シリンダライン ─ 円筒形で統一されたステンレスのテーブルウェア

シリンダラインは、アルネ・ヤコブセンがステルトン社のために設計し、1967年に発表されたステンレス製テーブルウェアのコレクションである。名の通り、すべてのアイテムが円筒形を基本とし、装飾を持たない。当時主流だった光沢のある銀器に対し、つや消しのステンレス面と黒い樹脂の把手が輪郭を決めている。発売から半世紀を超えて、設計を変えずに生産が続いている。

特徴・デザインコンセプト

当初の構想は、規格化されたステンレス鋼管を基礎にするというものだった。この案は断念されたが、円筒形という骨格は最終形に引き継がれた。銀器に代わるものを、工業生産の精度を前提につくる。この狙いがコレクション全体に通っている。

素材と製法

本体はステンレススチール。表面はつや消し(ブラッシュド)に仕上げられ、当時のテーブルウェアが競っていた鏡面の輝きとは異なる質感を持つ。

ただし、この単純に見える円筒を量産するのは容易ではなかった。1960年代当時、この形状を成立させる製造方法は存在せず、ステルトンは技術を一から組み立て直す必要があった。ヤコブセンが形の妥協を認めなかったため、工場側が製法を発明する形で開発が進んだと、当事者であるペーター・ホルムブラッドは述懐している。

把手の設計

コーヒーポットやティーポットの把手には、黒いベークライトが用いられている。熱を伝えにくいという機能上の要請に応えると同時に、ステンレスの銀色と黒の対比が、円筒形だけで構成された各アイテムに視覚的な区切りを与えている。把手は本体から直線的に伸び、円筒の輪郭を崩さない位置に収まる。

統一されたプロポーション

ポット、ピッチャー、シュガーボウル、クリーマー、トレイ、アイスバケット、カクテルシェーカーなど、すべてのアイテムが同じ造形の規則に従う。単体でも成立するが、複数を並べたときに寸法と比率の関係が見えてくる。発表時の宣伝写真では、高さの異なるアイテムを並べてマンハッタンのスカイラインに見立てる構図が用いられた。

開発の経緯

発端は1964年春の家族の夕食である。ステルトンを率いていたペーター・ホルムブラッドは、義父にあたるヤコブセンに新しいシリーズの設計を依頼したいと考えていたが、当時のヤコブセンはオックスフォードのセント・キャサリンズ・カレッジの仕事に追われていた。そこでホルムブラッドは自分で描いたスケッチを見せた。それを見たヤコブセンは紙ナプキンを取り、自ら線を引き始めたという。

依頼の内容は、コーヒーとティーのサービスに加え、ホームバーのためのカクテルシェーカー、アイスバケット、灰皿までを含む一式であった。設計と製造技術の開発は3年に及び、1967年に発売された。当初のラインナップは15点で構成されている。

代表的なアイテム

コーヒーポット
容量1.5リットル。円筒形の本体に黒い把手が取り付き、蓋には同素材の円形のつまみが配される。注ぎ口は本体から細く伸びる。
カクテルシェーカー
ホームバー向けのアイテム群を象徴する一点。円筒形の本体に、内部のストレーナーを備える。発表当時、テーブルウェアのシリーズにシェーカーやマティーニミキサーが含まれること自体が新しかった。
アイスバケット
二重壁構造により断熱性を確保する。蓋に円形のつまみが設けられ、トングと組み合わせて使う。1リットルと2.5リットルの2サイズがある。
灰皿(リボルビングアッシュトレイ)
円筒形のカップに半球状のボウルが収まり、回転させて中身を落とし込む構造。MoMAのコレクションにも収蔵されている。

評価と影響

発売の翌年には米国室内デザイナー協会のインターナショナル・デザイン・アワードを受賞するなど、国際的な評価は早い段階で定まった。ヤコブセンは1950年代の家具で見せた有機的な曲線から離れ、1960年代には反復と基礎的な幾何形態に基づく表現へ移っていったが、その方針に沿った作品のうち広く定着したものは多くない。シリンダラインはその例外である。

1967年のオリジナルの設計を保ったまま生産が続いており、コーヒーポット、カクテルシェーカー、シュガーボウルとクリーマー、ソルト&ペッパーシェーカー、灰皿などがMoMAのコレクションに収蔵されている。

受賞歴

  • 1967年 IDプライズ(デンマーク・インダストリアルデザイン協会)
  • 1968年 インターナショナル・デザイン・アワード(米国室内デザイナー協会)

基本情報

名称 シリンダライン / Cylinda Line
デザイナー アルネ・ヤコブセン / Arne Jacobsen(1902-1971)
発表年 1967年(開発開始は1964年)
メーカー ステルトン / Stelton(デンマーク)
素材 ステンレススチール(つや消し仕上げ)、ベークライト(把手・つまみ)
カテゴリー テーブルウェア / キッチンウェア
収蔵 ニューヨーク近代美術館(MoMA)