ストリング ファニチャー / String Furniture ── スウェーデンが生んだモジュラー収納の原点
1949年、スウェーデンの建築家夫妻ニッセ・ストリニングとカイサ・ストリニングが考案した壁掛けシェルフは、スカンジナビアンデザインの代名詞として75年以上にわたり世界中の住空間を彩り続けてきました。プラスチックコーティングを施したスチールワイヤーのサイドパネルと薄い木製棚板という極めてシンプルな構成でありながら、無限の拡張性と自在な組み合わせを可能にしたString®シェルビングシステムは、戦後スウェーデンにおけるモダンデザインの理想を体現する存在です。
2004年にペーテル・エルランドソンとポール・ヨセフソンがString Furniture ABを設立し、ストリニング夫妻の承認のもとブランドを再興。以来、オリジナルのString®システムに加え、コンパクトなString® Pocket、オフィス向けのWorks™、スウェーデン国立美術館との協業から生まれたMuseum™、2023年発表のPira G2、2024年の新コレクションReliefなど、現代の多様なライフスタイルに応える製品群を展開しています。製品の95%以上がスウェーデン国内で製造され、世界40か国以上で愛用されるグローバルブランドへと成長しました。
ブランドの特徴・コンセプト
String Furnitureのデザイン哲学は、創業者ニッセ・ストリニングが生涯貫いた「形態は機能に従う」という信念に根ざしています。日常生活の不便を鋭敏に察知し、その解決策を美しく簡潔なかたちに昇華させること──それがストリニング夫妻のデザインの核心でした。String®シェルフは、手頃な価格、容易な輸送、簡単な組み立てという実用的要件を満たしながら、モジュラーシステムという革新的概念を家具デザインに導入した先駆的作品です。
モジュール性と拡張性
String®システムの真髄は、棚板、ワイヤーパネル、キャビネット、アクセサリーを自由に組み合わせ、使い手の暮らしの変化に合わせて構成を変えられるモジュール性にあります。リビング、キッチン、玄関、バスルーム、ワークスペースとあらゆる空間に対応し、壁面収納からフロアスタンディングまで、数千通りのコンフィギュレーションが可能です。
スカンジナビアンデザインの体現
清潔な線、機能性、細部への配慮──String Furnitureの製品群は、スカンジナビアンデザインの本質的価値を一貫して体現しています。装飾を削ぎ落としたミニマルな佇まいは、どのようなインテリアスタイルにも調和し、時代を超えた普遍性を備えています。
サステナビリティへの取り組み
String Furnitureは品質・環境・社会的責任を企業活動の三本柱に掲げています。製品の95%以上をスウェーデン国内のスモーランド地方を中心とする工場で製造し、オーク、ウォールナット、アッシュの突板をはじめ、再生可能・リサイクル可能な素材を積極的に採用。フラットパック包装による輸送時のCO₂排出削減にも注力しています。長く使い続けられるモジュラー設計そのものが、持続可能な消費のあり方を示しています。
ブランドヒストリー
誕生──1949年、ボニエ書店のコンペティション
String®の物語は、スウェーデン最大の出版社ボニエ(Bonniers)が主催した書棚デザインコンペティションに始まります。当時のスウェーデンの一般家庭には書棚を備えた住居が少なく、書籍販売の拡大を目指すボニエは「手頃な価格で、輸送が容易で、組み立てが簡単な書棚」を公募しました。世界中から寄せられた194点の応募作品の中から、ニッセ・ストリニングとカイサ・ストリニングが提出したデザインが優勝。プラスチックコーティングのスチールワイヤーで構成されたラダー型サイドパネルと3枚の棚板からなるこのシェルフは、たちまちスウェーデン中の家庭に浸透しました。
ニッセ・ストリニングはストックホルム王立工科大学(KTH)で建築を学ぶ学生時代に、プラスチックコーティングを施したスチールワイヤーを用いた食器水切りラック「elfa」を考案しており、この技術がString®シェルフの基盤となりました。妻カイサの緻密な設計図面と細部の洗練が加わることで、ニッセのアイデアは完成度の高い製品として結実したのです。
黄金期──1950年代から1960年代
1950年にはニューヨークの国際連合本部ビルのオフィスにString®シェルフが大量導入され、国際的な評価を確立。1953年にはアクリル素材のサイドパネルを採用した「String Plex」が加わり、製品ラインが拡充されました。1954年にはミラノ・トリエンナーレで金メダルを受賞し、翌1955年にはヘルシンボリで開催された国際博覧会「H55」に出展。この博覧会は「スウェーデンデザイン」という概念が国際的に認知される契機となり、String®はその象徴的存在として注目を集めました。
1961年には複数の模倣品に対する訴訟を経てスウェーデン最高裁判所の判決によりデザインの特許が認められ、ドイツ市場向けにDeutsche Stringが設立されるなど、ヨーロッパ全域へと販路を拡大しました。String®システムはドイツにおいて最も売れたスカンジナビア家具となり、その地位は長年にわたり維持されました。
休止と復活──2004年のリブランディング
1970年代以降、ライフスタイルの変化に伴い需要が低迷し、一時は生産が途絶えていたString®。しかし2004年、スウェーデン南部ファルステルボ半島でインテリアショップを営むペーテル・エルランドソンと、そのビジネスパートナーであるポール・ヨセフソンがString®の製造・販売権を取得し、String Furniture ABを設立しました。二人はニッセとカイサ・ストリニング夫妻を訪ね、ブランド再興のビジョンを共有。夫妻の賛同を得て、ドイツに残っていた権利をスウェーデンに回収し、「100% Made in Sweden」ブランドとして再出発を果たしました。
2005年にはマルメのForm/Design Centerでオールホワイトのシェルフとウォールナット、オーク、ソリッドブラックの新仕上げを発表し、同年、ニッセ・ストリニング自らがデザインした最後の作品「String® Pocket」を発売。このコンパクトなウォールシェルフは瞬く間にベストセラーとなり、現在に至るまでブランドを代表する製品のひとつとなっています。ニッセ・ストリニングは2006年、89歳でこの世を去りましたが、自身のデザインが新たな世代に受け継がれるのを見届けることができました。
現代への展開──新コレクションとグローバル展開
2009年、String®はスウェーデン著作権法に基づく「応用芸術作品」に認定され、デザインアイコンとしての法的地位を確立しました。2011年以降は建築家アンナ・フォン・シェーヴェンと工業デザイナーのビョルン・ダールストロームとの協業により、メタルシェルフやアクセサリーの開発、2014年のオフィス家具コレクション「Works™」の発表など、製品領域を大幅に拡張。2018年には屋外用ガルバナイズド・コレクション「String® Outdoor」を発表するとともに、TAFスタジオがスウェーデン国立美術館のために設計したコンソールシェルフ「Museum™」が製品ラインに加わりました。
2023年にはオーレ・ピラが1954年に考案したシェルフシステムの現代的再解釈「Pira G2」をアンナ・フォン・シェーヴェンとビョルン・ダールストロームのデザインで発表。2024年にはTAFスタジオによるモジュラー収納システム「Relief」を発売し、引き出し収納やコートラックなど新たな製品カテゴリーへの展開を進めています。現在、String Furnitureはスカンジナビア諸国、西ヨーロッパを中心に、日本、米国、中国、韓国、オーストラリアなど世界40か国以上で販売されるグローバルブランドへと成長しています。
主なインテリアコレクション
String® System(ストリング システム)
1949年の誕生以来、ブランドの中核をなすモジュラー壁面シェルビングシステムです。特徴的なワイヤーパネル(サイドパネル)に棚板、キャビネット、引き出し、マガジンホルダー、フック、ロッドなど多彩なパーツを組み合わせることで、あらゆる空間と用途に対応する収納を構築できます。棚板は木製(オーク、ウォールナット、アッシュ突板)とメタル(パンチング加工あり)の2種類を用意し、幅と奥行きのバリエーションも豊富です。サイドパネルはワイヤータイプとプレックスタイプ(1954年にカイサとニッセが設計した透明パネル)の2種を展開し、異なる表情を演出します。公式ウェブサイトの3Dコンフィギュレーターを使えば、理想のシェルフを画面上でシミュレーションすることも可能です。
String® Pocket(ストリング ポケット)
2005年にニッセ・ストリニングが最晩年に手がけた、String®システムのミニチュア版ともいえるコンパクトなウォールシェルフです。2枚のサイドパネルと3枚の棚板がワンパッケージとなった完成品で、文庫本や小さな植物、お気に入りのオブジェを飾るのに最適なサイズ。ホワイト、ブラック、ベージュなどの定番カラーに加え、季節限定の鮮やかなカラーも展開されるなど、ギフトやインテリアのアクセントとしても高い人気を誇ります。2020年にはアンナ・フォン・シェーヴェンとビョルン・ダールストロームによるオールメタル仕様のPocketも登場しました。
Works™(ワークス)
2014年に建築家アンナ・フォン・シェーヴェンと工業デザイナーのビョルン・ダールストロームが設計したオフィス家具コレクションです。電動昇降デスク、プルアウト引き出し、自立型シェルフ、ファイリングキャビネットなどを備え、ホームオフィスから本格的なワークスペースまで、機能的かつ美しい仕事環境を実現します。特筆すべきは4本脚の電動昇降デスクで、String Furnitureはこの構造を採用する世界唯一のメーカーとされています。T字脚に比べ揺れが少なく安定性に優れ、木製天板とスチール脚の組み合わせにより、住宅空間にも自然に溶け込むデザインが特徴です。
Museum™(ミュージアム)
2018年のスウェーデン国立美術館(Nationalmuseum)リニューアルオープンに際し、TAFスタジオ(ガブリエラ・レンケ&マティアス・スタールボム)がNM&プロジェクトの一環としてデザインしたコンソールシェルフ「Museum NM&.045」に端を発するコレクションです。ダイキャストアルミニウムの繊細なフォルムと、オブジェを美術館のように"展示"するというコンセプトが評価され、製品ラインに昇格。その後、高さ調節可能なMuseum Sidetable、キャンドルホルダー、トロリー、ペデスタルなどが加わり、独自の存在感を持つシリーズへと発展しました。
Pira G2(ピラ G2)
スウェーデンのキャビネットメーカー、オーレ・ピラが1954年に考案したシェルフシステムを、アンナ・フォン・シェーヴェンとビョルン・ダールストロームが現代的に再解釈し、2023年に発表した自立型シェルビングシステムです。押出アルミニウムのジョイントとポール、スチールシート棚板で構成されるモジュラー設計は、棚板1枚あたり最大50kg、1セクションあたり最大350kgという高い耐荷重性能を実現。ウォールナットやホワイトオークのブックエンドが温かみを添え、空間の仕切りとしても活用できるセンターピース的存在です。2026年にはガラス扉のキャビネットが追加されるなど、進化を続けています。
Relief(レリーフ)
2024年にTAFスタジオがデザインした最新のモジュラー収納コレクションです。さまざまなサイズの引き出しチェスト、コートラック、シェルフで構成され、特徴的なエッジ処理が名前の由来となるレリーフ効果を生み出しています。ホワイト、グレーからビビッドなオレンジまで多彩なカラー展開が可能で、単体でも組み合わせでも使用でき、背面にもデザインが施されているため、壁付けだけでなく間仕切りとしても美しく機能します。スウェーデン国内でデザイン・製造されるサステナブルなプロダクトとして、フラットパック出荷による環境負荷低減も実現しています。
主なデザイナー
ニッセ・ストリニング&カイサ・ストリニング / Nisse & Kajsa Strinning
ニッセ・ストリニング(1917年−2006年)はスウェーデン・クラムフォシュ出身の建築家・デザイナー。ストックホルム王立工科大学で建築を学び、学生時代にプラスチックコーティングのワイヤーを用いた食器ラック「elfa」を考案したことで知られます。妻カイサ・ストリニング(1922年−2017年)もまた建築家であり、ニッセの着想を緻密な設計図面に落とし込む役割を担いました。1949年のボニエ書棚コンペティション優勝以降、ワイヤートレイ、ゴミ袋ホルダーなど日常の不便を解決するプロダクトを数多く手がけましたが、ニッセ自身が愛情を込めて「あの忌々しいシェルフ(the damned shelf)」と呼んだString®が、彼らの最大の遺産です。1951年にはストックホルムに共同建築事務所を設立し、1959年から一時スイスのローザンヌに移住。その間、カサラ、トーネット、ドイチェ・ストリングなど欧州企業へのデザイン提供も行いました。ニッセは2006年に89歳で逝去し、カイサは2017年に95歳で世を去りました。
アンナ・フォン・シェーヴェン&ビョルン・ダールストローム / Anna von Schewen & Björn Dahlström
建築家アンナ・フォン・シェーヴェン(1965年ストックホルム生まれ)と工業デザイナーのビョルン・ダールストロームは、それぞれ独立した活動を展開しながら夫婦としても協業するデザインデュオです。2011年からString Furnitureとの協業を開始し、メタルシェルフや各種アクセサリーの開発により「システムの中のシステム」と呼ばれる新たなプラットフォームを構築。2014年にはオフィス家具コレクション「Works™」を、2020年にはオールメタルのString® Pocketを発表。2023年にはオーレ・ピラのオリジナルデザインを現代的に再解釈した「Pira G2」を手がけるなど、ストリニング夫妻の遺産を深く理解したうえで、ブランドの新たな可能性を切り拓いています。
TAFスタジオ / TAF Studio
ガブリエラ・レンケとマティアス・スタールボムにより2002年にストックホルムで設立されたデザインスタジオ。インテリアデザインとプロダクトコンセプトの領域で活動し、従来の定義に捉われない「空間デザイン」のアプローチを特徴としています。2018年のスウェーデン国立美術館リニューアルに際し、胸像コレクション展示用のコンソールシェルフ「Museum NM&.045」をデザインしたことがString Furnitureとの関係の始まりとなりました。その後、Museum Sidetable、Museum Candleholder、そして2024年の新コレクション「Relief」を手がけ、ブランドの製品ポートフォリオの拡充に大きく貢献しています。
年表
- 1949年
- ボニエ書店主催の書棚デザインコンペティションに194作品の中からニッセ・ストリニング&カイサ・ストリニングのデザインが優勝。String®誕生
- 1950年
- ニューヨークの国際連合本部ビルのオフィスにString®シェルフが採用される
- 1953年
- アクリルパネルを使用した「String Plex」を発表
- 1954年
- ミラノ・トリエンナーレにて金メダルを受賞
- 1955年
- ヘルシンボリ国際博覧会「H55」に出展。スウェーデンデザイン運動の象徴として国際的注目を集める
- 1961年
- 模倣品訴訟においてスウェーデン最高裁判所がString®のデザインを支持。特許取得
- 1979年
- スウェーデン国立美術館の永久収蔵品に選定される
- 1999年
- ニッセ・ストリニングが「The Classic Prize」および「Excellent Swedish Design」賞を受賞
- 2004年
- ペーテル・エルランドソンとポール・ヨセフソンがString Furniture ABを設立。ブランドの再興と100% Made in Swedenの生産体制を確立
- 2005年
- ニッセ・ストリニング最後の作品「String® Pocket」をマルメのForm/Design Centerにて発表。オールホワイトモデルを発売
- 2009年
- スウェーデン著作権法に基づき「応用芸術作品」に認定される
- 2011年
- アンナ・フォン・シェーヴェン&ビョルン・ダールストロームとの協業を開始
- 2014年
- オフィス家具コレクション「Works™」を発表
- 2017年
- メタルコンポーネントの導入により、玄関やシューズ収納などへの用途が拡大
- 2018年
- スウェーデン国立美術館リニューアルに伴い、TAFスタジオによる「Museum™」コレクションが誕生。屋外用「String® Outdoor」を発表
- 2019年
- String®70周年。マッツ・テセリウスによる限定版String® Pocket(ガラス棚板)を発売
- 2020年
- 日本のグッドデザイン賞「ロングライフデザイン賞」受賞。「Furniture Supplier of the Year」を受賞
- 2023年
- オーレ・ピラの1954年デザインを再解釈した自立型シェルフ「Pira G2」を発表
- 2024年
- TAFスタジオによるモジュラー収納「Relief」コレクションを発売
基本情報
| ブランド正式名 | ストリング ファニチャー / String Furniture |
|---|---|
| 設立 | 2004年(String Furniture AB設立)/1949年(String®デザイン発表) |
| 創業者 | ペーテル・エルランドソン(Peter Erlandsson)、ポール・ヨセフソン(Pär Josefsson) |
| オリジナルデザイナー | ニッセ・ストリニング(Nisse Strinning, 1917–2006)、カイサ・ストリニング(Kajsa Strinning, 1922–2017) |
| 所在地 | スウェーデン マルメ(リムハムン) |
| 製造拠点 | スウェーデン国内4工場(スモーランド地方中心) |
| 展開国 | 40か国以上(スカンジナビア、西欧、ドイツ、フランス、英国、日本、米国、中国、韓国、オーストラリア等) |
| 主なコレクション | String® System、String® Pocket、Works™、Museum™、Pira G2、Relief、Centre Centre、String® Outdoor |
| 主な受賞歴 | ミラノ・トリエンナーレ金メダル(1954年)、グッドデザイン賞ロングライフデザイン賞(2020年)ほか国内外15以上の賞を受賞 |
| 公式サイト | https://www.stringfurniture.com |