間が、彼女にとっての「デザイン教育」となった。2007年、二次元の誌面から、より三次元的な創造へと向かいたくなって退職。トム・ディクソンのクリエイティブ・ディレクションの仕事を経て自ら物を作り始め、2008年にロンドンでスタジオ・トゥーグッド(Studio Toogood)を設立した。
キャリアの歩み
- 2010年
- 最初の家具コレクション「アッサンブラージュ1」を発表。番号付きコレクションという独自のアプローチを確立した。
- 2012年
- 妹エリカとともにファッション・ライン「トゥーグッド」を立ち上げ。サイズや年齢、性別を問わない実用的な衣服を制作している。
- 2014年
- ロリー・ポリー・チェアを「アッサンブラージュ4」の一部としてミラノで発表。第一子の妊娠と母性に着想を得た丸みのある形が、彼女の最も有名な作品となった。
- 2022年
- ファイドン社よりモノグラフ『Faye Toogood: Drawing, Material, Sculpture, Landscape』を刊行。
- 2025年
- メゾン・エ・オブジェ「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」、ストックホルム・ファニチャー・フェア「ゲスト・オブ・オナー」などに選出された。
美術館コレクションと現在の活動
トゥーグッドの作品は、フィラデルフィア美術館、ダラス美術館、デンバー美術館、コーニング・ガラス美術館、ビクトリア国立美術館(メルボルン)、RISD美術館、ヴィトラ・デザイン美術館など、世界各地の美術館の永久コレクションに収蔵されている。現在はロンドンを拠点に、家具、インテリア、ファッション、彫刻、ホームウェアを横断する多分野スタジオを率い、約25名のチームとともに活動している。建築ジャーナリストで不動産会社ザ・モダン・ハウスの共同創設者であるマット・ギバードと結婚し、3児の母でもある。
デザインの思想とアプローチ
4つの見方
トゥーグッドの作品は、彼女が「4つの見方」と呼ぶ概念に根ざしている。
- ドローイング(Drawing)
- 美術の素地である絵画とドローイング。人と物をより深く結びつけるための「描かれた手」。
- 彫刻(Sculpture)
- 創造するすべてをつなぐ糸としての幾何学とフォルム。
- 素材(Material)
- すべてのプロジェクトの本質であり出発点。
- 風景(Landscape)
- 自然からの本質的なインスピレーション。人間と自然界を結びつけるもの。
本能的なプロセスと素材への向き合い方
トゥーグッドは自身を芸術家ではなくデザイナーと位置づける。その理由を、人々とつながりたいという欲求に求めている。「コート、椅子、インテリアの間に違いは見いだせません。アプローチもエートスも同じです」と彼女は語る。制作のプロセスは意図的に本能的で、コンピュータを用いず、段ボール、ワイヤー、テープ、キャンバスといった日常的な素材で立体的に試作する。「ほとんど子供のような遊びの状態に自分を置き、できるだけ無意識に創造したい」という。
素材はすべての出発点であり、ファイバーグラス、ブロンズ、キャストガラス、プラスター、粘土、オーク、レザーなど多様な素材を扱う。技術的な完璧さよりも、プラスターの筆跡や手で成形された粘土の不均一さ、金属の経年変化といった不規則性を尊ぶ。「私は作り手の指紋に最大の敬意を払っています。それが私たちを人間たらしめるものです」。彼女のコレクションが「アッサンブラージュ(Assemblage)」と呼ばれるのも、過去と現在、男性的なものと女性的なもの、粗いものと滑らかなものを編集的に組み合わせる、という姿勢を表すためである。
作品の特徴
トゥーグッドの作品は、丸みを帯びた豊満なフォルムと、彫刻的で有機的なシルエットを特徴とする。大胆でありながら親しみやすく、古代的でありながら未来的でもある。素材の本質的な特性を強調し、磨き上げるよりも不規則性を生かした、触覚的で生のままの美しさを大切にする。その作風は母性とともに大きく変化した。鋼やブロンズの角張った硬い作品から、より柔らかく丸みのある遊び心のあるフォルムへと向かったのである。「ロリー・ポリーをデザインしたとき、私は第一子を産んだばかりで、すべてが柔らかく、丸く、幅広くなっていました」と彼女は振り返る。
もう一つの特徴は、作品の自伝的・感情的な性格である。「作品に自分自身をより多く入れるほど、それが人とつながることに気づいた」と語るように、彼女のデザインは母性や幼少期の記憶、感情をしばしば反映している。同時に、男性的なものと女性的なもの、貴重なものと生のもの、自然と人工、柔らかいものと硬いものといった二元性や対照を扱うことを好み、そこに緊張感と物語を生み出している。
主な代表作とその特徴
ロリー・ポリー・チェア(Roly Poly Chair、2014年)
21世紀デザインのアイコンとして最も知られる作品。4本の太い円柱状の脚の上に、皿のような座面が載る。妊娠と母性に着想を得て生まれた。当初は職人の手によるファイバーグラス製で、後にドリアード社がポリエチレンで量産した。デンバー美術館、コーニング・ガラス美術館、フィラデルフィア美術館、ボルチモア美術館などに収蔵されている。トゥーグッド自身が「私より有名」と語るほどの存在となった。
エレメント・テーブル(Element Table、2010年)
最初の主要な家具デザインであり、彼女のデザインの原点。ガラスの天板に、シカモアの球体、ポートランドストーンの立方体、真鍮の円柱という3つの幾何学的要素を組み合わせている。基本的なフォルムを表現したこの作品は、その後のアッサンブラージュ全体で繰り返し展開された。
アッサンブラージュ6:アンラーニング(Assemblage 6: Unlearning、2020年)
転機となったコレクション。300点のマケット(小型模型)から家具へとスケールアップするプロセスを経て制作された。ブロンズや鉄を、段ボールやテープのように見せるトロンプ・ルイユ(だまし絵)の技法を駆使している。このシリーズからは、カタール国立劇場のために13点の作品が委嘱された。
スカッシュ・コレクション(Squash Collection、2024年)
イタリアのポルトローナ・フラウとの協働による、チェア、オットマン、テーブル、鏡、ラグなど8点からなるコレクション。彼女にとって初めての本格的な革の室内装飾で、しわのある豊満なフォルムが特徴である。CADを使わず工場で手作業によって形づくられ、「英国のフォークとイタリアの馬力の出会い」をテーマとしている。
スペード・チェア(Spade Chair、2010年)
英国の田園での育ちへのオマージュ。シカモアやアッシュ、真鍮を用い、3本脚の搾乳用スツールとスペード(鋤)の柄に着想を得ている。初期のデザインを代表する量産品である。
その他の重要な作品
パフィー・ラウンジ・チェア(Puffy Lounge Chair、2020年)は、スウェーデンのHem社との協働で、Dezeen Awards 2021のシーティング・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞した。コズミック・コレクション(Cosmic Collection、2024年)は、イタリアのTacchini社との9点のコレクションで、生命体を思わせるフォルムが特徴である。ガミー・アームチェア(Gummy Armchair、2024年)は、ピエール・フレイの生地を用いた初の本格的な室内装飾家具である。
功績・業績
受賞・展覧会
2025年には、メゾン・エ・オブジェの「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」(パリ)、ストックホルム・ファニチャー・フェアの「ゲスト・オブ・オナー」、ELLE DECO国際デザイン賞(EDIDA)の「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。2021年にはパフィー・ラウンジ・チェアでDezeen Awardsを受賞している。ニューヨークのフリードマン・ベンダ・ギャラリーでは、アッサンブラージュ7(2025年)、アッサンブラージュ6(2020年)、米国初の個展となったアッサンブラージュ5(2017年)など個展を重ねた。このほか、ストックホルムでのインスタレーション「MANUFRACTURE」(2025年)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館での「クローク・ルーム」(2015年)などの展示でも知られる。
コラボレーションと出版
家具では、ドリアード(ロリー・ポリーの量産)、Hem、ポルトローナ・フラウ、Tacchini、Vaarnii、メゾン・マティス、cc-tapis、Kvadratなど、国際的なブランドと協働している。ファッションやライフスタイルの分野でも、ビルケンシュトックやキュビッツとのコラボレーションがある。出版では、初の包括的なモノグラフ『Faye Toogood: Drawing, Material, Sculpture, Landscape』(2022年、ファイドン社、アリステア・オニール編)のほか、ソフィー・マッキントッシュの短編小説を収めた『Assemblage 6, Unlearning』(2020年)などがある。
評価・後世に与えた影響
批評的評価
トゥーグッドは「現代デザインにおける最も著名な女性の一人」「21世紀を代表する形態の創造者の一人」として認識されている。メゾン・エ・オブジェは彼女を英国デザインを代表する存在と評した。とりわけロリー・ポリー・チェアは「過去10年を象徴するアイコニックなデザイン」「現代デザインのクラシック」と評価されている。イェール大学英国芸術センターのグレン・アダムソンは、彼女の制作を、フォルムが生まれる最初の本能的な瞬間に正義をもたらす「思考と制作の偉業」と評している。
現代デザインへの影響と未来への姿勢
トゥーグッドの仕事は、真正性と職人技がますます重視される現代家具の変化に寄与している。彼女のアプローチは、大量生産の使い捨て的な性質に対し、より遅く、より意図的なデザインのプロセスを促すものである。純粋な機能よりも物語と彫刻性を優先する新しい世代のデザイナーにも、その影響が見られる。また、分野の境界を越えて活動する姿勢は、コレクタブル・デザインを真剣な芸術的カテゴリーへと押し上げることにも貢献した。彼女自身は、「物がどのように、どこで、なぜ作られるかを見過ごしてきたが、このまま続けることはできない」と述べ、デザイン・製造・流通の持続可能なあり方を問い続けている。数少ない英国の女性デザイナーの一人として、女性の活躍を後押しする存在でもある。
作品一覧
アッサンブラージュ・シリーズ
| 年月 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 2010年 | テーブル | Element Table | Studio Toogood |
| 2010年 | 椅子 | Spade Chair | Studio Toogood |
| 2010年 | 照明 | Element Lighting | Studio Toogood |
| 2010年 | キャビネット | Silo Cabinet | Studio Toogood |
| 2012-13年 | 家具 | Dressing Table | Studio Toogood |
| 2012-13年 | 照明 | Lamps(虹色パティーナ) | Studio Toogood |
| 2014年 | 椅子 | Roly Poly Chair | Driade |
| 2014年 | 椅子 | Roly Poly Dining Chair | Studio Toogood |
| 2014年 | テーブル | Roly Poly Table | Studio Toogood |
| 2014年 | デイベッド | Roly Poly Daybed | Studio Toogood |
| 2016年 | 椅子 | Spoon Chairs | Studio Toogood |
| 2016年 | ベンチ | Pew Benches | Studio Toogood |
| 2016年 | スツール | Cup Stools | Studio Toogood |
| 2020年 | スツール | Box Stool | Studio Toogood |
| 2020年 | 椅子 | マケットベース・チェア | Studio Toogood |
| 2020年 | デイベッド | マケットベース・デイベッド | Studio Toogood |
| 2020年 | インスタレーション | Clay Court(13作品) | カタール国立劇場 |
| 2022-25年 | 家具 | Plot / Cairn / Barrow / Hill | Studio Toogood |
| 2024年 | アームチェア | Gummy Armchair | Pierre Frey |
主要ブランド・コラボレーション
| 年月 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 2018年- | 椅子 | Roly Poly Chair(量産) | Driade |
| 2018年- | ソファ | Roly Poly Sofa | Driade |
| 2020年 | ラウンジチェア | Puffy Lounge Chair | Hem |
| 2020年 | テーブル | Stump Tables | Hem |
| 2024年 | アームチェア | Squash Armchair | Poltrona Frau |
| 2024年 | オットマン | Squash Ottoman | Poltrona Frau |
| 2024年 | サイドテーブル | Squash Side Table | Poltrona Frau |
| 2024年 | 鏡 | Squash Mirrors(3点) | Poltrona Frau |
| 2024年 | ラグ | Squash Rug | Poltrona Frau |
| 2024年 | ソファ | Solar Sofa | Tacchini |
| 2024年 | デイベッド | Solar Daybed | Tacchini |
| 2024年 | 照明 | Lunar Lights | Tacchini |
| 2024年 | キャビネット | Astral Cabinet | Tacchini |
| 2024年 | 鏡 | Stellar Mirror | Tacchini |
| 2024年 | テーブル | Orbit Tables | Tacchini |
| 2019年 | ラグ | Doodlesコレクション(6点) | cc-tapis |
| 2024年 | ラグ | Tiddlybits | cc-tapis |
| 2024年 | アウトドア家具 | Peace Outdoor Lounge Chair | Vaarnii |
| 2024年 | フットスツール | Peace Outdoor Footstool | Vaarnii |
| 2015年 | インスタレーション | The Cloakroom(150点のコート) | Kvadrat |
| - | 椅子 | Spade Chair(量産) | Please Wait to Be Seated |
| 2024年 | 家具/ラグ | Esquisses Collection | Maison Matisse |
| 2021年 | シューズ/家具 | アリゾナ・サンダル、彫刻的ベッド | Birkenstock |
| - | アイウェア | 眼鏡コレクション | Cubitts |
Reference
- Faye Toogood - Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/Faye_Toogood
- Faye Toogood – Friedman Benda
- https://www.friedmanbenda.com/artists/faye-toogood/
- About Faye Toogood — Faye Toogood
- https://www.fayetoogood.com/about
- About - Toogood
- https://t-o-o-g-o-o-d.com/pages/about
- FAYE TOOGOOD: ASSEMBLAGE 5 – Friedman Benda
- https://www.friedmanbenda.com/exhibitions/faye-toogood-assemblage-5/
- FAYE TOOGOOD | ASSEMBLAGE 6: UNLEARNING – Friedman Benda
- https://www.friedmanbenda.com/exhibitions/faye-toogood-assemblage-6-unlearning/
- PIN–UP | AN INTERVIEW WITH FAYE TOOGOOD
- https://www.pinupmagazine.org/articles/faye-toogood-interview
- All you need to know about Faye Toogood: Drawing, Material, Sculpture, Landscape | Phaidon
- https://www.phaidon.com/agenda/design/articles/2021/november/15/all-you-need-to-know-about-faye-toogood-drawing-material-sculpture-landscape/
- Faye Toogood on Creation as a Form of Connection - Time Sensitive
- https://timesensitive.fm/episode/faye-toogood-on-creation-as-a-form-of-connection/
- How Faye Toogood Infuses Avant-Garde Brilliance Into Her Work - Interior Design
- https://interiordesign.net/designwire/10-questions-with-faye-toogood/
- Faye Toogood, Designer of the Year 2025 - Maison&Objet
- https://www.maison-objet.com/en/paris/magazine/talents/faye-toogood-designer-of-the-year-2025
- interview: faye toogood on womanifesto! as designer of the year 2025 at maison&objet - Designboom
- https://www.designboom.com/design/interview-faye-toogood-womanifesto-installation-designer-of-the-year-maison-et-objet-01-24-2025/
- Meet the Designer Building a Modern Stonehenge | Artnet News
- https://news.artnet.com/art-world/faye-toogood-ancient-inspiration-modern-design-2599272
- Faye Toogood on her approach to the design process | Hole & Corner
- https://www.holeandcorner.com/long-reads/faye-toogood
- Faye Toogood on rewriting aesthetic rules in the design world - Vogue
- https://vogue.sg/faye-toogood-design-aesthetic-rules/
- Faye Toogood: Designer of the Year 2025 | The Design Weeks & Events Guide
- https://designweekguide.com/faye-toogood-designer-of-the-year-2025/
- Roly Poly Chair (Raw) | Denver Art Museum
- https://www.denverartmuseum.org/en/object/2014.158
- Designer: Faye Toogood — Hem
- https://hem.com/en-us/designers/faye-toogood
- Faye Toogood – Sculptural Design Between Art and Craftsmanship - Poltrona Frau
- https://www.poltronafrau.com/ww/en/about/architects-and-designers/faye-toogood.html
- The Cloakroom by Faye Toogood - Kvadrat
- https://www.kvadrat.dk/en/collaborations/the-cloakroom-by-faye-toogood