EMU(エミュー)― イタリアが誇るアウトドアファニチャーの名門
EMU(エミュー)は、1951年にイタリア・ウンブリア州マルシャーノで創業した、アウトドアファニチャーの世界的リーディングブランドです。正式名称「Elettro-Meccanica Umbra(エレットロ・メッカニカ・ウンブラ)」の頭文字に由来するブランド名が示すとおり、その出発点は金属加工と電子機器の製造にありました。第二次世界大戦中に陸軍の無線技師として従事したビスカリーニ兄弟とダンテ・メンコーニが、戦後の再出発として培った技術を家具製造へと昇華させたことが、同社の礎となっています。
創業から75年以上にわたり、EMUは金属加工における卓越した技術力と、イタリアンデザインの美意識を融合させ、屋外空間を室内の延長として捉える「Design for Outdoor Living」の哲学を体現し続けています。スチールとアルミニウムを主素材とする製品群は、パトリシア・ウルキオラ、ジャン=マリー・マソー、クリストフ・ピレ、ジャン・ヌーヴェル、パオラ・ナヴォーネ、シュテファン・ディーツといった世界的デザイナーとの協働によって生み出され、85か国以上で展開されています。ルーヴル・アブダビ、ヒースロー空港、世界各地の一流ホテルやリゾートなど、名だたる施設に採用される同社の家具は、イタリアの屋外生活文化を世界に発信する存在として、揺るぎない地位を確立しています。
ブランドの特徴・コンセプト
「Design for Outdoor Living」の哲学
EMUのものづくりの根幹をなすのは、「Design for Outdoor Living」という独自の哲学です。庭やテラス、バルコニーといった屋外空間を、リビングルームの延長として位置づけ、屋外にいながら室内と変わらぬ快適さとくつろぎを享受できる家具を追求しています。この思想は、イタリアの豊かな屋外生活文化——友人や家族と食卓を囲み、陽光のもとで語らい合う暮らしの美学——に深く根ざしたものです。
金属加工のパイオニアとしての技術力
EMUの最大の強みは、創業以来75年以上にわたって蓄積されてきた金属加工技術にあります。軍用機器製造で培われた精密な金属加工のノウハウは、屋外家具に求められる耐候性・耐久性の実現に直結しました。同社が独自に開発した「EMUコート」と呼ばれるカソード電着塗装(カタフォレシス)技術は、紫外線による退色や風雨による腐食から製品を長期にわたって保護します。ローマ大学やトレント大学の研究室との共同開発による防食コーティング技術は、自動車塗装と同等の高い防錆性能を実現しており、数十年にわたって屋外で使用しても品質が損なわれない堅牢さを誇ります。
世界的デザイナーとの協働
EMUは、アウトドアファニチャーの分野にいち早くデザインの概念を導入したブランドとしても知られています。2005年にフランスの高級ブランドグループLVMHの投資ファンドL Capitalが経営に参画したことを契機に、世界の第一線で活躍するデザイナーとの本格的な協働が始まりました。パトリシア・ウルキオラ、ジャン=マリー・マソー、クリストフ・ピレ、ロドルフォ・ドルドーニ、パオラ・ナヴォーネ、アリック・レヴィ、ジャン・ヌーヴェル、シュテファン・ディーツ、セバスチャン・ヘルクナー、パトリック・ノルゲといった錚々たる名が並ぶデザイナーの顔ぶれは、同社が「アクセシブル・ラグジュアリー」と呼ぶ市場ポジションを確立する上で決定的な役割を果たしました。
サステナビリティへの取り組み
EMUは環境への配慮をブランド哲学の不可欠な要素として位置づけています。主素材であるスチールとアルミニウムは100%リサイクル可能な素材であり、製品のライフサイクル全体を通じた環境負荷の低減が図られています。ウンブリア州マルシャーノの自社工場では、ロボット溶接や先進的な塗装技術の導入により、省エネルギーと廃棄物削減を両立。FSC認証チーク材の採用や、ITALYXプログラムによる品質・サステナビリティ認証の取得など、持続可能な製造への取り組みは多岐にわたります。
100% Made in Italy
EMUの全製品は、創業の地であるウンブリア州マルシャーノの自社工場で設計・製造されています。総面積7万平方メートルに及ぶ工場では約150名の従業員が働き、原材料の選定から設計、加工、塗装、品質検査に至るすべての工程が社内で一貫管理されています。2018年には建築家アンドレア・パスクッチの設計によるDesign & Simulation Centreが開設され、デザイナーと技術者が協働する研究開発拠点として、製品のさらなる革新を推進しています。
ブランドヒストリー
創業期:軍用技術から家具製造へ(1951年〜1950年代)
1951年6月8日、アルド・ビスカリーニ、アンジェロ・ビスカリーニの兄弟と義兄弟のダンテ・メンコーニの3名が、ウンブリア州マルシャーノにEletro-Meccanica Umbra(EMU)を設立しました。第二次世界大戦中にアフリカ戦線で陸軍の無線通信技師として従事したビスカリーニ兄弟と、機械技術の専門家であったメンコーニは、当初軍用通信機器の製造を手がけていました。しかし戦後の市場変化に対応し、その金属加工技術を家具製造へと転換。まず学校用・オフィス用の金属家具の生産に着手し、PVC(ポリ塩化ビニル)による金属表面処理技術を開発しました。この金属可塑化プロセスはイタリア初の試みであり、金属家具に耐候性を付与することで屋外使用への道を拓く画期的な技術革新となりました。
屋外家具への本格参入と飛躍(1960年代〜1970年代)
1960年代に入り、EMUはガーデンファニチャーの製造に本格的に参入します。1961年には創業者ビスカリーニが設計した初のガーデンチェア「カットーリカ」を発表。その後1966年に登場した「Rio(リオ)」チェアは、EMUの歴史において最も重要な製品の一つとなりました。流線型のフォルムを持つRioは当初ガーデン用チェアとして販売されていましたが、1970年代初頭にアメリカの大手販売業者が大量発注を行い、屋内外を問わないモダンチェアとして広告展開したことで爆発的な人気を獲得。年間50万脚以上を販売し、累計800万脚以上を世に送り出す大ベストセラーとなりました。ウンブリアの小さな村から生まれたこのチェアは、ニューヨークのロックフェラーセンターに展示され、歴史的な蒸気船マーク・トウェイン号にも採用され、さらにはイタリアの国民的歌手ルチオ・バッティスティのアルバム『Una donna per Amico』(1978年)のジャケットにも登場するなど、時代を象徴するアイコンとなりました。
同時期の1970年代には、ビーチチェア「Bahama(バハマ)」も発表され、現在に至るまでクラシックとして愛され続けています。また、鉄の可塑化技術の特許を取得し、金属家具分野におけるリーダーとしての地位を確固たるものにしました。
市場拡大と製品多様化(1980年代〜1990年代)
1980年代から1990年代にかけて、EMUはガーデンファニチャー市場におけるリーダー企業へと成長を遂げます。1983年にはアルミニウム製の「Ambassador(アンバサダー)」チェアを発表し、素材の多様化に着手。1984年にはプラスチック素材のモデルや合成樹脂製の「Lotus(ロータス)」チェアを投入するなど、製品ラインの幅を大きく広げました。Rioチェアの後継として登場したラッカー仕上げスチール製の「Ronda(ロンダ)」も大きな成功を収めました。1990年にはガーデンファニチャー部門のリーディングカンパニーとして正式に認知されるに至ります。1993年には経営体制が刷新され、リッカルド・ビスカリーニらによる新経営陣のもとEMU Groupが設立されました。
デザインブランドへの進化(2000年代)
2000年代に入ると、EMUは戦略的な転換期を迎えます。2000年にはカタフォレシス(電着塗装)システムを導入し、金属表面処理技術をさらに進化させました。2005年、LVMHグループの投資ファンドL Capitalが同社の過半数株式を取得。この資本参画を機に、クリストフ・ピレ、ロドルフォ・ドルドーニ、パオラ・ナヴォーネ、パトリシア・ウルキオラといった世界的デザイナーとの本格的な協働が始まり、「アクセシブル・ラグジュアリー」という新たな市場ポジションの開拓に乗り出しました。2007年には、クリストフ・ピレによる「Round(ラウンド)」、ジャン=マリー・マソーによる「Heaven(ヘヴン)」、パトリシア・ウルキオラによる「Re-Trouvé(ルトルヴェ)」、パオラ・ナヴォーネによる「Nef(ネフ)」といったコレクションが世界の主要デザイン誌の表紙を飾り、EMUはガーデンファニチャーブランドからデザインブランドへと飛躍を遂げました。
ファミリー経営への回帰と新たな展開(2010年代〜現在)
2009年にビスカリーニ家がL Capitalから株式を買い戻し、2010年には投資ファンドOperaが経営に参画。その後2017年、創業家であるビスカリーニ家が経営陣とともに100%の株式を取得し、ファミリー経営への完全な回帰を果たしました。2018年にはDesign & Simulation Centreを開設し、研究開発体制を一層強化。アリック・レヴィ、ジャン・ヌーヴェル、シュテファン・ディーツ、セバスチャン・ヘルクナー、パトリック・ノルゲ、ルチーディ=ペヴェレといった新たなデザイナーとの協働を通じて、コレクションの幅をさらに拡大しています。ルチーディ=ペヴェレがデザインした「Cabla(カブラ)」コレクションは、2023年のArchiproducts Design Awardアウトドアファニチャー部門を受賞するなど、近年も高い評価を受け続けています。現在、EMUは85か国以上で製品を展開し、ヨーロッパ最大級のメタルアウトドアファニチャーメーカーとしての地位を維持しています。
主なコレクションとその特徴
Rio / Rio R50
1966年に発表されたEMUの歴史を語る上で欠かすことのできない名作チェアです。流線型のフォルムと軽快なデザインで、累計800万脚以上を販売した伝説的ベストセラーとなりました。現行の「Rio R50」は、エマヌエル・ガルガーノとアントン・クリステルによるリデザインで、チューブラースチールのフレームとベースを溶接した現代的なシルエットに進化。チェア、アームチェア、スツール、テーブル、ラウンジチェア、ロッキングチェアと、豊富なバリエーションで展開されています。
Round
クリストフ・ピレがデザインした、EMUのアイコン的コレクションの一つです。シンプルでありながら洗練されたフォルムは、「シンプルだからこそ実現する美しさ」を体現しています。すっきりとしたラインにこだわりのディテールが施され、モダンでありながら普遍的な魅力を放つデザインは、住宅からコントラクトまで幅広いシーンで採用されています。
Heaven
ジャン=マリー・マソーによるデザインで、金属メッシュを織り、溶接するという独自の技法によって、まるでファブリックのようにドレープする軽やかな座面を実現したコレクションです。エーテルのような軽さと繊細なソフトさを兼ね備えた佇まいは、金属素材の可能性を拡張する挑戦的な作品として高く評価されています。
Re-Trouvé
パトリシア・ウルキオラがデザインしたコレクションで、伝統的なロートアイアン(鍛鉄)のガーデン家具を、彫刻的かつ現代的なエレガンスで再解釈した作品です。特徴的なダイヤモンドパターンのワイヤーメッシュが、繊細な光のフィルターを生み出します。アームチェア、チェア、ロースツール、テーブル、ヴァースで構成され、ロンドン・ヒースロー空港のノボテルホテルのカフェテリアにも採用されるなど、コントラクト分野でも高い評価を得ています。
Ivy
パオラ・ナヴォーネがデザインした、EMUの原点であるスチールメッシュへのオマージュともいえるコレクションです。豊潤で彫刻的なフォルムのメッシュが光を濾過し、幻想的な陰影を創出します。ソファ、アームチェア、ローテーブル、オットマンで構成される、屋外にいながら上質なリビング空間を実現する作品群です。
Arc en Ciel
フランス語で「虹」を意味する名を冠した、レトロな趣のあるフォールディングコレクションです。塗装スチール製の折りたたみ式テーブルとチェアは、スラット状の背もたれと座面が特徴的で、鮮やかなカラーバリエーションが用意されています。フレンチビストロを彷彿とさせる軽やかなデザインは、バルコニーやテラスでの気軽なアウトドアリビングに最適です。
Terramare
Studio Chiaramonte-Marinによるデザインで、チューブラーアルミニウムを主素材としたコレクションです。伝統的な葦の接合システムを想起させるダイキャストジョイントが、脚部と水平構造を結合する特徴的なディテールを持ちます。スタッカブルラウンジャー、3人掛け・2人掛けソファ、アームチェアなど、屋外空間を総合的にコーディネートできる豊富なアイテム構成で展開されています。
Mia
世界的建築家ジャン・ヌーヴェルがデザインしたチェア・スツールのコレクションです。ミニマリスティックで厳格なデザインのなかに強い美学が宿り、アイコニックな存在感を放ちます。ヌーヴェル自身が設計したルーヴル・アブダビのカフェに採用されたことでも知られ、建築とプロダクトデザインの境界を超えた作品として注目を集めました。
Cabla
ルチーディ=ペヴェレがデザインした近年の注目コレクションで、2023年のArchiproducts Design Awardアウトドアファニチャー部門を受賞しています。EMUの伝統的な金属加工技術と現代的なデザイン感覚が見事に融合した作品として、高い評価を得ています。
その他の主要コレクション
上記のほかにも、EMUは多彩なコレクションを展開しています。フォールディングチェアの定番「Snooze(スヌーズ)」(Studio Chiaramonte-Marin)、クラシカルな鍛鉄の趣を現代に蘇らせた「Pigalle(ピガール)」と「Caprera(カプレラ)」、アンジェレッティ&ルッツァによる建築的なシンプルさが魅力の「Angel(エンジェル)」、ビーチやプールサイドで活躍する波型デザインの「Holly(ホリー)」、パトリック・ノルゲによる気球のグラフィックデザインに着想を得た「Nef(ネフ)」など、住宅用からコントラクト用まで幅広いニーズに応える充実したラインナップを誇ります。
主なデザイナー
- パトリシア・ウルキオラ(Patricia Urquiola)
- スペイン生まれ、ミラノを拠点に活動する世界的デザイナー・建築家。EMUでは「Re-Trouvé」コレクションを手がけ、伝統的なワイヤーメッシュの技法を現代的なエレガンスへと昇華させました。
- ジャン=マリー・マソー(Jean-Marie Massaud)
- フランスを代表するデザイナーの一人。EMUでは「Heaven」コレクションをデザインし、金属メッシュの織りと溶接という革新的な技法で、軽やかさと柔らかさを兼ね備えた座面を実現しました。
- クリストフ・ピレ(Christophe Pillet)
- フランス出身、ミラノ・ドムスアカデミー修了。フィリップ・スタルクに師事した後独立し、1994年にフランスのクリエーター・オブ・ザ・イヤーを受賞。EMUでは「Round」コレクションや「Shade」パラソルをデザインし、シンプルかつスタイリッシュなフォルムで知られています。
- パオラ・ナヴォーネ(Paola Navone)
- イタリアのデザイナー・建築家。EMUでは「Ivy」コレクションをデザインし、同社の原点であるスチールメッシュを用いた彫刻的なフォルムで、屋外空間に上質なリビング感覚をもたらしました。
- ジャン・ヌーヴェル(Jean Nouvel)
- フランスを代表する世界的建築家。プリツカー賞受賞者。EMUでは「Mia」コレクションをデザイン。自身が設計したルーヴル・アブダビのカフェにも同コレクションが採用されています。
- シュテファン・ディーツ(Stefan Diez)
- ドイツを代表するインダストリアルデザイナー。EMUでは「Ciak」コレクションなどを手がけ、機能性と美的洗練を両立したデザインで知られています。
- アリック・レヴィ(Arik Levy)
- イスラエル出身のデザイナー・アーティスト。カッシーナやヴィトラなど名門ブランドを手がける。EMUでは「Pattern(パターン)」コレクションをデザインし、工業デザインの手法を活かした独創的な表現を実現しました。
- セバスチャン・ヘルクナー(Sebastian Herkner)
- ドイツの新世代を代表するデザイナー。素材と色彩への繊細なアプローチで知られ、EMUのコレクションにも独自の感性をもたらしています。
- パトリック・ノルゲ(Patrick Norguet)
- フランスのデザイナー。EMUでは気球のグラフィックデザインに着想を得た「Nef」コレクションなどを手がけています。
- ルチーディ=ペヴェレ(Lucidi Pevere)
- パオロ・ルチーディとルカ・ペヴェレによるイタリアのデザインデュオ。EMUでは「Cabla」コレクションを手がけ、2023年のArchiproducts Design Awardを受賞しました。
- Studio Chiaramonte-Marin
- マルコ・マリンを中心とするイタリアのデザインスタジオ。EMUでは「Terramare」「Snooze」などの人気コレクションを手がけています。
基本情報
| 正式名称 | EMU Group S.p.A. |
|---|---|
| ブランド名 | EMU(エミュー) |
| 名称の由来 | Elettro-Meccanica Umbra(エレットロ・メッカニカ・ウンブラ)の頭文字 |
| 設立 | 1951年6月8日 |
| 創業者 | アルド・ビスカリーニ、アンジェロ・ビスカリーニ、ダンテ・メンコーニ |
| 所在地 | イタリア ウンブリア州 マルシャーノ(ペルージャ県) |
| 事業内容 | アウトドアファニチャー(ガーデンファニチャー)の設計・製造・販売 |
| 主要素材 | スチール、アルミニウム、FSC認証チーク材、シンセティックウィッカー、テキスティリーン等 |
| 工場面積 | 約70,000㎡(マルシャーノ本社工場) |
| 従業員数 | 約150名 |
| 展開国数 | 85か国以上 |
| 日本総代理店 | ASPLUND(アスプルンド) |
| 公式サイト | https://www.emu.it/ |