Arper(アルペール)
Arper(アルペール)は、1989年にイタリア北部ヴェネト州モナスティエール・ディ・トレヴィーゾで創業したグローバルデザインブランドです。創業者ルイジ・フェルトリンが1980年代に興した小さな皮革製造事業を基盤とし、息子のマウロと現会長のクラウディオが共に企業化したことでブランドが誕生しました。当初はレザーチェアの製造に特化していましたが、1990年代後半にコントラクト市場へと事業を転換し、世界的なデザイナーとのコラボレーションを通じて独自のスタイルを確立。ミニマルで洗練されたデザインと、人や空間との調和を大切にする哲学は、現在90カ国以上で親しまれ、オフィス、教育施設、空港、ホテルなど多様な空間に採用されています。
ブランドコンセプト「The Project of Living」
アルペールが掲げるコンセプト「The Project of Living(生きるというプロジェクト)」は、単なる家具製造を超えた価値創造の思想を体現しています。仕事と生活の境界が曖昧化する現代において、「どう生きたいのか」という根源的な問いに向き合い、持続可能な未来を見据えた製品開発とイノベーション、そして人々の暮らしを中心に据えたデザインを追求しています。製品単体ではなく戦略、コレクションではなく空間、人間の利益だけでなく地球の未来という包括的な視点で、お客様やビジネスパートナーとの対話を通じて、より良い世界を共にデザインすることを目指しています。
ブランドの価値観
アルペールのものづくりを支える5つの価値観は、ブランドの根幹をなす理念です。人と地球に対する責任感(Responsibility)、細部への配慮と感謝の心(Care)、新たな視点を追求する探究心(Openness)、オリジナルのアイデアを形にする創造性(Imagination)、そして恐れずに大胆に挑戦する勇気(Courage)。これらの価値観は、すべての製品開発プロセスと企業活動において一貫して実践されています。
ブランドヒストリー
アルペールの歴史は、創業者ルイジ・フェルトリンの皮革への情熱から始まりました。1980年代にトレヴィーゾで立ち上げた小規模な皮革製造事業は、1989年に息子のマウロとクラウディオとともに企業化され、正式にArperブランドとして歩み始めます。創業当初からグローバル化を視野に入れ、製品と生産工程の両面において革新的な姿勢を貫いてきました。
1990年代後半、アルペールはリビング向けレザーチェアからコントラクト市場への転換という大きな決断を下します。この戦略的移行により、デザイン性を重視するB to B企業としての地位を築き始めました。転機となったのは、バルセロナのデザインスタジオ「リエボレ・アルテール・モリーナ」との出会いです。2001年に発表されたCatifa(カティファ)は、発売以来200万脚以上を販売する大ヒット作となり、アルペールのアイデンティティを世界に示すアイコニックな製品となりました。
環境への取り組みにおいても、アルペールは業界の先駆者としての役割を果たしてきました。2005年に家具業界に先駆けて環境部門を設立し、2006年にはISO 14001環境マネジメントシステムを取得。2007年からはライフサイクルアセスメント(LCA)を導入し、製品の環境性能を原材料選定から廃棄に至るまで分析する体制を整えました。2008年にはCatifa 46とCatifa 53でイタリアの家具メーカーとして初めてEPD(環境製品宣言)認証を取得し、2009年には国際EPDシステム・スウェーデンの製品カテゴリールール(PCR)を作成。これは現在も家具業界における環境認証の基準として機能しています。
2011年には、サイモン・ペンジェリーがデザインしたNuur(ヌール)テーブルがイタリアデザイン界最高の栄誉であるコンパッソ・ドーロを受賞し、アルペールの製品開発力と品質が国際的に認められる証となりました。2020年には創業者ルイジ・フェルトリンが逝去しましたが、その遺志は次世代へと継承され、2024年には革新的なサステナブル素材「PaperShell」を採用したCatifa Carta(カティファ・カルタ)を発表。紙由来の素材で製造されたシェルは、製品ライフサイクル全体を通じてCO2を吸収するという画期的な特性を持ち、循環型デザインの新たな地平を切り開いています。
デザインアプローチ
アルペールのデザインアプローチは、5つの原則に基づいています。まず「問題解決型」として、人々のニーズ(有形・無形を問わず)から出発し、単なるスタイルの追求ではなく、美しさと実用性を兼ね備えた解決策を提供します。「本質追求」では、品質・美しさ・細部へのこだわりを損なうことなく、必要なものだけを残す精錬を行います。「包括性」においては、可能な限りすべての人々のニーズと感情を受け入れ、洗練されつつも親しみやすい製品を追求します。「汎用性」として、地理的な制約を超え、トレンドに左右されない、真に適応性のあるタイムレスな作品を生み出します。そして「人間中心」の姿勢で、製品とソリューションの両方において常にユーザー体験を意識し、快適性を犠牲にしない美しさ、人々の生活向上に資する技術革新を追求しています。
モジュラリティへのこだわり
空間デザインがこれまで以上に求められる現代において、アルペールの設計手法の主軸となるのが家具のモジュール性です。基本となるパーツを組み合わせることで自由で無限の演出が可能になるコレクションは、多様かつ変化し続けるニーズや空間に柔軟に適応します。また、メンテナンスのしやすさやリユース・リサイクルを念頭に、組み立てや分解が容易な設計思想が貫かれています。
主なコレクションとその特徴
Catifa(カティファ)シリーズ
2001年にリエボレ・アルテール・モリーナによってデザインされたCatifa 53は、アルペールのアイデンティティを体現するアイコニックなチェアです。優美に湾曲したシートと洗練されたプロファイルは、概念的な純粋性の極致を示しています。余分なものを削ぎ落としながらも官能性を失わない、究極の引き算のデザインは、発表以来世界中で200万脚以上販売される大成功を収めました。FX International Interior Design Award(2002年)、Delta De Plata ADI-FAD(2003年)、iF Product Design Gold Award(2006年)など、数々の国際的なデザイン賞を受賞しています。
Catifa 46(2004年)は、Catifa 53の妹分として、同様の洗練されたプロファイルをよりコンパクトなサイズで実現しました。コントラクト使用に最適化され、屋内外を問わず多様な空間に適応する高い汎用性を備えています。2024年には、100%リサイクルプラスチック(消費者使用後および産業廃棄物由来)で製造されたCatifa (RE) 46が発表され、サステナブルデザインの新たな基準を示しました。
2024年に発表されたCatifa Carta(カティファ・カルタ)は、革新的な素材「PaperShell」を採用した画期的なチェアです。29枚の木質シートを天然樹脂バインダーで接着したこの素材は、製品ライフサイクル全体を通じてCO2を吸収し、環境負荷を大幅に軽減します。製品寿命終了時にはバイオチャー(炭化物)として土壌に還元され、炭素を固定したまま生態系に貢献するという、真の循環型デザインを実現しています。
Nuur(ヌール)
2009年にイギリスのデザイナー、サイモン・ペンジェリーがデザインしたNuurは、テーブルの原型ともいえる純粋なフォルムを追求した作品です。4本の細い脚の上に浮かぶように配されたシンプルな天板は、美的純粋性と柔軟性を両立しています。4つのコーナー脚、4本のレール、1枚の天板という単純な原理に基づくユニバーサルシステムは、多様な用途と環境に適応します。2011年、その「極めて優れた軽さと細部への配慮」が高く評価され、イタリアデザイン界最高峰のコンパッソ・ドーロを受賞しました。
Leaf(リーフ)
2005年にリエボレ・アルテール・モリーナによってデザインされたLeafコレクションは、自然からインスピレーションを得たアウトドア向けシリーズです。木の枝や葉脈を想起させる不規則なラインは、懐かしさと先進性を同時に感じさせるマニフェストのような存在です。スチールロッドで構成された有機的なフォルムは、屋内外を問わず多様な環境に創造的に溶け込みます。チェア、ラウンジ、シェーズロング、テーブルで構成されるこのシリーズは、世界中の美術館、ルーフトップバー、ホテル、住宅で愛用されています。
Aston Club(アストン・クラブ)
フランスのデザイナー、ジャン=マリー・マソーがデザインしたAston Clubは、洗練されたラウンジチェアとして高い評価を得ています。ゆったりとした座り心地と、建築的でありながら軽やかなシルエットが特徴で、住宅からオフィス、ホスピタリティ空間まで幅広く対応します。産業廃棄物由来のリサイクルプラスチックを使用し、完全に分解可能な設計により、すべての部品をリサイクルまたはアップサイクルできます。接着剤を使用しない組み立て方式は、排出物を削減し、部品の再利用を可能にしています。
Kinesit(キネシット)
2014年にリエボレ・アルテール・モリーナがデザインしたKinesitは、オフィスチェアの概念を革新した作品です。従来モノトーンが主流だったオフィス用チェアにカラフルな色彩を導入し、革新的な技術を採用したユニークなデザインは、ワークプレイスに新たな活力をもたらしました。人間工学に基づいた設計と、直感的な操作性を両立させた「ソフトテクノロジー」の思想が具現化されています。
Steeve(スティーヴ)
ジャン=マリー・マソーによるSteeve(スティーヴ)は、洗練された住宅やオフィス環境のために構想されたモダンでモジュラーなソファシステムです。ベンチ、アームチェア、ソファという3つの汎用性の高いコンポーネントは、あらゆるインテリア空間に対応する無数の配置を可能にします。堅牢で建築的なシルエットでありながら、スレンダーで軽やかな印象を与えるデザインが特徴です。独自の製法によりシームレスな背もたれとアームカバーを実現し、複雑な張り地技術を不要にした業界革新的な製品です。
主なデザイナー
Lievore Altherr Molina(リエボレ・アルテール・モリーナ)
1991年にアルベルト・リエボレ、ジャネット・アルテール、マネル・モリーナによってバルセロナで設立されたデザインスタジオ。家具、インテリア、製品、パッケージングを手がける多分野横断的なアプローチで国際的に高い評価を得ており、1999年にはスペインのナショナルデザインアワードを受賞しています。アルペールとのパートナーシップは2001年のCatifa発表から始まり、Kinesit、Leaf、Dizzie、Arcos、Colinaなど、数多くのロングセラー製品を生み出してきました。現在はAlberto LievoreとJeannette Altherrを中心としたLievore AltherrおよびAltherr Désile Parkへと発展を続けています。
Jean-Marie Massaud(ジャン=マリー・マソー)
1990年にパリのENSCI-Les Ateliersを卒業後、建築からオブジェクトまで、一品ものから量産品まで、マクロ環境からミクロの文脈まで、幅広いスケールのプロジェクトを手がけるフランスを代表するデザイナー。アルペール、Axor、クリストフル、エールフランス、トヨタなど世界的ブランドとのコラボレーションにおいて、快適さとエレガンス、時代精神と伝統、寛容さと品格を融合させる能力が高く評価されています。アルペールではAston Club、Steeve、Sean、Ginger、Oell、Saulなどを手がけています。
Simon Pengelly(サイモン・ペンジェリー)
1993年にロンドンで設立されたペンジェリー・デザインスタジオを率いるイギリス人デザイナー。家具とプロダクトデザインを専門とし、ミニマリズムと機能性の完璧な融合を追求しています。アルペールとの協働によるNuur(ヌール)テーブルは、2011年にコンパッソ・ドーロを受賞し、イタリアデザイン史に名を刻む作品となりました。
Antti Kotilainen(アンティ・コティライネン)
1997年にヘルシンキで設立されたフィンランドのデザインスタジオを主宰。北欧デザインの伝統を継承しながら、現代的な解釈を加えたミニマルで機能的な作品で知られています。アルペールではAava(アーヴァ)シリーズをデザインし、消費者使用後のリサイクル素材を活用したサステナブルなチェアコレクションを実現しました。
James Irvine(ジェームズ・アーヴィン)
ロンドン生まれ、1984年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業後、ミラノを拠点に活動したイギリス人デザイナー。流動的で軽やかなフォルムと効率性を兼ね備えたデザインで知られ、アルペールでは2012年に発表したJuno(ジュノ)をデザイン。プラスチックの可能性を繊細なタッチで再定義した、スタッカブルチェアの傑作として評価されています。
Ichiro Iwasaki(岩崎一郎)
ソニー株式会社デザインセンター勤務を経て渡伊し、ミラノのデザイン事務所で経験を積んだ後、1995年にイワサキデザインスタジオを設立した日本人デザイナー。日本の繊細な美意識とイタリアンデザインの感性を融合させた作品で国際的に活躍しています。
サステナビリティへの取り組み
アルペールは2005年に家具業界に先駆けて環境部門を設立し、サステナビリティを企業戦略の中核に据えてきました。「持続可能な企業は持続可能な製品から生まれる」という信念のもと、原材料の選定から製造、輸送、使用、廃棄に至る製品ライフサイクル全体を通じた環境負荷の低減に取り組んでいます。
環境認証と業界基準の確立
2006年にISO 14001環境マネジメントシステムを取得し、2007年からはライフサイクルアセスメント(LCA)を導入。2008年にはCatifa 46とCatifa 53でイタリアの家具メーカーとして初めてEPD(環境製品宣言)認証を取得しました。2009年には国際EPDシステム・スウェーデンの製品カテゴリールール(PCR)を作成し、これは現在も家具業界における環境認証の基準として機能しています。さらに、EPDプロセス認証をイタリア初、ヨーロッパで2番目に取得し、自社で環境製品宣言を発行できる体制を整えています。FSC(森林管理協議会)認証も取得し、持続可能な森林から採取された木材のみを使用することを保証しています。
循環型デザインの実践
アルペールの製品は、耐久性、分解可能性、リサイクル可能性を設計段階から考慮して開発されています。接着剤を使用しない組み立て方式を採用することで、製品寿命終了時に各部品を適切にリサイクルまたはリユースすることが可能です。リサイクル素材の積極的な採用、水性塗料の使用、FSC認証木材の使用など、環境に配慮した素材選定も徹底しています。2024年に発表されたCatifa Cartaは、紙由来の革新的素材「PaperShell」を採用し、製品ライフサイクル全体でカーボンネガティブを実現した画期的な製品です。
3つの柱による持続可能性
アルペールは「Avoid(回避)」「Reduce(削減)」「Offset(相殺)」の3つの柱を基盤に、責任ある事業慣行の実現を目指しています。誤解を招く情報を避け、素材の出所を追跡し、倫理的・環境的に安全でないプロセスを排除する「回避」。環境負荷を理解し、製品単体だけでなく企業全体の排出量を算出・削減する「削減」。そして、透明性のある情報開示を通じて市場の信頼に応える「相殺」。これらの取り組みは、単なる製品改善にとどまらず、より野心的なビジョンと行動、組織レベルでの変化、プロセスの進化、文化的変革から活力を得ています。
基本情報
| ブランド名 | Arper(アルペール) |
|---|---|
| 設立 | 1989年 |
| 創業者 | ルイジ・フェルトリン |
| 現会長 | クラウディオ・フェルトリン(Claudio Feltrin) |
| 本社所在地 | Via Lombardia, 16 31050, Monastier di Treviso (TV) Italy |
| 事業内容 | チェア、テーブル、ソファ、ベンチ等のインテリア製品の製造販売 |
| 展開国 | 90カ国以上 |
| 主要取引先 | オフィス、教育施設、空港、ホテル、美術館、住宅等 |
| 公式サイト | https://www.arper.com/ja_JP/ |
受賞歴
- 2011年
- コンパッソ・ドーロ(Nuur/サイモン・ペンジェリー)
- 2010年
- Design Guild Mark(イギリス)、Design Week Awards(イギリス)、Interior Innovation Award(ドイツ)、iF Product Design Award(ドイツ)
- 2006年
- iF Product Design Gold Award(Catifa 53)
- 2005年
- Design Week Award(イギリス)
- 2003年
- Delta De Plata ADI-FAD(Catifa 53)
- 2002年
- FX International Interior Design Award(Catifa 53)
その他、Red Dot Design Award、Interior Innovation Award、ICFF Editors Awards、GREENGUARD認証、GECA認証など、多数の国際的なデザイン賞および環境認証を取得しています。