Moooi(モーイ)― 美しさに「もうひとつのO」を加えて

Moooiは、オランダ語で「美しい」を意味する"mooi"に、さらなる美と独自性を象徴する余分な"o"を加えた名を冠するオランダ発のデザインブランドである。2001年、世界的デザイナーであるマルセル・ワンダース(Marcel Wanders)と起業家カスパー・フィッサース(Casper Vissers)によって設立されたこのブランドは、創業以来一貫して「予期せぬ歓び(A Life Extraordinary)」をテーマに掲げ、照明、家具、カーペット、壁紙、アクセサリーに至るまで、型破りで詩的なデザインプロダクトを世界に送り出してきた。

従来のモダンデザインの慣習にとらわれず、遊び心と大胆さ、そして洗練された美意識を同時に体現するMoooiのコレクションは、実寸大の馬をかたどったフロアランプから、3万枚の花弁で覆われたアームチェアまで、常に驚きと対話を生み出す存在感を放っている。現在80カ国以上で展開され、アムステルダム、ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、東京にショールームを構えるMoooiは、コンテンポラリーデザインの最前線において独自の地位を確立し続けている。

ブランドの特徴とコンセプト

「A Life Extraordinary」― 日常を非日常に変えるデザイン哲学

Moooiが掲げるブランドビジョン「A Life Extraordinary」は、単なるスローガンではなく、すべてのプロダクトに通底する哲学である。デザインとは愛の表現であるという信条のもと、Moooiは商業的な現実と文化的な関心の境界線上に位置するプロダクトを生み出すことを目指してきた。それは排他的であると同時に大胆で、遊び心にあふれながらも洗練された、そして独創的でありながら時代を超越する美を備えたコレクションの創造である。

アートディレクターを務めるマルセル・ワンダースは、ミニマリズムが支配するデザイン界にあって、装飾性と物語性の復権を一貫して主張してきた。彼の思想は、デザインファンダメンタリズムへの対抗として、過去の伝統を敬いつつも現代的な感性で再解釈するというアプローチに結実している。Moooiのプロダクトが「新しくなった瞬間に古くなる」ようなものではなく、はるか遠くから旅してきたかのような永続性を持つことを志向するのは、こうした哲学に基づいている。

デザイナーの夢を実現するプラットフォーム

Moooiの最大の特徴のひとつは、自社をデザイナーたちの才能が開花するプラットフォームと位置づけている点にある。商業的な製品企画を先行させて適任のデザイナーに発注するのではなく、まずデザイナーの声に耳を傾け、彼らの夢を実現するために全力を尽くすという姿勢が貫かれている。こうしたアプローチにより、世界各国の才能あふれるクリエイターたちとの協業が実現し、エクレクティック(折衷的)でありながら一貫した美意識に貫かれたコレクションが構築されてきた。

マルセル・ワンダースをはじめ、マールテン・バース、ベルトヤン・ポット、Front、ハイメ・アジョン、ニカ・ズパンツ、Neri&Hu、Studio Job、アンドレス・ライジンガーなど、コンテンポラリーデザインの第一線で活躍するデザイナーたちの作品が、Moooiのもとでひとつのファミリーを形成している。

伝統とテクノロジーの融合

Moooiのプロダクトは、伝統的なクラフツマンシップと先端テクノロジーの融合によって成り立っている。マルセル・ワンダース・スタジオが開発した独自技術「エレクトロサンドイッチ(Electrosandwich)」は、金属コーティング層を導電体として利用することで従来の配線を不要にし、極めて薄く繊細な照明器具の実現を可能にした。この技術はHeracleumシリーズに採用され、自然の植物のような有機的な構造美と最新のLED技術を両立させている。

また、デジタルアートから生まれたHortensia Armchairのように、仮想世界のデザインを物理的なプロダクトとして実体化するという試みも、Moooiの革新性を象徴している。さらに、高解像度デジタルプリント技術を駆使したカーペットコレクション「Moooi Carpets」や、Arteとの協業による壁紙コレクション「Extinct Animals」など、テクノロジーを駆使した表現の幅は年々広がりを見せている。

ブランドヒストリー

創業と国際デビュー(2001年)

Moooiの物語は、デザイナーのマルセル・ワンダースがランプシェードの販売パートナーを探してカスパー・フィッサースに声をかけたことから始まる。「情熱的なデザイナーとビジネスセンスを持つ男」と「デザインへの鋭い審美眼を持つマーケター」――二人は互いを完璧に補完し合い、2001年に均等な出資比率でMoooiを設立した。型破りなデザイナーたちと協働することを設立の趣旨に掲げ、同年のミラノサローネ・デル・モービレに初参加を果たし、国際的なデビューを飾った。ブランド名の「Moooi」は、オランダ語の"mooi"(美しい)に余分な"o"を加えたものであり、ドメインmooi.comがすでに取得されていたという実利的な理由も重なって生まれた名称であった。

成長と戦略的パートナーシップ(2002年〜2012年)

2002年、オフィス家具ブランドLENSVELTのオーナーであるハンス・レンスフェルトが33.3%の株式を取得し、Moooiに拠点となる施設と資金を提供した。ブレダの地にMoooiの本拠地が定まったのはこの時期である。その後、国際的なデザイン市場での存在感を急速に高め、2006年にはイタリアの名門家具ブランドB&B Italiaが50%の株式を取得した。B&B Italia会長ジョルジオ・ブスネリの慧眼により実現したこのパートナーシップは、Moooiのグローバル展開に大きな推進力を与えた。

2008年にはアムステルダムのヨルダーン地区に700平方メートルのフラッグシップショールーム兼ブランドストアをオープン。当初はMoooi Galleryの名で特別展示も開催していたが、2013年以降はMoooiのプロダクトに特化した空間として運営されている。B&B Italiaとの8年間のパートナーシップにおいて、Moooiの売上高は2006年の600万ユーロから2014年には2,300万ユーロへと飛躍的な成長を遂げた。

独立回復とさらなる拡大(2012年〜現在)

2012年、創業者のワンダースとフィッサースはB&B Italiaの保有株の半分およびレンスフェルトの残余株を買い戻し、75%の株式を回復して経営の主導権を再び掌握した。この決定は、Moooiの価値と将来性に対する創業者たちの確信を改めて示すものであった。2014年にはB&B Italiaからの残りの株式もすべて買い戻し、完全なる独立を果たした。

2015年にはカスパー・フィッサースがCEO職を退き、後任としてロビン・ベヴァース(Robin Bevers)が就任。同年、ニューヨークに初の海外フラッグシップショールームを開設した。その後もロンドン、ミラノ、東京とグローバルな拠点を拡大し、2019年にはSteelcaseとのパートナーシップを通じて北米のコントラクト市場への本格参入を果たしている。

近年はNFTやデジタルデザインの領域にも積極的に取り組み、製品認証アプリ「The Button」の導入など、テクノロジーを活用した新たなブランド体験の創出にも注力している。マルセル・ワンダースとロビン・ベヴァースの指導のもと、Moooiは「クリエイティブ・ラグジュアリー」の追求を続けている。

主なインテリアとその特徴

Random Light(ランダムライト)

ベルトヤン・ポット(Bertjan Pot)がデザインしたRandom Lightは、1999年の素材実験から生まれたMoooi最初期のアイコン的照明である。エポキシ樹脂を浸したグラスファイバーを膨らませた型の周りに手作業で巻きつけるという工芸的な手法で作られ、一つとして同じものが存在しない有機的な球体が特徴である。そのシンプルでありながら詩的な佇まいは、Moooiのデザイン哲学を凝縮したかのようなプロダクトであり、発表以来現在まで同ブランドの代表作のひとつとして愛され続けている。

Heracleum(ヘラクレウム)

ベルトヤン・ポットとマルセル・ワンダースの協働により生まれたHeracleumは、高さ5メートルにまで成長するセリ科の植物ハナウド属に着想を得たLEDペンダントライトである。一本の枝から分岐する白い葉のようなLEDレンズが自然な樹状構造を形成し、マルセル・ワンダース・スタジオが開発した独自技術「エレクトロサンドイッチ」により、金属コーティング層が従来の配線の役割を果たすことで極めて薄く繊細な意匠を実現している。オリジナルはアムステルダム市立美術館(Stedelijk Museum)のパーマネントコレクションに収蔵されており、Suspended、Linear、Big O、Endlessといった多彩なバリエーションが展開されている。

Horse Lamp(ホースランプ)

スウェーデンのデザインユニットFront(ソフィア・ラーゲルクヴィスト、アンナ・リンドグレン)によるHorse Lampは、実物の馬とほぼ同じスケールを持つ彫刻的なフロアランプである。高さ約225cm、幅約230cmという圧倒的なスケール感で、金属フレームにPVC/ビスコースラミネートを施した馬の頭上にラウンドシェードを載せたその姿は、メルヘンと狂気が同居するMoooiならではの遊び心を象徴している。ファニチャーデザインとアートの境界を超越する存在として、世界中のデザインアイコンとして広く認知されている。

Smoke Chair / Smoke Armchair(スモークチェア / スモークアームチェア)

オランダの鬼才デザイナー、マールテン・バース(Maarten Baas)の代表作であるSmokeシリーズは、実際の家具を焼き焦がした後に透明樹脂でコーティングするという衝撃的な手法で制作される。炭化した木材の表面が持つ荒々しくも美しいテクスチャーは、破壊と創造、消失と保存という相反する概念の融合を体現している。バースの卒業制作「Smoke」プロジェクトに端を発するこのシリーズは、デザインの概念を根本から問い直すMoooiのスピリットを象徴するプロダクトである。

Raimond(レイモンド)

独学のデザイナー、レイモンド・プッツ(Raimond Puts)が約40年にわたる研究の末に完成させたRaimondは、バックミンスター・フラーの測地線ドームに着想を得た球体ペンダントライトである。ステンレススチールのストリップを三角メッシュ状に編み上げた構造体が電流の導体としても機能し、無数のLEDが星のように輝く幻想的な光を全方向に放つ。機械工学的な精緻さと宝石のような美しさを併せ持つこの照明は、Moooiのコレクションにおいて独自の存在感を放ち続けている。

Hortensia Armchair(ホルテンシアアームチェア)

アルゼンチン出身のアーティスト兼デザイナー、アンドレス・ライジンガー(Andrés Reisinger)がプロダクトデザイナーのフリア・エスケ(Júlia Esqué)と協働して実現したHortensia Armchairは、デジタルデザインの物理的実体化という新たな潮流を象徴する作品である。2018年にInstagram上で公開されたデジタルレンダリングが瞬く間にバイラルとなり、NFTデザインの先駆けともなったこの作品は、30,000枚以上のレーザーカットされた花弁状テキスタイルで覆われ、アジサイの花のなかに包まれるような座り心地を実現している。

Extinct Animals(エクスティンクトアニマルズ)コレクション

Arteとの協業により生まれたExtinct Animalsコレクションは、絶滅した10種の動物たちを精緻なデジタルプリントで蘇らせた壁紙、カーペット、ファブリックのシリーズである。ドードー鳥、ナマケモノ、タツノオトシゴなど、失われた生き物たちが幻想的な植物の茂みに潜む様子が描かれ、自然の予期せぬ多様性への賛歌と、その喪失への静かな哀悼が表現されている。このコレクションはMoooiのライフスタイルブランドとしての領域拡張を象徴するシリーズとして高い評価を得ている。

その他の注目プロダクト

Moooiのコレクションには、このほかにも多くの注目すべきプロダクトが存在する。ロン・ギラッド(Ron Gilad)による無数のランプアームが放射状に広がるシャンデリア「Dear Ingo」、BMWのヘッドライトを用いたベルンハルト・デッセッカー(Bernhard Dessecker)の「Iconic Eyes」、小鳥が枝に止まる姿を再現したウムット・ヤマチ(Umut Yamac)の「Perch Light」シリーズ、マルセル・ワンダースによるモンスターの愛嬌を持つ「Monster Chair」、ニカ・ズパンツ(Nika Zupanc)のエレガントな「Lolita」ランプや「Knitty Lounge Chair」、そしてヨースト・ファン・ブレイスウィック(Joost van Bleiswijk)のネジも接着剤も使わない「No Screw No Glue」シリーズなど、各デザイナーの個性が際立つ作品群がMoooiの世界を彩っている。

主なデザイナー

マルセル・ワンダース(Marcel Wanders)
1963年オランダ・ボクステル生まれ。Moooiの共同創業者であり、アートディレクター兼メインデザイナー。1996年にドローグデザインのために制作したKnotted Chairで国際的な注目を集め、2000年にアムステルダムにMarcel Wanders studioを設立。Moooiにおいては、Love Sofa、Monster Chair、Oblique Shelf、Kisss Chairなどを手がけるとともに、ブランド全体のクリエイティブビジョンを統括している。人間主義的でロマンティックなデザインアプローチを持ち、歴史的な影響と革新的な素材の融合を信条としている。
ベルトヤン・ポット(Bertjan Pot)
1975年オランダ生まれ。1999年の素材実験から生まれたRandom LightでMoooiの最初期のアイコンを生み出した。技術、構造、パターン、色彩への探究心に基づくプロダクトデザインを展開し、HeracleumシリーズやProp Lightなど、Moooiの照明コレクションの核を成す作品を多数手がけている。
Front(フロント)
ソフィア・ラーゲルクヴィストとアンナ・リンドグレンによるスウェーデンのデザインデュオ。動物の行動や自然現象からインスピレーションを得た独創的なプロダクトで知られ、MoooiではHorse Lamp、Rabbit Table Lamp、Pig Table、Blow Away Vase、Chess Tableなど、遊び心と驚きに満ちた作品を数多く発表している。
マールテン・バース(Maarten Baas)
1978年ドイツ生まれ、オランダ育ちのデザイナー。デザイン・アカデミー・アイントホーフェンの卒業制作として家具を焼き焦がすSmokeプロジェクトを発表し、デザイン界に衝撃を与えた。MoooiのSmoke Chair、Smoke Armchairは、機能と芸術表現の境界を問い直す象徴的なプロダクトとして高い評価を受けている。
レイモンド・プッツ(Raimond Puts)
独学のデザイナーとして約40年にわたり幾何学的構造の研究を重ね、その集大成としてRaimondペンダントライトを完成させた。バックミンスター・フラーの測地線ドームに着想を得た繊細な球体構造は、Moooiコレクションの中でも唯一無二の存在感を放っている。
ハイメ・アジョン(Jaime Hayon)
1974年スペイン・マドリード生まれ。アートとデザインの境界を自在に行き来する多才なクリエイターであり、MoooiではElementsテーブルシリーズなどを手がけている。
ニカ・ズパンツ(Nika Zupanc)
スロベニア出身の女性デザイナー。フェミニンでありながらも力強いデザインアプローチで知られ、MoooiではLolita Lamp、Knitty Lounge Chairなどの作品を発表。ロマンティシズムとモダニズムの融合を体現している。
アンドレス・ライジンガー & フリア・エスケ(Andrés Reisinger & Júlia Esqué)
デジタルアーティストのライジンガーとプロダクトデザイナーのエスケによる共作から、Moooiの新時代を象徴するHortensia Armchairが誕生した。デジタルデザインを物理的プロダクトとして実体化するという革新的なアプローチは、デザインの新たな可能性を切り拓くものとして国際的に注目を集めている。
ウムット・ヤマチ(Umut Yamac)
トルコ出身のデザイナー。自然界の動きと詩的な造形を融合させたPerch Lightシリーズにより、Moooiコレクションに独自の物語性をもたらしている。枝に止まる鳥がゆらゆらと揺れる姿を再現した照明は、技術的な精密さと有機的な美しさを兼ね備えている。

Moooiの写真表現とブランドコミュニケーション

Moooiは、プロダクトのプレゼンテーションにおいてもその独創性を遺憾なく発揮してきた。2001年の初のミラノサローネ参加以来、写真家エルヴィン・オラフ(Erwin Olaf)との継続的なコラボレーションを通じて、「Naked Portraits」(2002-2006年)、「Super Heroes」(2007-2008年)、「Luxury Accessories」(2008年)、「Inside the Box」(2012年)といった一連のビジュアルプロジェクトを展開してきた。2014年にはマッシモ・リストリ(Massimo Listri)、2015年にはラヒ・レズヴァニ(Rahi Rezvani)との協働も実現している。プロダクトフォトグラフィーの域を超え、アートとしての完成度を追求するこうしたアプローチは、Moooiのブランドコミュニケーションの核心を成すものである。

基本情報

ブランド正式名称 Moooi(モーイ)
設立 2001年
創業者 マルセル・ワンダース(Marcel Wanders)、カスパー・フィッサース(Casper Vissers)
現経営陣 マルセル・ワンダース(アートディレクター)、ロビン・ベヴァース(Robin Bevers / CEO)
本社所在地 Minervum 7003, 4817 ZL Breda, オランダ
事業内容 照明、家具、カーペット、壁紙、アクセサリー、寝具・バスコレクションの企画・製造・販売
展開国数 80カ国以上
主要ショールーム アムステルダム、ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、東京、ブレダ(本社)
日本総代理店 株式会社トーヨーキッチンスタイル(TOYO KITCHEN STYLE)
日本国内ショールーム 東京(南青山)、名古屋、大阪、京都、福岡、仙台、金沢、米子、神戸ほか
パートナーシップ Steelcase(北米コントラクト市場)、Arte(壁紙コレクション)、Royal Delft(デルフトブルータイル)
公式サイト https://www.moooi.com
日本公式サイト https://moooi.co.jp