カルティオ グラス
カルティオ グラスは、フィンランドを代表するデザイナー、カイ・フランクが1958年にイッタラ社のために手掛けた傑作である。「カルティオ」とはフィンランド語で「円錐」を意味し、その名の通り、緩やかに広がる円錐形のフォルムが特徴的な逸品として、北欧デザインの金字塔に位置づけられている。発表から半世紀以上を経た今日においても、世界中の食卓で愛用され続ける、まさに「時代を超えたデザイン」の典型である。
デザインの特徴とコンセプト
カルティオ グラスの設計思想は、カイ・フランクが生涯を通じて追求した「民主的デザイン」の精神に貫かれている。装飾を排した純粋な幾何学的形態、手に馴染む適度な重量感、そして積み重ねが可能な実用性——これらすべてが、美しさと機能性の完璧な融合を体現している。
形態の純粋性
底部から口縁部へと緩やかに広がる円錐形は、視覚的な軽やかさと構造的な安定性を両立させている。この角度は偶然の産物ではなく、グラスを持つ手の自然な動きと、液体を口元へ運ぶ際の最適な傾斜を緻密に計算した結果である。余分な装飾を一切排除することで、注がれた飲み物そのものの色彩や透明感が際立ち、内容物を主役とする謙虚な器としての本質を全うしている。
素材と製造
イッタラ社の熟練した職人たちによって、一点一点丁寧に吹きガラスの技法で製作される。鉛を含まない高品質なガラスは、透明度が高く、日常使用における耐久性にも優れている。厚すぎず薄すぎない絶妙な肉厚は、口当たりの良さと堅牢性を見事に調和させており、食器洗浄機での使用にも耐えうる実用性を備えている。
カラーバリエーション
発表当初はクリアガラスのみであったが、その後、海の色を思わせるシーブルー、森林の深緑を彷彿とさせるモスグリーン、北欧の冬空のようなグレーなど、フィンランドの自然からインスピレーションを得た豊富なカラーバリエーションが展開された。これらの色彩は、いずれも日常の食卓に溶け込みながらも、さりげない彩りを添える絶妙な発色が追求されている。
カイ・フランクとデザイン哲学
カイ・フランク(1911-1989)は、「フィンランドデザインの良心」と称されるデザイナーであり、20世紀のスカンジナビアンデザインを牽引した巨匠の一人である。アラビア社およびイッタラ社のアートディレクターとして、陶磁器からガラス製品に至るまで幅広い分野で革新的な作品を生み出した。
フランクの設計理念の核心には、「良いデザインはすべての人のためにある」という信念があった。高価な芸術品ではなく、一般家庭で日常的に使用される道具としてのテーブルウェアを追求し、過剰な装飾や複雑な形態を排除することで、製造コストを抑えながらも高い審美性を実現した。カルティオ グラスは、こうした哲学の結晶であり、機能主義と民主主義的デザインの理想を具現化した代表作として位置づけられている。
エピソード
カルティオ グラスの誕生には、戦後フィンランド社会の変革という時代背景が深く関わっている。1950年代、急速な都市化と核家族化が進む中、従来の装飾過多な食器セットは、限られた住空間と合理的な生活様式にそぐわなくなりつつあった。フランクは、こうした社会変化を鋭敏に察知し、必要最小限の形態で最大限の機能を発揮する、新しい時代のテーブルウェアを構想した。
興味深いことに、フランクは従来の食器の概念そのものに疑問を投げかけ、専用のワイングラス、水用グラス、ジュース用グラスといった細分化された器種の体系を否定した。カルティオは、一つのグラスであらゆる飲み物に対応できるユニバーサルな器として設計され、この革新的な発想は当時のデザイン界に大きな衝撃を与えた。
評価と影響
カルティオ グラスは、発表直後から国際的な評価を獲得し、20世紀を代表するガラス製品のひとつとして美術館やデザインコレクションに収蔵されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめ、世界各地の著名な美術館が永久コレクションとしてカルティオを所蔵しており、その芸術的・歴史的価値が認められている。
デザイン史における意義としては、北欧モダニズムの本質——すなわち、自然との調和、機能美の追求、民主的な価値観——を一つの器に凝縮した点が高く評価されている。また、60年以上にわたって基本設計を変えることなく生産され続けているという事実そのものが、このデザインの普遍性と完成度を雄弁に物語っている。
受賞歴・収蔵
- ミラノ・トリエンナーレ グランプリ(カイ・フランク作品として)
- フィンランド国家デザイン賞(カイ・フランクに対して)
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)永久コレクション収蔵
- ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 コレクション収蔵
- フィンランド・デザイン・ミュージアム 所蔵
基本情報
| 製品名 | カルティオ グラス(Kartio Glasses) |
|---|---|
| デザイナー | カイ・フランク(Kaj Franck) |
| 発表年 | 1958年 |
| メーカー | イッタラ(iittala) |
| 生産国 | フィンランド |
| 素材 | 無鉛ガラス |
| サイズ展開 | 21cl / 40cl |
| カラー展開 | クリア、シーブルー、モスグリーン、グレー、その他限定色 |
| デザインカテゴリー | テーブルウェア / グラスウェア |
| デザイン様式 | スカンジナビアンモダン / 機能主義 |