柳宗理ケトルは、日本を代表するインダストリアルデザイナー柳宗理が1994年に発表したステンレス製のやかんである。佐藤商事より製造・販売され、発売以来30年にわたり愛され続けるロングセラー製品として、日本のキッチン用品の名作に数えられている。

柳宗理のデザイン哲学である「用の美」を体現したこのケトルは、装飾を排した機能的な美しさと、日々の使用における確かな使い心地を両立させている。ステンレスの光沢が織りなす流麗なフォルムは、どのようなキッチン空間にも調和し、時代を超えた普遍的な魅力を放つ。

特徴・コンセプト

柳宗理ケトルの最大の特徴は、「手で考える」という柳宗理独自のデザインアプローチから生まれた、人間工学に基づく設計にある。実際に手で持ち、注ぎ、洗うという日常動作を幾度も検証し、最適な形状を追求した結果、使う人の身体に自然と馴染む造形が実現された。

機能美の追求

本体は18-8ステンレス製で、耐久性と衛生面に優れている。底面は広く設計されており、熱効率を高めるとともに安定性を確保している。注ぎ口は水切れがよく、湯を注ぐ際の液だれを最小限に抑える設計がなされている。

握りやすいハンドル

ハンドルには樹脂製のグリップが採用され、熱くなりにくく握りやすい。人の手に合わせた緩やかなカーブは、重量のある満水時でも安定した持ち心地を提供する。この細部への配慮こそ、柳宗理デザインの真髄である。

サイズバリエーション

ケトルは用途に応じて複数のサイズが展開されている。一人暮らしから家族での使用まで、それぞれの生活スタイルに合わせた選択が可能であり、この柔軟性も長く支持される理由の一つとなっている。

デザイナー 柳宗理について

柳宗理(1915-2011)は、民藝運動の創始者である柳宗悦の長男として東京に生まれた。東京美術学校(現・東京藝術大学)で洋画を学んだ後、工業デザインの道へと進み、戦後日本のインダストリアルデザインを牽引する存在となった。

父から受け継いだ「用の美」の思想を工業製品に昇華させ、バタフライスツール、エレファントスツール、ステンレスカトラリーなど数多くの名作を世に送り出した。その作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)やルーヴル美術館に永久収蔵されており、世界的な評価を得ている。

「本当に良いデザインは、図面や言葉からは生まれない。手で考え、模型を作り、実際に使ってみることで初めて完成する」という信念のもと、常に実用性と美しさの融合を追求し続けた。

エピソード

柳宗理がキッチンウェアのデザインに本格的に取り組み始めたのは1970年代後半からである。それまで家具や公共空間のデザインを中心に手がけてきた柳は、日常生活においてより身近に使われる道具に関心を向け、佐藤商事との協業によりステンレス製品のシリーズを展開していった。

ケトルの開発にあたっては、何度も試作を重ね、実際に自宅で使用しながら改良を続けたという。注ぎ口の角度、ハンドルの太さ、蓋の開閉のしやすさなど、あらゆる要素が使用者の立場から見直された。この地道な検証作業こそが、発売から長年経った今日でも色褪せない完成度の高さを支えている。

柳は生前、「道具は使われてこそ意味がある。飾られるためではなく、毎日手に取られ、愛着を持って使い続けられるものを作りたい」と語っていた。このケトルは、まさにその言葉を体現する製品として、多くの家庭で日々の暮らしに寄り添い続けている。

評価

柳宗理ケトルは、発売以来デザイン関係者のみならず、一般の消費者からも高い評価を受けてきた。シンプルでありながら温かみのあるフォルム、確かな使い心地、そして長年使用しても劣化しにくい堅牢性は、日本の工業デザインの優れた一例として国内外で認められている。

特筆すべきは、流行に左右されない普遍的なデザインである。1994年の発売当時から基本設計を変えることなく生産が続けられており、このこと自体がデザインの完成度の高さを証明している。世代を超えて受け継がれる「定番」として、日本のモダンデザインを代表する製品の一つに位置づけられている。

また、柳宗理のキッチンウェアシリーズ全体が、日本の「良いものを長く使う」という価値観と見事に調和しており、持続可能な消費のあり方を先取りしたデザインとしても再評価されている。

受賞歴・所蔵

柳宗理のプロダクトデザインは、国内外で数多くの賞を受賞している。ケトルを含むステンレスキッチンウェアシリーズは、グッドデザイン賞をはじめとする各種デザイン賞において高い評価を獲得してきた。

柳宗理の作品群は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館、パリ・ルーヴル美術館、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館など、世界の主要な美術館・博物館に永久収蔵されている。また、金沢美術工芸大学には「柳宗理記念デザイン研究所」が設立され、その功績と作品が後世に伝えられている。

基本情報

製品名 柳宗理 ステンレスケトル
デザイナー 柳宗理(Sori Yanagi)
発表年 1994年
メーカー 佐藤商事株式会社
素材 本体:18-8ステンレス / ハンドル:フェノール樹脂
サイズ展開 ミラー仕上げ、つや消し(マット)仕上げ
生産国 日本
熱源対応 ガス火、IH対応(機種による)