カイ・ボイスン・デンマーク(Kay Bojesen Denmark)は、デンマークが世界に誇るデザインブランドのひとつであり、木工芸とシルバースミスの伝統を礎に、世代を超えて愛され続ける作品を生み出してきました。その名は、20世紀デンマークを代表する銀細工師・デザイナーであるカイ・ボイスン(1886–1958)に由来します。「優れたデザインは、すべての人に届くべきものである」という創業者の信念のもと、1932年にコペンハーゲンで設立されて以来、温かみのある木製フィギュアから格調高いカトラリーまで、機能美とユーモアを併せ持つ製品の数々を世に送り出しています。

チーク材とリンバ材で仕立てられたウッドモンキーは、デンマークのデザイン文化を象徴するアイコンとして世界中で親しまれ、1951年のミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞したカトラリーシリーズは「デンマークの国民的カトラリー」と称されています。遊び心と職人技、そして素材への敬意を貫くカイ・ボイスン・デンマークの世界は、子どもから大人まで、暮らしに豊かな物語を届けてくれます。

ブランドの特徴・コンセプト

カイ・ボイスン・デンマークのデザイン哲学は、創業者カイ・ボイスンが生涯を通じて追求した三つの理念に集約されます。第一に、「線は微笑まなければならない(Lines must smile)」という造形思想です。彼が手がけるすべてのプロダクトには、柔らかく丸みを帯びたフォルムが与えられ、手に取る人の心にぬくもりを伝えます。第二に、「優れたデザインはすべての人のもの(Good design is something everyone is entitled to)」という民主的な精神です。シルバーカトラリーをステンレススチールでも展開し、高い品質を保ちながらより多くの家庭に届けるという姿勢は、北欧デザインの根幹に通じるものです。そして第三に、「木に物語を与える」という創造の原点です。カイ・ボイスンは、木は物語を得て初めて命を宿すと信じ、動物やフィギュアのひとつひとつに個性と表情を吹き込みました。

現在、ブランドの木製フィギュアシリーズはローゼンダール・デザイン・グループ(Rosendahl Design Group)が製造・販売を担い、シルバーおよびスチール製品はカイ・ボイスンの孫娘スス・ボイスン・ローゼンクヴィストが2011年に設立したKay Bojesen ApSが展開しています。いずれも創業者のデザイン遺産を敬い、サステナブルな素材選定とデンマーク国内での手作業による生産を維持しながら、伝統と革新の融合を追求しています。製品の多くにはFSC認証木材が使用されており、環境への配慮も重視されています。

ブランドヒストリー

銀細工師としての出発(1886–1919)

カイ・ボイスンは1886年8月15日、コペンハーゲンに生まれました。父エルンスト・ボイスンは著名な出版社ギュルデンダール(Gyldendal)の共同創業者であり、幼少期から創造的な環境のなかで育ちました。商人の見習いを経た後、1906年にデンマークを代表する銀細工師ゲオルグ・イェンセンの工房に弟子入りし、銀細工の技法を本格的に学びます。1910年に銀細工師としての資格を取得したのち、ヨーロッパ各地を遊学し、機能主義(ファンクショナリズム)の思想に深い感銘を受けました。

1913年、コペンハーゲンのニューブロゲーデ14番地に自身の銀細工工房を開設。同年、コペンハーゲン金銀細工師ギルドに加入し、ハンス・テグナーがデザインしたボイスン家の紋章「波間に浮かぶブイ」を商標として登録しました。この意匠は現在もブランドのロゴとして受け継がれています。

木工への情熱と店舗の開設(1919–1940)

1919年に結婚し息子オットーが誕生すると、カイ・ボイスンの関心は子どもの世界へと広がりました。幼少期に父が木のフィギュアを削ってくれた記憶に導かれ、1920年代から木製玩具の制作に着手します。1931年には、デンマークおよび北欧デザインの精華を紹介する展示販売施設「デン・ペルマネンテ(Den Permanente)」の設立に中心的役割を果たしました。

1930年代半ば、コペンハーゲンのブレッドゲーデ47番地の地下にブティック兼工房を開設。開店日には入口の窓ガラスが割れるほどの人だかりができたと伝えられるほど、木製玩具をはじめとする製品は大きな評判を呼びました。1934年には最初の木製動物フィギュアであるダックスフント(犬のピン)を発表し、1938年には工芸美術館で個展を開催。ここで初めて公開されたシルバーカトラリーは、機能主義の可能性を体現する作品として高い注目を集めました。

国際的評価と名作の誕生(1940–1958)

1940年、クリスチャン10世の70歳の誕生日を祝して、デンマーク王室衛兵をモチーフにした木製兵隊フィギュアを制作しました。旗手、太鼓手、小銃兵、サーベルを持つ士官からなるこのシリーズは、デンマークの国民的シンボルとして広く親しまれるようになります。

1951年、建築家スティーン・アイラー・ラスムッセンとの子ども家具展のために制作されたウッドモンキーが初公開されました。もともと子ども用コートフックとしてデザインされたこの作品は、チーク材とリンバ材を組み合わせた31のパーツから成り、やがてデンマークデザインの象徴的存在となります。同年、シルバーカトラリーがミラノ・トリエンナーレ第9回展でグランプリ(最優秀賞)を受賞し、以後このカトラリーシリーズは「Grand Prix」の名で呼ばれるようになりました。1953年にはマットステンレススチール版が発売され、広く一般家庭にも普及しました。

カイ・ボイスンは1958年8月28日、72歳で逝去。生涯に2,000点以上のデザインを残し、デンマーク王室御用達の称号を授与された、デンマーク工芸史における偉大な存在でした。

遺産の継承と現在(1958–現在)

カイ・ボイスンの死後、妻のエルナ・ボイスンが1986年の逝去まで店舗を運営しました。1991年、木製デザインおよびスチール製グランプリカトラリーの製造権がエリック・ローゼンダールに譲渡され、以後ローゼンダール・デザイン・グループがウッドフィギュアの生産を担っています。

2011年には、カイ・ボイスンの孫娘スス・ボイスン・ローゼンクヴィストがKay Bojesen ApSを設立し、祖父のシルバーアーカイブに基づく銀製品・スチール製品のリデザインと販売を開始しました。グランプリカトラリーはポリッシュドスチール仕上げが追加され、現在では世界各国のデンマーク大使館、ミシュラン星付きレストラン、そして数多くの家庭で使用されています。ブランドは70年以上にわたりデンマーク王室御用達の称号を保持しており、その品質と伝統は今日も揺るぎないものとなっています。

主なプロダクトとその特徴

ウッドモンキー / Wooden Monkey(1951年)

カイ・ボイスン・デンマークを象徴する最も有名な作品です。チーク材とリンバ材の2色使いで構成された31のパーツを、デンマーク国内の工房で手作業により組み上げています。もともと子ども家具展のためのコートフックとして生まれたこのモンキーは、長い腕で棚やフックに掛けることができ、子ども部屋からリビングまで幅広い空間で愛される存在となりました。茶目っ気のある表情とユーモラスなプロポーションは、カイ・ボイスンの「線は微笑まなければならない」という哲学を体現しています。1950年代にはロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館にも展示されました。現在はミニ、スモール、ミディアム、ラージの4サイズで展開されており、デンマークではクリステニング(洗礼式)や誕生日の贈り物として世代を超えて選ばれ続けています。プランテーションチーク材を使用し、時を経るにつれて均一なゴールデンブラウンへと美しく変化する経年変化も魅力のひとつです。

グランプリ カトラリー / Grand Prix Cutlery(1938年発表)

1938年にシルバーで制作され、コペンハーゲンの工芸美術館(現デンマーク・デザインミュージアム)での個展で初公開されたカトラリーシリーズです。57種類もの多彩なアイテムで構成された銀製カトラリーは、1951年のミラノ・トリエンナーレ第9回展でグランプリ(最優秀賞)を受賞し、その栄誉にちなんで「Grand Prix」と命名されました。1953年にマットステンレススチール版、2011年にポリッシュドステンレススチール版が追加され、現在は各仕上げで32種類のアイテムを展開しています。有機的な曲線と端正なフォルムを兼ね備え、手にしっくりと馴染む人間工学的な設計が特徴です。食卓の主役である料理を引き立てるよう、控えめでありながら確かな存在感を放つデザインは、カイ・ボイスンの機能主義の真髄を伝えています。世界各国のデンマーク大使館に採用されていることから、「デンマークの国民的カトラリー」として広く知られています。

デンマーク王室衛兵 / Royal Danish Guards(1940年)

1940年、クリスチャン10世の生誕70周年を記念して制作された木製フィギュアシリーズです。アマリエンボー宮殿の衛兵交代式に着想を得た旗手、太鼓手、小銃兵、サーベルを持つ士官の4体からなり、制作翌年の1942年に本格的な量産が開始されました。赤と青を基調とした彩色が施されたこの衛兵たちは、デンマークの国民的シンボルとして深く愛され、クリスマスの飾りとしても広く親しまれています。

木製動物フィギュアシリーズ / Wooden Animals

1934年のダックスフント(ドッグ・ピン)を皮切りに、カイ・ボイスンは生涯にわたって動物フィギュアのデザインを追求しました。オーク材のエレファント、オーク材とメイプル材のベア、ビーチ材のロッキングホース、パロット、ラビットなど、素朴でありながら個性豊かなキャラクターが揃います。いずれも手足が動く関節構造を持ち、子どもの遊び道具としてもインテリアオブジェとしても楽しむことができます。カイ・ボイスンは動物の忠実な再現ではなく、子どもの想像力を刺激する「笑顔のある線」で構成された、独自の造形を追求しました。近年では、廃材を活用した「リワークド(Reworked)」シリーズや、FSC認証ビーチウッドを使用したヴィンテージカラーのモンキーなど、サステナビリティに配慮した新たな展開も進められています。

ソングバード / Songbirds

1950年代にカイ・ボイスンがデザインしながらも生前には生産されなかった鳥のフィギュアシリーズです。ボイスン家のアルバムから発見された写真と、画家の攪拌棒に貼り付けられていた小さな鳥の原型をもとに、のちにソングバード、ラブバード、ミニスパロウなどの多彩なバリエーションとして復刻されました。鮮やかな色彩が特徴で、カイ・ボイスンの遊び心と色彩感覚を現代に伝えるコレクションです。

メナジェリシリーズ / Menageri Series

1940年代にカイ・ボイスンがデザインしたキッチン・テーブルウェアのシリーズを現代に蘇らせたコレクションです。オーク材を主素材とし、ペッパーミル、ソルトセラー、サービングディッシュ、エッグカップ、オイル&ビネガーボトル、コルクスクリューなど、食卓を豊かに彩るアイテムが揃います。木製フィギュア同様、有機的で手になじむ丸みのあるフォルムが特徴であり、日常使いから特別な食卓まで幅広いシーンに調和します。

シルバーウェア・スチールウェア

Kay Bojesen ApSでは、創業者のシルバーアーカイブに基づき、キャンドルスティック、アイスバケット、NESTボウル、グラスウェア、トレイなどのテーブルウェアやバー用品を展開しています。ポリッシュドステンレススチールやシルバーを用い、カイ・ボイスンが愛した素材の光沢と滑らかな表面を現代の暮らしに届けています。いずれの製品もカイ・ボイスンが生前にデザインした原図や原型を起点としており、機能主義の精神と洗練された美意識が息づいています。

主なデザイナー

カイ・ボイスン / Kay Bojesen(1886–1958)

デンマーク・コペンハーゲン生まれの銀細工師・デザイナー。ゲオルグ・イェンセンのもとで修業を積んだのち、機能主義に傾倒し、デンマーク工芸の近代化に大きく貢献しました。生涯に2,000点以上のデザインを手がけ、木製玩具、シルバーカトラリー、テーブルウェア、子ども用家具、ジュエリーなど、その創作領域は多岐にわたります。「デン・ペルマネンテ」の共同設立者のひとりであり、デンマーク王室御用達の称号を授与されるなど、同国のデザイン文化の発展に不可欠な足跡を残しました。「玩具は素朴で丈夫で、遊びを促すものでなければならない」「丸くて柔らかく、手に持って心地よいものを」という彼の言葉は、今日のブランドの基盤を成しています。

スス・ボイスン・ローゼンクヴィスト / Sus Bojesen Rosenqvist

カイ・ボイスンの末孫にあたり、2011年にKay Bojesen ApSを設立。祖父のシルバーアーカイブの権利を継承し、グランプリカトラリーのシルバー・スチール版の再発売をはじめ、アーカイブに眠るデザインを現代の素材・サイズ・用途に合わせてリデザインする取り組みを進めています。カイ・ボイスンの機能主義的デザイン哲学と品質基準を守りながら、コーポレートギフト、ホスピタリティ分野での展開も積極的に推進しています。

基本情報

ブランド正式名 カイ・ボイスン・デンマーク / Kay Bojesen Denmark
創業年 1932年(カイ・ボイスンがコペンハーゲンに店舗を開設)
創業者 カイ・ボイスン(Kay Bojesen、1886–1958)
所在地 デンマーク・コペンハーゲン
木製フィギュアの製造・販売 ローゼンダール・デザイン・グループ(Rosendahl Design Group)
シルバー・スチール製品の製造・販売 Kay Bojesen ApS(2011年設立、CEO: スス・ボイスン・ローゼンクヴィスト)
ショールーム Nikolaj Plads 7, 1067 Copenhagen(予約制)
王室御用達 デンマーク王室御用達(70年以上継続)
公式サイト(Kay Bojesen ApS) https://kaybojesen.com/
公式サイト(Rosendahl Design Group) https://www.rosendahl.com/