Brdr. Krüger(クリューガー兄弟) ── 1886年創業、デンマーク木工芸の精髄を受け継ぐ家具ブランド

1886年、コペンハーゲンにてテオドール・クリューガーとフェルディナンド・クリューガーの兄弟が創設した木工旋盤工房を起源とするBrdr. Krüger(クリューガー兄弟)は、5世代にわたる家族経営のもと、デンマーク家具の伝統と革新を体現し続ける希有なブランドである。「Brdr.」はデンマーク語で「兄弟(Brødre)」の略語であり、その名にはクリューガー家の絆と継承の精神が凝縮されている。

創業当初は木製のドアノブや椅子の脚といった旋盤加工品を他社に納入する下請け工房であったが、130年以上の歳月を経て、自社でデザインから製造までを一貫して手がけるセルフプロデュース型の家具ブランドへと進化を遂げた。現在は第5世代のヨナス・クリューガーとジュリー・クリューガーの兄妹が経営を担い、デンマーク・ヴェアローセに構える自社工房において、熟練の職人たちが一つひとつの家具を丹念に仕上げている。

ハンス・ブーリング、ナナ・ディッツェル、ダヴィッド・スルストルップ、OEOスタジオ、ヘニング・ラーセン・アーキテクツ、ラスムス・ベッケル・フェクスといった世界的なデザイナーや建築家との協働を通じて、デンマーク・ミッドセンチュリーモダンの美学を現代に再解釈した家具コレクションを展開している。その作品はデザインミュージアム・デンマークの永久コレクションに収蔵され、ノーマ(noma)やカドー(Kadeau)といったコペンハーゲンの名店にも採用されるなど、デンマークデザインの現在進行形を象徴する存在として国際的な評価を確立している。

ブランドの特徴・コンセプト

Brdr. Krügerのデザインフィロソフィーは、「独創性(Originality)」「誠実さ(Honesty)」「遊び心(Playfulness)」の三つの価値観に根ざしている。デンマーク・ミッドセンチュリーモダン運動の美学を出発点としながらも、現代の暮らしに寄り添う新たな古典の創出を目指す姿勢が、このブランドの本質である。

木への情熱と自社生産

創業以来一貫して木工技術を核に据え、旋盤加工をはじめとする伝統的な木工技法と最新のテクノロジーを融合させた製造体制を維持している。FSC認証を取得し、一部エネルギーの自給を実現するなど、環境への配慮も怠らない。ヴェアローセの自社工房では、デンマーク国内でも屈指の若手職人の育成にも力を注いでおり、技術の継承と発展の両立を体現している。

デザイナーとの対話による創造

Brdr. Krügerの家具は、デザイナーとクリューガー家の職人との緊密な対話から生まれる。デザインの構想段階から素材の選定、プロトタイプの製作、量産に至るまで、一貫して自社工房で完結する体制は、デザイナーの意図を忠実に、かつ工芸的な完成度で実現することを可能にしている。ハンス・ブーリングとクリューガー家の関係は三世代にわたり、OEOスタジオやダヴィッド・スルストルップとの協働においても、ブランドの工房が作品の揺籃の地となっている。

伝統と革新の架け橋

Brdr. Krügerは、自社アーカイブに眠るデザインの再発見にも積極的に取り組んでいる。ハンス・ブーリングが1958年にスケッチしたTRIIIOテーブルの初の製品化や、ナナ・ディッツェルが1983年にデザインしたアーケードチェアの復刻など、過去の卓越した構想に現代の技術と感性を注ぎ込み、新たな命を吹き込む手法は、このブランドならではの真骨頂である。

ブランドヒストリー

1886年 ── 木工旋盤工房の創設

テオドール・クリューガーとフェルディナンド・クリューガーの兄弟がコペンハーゲンに木工旋盤工房を設立。ドアノブ、家具の脚部、小物類など、木材の旋盤加工品を他社に納入する下請け工房としての歴史が始まる。

20世紀前半 ── 技術の蓄積と信頼の構築

世代を重ねるごとに旋盤技術は精緻さを増し、デンマーク家具業界における信頼を確立していった。1950年代には建築家ハンス・ブーリングとの交流が始まり、後のブーリング・コレクション誕生の布石が敷かれる。

1950〜1960年代 ── デンマーク・モダンの黄金期との邂逅

デンマーク・モダン運動の隆盛期に、ブランドは著名デザイナーたちの作品製造を手がけるようになる。1963年にはハンス・ブーリングがブーリング・トレイテーブルをデザインし、同年ナナ・ディッツェルがルル・クレイドルを生み出した。これらの作品はいずれもクリューガー家の工房から誕生したものである。

1992年 ── カイ・ボイスンの猿の製造

デンマークを代表するプロダクトデザイナー、カイ・ボイスンが1951年にデザインした木製の猿の製造を担うようになる。31個の旋盤加工パーツを組み上げるこの精巧な玩具は、デンマークでは子どもの洗礼の贈り物として親しまれ、年間約10万体が出荷されるほどの人気を博した。この製造経験は、Brdr. Krügerの精密な木工技術の証左でもある。

第5世代 ── 自社ブランドへの転身

ヨナス・クリューガーとジュリー・クリューガーの兄妹が経営を引き継ぎ、ブランドは大きな転換期を迎える。木工職人としての教育を受けなかった初めての世代である二人は、「優れたデザインなくして優れたクラフツマンシップは成り立たない」という信念のもと、自社オリジナルの家具コレクションの展開に着手。生産面積を従来の5倍に拡大し、世界的なデザイナーとの協働を積極的に推進した。

2014年以降 ── 国際的なデザインブランドへの飛躍

2014年のミラノサローネにおいてOEOスタジオによるフェルディナンドラウンジチェアとスヴェレ・ウンガーによるルネランプを発表し、国際舞台への本格的な進出を果たす。以後、ダヴィッド・スルストルップとの協働によるARVコレクション(ノーマのためのデザイン)、JARIコレクション(OEOスタジオ)、KARMソファ、そして2025年にはヘニング・ラーセン・アーキテクツとのEkkoチェアを発表するなど、コレクションを着実に拡充している。コペンハーゲンのオッドフェローマンション内にショールームを開設し、3 Days of Designへの継続的な出展を通じて国際的な認知度を高めている。

主なインテリアとその特徴

ブーリング・トレイテーブル(Bølling Tray Table) ── 1963年

デザイナー:ハンス・ブーリング

デンマーク・モダンの遊び心あふれる機能主義を象徴する名作である。木製のH型フレームにリバーシブルのトレイを2枚載せた簡潔な構造でありながら、サービングトロリー、バーカート、サイドテーブル、ベッドサイドテーブルなど、多彩な用途に対応する。トレイは裏返すことで色の組み合わせを変えられ、個性的な表情を楽しむことができる。工具不要で組み立て・折りたたみが可能な点も、ブーリングらしい合理的な設計思想の表れである。Model 50とModel 60の2サイズで展開され、オーク、ウォルナットなど複数の木材とカラーの組み合わせから選択できる。

TRIIIOテーブル ── 1958年デザイン / 2016年製品化

デザイナー:ハンス・ブーリング

ブーリングが27歳の時にスケッチした幻のテーブルを、約60年の時を経てBrdr. Krügerが初めて製品化した。樹木の枝を思わせる彫刻的なオーク材の脚部と、浮遊するようなガラス天板の組み合わせが、簡素と造形美の詩的な調和を生み出す。ティンテッドガラスと真鍮のアクセントが現代的な品格を添え、コーヒーテーブル、サイドテーブル、ダイニングテーブルの3サイズで展開される。オーク、ウォルナット、ブラックステインドバーチの木材と、クリア、ブラック、ブロンズのガラス天板を組み合わせることができる。

ARVコレクション ── チェア&テーブル

デザイナー:ダヴィッド・スルストルップ(Studio David Thulstrup)

「ARV」はデンマーク語で「遺産」を意味し、デンマーク伝統の職人技への敬意が込められた名称である。世界的に名高いレストラン・ノーマのために、シェフのレネ・レゼピがスルストルップに空間デザインを依頼したことが契機となり、Brdr. Krügerとの協働によって誕生したコレクションである。チェアはダイニングチェアとデスクチェアの中間的な角度設計が特徴で、ペーパーコード、レザー、ソリッドバックなど複数の座面仕様を選ぶことができる。アームレストがテーブルの天板の下に滑り込む設計により、チェアとテーブルが一体となった調和を生む。デザインミュージアム・デンマークの永久コレクションに収蔵されており、BIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)が設計した住宅やノーム・アーキテクツによるホルメン・アボードにも採用されている。2025年にはアーヴ・プラステーブル(楕円形ダイニングテーブル)がコレクションに加わった。

フェルディナンド・ラウンジチェア(Ferdinand Lounge Chair)

デザイナー:OEOスタジオ

Brdr. KrügerとOEOスタジオの最初のデザイン協働から生まれた、大胆かつ独創的なラウンジチェアである。背もたれとフレームが継ぎ目なく溶け合う彫刻的なフォルムは、旋盤加工の技法を構造の核に据えることで実現されている。ミッドセンチュリー・デンマーク・モダンの持続的な美質に、現代的な感性を加味したデザインは、二世紀にわたるデザインの伝統が一つの造形に結実したものといえる。その名は創業者フェルディナンド・クリューガーに由来する。コペンハーゲンのレストラン・カドーのラウンジにも採用されている。

KARMソファ

デザイナー:ダヴィッド・スルストルップ(Studio David Thulstrup)

「KARM」はデンマーク語で「窓枠」を意味し、深い窓枠の中に佇むような安心感を喚起するデザインコンセプトに基づいている。厳選された厚みのあるオーク材の大板から仕立てられ、両側面に露出するウェッジジョイント(楔接合)が構造美を際立たせる。1970年代デンマークデザインを彷彿とさせる鋭利でモダンなラインと、素朴な誠実さが共存する佇まいが特徴である。2人掛けと3人掛けの2サイズで展開される。

JARIコレクション ── チェア&テーブル

デザイナー:OEOスタジオ

「JARI」は日本語の「砂利」に由来し、波に洗われて長い歳月をかけて丸みを帯びた浜辺の小石からインスピレーションを得たコレクションである。日本とデンマークのデザイン文化に共通する、伝統的な職人技と自然への親密な関係性を体現している。チェアはレザー張りの滑らかな座面と一体成形のアッシュ材の背もたれを組み合わせ、テーブルは釘やネジを一切使わない精巧な接合技法によって仕上げられている。地元産のホワイトアッシュ材のみを使用し、有機的で流れるような曲線美が特徴である。

Ekkoチェア ── 2025年

デザイナー:ヘニング・ラーセン・アーキテクツ

デンマークの世界的建築事務所ヘニング・ラーセンが60年以上ぶりにチェアデザインに取り組んだ意欲作である。デンマーク・スカナボーのホイヴァンゲン教会のためにデザインされ、清潔なラインと普遍的なフォルムが特徴のスタッキングチェアとして完成した。90度の角度と追加の支持構造を持たない木製チェアでありながら、EU最高基準(L2)の過酷使用試験をクリアする耐久性を実現。Brdr. Krügerが独自に開発した特殊なほぞ接合技術がこの革新を支えている。2025年の3 Days of Designで商業展開が開始された。

Fチェア ── 2017年

デザイナー:ラスムス・ベッケル・フェクス

2013年のミラノ・デンマーク・マインドクラフト展に出品されたアート作品「Relatives」から発展した、シェーカー様式に着想を得たミニマルなダイニングチェアである。実験的な彫刻作品が、Brdr. Krügerの工房における精緻な木工プロセスを経て、高度に機能的でありながら出自の記憶を宿す一脚へと結実した。

アーケードチェア(Arkade Chair) ── 1983年デザイン / 2020年製品化

デザイナー:ナナ・ディッツェル

デンマークを代表する女性デザイナー、ナナ・ディッツェルが1983年にデザインしながらも製品化されなかった幻のチェアを、37年の時を超えて復刻したものである。アーチの反復をモチーフとした大胆な造形は、旋盤加工と蒸気曲げ木の技法、金属のサポート、テキスタイルの座面を組み合わせた多素材構成となっている。ディッツェルが1965年にデザインしクヴァドラ社が製造するハリングダル生地も選択可能であり、デザイナーの世界観を忠実に再現している。

ルル・クレイドル(Lulu Cradle) ── 1963年

デザイナー:ナナ・ディッツェル

ディッツェルが自身の子どもたちのためにデザインし、娘のルルにちなんで名付けられたゆりかごである。ディッツェル家では代々受け継がれ、新たな赤ちゃんが生まれるたびに小さなラベルが添えられてきた。2011年、Brdr. Krügerの創業125周年を記念して、ブランドロゴとナナ・ディッツェルの署名入り認証付きの限定200台で復刻された。

ルネランプ(Lune Lamp) ── 2014年

デザイナー:スヴェレ・ウンガー

ノルウェーのデザイナー、スヴェレ・ウンガーが手がけた照明は、完璧な球体に旋盤加工されたオーク材のシェードとLED光源を組み合わせた、伝統工芸と現代テクノロジーの融合を象徴する作品である。「Lune」はラテン語の「Luna(月)」に由来し、スカンディナヴィア語の「lunt(温かい、居心地のよい)」の響きも宿す。テーブルランプとペンダントランプの2タイプで展開される。2014年のミラノサローネで発表された。

主なデザイナー

ハンス・ブーリング(Hans Bølling, 1931年生まれ)

デンマークの建築家・デザイナー。王立デンマーク芸術アカデミー卒業。遊び心と陽気さに満ちた作風で知られる。Brdr. Krügerとの関係は三世代にわたり、ブーリング自身が「クリューガー家はまるで自分の家族のようだ」と語るほどの深い信頼で結ばれている。ブーリング・トレイテーブル(1963年)、TRIIIOテーブル(1958年デザイン/2016年製品化)、HBコレクション(ラウンジチェア、コーヒーテーブル、スツール)を手がけている。91歳にしてHBコレクションを発表するなど、創造力は尽きることがない。

ナナ・ディッツェル(Nanna Ditzel, 1923〜2005年)

デンマーク家具デザイン史における最も傑出した女性デザイナーの一人。指物師としての訓練を経て王立デンマーク芸術アカデミーで学び、大胆な実験性と柔らかな曲線美を併せ持つ作風を確立した。国際家具デザインコンペティション金賞(1990年、日本)、英国ロイヤル・ソサエティ・オブ・アーツ名誉ロイヤルデザイナー(1996年)など数多くの国際的受賞歴を持つ。Brdr. Krügerとは長期にわたる協働関係を築き、多くのアイデアやプロトタイプがクリューガー家の木工房で生まれた。現在もディッツェルの娘たちとの協力関係が継続している。

ダヴィッド・スルストルップ(David Thulstrup)

デンマークのデザイナー・建築家。伝統的な美学と現代的なシンプリシティを融合させる洗練されたアプローチで知られる。レストラン・ノーマの空間デザインを手がけた際にBrdr. Krügerとの協働が始まり、ARVコレクション(チェア、テーブル、ラウンジチェア)およびKARMソファを生み出した。すべての素材に美を見出し、快適性と居住性を重視する姿勢が作品に反映されている。

OEOスタジオ(OEO Studio)

トーマス・リュッケとアンネ=マリー・ビューマンが率いるコペンハーゲン拠点のデザインスタジオ。東京にもプロジェクトオフィスを持ち、スカンディナヴィアの伝統とアジアの美学を融合させた物語性豊かなデザインを展開する。2003年設立。Brdr. Krügerとの協働により、フェルディナンド・ラウンジチェア、セオドールダイニングチェア、ポーリーン・バースツール、JARIコレクションを手がけている。

ヘニング・ラーセン・アーキテクツ(Henning Larsen)

1959年に建築家ヘニング・ラーセンが創設した、デンマークを代表する世界的建築事務所。建築、ランドスケープ、都市デザイン、インテリアにわたる幅広い専門性を持ち、持続可能性への先見的なアプローチで知られる。Brdr. Krügerとの協働によるEkkoチェア(2025年)は、同事務所にとって60年以上ぶりのチェアデザインとなった。

ラスムス・ベッケル・フェクス(Rasmus Bækkel Fex)

職人としての実践経験と理論的知識を融合させるアプローチを持つデンマークのデザイナー。2013年のミラノ・マインドクラフト展で発表した実験的なアート作品がBrdr. Krügerとの協働の契機となり、Fチェア(2017年)を生み出した。

スヴェレ・ウンガー(Sverre Uhnger)

ノルウェー出身のデザイナー。指物師・家具デザイナーとしての訓練を受け、木工技術と旋盤加工への深い愛着を持つ。木の球体という旋盤加工の原初的な形態からインスピレーションを得たルネランプ(2014年)をBrdr. Krügerのために手がけた。

基本情報

ブランド正式名称 Brdr. Krüger(クリューガー兄弟)
設立 1886年
創業者 テオドール・クリューガー(Theodor Krüger)、フェルディナンド・クリューガー(Ferdinand Krüger)
現経営者 ヨナス・クリューガー(Jonas Krüger)、ジュリー・クリューガー(Julie Krüger)── 第5世代
所在地 デンマーク・コペンハーゲン(ショールーム:Bredgade 28B, Copenhagen) / 工房:ヴェアローセ(Værløse)
事業形態 デザイン・自社製造一貫体制(セルフプロデュース型家具ブランド)
主な製品カテゴリ チェア、テーブル、ソファ、ラウンジチェア、スツール、照明、クレイドル、トレイ
認証・規格 FSC認証取得、一部エネルギー自給
公式サイト https://www.brdr-kruger.com/