エドラ(Edra)

エドラは、1987年にイタリア・トスカーナ州ペリニャーノで創業した高級家具ブランドです。「エドラ」という名称は、古代ギリシャ・ローマにおいて知識人や哲学者が対話を交わすための空間を意味する「エクセドラ(Exedra)」に由来しています。この名が示すとおり、エドラの家具は単なる座る場所ではなく、人と人とが交わり、思索を深めるための知的空間を創出することを使命としています。

創業以来、芸術的伝統と技術革新、そして熟練した職人技を融合させることで、時代を超えて愛される家具を世に送り出してきました。その製品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする世界各地の美術館に収蔵されています。

ブランドの特徴・コンセプト

エドラの根幹にあるのは「最高のコンフォート、エレガンス、パフォーマンス(The Greatest Comfort, Elegance and Performance)」という理念です。副社長のモニカ・マッツェイは、ルネサンス期の工房に通じる手仕事の知恵を重んじる姿勢を語っており、エドラの製品は機能性と技術革新、新しい形態、美意識を併せ持つことを目指しています。

エドラは、流行に左右されない普遍的な製品づくりを信条としています。市場分析やトレンドリサーチから製品を生み出すのではなく、デザイナー(エドラでは「アウトール(Autori=作者)」と呼びます)の純粋な知性と創造性から作品が誕生します。構想から製品化まで数年を要することも珍しくなく、幾度もの試作と検証を経て、ようやく一つの製品が完成します。

また、エドラは素材技術の研究開発にも注力しており、2004年には次世代素材「Gellyfoam®(ジェリーフォーム)」を開発・特許取得しました。医療分野で使用されるゼラチン由来の素材を応用したこのポリウレタンフォームは、柔らかさとサポート力を両立し、スプリングのように反発するのではなく、身体を優しく包み込むような座り心地を実現します。さらに「Smart Cushion(スマートクッション)」技術により、背もたれやアームレストを自在に調整できる革新的なソファシステムを開発しています。

ブランドヒストリー

エドラの歴史は、マッツェイ家の家具製造の伝統に遡ります。1949年から家具製造を手がけてきたマッツェイ家の第二世代である兄妹、ヴァレリオ・マッツェイとモニカ・マッツェイは、1987年にトスカーナ州ペリニャーノにて家業を発展させる形でエドラを設立しました。当初は家族の家具事業における張り材の開発を支援する会社として始まりましたが、間もなく独自のビジョンと革新的なアプローチにより、自社製品の製造へと事業を拡大していきます。

創業時から2014年までアートディレクターを務めたのは、1960年代のラディカル・デザイン運動「アーキズーム」のメンバーとして知られる建築家・デザイナーのマッシモ・モロッツィでした。彼の卓越した審美眼と前衛的な精神は、エドラのデザイン言語の形成に決定的な影響を与えました。

1988年には、マリオ・カナンツィとロベルト・センプリーニによる螺旋状ソファ「Tatlin(タトリン)」を発表し、エドラの彫刻的な家具づくりの方向性を確立。1992年には、かつてカッシーナのリサーチセンター所長を務めたフランチェスコ・ビンファレが参画し、以降30年以上にわたりエドラの代表的なソファの数々を手がけています。1998年にはブラジル出身のカンパーナ兄弟(フェルナンド・カンパーナ、ウンベルト・カンパーナ)による「Vermelha(ヴェルメーリャ)」チェアの生産を開始し、二人はブラジル人デザイナーとして初めてニューヨーク近代美術館で作品を展示するという栄誉に浴しました。

2004年には独自の素材「Gellyfoam®」を特許取得し、同素材を初めて採用したビンファレ設計のモジュラーソファ「On the Rocks」を発表。この作品は、従来のソファの概念を覆す革新的なデザインとして世界的な評価を受けました。2022年には、主要デザイナーのフランチェスコ・ビンファレが、イタリア工業デザインの最高栄誉である「コンパッソ・ドーロ」のキャリア賞を受賞しています。

現在は、ヴァレリオ・マッツェイの息子であるニッコロ・マッツェイが国際開発ディレクターとして参画し、創業時の理念を守りながらグローバルな展開を進めています。2016年リオデジャネイロ、2018年平昌の各オリンピック、2021年コルティナ・ダンペッツォでのアルペンスキー世界選手権では、イタリア代表団の拠点「Casa Italia」などに家具を提供しました。日本では総代理店リビングハウスのもと展開を進め、2025年10月には東京・南青山に日本初の路面旗艦店「Spazio Edra Tokyo Aoyama」をオープンしています。

代表的なインテリアとその特徴

On the Rocks(オン・ザ・ロックス)

2004年にフランチェスコ・ビンファレがデザインしたモジュラーソファ「On the Rocks」は、エドラの革新性を象徴する作品です。アプーリア海岸の岩場で日光浴をする人々の姿からインスピレーションを得たこのソファは、固定された構造を持たない革命的な設計が特徴です。四つの独立した幾何学的な座面要素(三つの多角形と一つの四辺形)と、自由に配置可能な二つの背もたれから構成され、使用者の創造性に応じて無限の組み合わせが可能です。

エドラが長年の研究開発を経て生み出した独自素材「Gellyfoam®」を初めて採用した製品でもあり、身体を優しく包み込む座り心地が特徴です。

Standard(スタンダード)

フランチェスコ・ビンファレによる「Standard」ソファは、「Smart Cushion(スマートクッション)」技術を採用した革新的なシステムソファです。背もたれクッションの内部に特殊素材の関節構造を隠し持ち、わずかな力で自在に角度を変えられます。堅固でありながら自在に可動するこのクッション技術は、長年の研究開発の成果です。

Vermelha(ヴェルメーリャ)

1993年にカンパーナ兄弟がデザインし、1998年からエドラが生産を開始した「Vermelha」チェアは、約500メートルのロープをスチールフレームに手作業で巻きつけて仕上げるラウンジチェアです。ブラジルの手工芸の伝統を現代の家具デザインに取り入れた作品で、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに収蔵されています。

Tatlin(タトリン)

1988年にマリオ・カナンツィとロベルト・センプリーニがデザインした「Tatlin」ソファは、ロシア構成主義の巨匠ウラジミール・タトリンによる「第三インターナショナル記念塔」の螺旋形態に着想を得た、まさに彫刻的なソファです。合板のベースに手作業で成形された鉄骨の螺旋構造を持ち、ポリウレタンフォームの詰め物もすべて手作業で施されます。8〜10人が着座できるこの大型ソファには、ベルベット張りのクラシック版と、スワロフスキー・クリスタルで覆ったダイヤモンド版が用意されています。1988年の発表以来、エドラを代表するソファのひとつとして生産が続いています。

Rose Chair / Getsuen(ローズチェア / 月園)

日本人デザイナー梅田正徳が1990年にデザインした「Flower Collection(フラワーコレクション)」を代表する二つのアームチェアです。「Getsuen(月園)」は、満月に照らされた庭の百合の花からインスピレーションを得た作品で、その名は「月のある庭」を意味します。「Rose Chair」は豊麗なバラの花をかたどり、花びら一枚一枚が手作業でパッドされ、ベルベットで包まれています。両作品とも、手作業で成形された鉄骨フレームにポリウレタンフォームの詰め物を施し、高度な職人技によって花の柔らかさと官能性を表現しています。梅田のデザインは、東洋と西洋の美意識を組み合わせたポストモダンの作風で知られます。

Gina / Ella

ヤコポ・フォッジーニが手がけるポリカーボネート製チェアシリーズの代表作です。「Gina」は一本の糸で精緻な刺繍のように編み上げられた座面と背もたれを持ち、「Ella」は花のコロラのような形状のアームチェアで、回転可能なペデスタルベースを特徴としています。自動車産業で使用されるポリカーボネートを手作業で成形するフォッジーニ独自の技法により、各ピースは背もたれの高さ、幅、形状、色の分布がわずかに異なり、一点ずつ表情の違う仕上がりとなります。透明感のあるグリーンやブルー、アンスラサイト、ゴールドなどの色調が光を受け、空間に彩りを添えます。

Boa / Cipria

カンパーナ兄弟によるソファシリーズ。「Boa」は鳥の巣のような有機的形態を持つソファで、「Cipria」はエコファーで覆われた丸いクッションを特徴とする作品です。いずれもブラジルの街頭文化や自然からインスピレーションを得た、前衛的でありながら深い詩情を湛えた作品群です。

Flap

2000年にフランチェスコ・ビンファレがデザインした「Flap」は、9つの可動要素から構成される革新的なソファです。各要素は6段階の角度で傾斜させることができ、背もたれ、アームレスト、ヘッドレスト、座面、フットレストとして自在に機能します。従来のソファから二人用ベッド、グループでくつろぐためのコーナーソファまで、多様な形態に変えて使うことができます。

主なデザイナー

フランチェスコ・ビンファレ(Francesco Binfaré)

1939年ミラノ生まれ。1969年から1976年までカッシーナのリサーチセンター(チェントロ・カッシーナ)の所長を務め、ガエターノ・ペッシェの「Up」シリーズなど20世紀デザインを代表する作品の開発に携わりました。1980年に自身のデザインセンターを設立し、その後はトシユキ・キタの「Wink」やガエターノ・ペッシェの「I Feltri」などカッシーナのプロジェクトにも関わっています。1992年にエドラとの協働を開始し、On the Rocks、Standard、Flap、Packなど同ブランドを代表するソファを数多く手がけ、2022年にはADIコンパッソ・ドーロのキャリア賞(Compasso d'Oro alla Carriera)を受賞しました。

カンパーナ兄弟(Fernando e Humberto Campana)

兄ウンベルト(1953年生まれ)と弟フェルナンド(1961年生まれ、2022年逝去)のブラジル人兄弟デザイナー。1983年にエストゥディオ・カンパーナを設立し、ロープ、段ボール、プラスチックチューブ、ぬいぐるみなど日常的な素材を予想外の方法で用いる独自のデザイン言語を確立しました。1998年、ブラジル人デザイナーとして初めてMoMAで作品を展示。Vermelha、Boa、Favela、Cipria、Coralloなど、エドラのために数多くの受賞作品を手がけ、2008年にはDesign Miamiのデザイナー・オブ・ザ・イヤー、2012年にはMaison & Objetの同賞を受賞しています。

梅田正徳(Masanori Umeda)

1941年神奈川県生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、1967年にミラノへ渡りアキッレ・カスティリオーニのスタジオで働きました。1970年から1979年までオリヴェッティのデザインコンサルタントを務め、そこでエットレ・ソットサスと出会いメンフィス・グループに参加。1986年に日本に戻りU-メタ・デザインスタジオを設立。エドラのために「Flower Collection」を手がけ、Getsuen(月園)、Rose Chair、Soshunなどの作品を生み出しました。

ヤコポ・フォッジーニ(Jacopo Foggini)

自動車産業で使用されるポリカーボネートを金型ではなく手作業で成形するという独自の技法を開発したイタリア人アーティスト・デザイナー。2006年トリノ冬季オリンピックのプロジェクトを手がけたことでも知られます。エドラとの長年のパートナーシップにより、Gina、Gilda B、Ella、Aliceなど、光と透明性が織りなす彫刻的なチェアシリーズを創出。2022年には海と愛へのオマージュである屋外コレクション「A'mare」を発表しました。

マリオ・カナンツィ & ロベルト・センプリーニ(Mario Cananzi & Roberto Semprini)

イタリア人建築家デュオ。1988年にエドラのためにデザインした螺旋状ソファ「Tatlin」は、ロシア構成主義の巨匠ウラジミール・タトリンの「第三インターナショナル記念塔」に着想を得た作品で、エドラを象徴するアイコンとして発表以来35年以上にわたり生産され続けています。

ザハ・ハディド(Zaha Hadid)

2004年にプリツカー賞を受賞した女性初の建築家として知られるイラク系イギリス人建築家(1950-2016)。エドラのために「Wave」ソファなど、流動的で彫刻的なフォルムの家具をデザインしました。マッシモ・モロッツィのアートディレクション時代に実現したこのコラボレーションは、当時最も前衛的なプロジェクトの一つとして評価されています。

マッシモ・モロッツィ(Massimo Morozzi)

1960年代のラディカル・デザイン運動「アーキズーム」の創設メンバーとして知られる建築家・デザイナー。1987年から2014年までエドラのアートディレクターを務め、ブランドのデザイン言語と美学の礎を築きました。カンパーナ兄弟をはじめとする若い才能を見出して育て、Vermelhaを広く知られる作品へと導く重要な役割を果たしました。

基本情報

ブランド名 エドラ(Edra S.p.A.)
設立 1987年
創業者 ヴァレリオ・マッツェイ(Valerio Mazzei)、モニカ・マッツェイ(Monica Mazzei)
本社所在地 イタリア トスカーナ州ペリニャーノ(Via Livornese Est, 106 56035 - Perignano Pisa - Italia)
主な事業 高級家具(ソファ、アームチェア、チェア、ベッド、テーブル、収納、照明など)の製造・販売
ミラノショールーム Spazio Edra Palazzo Durini(パラッツォ・ドゥリーニ)
東京ショールーム Spazio Edra Tokyo Aoyama(南青山)※2025年10月開業
公式サイト https://www.edra.com/