ファーバーカステルについて

1761年、ドイツ・ニュルンベルク郊外の小さな町シュタインで、家具職人カスパー・ファーバーが鉛筆の製造を始めたことに端を発するファーバーカステルは、260年以上にわたり筆記具・画材の世界を牽引し続けてきた、現存する世界最古級の産業企業のひとつです。伯爵家が9世代にわたって経営を継承するという稀有な歴史を持ち、その製品はフィンセント・ファン・ゴッホやカール・ラガーフェルドといった錚々たる芸術家・クリエイターたちに愛用されてきました。

六角形鉛筆の長さ・太さ・硬度の世界基準を確立し、ドイツにおける商標法制定の契機を生んだファーバーカステルは、単なる筆記具メーカーの枠を超え、「書く」「描く」という人間の根源的な創造行為を支える文化的存在として、世界120カ国以上で事業を展開しています。ブラジルに8,200ヘクタールの自社管理森林を有し、サステナビリティの先駆者としても高い評価を受ける同社の歩みは、品質への飽くなき追求と、次世代を見据えた長期的視座の結晶にほかなりません。

ブランドの特徴・コンセプト

ファーバーカステルのブランド哲学は、「Creativity for Life(創造性のある人生)」という理念に集約されます。筆記具や画材を通じて人々の創造力を喚起し、自己表現を支援するという使命のもと、プロフェッショナルのアーティストから子どもたちまで、あらゆる年齢層・技術レベルのユーザーに向けた幅広い製品群を展開しています。

品質と伝統の継承

ファーバーカステルの製品を貫く最大の特徴は、260年以上にわたって培われてきた妥協なき品質基準です。19世紀にローター・フォン・ファーバーが確立した鉛筆の長さ・太さ・硬度の規格は、150年以上を経た現在も世界標準として機能しています。厳選された原材料、独自のSVボンディング技術による折れにくい芯、水性エコ塗料の使用など、細部にわたるこだわりが製品の随所に表れています。

サステナビリティへの先駆的取り組み

ファーバーカステルにとって、サステナビリティは近年のトレンドではなく、企業文化に深く根差した価値観です。1980年代からブラジルにおいて持続可能な森林経営プロジェクトを開始し、現在では約8,200ヘクタール(サッカー場約11,000面分)の森林を自社管理しています。この森林では722種の動物が生息する生態系が保全されており、国連においてもその取り組みが紹介されました。本社シュタインでは1956年以来水力発電を活用し、各国の生産拠点でも太陽光発電やバイオマスエネルギーの導入を進めるなど、再生可能エネルギーへの転換を積極的に推進しています。

二つのブランドライン

ファーバーカステルは、大きく二つのブランドラインで製品を展開しています。ひとつは、鉛筆・色鉛筆・画材を中心とする「ファーバーカステル」ライン。カステル9000番やポリクロモス色鉛筆、ピットアーティストペンなど、プロフェッショナルからホビーユーザーまで幅広い層に支持される製品群です。もうひとつは、1993年にアントン・ヴォルフガング・フォン・ファーバーカステル伯爵によって創設された「グラーフ・フォン・ファーバーカステル」ライン。エボニー、ペルナンブコ、グラナディラといった希少な天然木材や貴金属、プレシャスレジンを用いた高級筆記具・レザーアクセサリーを展開し、「書く」行為をラグジュアリーな体験へと昇華させています。

ブランドヒストリー

創業と黎明期(1761年〜1839年)

1761年、家具職人カスパー・ファーバーがニュルンベルク郊外のシュタインに小さな鉛筆工房を構えたことが、ファーバーカステルの歴史の始まりです。当時の鉛筆は純粋な黒鉛を木軸に挿入した素朴なものでしたが、カスパーは黒鉛の脆さを克服するため、粉砕した黒鉛に硫黄やアンチモン、樹脂を混合する改良を1771年に試みました。1784年に息子アントン・ヴィルヘルムが事業を継承し、「A.W.ファーバー」として法人化。父の蓄えをもとに新たな拠点を取得し、現在も本社が所在する場所に製造拠点を構えました。

ローター・フォン・ファーバーの革新(1839年〜1896年)

ファーバーカステルの歴史において最も重要な人物のひとりが、第4代当主ローター・フォン・ファーバーです。1839年に経営を引き継いだローターは、製造する全製品に「A.W.FABER」の刻印を施すことを決断。これは世界で初めてのブランド商品の誕生とされています。1851年には鉛筆の長さ・太さ・硬度の基準を確立し、六角形デザインの鉛筆を発表。この規格は現在も世界中で使用されています。

ローターは国際展開にも精力的に取り組み、1849年にニューヨーク、ロンドン、パリに海外法人を設立。その後ウィーン(1872年)やサンクトペテルブルク(1874年)にも進出しました。自社ブランドの模倣品に悩まされたローターは、ドイツ帝国議会に商標保護を請願。これが1875年のドイツ商標保護法制定につながり、近代的な商標法の礎となりました。事業の成功により、1881年にバイエルン王国から男爵の爵位を授与されています。

ファーバーカステル伯爵家の誕生(1898年〜1928年)

ローターの一人息子ヴィルヘルムが1893年に早世し、孫娘オッテリー・フォン・ファーバーが後継者となりました。1898年、オッテリーはバイエルンの名門貴族アレグザンダー・ツー・カステル=リューデンハウゼン伯爵と結婚。ファーバーの名を残すことを遺言していたローターの意志に従い、バイエルン王室の承認のもと両家の姓を合わせて「ファーバーカステル伯爵家」が誕生し、社名もファーバーカステルと改められました。

アレグザンダー伯爵のもとで、1905年に世界で最も有名な鉛筆のひとつとなる「カステル9000番」が発売されました。緑色に塗装された六角形の木軸に「Faber-Castell」の文字と馬上で槍代わりの鉛筆を交える二人の騎士のロゴが刻印されたこの鉛筆は、以後100年以上にわたりブランドの旗艦製品として君臨することになります。緑色はアレグザンダーの所属する軍の連隊旗に由来し、騎士のモチーフは彼が依頼した絵画から着想を得たものです。1908年には、現在も生産が続く「ポリクロモス色鉛筆」が発売されました。

激動の時代(1928年〜1978年)

1928年、アレグザンダーの息子ローランド・フォン・ファーバーカステル伯爵が第7代当主に就任しました。大恐慌という困難な時代のなか、ローランドは1932年にローター・ファーバーの弟が創業したライバル企業ヨハン・ファーバーとの提携を開始。1942年までに完全買収を実現し、人気の「ゴールドファーバー」色鉛筆ラインを傘下に収めました。また、万年筆メーカーのオスミアも買収しています。

第二次世界大戦中、ナチス政権によりシュタイン城が接収され、ローランドは軍に徴兵されるなど多くの困難に直面しましたが、妻ニーナが会社を個人経営に転換して経営権を守り抜きました。戦後は国際展開を加速し、アイルランド、オーストリア、ブラジル、ペルー、オーストラリア、アルゼンチンに進出。シャープペンシル、ボールペン、製図用インクペンなど新たな製品カテゴリーへも展開を広げました。

現代のファーバーカステル(1978年〜現在)

1978年、アントン・ヴォルフガング・フォン・ファーバーカステル伯爵が第8代当主に就任。不採算事業の整理と製品ラインの最適化を断行するとともに、1980年代にはブラジルでの持続可能な森林経営プロジェクトを開始し、環境先進企業としての道を切り拓きました。1993年には高級筆記具ブランド「グラーフ・フォン・ファーバーカステル」を創設。2003年からは毎年限定版の「ペン・オブ・ザ・イヤー」を発表し、筆記具をコレクターズアイテムの領域へと押し上げました。

2016年にアントン・ヴォルフガング伯爵が逝去した後、第9世代のシャルル・フォン・ファーバーカステルが「グラーフ・フォン・ファーバーカステル」部門を統括。現在、CEOのシュテファン・ライツのもと、約6,200名の従業員を擁し、世界14の工場と20の販売拠点を展開しています。年間約20億本以上の鉛筆・色鉛筆を生産する世界最大の木軸鉛筆メーカーとして、品質・革新・サステナビリティの三位一体を追求し続けています。

主なプロダクトとその特徴

カステル9000番(CASTELL 9000)

1905年にアレグザンダー・フォン・ファーバーカステル伯爵が発表した、ファーバーカステルを象徴する鉛筆です。深い緑色の六角形木軸と、精緻に調合された16段階の硬度グレードを特徴とし、SV(セキュリタス・ビリディス)ボンディング技術により芯が全長にわたって木軸と接着され、優れた折れにくさを実現しています。FSC認証を受けた持続可能な森林の木材を使用し、水性エコ塗料で仕上げられた環境配慮型の製品でもあります。発売から120年を経た現在も、アーティスト、イラストレーター、建築家、デザイナーに広く愛用される不朽のスタンダードです。

ポリクロモス色鉛筆(Polychromos)

1908年に発売された油性色鉛筆のシリーズで、120色という圧倒的なカラーバリエーションを誇ります。高い顔料濃度による鮮やかな発色、優れた耐光性、そして滑らかな描き心地が特徴で、プロフェッショナルのアーティストから愛好家まで世界中で高い評価を受けています。芯は折れにくいSVボンディング加工が施され、水に溶けない油性タイプのため、重ね塗りやブレンディングに適しています。ファーバーカステルの画材ラインを代表するフラッグシップ製品です。

アルブレヒト・デューラー水彩色鉛筆(Albrecht Dürer)

ドイツ・ルネサンスの巨匠アルブレヒト・デューラーの名を冠した水彩色鉛筆で、色鉛筆と水彩画の技法を融合させた製品です。描線を水で溶かすことで、水彩画のような透明感のある表現が可能となり、ドライとウェットの両方のテクニックを一本で実現します。120色のカラーバリエーションを揃え、ポリクロモスと並ぶファーバーカステルの画材ラインの柱として位置づけられています。

ピットアーティストペン(Pitt Artist Pen)

コミックアーティストや漫画家にも広く愛用されるインディアインク(酸フリー・アーカイバル仕様)のアートペンです。多彩なペン先サイズとカラーバリエーションを揃え、精密なラインワークからカリグラフィー、レタリングまで幅広い表現に対応します。耐水性・耐光性に優れ、他の画材との併用にも適した汎用性の高い製品です。

グラーフ・フォン・ファーバーカステル パーフェクトペンシル

「完璧な鉛筆」という名にふさわしく、書く・削る・消す・保護する・延長するという鉛筆に求められるすべての機能を一体化した革新的な製品です。キャップには削り器とクリップが内蔵され、ペン先の保護とポケットへの携帯を同時に実現。鉛筆が短くなるとキャップがエクステンダーとして機能し、最後まで快適な筆記を可能にします。プラスチック製のベーシックモデルから、プラチナコーティング、スターリングシルバー製の高級版まで、幅広いラインナップが用意されています。グラーフ・フォン・ファーバーカステル版では、エボニーやペルナンブコ、グラナディラといった希少材の木軸を採用し、デスクアクセサリーとしての美しさも兼ね備えています。

ペン・オブ・ザ・イヤー(Pen of the Year)

2003年より毎年発表される、グラーフ・フォン・ファーバーカステルの限定版万年筆コレクションです。歴史上の重要な時代や文化にインスピレーションを得た各エディションは、スネークウッド、琥珀、マンモスの象牙、黒曜石、大理石といった稀少な素材を用い、卓越した職人技によって一本一本手作業で仕上げられます。18金バイカラーニブと吸入式メカニズムを搭載し、個別のナンバリングが施された各エディションは、筆記具の域を超えた美術工芸品として世界中のコレクターを魅了しています。2003年〜2012年の「Nature's Luxury」シリーズ、2014年以降の「Pillars of History」シリーズ(サムライ、ヴァイキング、古代ローマ、中世騎士、スパルタ、古代エジプト、オスマン文化など)を展開しています。

グラーフ・フォン・ファーバーカステル レザーアクセサリー

イタリア製カーフスキンを用いた「カシミア」コレクション、上質な型押しレザーの「エプソン」コレクションなど、筆記具と調和するラグジュアリーなレザーアクセサリーを展開しています。ペンケース、ノートブック、デスクアクセサリー、トラベルアクセサリーなど、書斎やオフィス空間を格調高く演出するアイテムが揃い、筆記具とのトータルコーディネートを可能にしています。

ベントレー コラボレーション

英国の高級自動車メーカー、ベントレーとの協業により誕生したコレクションです。ベントレーのアイコニックなダイヤモンドパターンをギヨシェ技法で施した金属軸、ベントレー専用カラー(セクインブルー、タングステン、ホワイトサテン)による仕上げなど、両ブランドに共通する精密さとエレガンスが見事に融合しています。万年筆、ローラーボール、ボールペンに加え、マッチングアクセサリーも展開。1930本限定のエクスクルーシブ・コレクションも用意されています。

主なデザイナー・人物

ローター・フォン・ファーバー(Lothar von Faber, 1817–1896)

ファーバーカステルの歴史において最も重要な人物とされる第4代当主。鉛筆の長さ・太さ・硬度の世界基準を確立し、世界初のブランド鉛筆を生み出しました。国際展開を推進し、ドイツの商標保護法制定にも貢献。事業の功績により男爵の爵位を授与されています。

アレグザンダー・フォン・ファーバーカステル伯爵(Alexander Graf von Faber-Castell, 1866–1928)

カステル=リューデンハウゼン伯爵家の出身で、オッテリー・フォン・ファーバーとの結婚によりファーバーカステル伯爵家を創設。1905年にカステル9000番を発売し、緑色の塗装と騎士のロゴというブランドの視覚的アイデンティティを確立しました。

アントン・ヴォルフガング・フォン・ファーバーカステル伯爵(Anton-Wolfgang Graf von Faber-Castell, 1941–2016)

第8代当主として約40年にわたりファーバーカステルを率いた人物です。事業の近代化とグローバル展開を推進し、1993年にラグジュアリーブランド「グラーフ・フォン・ファーバーカステル」を創設。ブラジルでの森林経営プロジェクトを開始するなど、サステナビリティ経営の基盤を築きました。2003年に国連グローバル・コンパクトに参画しています。

シャルル・フォン・ファーバーカステル(Charles von Faber-Castell)

第9世代のファーバーカステル家を代表し、「グラーフ・フォン・ファーバーカステル」部門のヘッド・オブ・プレミアムを務めています。父アントン・ヴォルフガングの遺志を継ぎ、伝統と革新の融合、ベントレーとのコラボレーションなど、ブランドの発展に寄与しています。

基本情報

ブランド名 ファーバーカステル / Faber-Castell
上位ブランド グラーフ・フォン・ファーバーカステル / Graf von Faber-Castell(1993年創設)
創業 1761年
創業者 カスパー・ファーバー(Kaspar Faber, 1730–1784)
本社所在地 ドイツ・バイエルン州シュタイン(Stein, Bavaria, Germany)
経営 ファーバーカステル伯爵家(第9世代)
CEO シュテファン・ライツ(Stefan Leitz)
従業員数 約6,200名
生産拠点 世界10カ国に14工場、20の販売拠点
展開国 120カ国以上
年間生産量 約20億本以上(鉛筆・色鉛筆)
日本法人・代理店 DKSHジャパン(直営店・公式オンラインストア運営)、シヤチハタ、バニーコルアート
日本直営店 ファーバーカステル 東京ミッドタウン店(六本木・ガレリア3階)
公式サイト(グローバル) https://www.faber-castell.com
公式サイト(日本) https://www.faber-castell.jp
公式オンラインストア(日本) https://shop-faber-castell.jp
グラーフ・フォン・ファーバーカステル公式(日本) https://www.graf-von-faber-castell.jp