Sibast Furniture(シバスト ファニチャー)― デンマークの木工家具の伝統を四世代にわたり継承する家族企業
Sibast Furniture(シバスト ファニチャー)は、1908年にデンマーク・フュン島の小村ステンストルプで創業した、北欧家具の歴史と共に歩み続ける家族経営の家具メーカーである。創業者ペダー・オルセン・シバストが興した小さな木工房は、息子ヘルゲ・シバストの卓越したデザインと職人技によって国際的な名声を獲得し、1950年代から60年代のデニッシュ・モダン黄金期において、120名を超える職人を擁するデンマーク有数の家具工場へと成長した。ホワイトハウスやローマ教皇庁にも家具を納入した実績を持つ同社の歴史は、デンマーク家具デザインの一つの到達点として語り継がれている。
1985年のヘルゲ・シバスト逝去後、一時は家族の手を離れた同社であったが、2013年に第四世代となる孫のディトレフ・シバストとその妻アンナ・シバストが、祖父のデザイン著作権を基盤としてブランドを復活させた。現在のSibast Furnitureは、ヘルゲ・シバストによる1950年代の名作チェアの忠実な復刻と、現代の新進デザイナーとの協働による新作とを両軸に据え、デンマークのデザイン遺産を次世代へ継承するコレクションを展開している。2025年にはデンマークの家具ブランド、ベント・ハンセン(Bent Hansen)を統合し、木工技術と張り地の技巧を融合させた新たな展開を見せている。
ブランドの特徴とコンセプト
Sibast Furnitureのコレクションを貫くのは、「時を超えるデザインは、素材への深い理解と卓越した職人技の融合から生まれる」という信念である。全製品をデンマーク国内で製造するという原則を堅持し、FSC認証を取得した持続可能な木材のみを使用することで、環境への配慮と品質の両立を図っている。
デザインの伝統と革新の両立
Sibast Furnitureは、ヘルゲ・シバストが1950年代に確立した彫刻的な木工デザインの伝統を基盤としながら、現代のデザイナーとの協働によって新たなデザインストーリーを紡ぎ出している。復刻製品においてはオリジナルの設計思想と職人技を忠実に継承し、新作においては同社の美学的DNAを受け継ぎつつ、現代の暮らしに応える機能性と表現を追求している。
木という素材への深い敬意
ヘルゲ・シバストは、木材の持つ可能性を極限まで引き出すことに生涯を捧げた。その精神は現在のコレクションにも脈々と受け継がれており、オーク、ビーチ、ウォールナット、チークといった厳選された無垢材を用い、素材の特性を最大限に活かした造形が特徴である。木の自然な風合いや経年変化を積極的に受け入れる姿勢は、同社の製品哲学の根幹をなしている。
サステナビリティへの取り組み
Sibast Furnitureにとって、持続可能性とは素材や製造方法のみにとどまらない概念である。世代を超えて受け継がれるほどの耐久性と、時代を超越する美的価値を備えた家具を生み出すこと自体が、最も本質的なサステナビリティであるとの考えに基づき、すべての製品が長く使い続けられることを前提に設計・製造されている。FSC認証木材の使用、SVLK・FLEGT認証チークの採用など、具体的な取り組みも進められている。
ブランドヒストリー
創業期(1908年〜1940年代)
1908年、キャビネットメーカーのペダー・オルセン・シバスト(P. Olsen Sibast)が、デンマーク・フュン島南部の村ステンストルプに小さな木工房「Sibast Møbler」を設立した。同年に生まれた息子ヘルゲ・シバストは、幼少期より父の工房で木工技術を学び、やがて父の事業を継承する。ペダーの代から、Sibast Møblerはデンマーク国内の顧客に高品質な木製家具を供給する事業者として着実に成長を遂げていった。
ヘルゲ・シバストの時代と国際的成功(1940年代〜1960年代)
1940年代に父ペダーが他界した後、ヘルゲは兄弟のオーレ(Ole)とエマ(Emma)と共に経営を引き継いだ。エマは経理と従業員の福利を、オーレは販売を、そしてヘルゲはデザイン・製品開発・生産の統括を担った。ヘルゲは木材という素材の可能性を大胆に追求する独自の感性を持ち、伝統的な木工の枠組みを超えた革新的なデザインを次々と生み出していった。
1950年代に入ると、家具デザイナーのアーネ・ヴォッダー(Arne Vodder)との協働を軸に、本格的な輸出事業を展開。ヴォッダーがデザインしたアームチェアやダイニングテーブル、サイドボードは主にアメリカ市場へ輸出され、大きな成功を収めた。ヘルゲ自身も1953年に、後にブランドの象徴となるSibast No 7、No 8、No 9の三脚のダイニングチェアを発表。この時期にはグレーテ・ヤルク(Grete Jalk)やクルト・ウスタヴィ(Kurt Østervig)、ボルゲ・ラメスコフ(Børge Rammeskov)といったデンマーク・デザイン界の著名なデザイナーとも協働している。
1950年代から60年代にかけて、Sibast Furnitureは120名以上の職人を擁するデンマーク有数の木製家具メーカーとなり、世界各地に製品を輸出した。アメリカのホワイトハウスやローマのヴァチカンにも家具を納品するなど、その品質と設計は最高水準の評価を受けていた。
転換期と家族の継承(1980年代〜2012年)
1980年代に入りデニッシュ・モダン家具への需要が変化する中、1984年にシバスト家は事業を売却した。翌1985年にヘルゲ・シバストが逝去し、一つの時代が幕を閉じた。しかしながら、シバスト家はヘルゲが手がけたデザインの著作権を賢明にも保持し続けた。この決断が、後のブランド復活の礎となる。
第四世代による復活(2013年〜現在)
2013年の春、ヘルゲの孫であるディトレフ・シバストとその妻アンナが、祖父が1953年にデザインしたSibast No 8チェアを再発見したことが契機となり、Sibast Furnitureの再興を決断した。ディトレフとアンナは、ヘルゲ・シバストの時代と同様のディテールへのこだわり、職人技の質、そしてデザインへの情熱をもってブランドを再構築し、祖父の名作の復刻に着手した。
現在のSibast Furnitureは、ヘルゲ・シバストの歴史的デザインの復刻・発展に加え、ピート・ハイン、カスパー・アイストルップ、ナヤ・ウッツォン・ポポフ、モーテン・アンカー、リッケ・フロスト、アスガー・ソルベアといった多彩なデザイナーとの協働を通じて、コレクションの幅を広げている。コペンハーゲン中心部にショールームを構え、世界各国のミシュラン星付きレストランや著名な建築プロジェクトにも採用されるなど、国際的な評価を高めている。
2025年には、張り地の技巧で知られるデンマークの家具ブランド、ベント・ハンセン(Bent Hansen)を買収・統合。プリムム・チェア(Primum Chair)をはじめとするベント・ハンセンのアイコニックなデザインがSibastコレクションに加わり、木工技術と張り地の職人技を融合させた、より包括的なデザイン体験の提供を目指している。
主なインテリアとその特徴
Sibast No 7 ダイニングチェア(1953年)
デザイナー:ヘルゲ・シバスト
Sibast Furnitureを代表するアイコニックなダイニングチェア。木材の成形技術の限界に挑んだ大胆な曲線を描くバックレスト(背もたれ)が最大の特徴であり、彫刻的な美しさと卓越した座り心地を両立させている。緩やかにテーパーした後脚が軽やかで優雅な印象を生み、座面が脚から浮き上がるような構造がクリーンかつシンプルな表情を与えている。FSC認証のオークまたはビーチ材を使用し、ソープ仕上げ、ナチュラルオイル、ホワイトオイル、ダークオイル、ホワイトピグメントラッカー、ブラック、スモークドオークなど多彩な仕上げが選択可能。座面はウッド、ファブリック張り、レザー張りの各バリエーションが用意されており、ラウンジチェアやコーヒーテーブルなど同系統の拡張コレクションも展開されている。ヘルゲ・シバストの設計哲学「椅子はテーブルの下に隠されるべきではない」を体現する、存在感ある一脚である。
Sibast No 8 ダイニングチェア(1953年)
デザイナー:ヘルゲ・シバスト
Sibast Furnitureの復活の原点となった名作チェア。特徴的なY字型のレッグ構造、浮遊するかのような座面、そして成形されたバックレストが織りなす大胆かつ複雑な造形は、高度な木工技術なくしては実現し得ないものである。ヘルゲ・シバストが工房で手ずから完成させたこのデザインは、時代や場所を超越する固有の美しさを持ち、世界中の家庭に迎え入れられた。2013年にディトレフとアンナによって最初に復刻が行われ、ブランド再興の象徴となった。なお、デンマーク人アーティスト、カスパー・アイストルップとの協働により、88脚限定の「Sibast No 8 Sunrise」エディションも製作されている。
Sibast No 9 ダイニングチェア(1953年)
デザイナー:ヘルゲ・シバスト
軽やかさと洗練されたスタイルを兼ね備えたダイニングチェア。浮遊する座面と、わずかに内側に傾斜した前脚が、正面から見たときにスリムでダイナミックな印象を生み出す。側面から見ると逆Y字型のフレームが際立ち、包み込むようなトップレールがこの椅子に独自のアイデンティティを与えている。50年以上にわたり生産が途絶えていたが、Sibast Furnitureのコレクションに再び加わり、ヘルゲ・シバストの飽くなき造形探求の新たな章を刻んでいる。
Sibast No 59 ダイニングチェア(1959年)
デザイナー:ヘルゲ・シバスト
2024年に復刻が発表されたヘルゲ・シバストによる1959年のデザイン。ミッドセンチュリーのエレガンスを現代に甦らせるアイコニックなチェアとして、コレクションの幅をさらに広げている。
Piet Hein チェア(1968年)
デザイナー:ピート・ハイン(Piet Hein, 1905-1996)
デンマークが誇る多才な芸術家・数学者ピート・ハインが、自身の代表作であるスーパー楕円テーブルのコンパニオンとして約10年の歳月をかけて完成させたダイニングチェア。オリジナルは1968年に完成したものの、当時は市場に出ることはなかった。Sibast Furnitureがハイン家との緊密な協力のもと、この極めてエレガントなチェアを初めて製品化した。スーパー楕円の形状を座面と背面に応用した薄い二重曲面のベニヤシェルは、視覚的な均衡と優れた座り心地を実現。スタッカブルなスチールフレームに取り付けられ、後方に角度のついた後脚が受容的な表情と安定性を両立させている。クロームエディションとブラックエディションが展開されている。
XLIBRIS シェルフ&ウォールデスク
デザイナー:カスパー・アイストルップ(Kasper Eistrup)
デンマークの著名なアーティスト、カスパー・アイストルップが約4年にわたり構想を温め、Sibast Furnitureとの協働で実現した壁掛け式のシェルフとデスクのシリーズ。日本の折り紙からインスピレーションを得た超薄型のシルエットと、ブラケットを一切使用しない自立型の構造が特徴である。見えるネジを一切排し、壁から自然に生え出たかのような印象を与える。ウォールデスクには隠しケーブルアウトレットが備わり、ラップトップやスマートフォンの接続を美しく処理する。側面には必要・機能・素材・職人技への愛を象徴する四つ葉のクローバー型真鍮エンブレムが取り付けられている。「XLIBRIS」の名は蔵書票(エクス・リブリス)に由来する。
RIB アウトドアコレクション
デザイナー:モーテン・アンカー(Morten Anker, 1978-)
デンマークのデザイン黄金時代への敬意を込めて設計されたアウトドア家具コレクション。高品質の認証コアチーク材とステンレススチールを使用し、化学薬品や人工着色料を一切使用しない持続可能な設計が特徴。ダイニングテーブル、ベンチ、ラウンジソファ、デイベッド、コーヒーテーブルなど、屋外空間を豊かにする包括的なラインナップを展開している。SVLK・FLEGT認証チークを使用し、長年にわたる屋外使用に耐える堅牢さを備えている。
Magnolia ベース
デザイナー:ナヤ・ウッツォン・ポポフ(Naja Utzon Popov)
シドニー・オペラハウスの設計者ヨーン・ウッツォンの孫であるデンマーク人陶芸家ナヤ・ウッツォン・ポポフが、マグノリアの花の上向きに伸びる動きからインスピレーションを得て制作したセラミックベース。楕円形のフォルムに傾斜した不規則な縁を持ち、花が自然に理想的な空間へ向かうよう設計されている。マットで触覚的な外面と滑らかな釉薬を施した内面の対比が美しく、ホワイトとブラックの2色展開。彫刻作品としても、フラワーベースとしても機能する。
Primum チェア
デザイナー:ベント・ハンセン
2025年のベント・ハンセン統合に伴いSibastコレクションに加わったダイニングチェア。彫刻的な快適さと張り地の専門性で知られるこのチェアは、構造・快適性・環境への責任を軸とした繊細なリファインメントを経て、現代の暮らしに寄り添う進化を遂げている。アルミニウムベースの新エディションも導入され、より軽やかな表現を実現している。
主なデザイナー
- ヘルゲ・シバスト(Helge Sibast, 1908-1985)
- Sibast Furnitureの第二世代であり、ブランドの美学的基盤を築いた人物。キャビネットメーカーにしてファニチャーアーキテクト。木材の可能性を極限まで追求する大胆な造形と、細部にまで行き渡る職人技への執念によって、Sibast No 7、No 8、No 9をはじめとする数々の名作を生み出した。「椅子はテーブルの下に隠されるべきではない」という信念を貫き、一脚ごとに膨大なスケッチを重ねて完璧を追求した。
- アーネ・ヴォッダー(Arne Vodder, 1926-2009)
- 20世紀デンマークを代表する家具デザイナーの一人。ヘルゲ・シバストと20年以上にわたる協働を行い、特にアメリカ市場向けの家具デザインを数多く手がけた。ローズウッドやチーク材を用いたサイドボード、エグゼクティブデスク(Model 207)、ダイニングチェアなどが高い評価を受け、ホワイトハウスやヴァチカンにも納品された。
- アンナ&ディトレフ・シバスト(Anna & Ditlev Sibast)
- 第四世代としてSibast Furnitureを率いる夫妻。ヘルゲ・シバストの孫であるディトレフと妻アンナは、2013年にブランドを復活させ、祖父のデザイン遺産を現代に継承しながら、新たなデザインストーリーを紡ぎ出している。ニューヨーク拠点のデザイナー、マーカス・ハニバルとの協働でSibast No 7ラウンジチェアを開発するなど、ヘリテージの敬意ある拡張を進めている。
- ピート・ハイン(Piet Hein, 1905-1996)
- デンマークが生んだ多才な芸術家・数学者・詩人。スーパー楕円™の発明者として広く知られ、その数学的天才と科学的アプローチを調和あるデザインに昇華させた。Sibast Furnitureでは、1968年に完成しながら長らく未製品化であったPiet Heinチェアが、ハイン家との協力のもと初めて製品として実現された。
- カスパー・アイストルップ(Kasper Eistrup)
- デンマークの著名なビジュアルアーティスト。9歳から絵画に親しみ、ドローイング、ペインティング、ミクストメディアを手がける。フレデリクスボー城の国立肖像画美術館での個展「Fragmentarium」や、デンマーク皇太子の肖像画制作でも知られる。Sibast FurnitureではXLIBRISシリーズをデザインし、Sibast No 8 Sunrise(88脚限定エディション)も手がけた。
- ナヤ・ウッツォン・ポポフ(Naja Utzon Popov, 1973-)
- コペンハーゲン生まれの陶芸家・彫刻家・テキスタイルデザイナー。シドニー・オペラハウスの建築家ヨーン・ウッツォンの孫であり、母リン・ウッツォン、父アレックス・ポポフという芸術家家系に育つ。ニューヨークのICFFでの大規模クレイ・インスタレーションがサックス・フィフス・アベニューに購入されるなど、国際的に高い評価を受けている。Sibast FurnitureではMagnoliaベースをデザイン。
- モーテン・アンカー(Morten Anker, 1978-)
- 約30年にわたりサステナブルなアウトドア家具を手がけてきたアンカー家の第二世代。デンマークのデザイン黄金時代への敬意を込めたRIBアウトドアコレクションをデザインし、持続可能な素材と時代を超えたデザインの融合を追求している。
- リッケ・フロスト(Rikke Frost, 1973-)
- デンマーク南ユトランド出身のインダストリアルデザイナー。素材とアイデアの対話としてデザインを捉え、時代性と永続性を兼ね備えた作品を生み出す。Sibast FurnitureではVidoテーブルをデザインしている。
- アスガー・ソルベア(Asger Soelberg)
- 正直な素材、豊かなフォルム、そして永続的な価値に真摯に向き合うデザイナー。デンマークの名門ホテル「ルーツ・ホテル」とSibast Furnitureの協業においてアスガー・チェアが中心的な役割を果たしている。
基本情報
| ブランド正式名称 | Sibast Furniture(シバスト ファニチャー) |
|---|---|
| 創業年 | 1908年(ブランド再興:2013年) |
| 創業者 | ペダー・オルセン・シバスト(P. Olsen Sibast) |
| 現経営者 | ディトレフ・シバスト(Ditlev Sibast)、アンナ・シバスト(Anna Sibast)=第四世代 |
| 創業地 | デンマーク・フュン島 ステンストルプ(Stenstrup) |
| ショールーム | Store Strandstræde 20, 1255 Copenhagen, Denmark |
| 製造国 | デンマーク(全製品デンマーク製) |
| 主な製品カテゴリ | ダイニングチェア、ラウンジチェア、バーチェア、オフィスチェア、ソファ、シェーズロング、ダイニングテーブル、ラウンジテーブル、サイドテーブル、デスク、サイドボード、シェルフ、セラミック、アウトドア家具、アクセサリー |
| 公式サイト | https://sibast-furniture.com/ |