ボダム ― 「優れたデザインは高価である必要はない」を体現するデンマーク生まれのキッチンウェアブランド
1944年、デンマーク・コペンハーゲンで創業したボダムは、フレンチプレスコーヒーメーカーとスカンジナビアンデザインの代名詞として、世界55か国以上で愛され続けるキッチンウェアブランドです。創業者ピーター・ボダムが掲げた「Good design doesn't have to be expensive(優れたデザインは高価である必要はない)」という信念は、80年以上を経た現在もなお、すべての製品に息づいています。
ガラス輸入業からスタートした小さな家族経営の会社は、真空式コーヒーメーカー「サントス」で国際的な注目を集め、フレンチプレス「ビストロ」で世界的ブランドへと成長しました。現在はスイス・トリエンゲンに本社を構え、自社デザインチーム「PI-Design」による一貫したプロダクト開発と、ポルトガルの自社工場での製造を軸に、コーヒー・ティーウェアからキッチン家電、グラスウェアに至る幅広い製品を展開しています。機能性と美しさ、そして手の届きやすい価格を両立させるその姿勢は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)デザインストアとの継続的なコラボレーションにも表れており、日常の道具を通じて「良いデザインの民主化」を実践し続けるブランドです。
ブランドの特徴・コンセプト
機能がかたちを決める ― スカンジナビアンデザインの精神
ボダムのデザイン哲学は、北欧デザインの根幹にある「フォーム・フォローズ・ファンクション(形態は機能に従う)」の思想に深く根ざしています。装飾のための装飾を排し、使う人の日常に寄り添う機能美を追求するこの姿勢は、創業者ピーター・ボダムの時代から一貫して受け継がれてきました。フレンチプレスの構造に見られるように、ガラス、スチール、水、そしてコーヒー豆という必要最小限の要素だけで最良の一杯を生み出すという考え方は、ボダムのすべての製品に通底する設計原理です。
サステナビリティへの取り組み
ボダムは「Make Taste, Not Waste(味をつくれ、無駄をつくるな)」をスローガンに、環境負荷の低減に積極的に取り組んでいます。フレンチプレスやティープレスはペーパーフィルターやプラスチックカプセルを必要とせず、繰り返し使用できる金属メッシュフィルターを採用しています。また「BODUM Basics」ラインでは、コットン、木材、竹、ガラス、磁器、スチールといった天然素材のみを使用し、不要な包装や着色を排した製品づくりを実践しています。ポルトガル・トンデラの自社工場においても、クロムメッキ工程をはじめとする製造プロセスにおいて環境基準の遵守を徹底しています。
100%ファミリーオーナーシップ
創業以来、ボダムは一貫してボダム家による100%ファミリーオーナーシップを維持しています。現在は創業者ピーター・ボダムの息子であるヨーゲン・ボダムがCEOを務め、姉のピア・ボダムとともに経営にあたっています。上場企業やコングロマリットの傘下に入ることなく、独立した家族経営を貫くことで、長期的な視点に立ったデザインと品質への投資を可能にしています。
PI-Design ― 自社デザインチームによる一貫した製品開発
1980年、ヨーゲン・ボダムはスイスに自社デザインユニット「PI-Design」を設立しました。デザイナー、エンジニア、グラフィックデザイナー、建築家で構成されるこのチームは、ボダムのすべての製品デザインを担っています。外部デザイナーとの協働も行いながら、機能性と品質の伝統を守りつつ、革新的な製品開発を続けています。デザインから製造、小売に至るまでの一貫した管理体制が、ボダムの製品品質とブランドアイデンティティの一貫性を支えています。
ブランドヒストリー
創業期:ガラス輸入業からコーヒーメーカーへ(1944〜1950年代)
1944年、第二次世界大戦の終戦間際、ピーター・ボダムはコペンハーゲンで東欧からのガラス製品を輸入する事業を始めました。やがて輸入品の中で出会ったフランス製の真空式コーヒーメーカーに魅了されたピーターは、その抽出されたコーヒーの味わいに感銘を受け、より優れたデザインと手頃な価格を両立させた製品の開発を決意します。デンマーク初期のプロダクトデザイナーのひとりである建築家カース・クレーソンとの協働により、1950年代半ばに最初の真空式コーヒーメーカー「MOCCA(モッカ)」を発表。続く1958年には改良版「SANTOS(サントス)」を世に送り出しました。サントスはそのユニークなデザインで国際的な評価を獲得し、1950年代から1970年代にかけて世界的なベストセラーとなりました。
第二世代の革新:フレンチプレスとグローバル展開(1970〜1980年代)
1974年、26歳のヨーゲン・ボダムが父の跡を継ぎ、経営を引き継ぎました。若きデザイナー、カーステン・ヨルゲンセンとのパートナーシップのもと、ボダム初のフレンチプレスコーヒーメーカー「Bistro(ビストロ)」を発表します。環境にやさしい設計で数々のデザイン賞を受賞したビストロは、ボダムの代名詞となる製品カテゴリーを確立しました。1978年にはヨーロッパ中央に位置する戦略的拠点としてスイス・ルツェルンに本社を移転。1980年にはPI-Designを設立し、自社デザインチームによる製品開発体制を整えました。1980年代にはビストロのデザインファミリーを拡張し、カトラリー(1980年)、Osiris(オシリス)ウォーターケトル(1981年)、バキュームフラスク(1982年)、Teabowl(ティーボウル)ティーポット(1984年)、そしてChambord(シャンボール)ファミリー(1984年)を次々と発表しました。
国際小売ネットワークと製品多角化(1986〜2000年代)
1986年、ロンドンに初の直営店をオープンし、国際的な小売ネットワークの構築に乗り出しました。パリ、コペンハーゲン、チューリッヒ、ルツェルン、東京、ニューヨーク、シドニー、リスボンなど世界の主要都市に次々と店舗を展開していきます。1991年には、フレンチプレスの原型を製造していたマルタン社(Martin S.A.)を買収し、「MELIOR(メリオール)」を製品ラインに統合。同年、英国紅茶協会との協働で革新的なティープレス「ASSAM(アッサム)」を開発しました。1992年にはIBIS(イビス)ウォーターケトルを皮切りに電気製品ライン「e-BODUM」をスタート。2001年にはニューヨークに約650平方メートルの旗艦店をオープンし、スウェーデンのステーショナリーブランド「Ordning&Reda(オルドニング&レダ)」を2003年にグループに迎え入れるなど、事業領域を着実に拡大していきました。
現在:デザインとサステナビリティの両立
現在、ボダムはスイス・トリエンゲンの本社を中心に、世界17か国以上で事業を展開しています。コーヒー・ティーウェアにとどまらず、キッチン家電、グラスウェア、調理器具、カトラリー、収納用品、テキスタイル、ホーム&オフィスアクセサリーまで幅広い製品を手がけています。ニューヨーク近代美術館(MoMA)デザインストアとの継続的なコラボレーションでは、シーズンごとにMoMA限定カラーの製品を展開するなど、デザイン界における高い評価を維持しています。ポルトガル・トンデラの自社工場では製造の内製化を進め、品質管理とサステナビリティの両立に取り組んでいます。
主なプロダクトとその特徴
SANTOS / サントス ― 真空式コーヒーメーカー(1958年〜)
ボダムの国際的名声を確立した記念碑的プロダクトです。創業者ピーター・ボダムと建築家カース・クレーソンが共同で開発した真空式コーヒーメーカーで、科学実験を思わせるガラスの二重構造の中で、蒸気圧によって水が上昇し、コーヒーの粉と接触して抽出されるプロセスを視覚的に楽しむことができます。ペーパーフィルターを使用しないため、コーヒーオイルを余すことなく抽出し、クリアでありながら芳醇な味わいを実現します。アメリカ工業デザイナー協会(IDSA)のIDEA賞を受賞するなど、機能美の高さが国際的に認められています。現在は「PEBO(ペボ)」の名称でストーブトップモデルが継続生産されています。
CHAMBORD / シャンボール ― フレンチプレスコーヒーメーカー(1950年代〜)
ボダムの象徴ともいえるフレンチプレスコーヒーメーカーです。その名はフランス・ロワール渓谷に佇むシャンボール城に由来しています。1930年代にイタリア人デザイナー、アッティリオ・カリマーニが考案したフレンチプレスの基本原理を受け継ぎ、ボダムが1991年のマルタン社買収を経て完成させました。クロムメッキを施したスチールのフレームとリッド、耐熱ホウケイ酸ガラスのビーカー、マットな質感のポリプロピレンハンドルという組み合わせは、ミッドセンチュリーの佇まいを纏いながら、すべてのパーツが容易に分解できる実用性を兼ね備えています。2003年にはアメリカン・カリナリー・インスティテュートからゴールドメダルを受賞しました。
Bistro / ビストロ ― フレンチプレス&デザインファミリー(1974年〜)
ヨーゲン・ボダムとデザイナー、カーステン・ヨルゲンセンの協働により1974年に誕生した、ボダム初のフレンチプレスコーヒーメーカーです。環境にやさしい設計と洗練されたデザインで国際的なデザイン賞を複数受賞し、フレンチプレスのカテゴリーにおけるスタンダードを確立しました。その後、カトラリー、ウォーターケトル、バキュームフラスク、ティーグラス、エスプレッソカップなど、「ビストロ」の名を冠した製品ファミリーへと発展しました。なお、ビストロシリーズの耐熱ガラスマグは、テレビシリーズ『スタートレック:新世代』においてピカード艦長が愛飲する「紅茶、アールグレイ、ホット」のカップとして使用され、ポップカルチャーの中にもその存在を刻んでいます。
PAVINA / パヴィーナ ― ダブルウォールグラス(2004年〜)
2004年に発表され、数々の国際デザイン賞を受賞したボダムのダブルウォールグラスシリーズです。熟練の職人による口吹き(マウスブロウン)製法で一点一点丁寧に作られ、二層のホウケイ酸ガラスが真空断熱層を形成します。温かい飲み物は温かいまま保温しながらグラス表面は熱くならず、冷たい飲み物は結露を防いでテーブルを濡らしません。液体が宙に浮いているかのような視覚的効果も魅力のひとつです。底部のシリコンバルブが温度変化に伴う気圧差を調整し、二層構造の耐久性を高めています。MoMAデザインストアとのコラボレーションによる限定カラーも展開されています。
ASSAM / アッサム ― ティープレス(1991年〜)
英国紅茶協会との協働により開発された革新的なティープレスです。フレンチプレスと同じ原理をお茶の抽出に応用し、プランジャーを押し下げることで茶葉からの抽出を任意のタイミングで止められるため、好みの濃さに正確に調整することができます。紅茶文化の本場である英国で認められたこの製品は、ボダムの技術力がコーヒーにとどまらず、お茶の世界にも通用することを証明しました。
EILEEN / アイリーン ― フレンチプレス&ティーポット(1999年〜)
アイルランド出身の伝説的デザイナー、アイリーン・グレイへのオマージュとして名づけられたシリーズです。クロムメッキを施した流線型のスチールフレームが特徴的で、フレンチプレスコーヒーメーカーとティーポットを展開しています。クラシカルでありながらモダンなデザインは、シャンボールとは異なるエレガンスを放ち、複数のカラーバリエーションと食洗機対応の実用性を備えています。
e-BODUM / eボダム ― キッチン家電シリーズ(1992年〜)
1992年のIBIS(イビス)ウォーターケトルを皮切りにスタートしたボダムの電気製品ラインです。ジューサー、コーヒーグラインダー、ブレンダーなど、ボダムのデザイン哲学をキッチン家電に展開し、「機能的で手頃な良いデザイン」という理念を電気製品の領域にも貫いています。近年では電気式真空コーヒーメーカー「ePEBO」など、創業期の真空式コーヒーメーカーの技術を現代に蘇らせる製品も発表しています。
主なデザイナー
カース・クレーソン(Kaas Klaeson)
デンマーク初期のプロダクトデザイナーのひとりである建築家。1950年代に創業者ピーター・ボダムと協働し、真空式コーヒーメーカー「MOCCA」および「SANTOS」を開発しました。「デザインは高価であるべきではない」というボダムの基本理念を確立した人物であり、機能的でありながら手頃な価格の製品という、ブランドのDNAを築き上げました。
カーステン・ヨルゲンセン(Carsten Jørgensen)
デンマークのインダストリアルデザイナーであり、25年以上にわたりボダムのデザインディレクターを務めた人物です。1974年のフレンチプレス「ビストロ」をはじめ、Osirisウォーターケトル、ビストロシリーズのカトラリー、バキュームフラスク、さらにはロンドン初の直営店のデザインに至るまで、ボダムのプロダクトデザインとブランドの視覚的アイデンティティの中核を長きにわたって担いました。彼がデザインしたビストロのガラスマグは、テレビシリーズ『スタートレック:新世代』でピカード艦長のティーカップとして登場し、「ピカード・カップ」の愛称でも広く知られています。
PI-Design チーム
1980年にスイスで設立されたボダムの自社デザインユニットです。デザイナー、エンジニア、グラフィックデザイナー、建築家から構成され、ボダムのすべての製品デザインを担当しています。スカンジナビアンデザインの伝統を守りつつ、日本のデザインからの影響も取り入れた簡潔で機能的なプロダクトを生み出し続けています。ダブルウォールグラス「PAVINA」をはじめとする近年の製品群や、MoMAデザインストアとのコラボレーション製品もPI-Designチームの手によるものです。
基本情報
| ブランド正式名 | BODUM(ボダム) |
|---|---|
| 設立 | 1944年 |
| 創業者 | ピーター・ボダム(Peter Bodum) |
| 現CEO | ヨーゲン・ボダム(Jørgen Bodum) |
| 創業地 | デンマーク・コペンハーゲン |
| 本社所在地 | スイス・トリエンゲン(Kantonsstrasse 100, 6234 Triengen, Switzerland) |
| 事業形態 | 100%ファミリーオーナーシップ(ヨーゲン・ボダム、ピア・ボダム共同所有) |
| デザイン拠点 | PI-Design AG(スイス) |
| 主要製造拠点 | ポルトガル・トンデラ(BODUM Portuguesa) |
| 展開国数 | 55か国以上 |
| 直営店舗 | 世界20店舗以上(パリ、コペンハーゲン、チューリッヒ、東京、ニューヨーク、シドニー、リスボン等) |
| グループ企業 | Ordning&Reda(スウェーデン・ステーショナリーブランド、2003年よりグループ傘下) |
| 主要製品カテゴリ | フレンチプレス、真空式コーヒーメーカー、ティープレス、ダブルウォールグラス、キッチン家電、カトラリー、調理器具、収納用品 |
| 公式サイト | https://www.bodum.com |