柳宗理 鉄フライパンは、佐藤商事が展開する「柳宗理デザインシリーズ」のなかでも広く使われている調理器具である。1990年代末の発売以来、家庭の台所で使い続けられてきた。左右に張り出した注ぎ口と、手に沿う持ち手の曲線が、この製品の輪郭を決めている。

製造は新潟県の燕三条地域が担う。ブルーテンパ材と呼ばれる鉄板を成形し、表面に加工を施したうえで、専用の蓋と樹脂製の持ち手を組み合わせる。18cm・22cm・25cmの3サイズが用意され、表面加工の違いによって「マグマプレート」と「ダブルファイバー窒化加工」の2系統が並行して販売されている。

特徴・コンセプト

最も目を引くのは、フライパンの左右両側に張り出した注ぎ口である。調理を終えた油を捨てる、ソースを皿に流す、茹で汁を切る──こうした動作が、利き手にかかわらず同じようにできる。蓋を90度回すと注ぎ口との間にすき間が生まれ、蒸気抜きや湯切りにも使える。装飾ではなく、使う手順から導かれた形である。

手で確かめて決めた持ち手

持ち手は、石膏模型を繰り返し作り直しながら形を決めたものと伝えられる。図面上の寸法ではなく、実際に握った感触を基準に修正を重ねる進め方である。鉄の重量を支えたときに手のひらへ荷重が分散し、フライパンを振る動作でも安定する。素材はフェノール樹脂で、耐熱温度は150℃。持ち手はボルトで固定されており、破損した場合は部品交換ができる。

鉄板と表面加工

本体には、フライパン用に開発されたブルーテンパ材が使われている。鉄板の表面を焼き入れによって酸化させた材料で、素の鉄板より錆びにくく、加工性にも優れる。

「マグマプレート」は、この鉄板の表裏に南部鉄器を思わせる凹凸を浮き立たせ、黒色酸化皮膜とシリコン樹脂塗装を重ねた加工である。表面積が増えることで熱を受けやすくなり、食材が点で接するためこびりつきにくい。一方「ダブルファイバー窒化加工」は、両面に繊維状の凹凸を付けたうえで、鉄の表面を窒素で硬化させる窒化処理を施す。航空機や自動車部品の防錆に用いられてきた技術で、耐腐食性と耐摩耗性が高い。

蓋の役割

付属する蓋はステンレス製で、つまみには樹脂が使われる。閉じれば蒸し焼きに、少しずらせば水分を飛ばす調整に使える。注ぎ口の形に沿ってすき間が開くため、蓋を押さえたまま湯切りができる。鍋やミルクパンなど、同シリーズの他の製品にも共通する考え方である。

使い込むほどの変化

鉄のフライパンは、使うたびに油が表面に馴染み、被膜が育っていく。使い始めの灰色がかった表面は、調理を重ねるにつれて深い黒へと変わる。表面の凹凸加工はこの油馴染みを助けるため、従来の鉄フライパンで必要とされた空焼きの手間なしに使い始められる。

手入れは、調理後に温かいうちに湯とスポンジで洗い、水気を切って乾かすだけでよい。洗剤を使うと馴染んだ油が落ちるため、汚れがひどいとき以外は使わない。揚げ物や食器洗い機での洗浄は避けるよう案内されている。

評価

この製品が支持されてきた理由は、鉄という素材の扱いにくさを設計と表面加工で和らげた点にある。空焼きが要らず、こびりつきにくく、それでいて強火調理や金属製の調理器具にも耐える。鉄フライパンを敬遠してきた層にまで使い手が広がった背景には、この間口の広さがある。

形についても、注ぎ口と持ち手という二つの要素だけで、道具としての性格がはっきり示されている。装飾を持たないまま他のフライパンと区別がつく点が、長く扱われ続ける理由として挙げられることが多い。

基本情報

製品名 柳宗理 鉄フライパン
英語名 Sori Yanagi Cast Iron Pan
デザイナー 柳宗理(Sori Yanagi、1915-2011)
発売 1990年代末
販売元 佐藤商事株式会社
生産地 日本(新潟県 燕三条地域)
素材 本体:鉄(ブルーテンパ材)/蓋:ステンレス・樹脂つまみ/持ち手:フェノール樹脂
表面加工 マグマプレート / ダブルファイバー窒化加工
サイズ展開 18cm(W338×D218×H72mm)、22cm(W400×D260×H100mm)、25cm(W455×D290×H109mm)
対応熱源 直火・IH(200V)対応/電子レンジ・オーブン・食器洗い機は不可