概要
ウッデンドール(Wooden Dolls)は、ミッドセンチュリーを代表するデザイナー、アレキサンダー・ジラードが1952年に自邸のためにデザインした木製人形のコレクションである。人物や動物をモチーフとした22種類の個性豊かな人形たちは、ジラードが生涯をかけて収集した世界各地の民芸品からインスピレーションを得て生まれた。現在はスイスの家具メーカー、ヴィトラ社によって復刻され、世界中のインテリア愛好家に愛されている。
特徴・コンセプト
ウッデンドールの最大の特徴は、その豊かな表情と鮮やかな色彩にある。楽しげな表情を浮かべるものから、どこか物憂げな表情、いたずらっぽい表情まで、それぞれの人形が独自の個性を持っている。これらの多様な表情は、ジラードが収集していた南米、アジア、東ヨーロッパの民芸品に見られる素朴でありながら力強い造形美を反映している。
素材には無垢のモミ材が使用され、熟練の職人によってひとつひとつ丁寧に削り出され、手作業で彩色される。この手仕事による製作プロセスは、ジラード自身が最初に制作した方法を忠実に再現しており、わずかな色の濃淡や筆致の違いが、それぞれの人形を唯一無二の存在にしている。
装飾品と玩具の中間的な存在として構想されたウッデンドールは、ミニマルでシンプルな古典的モダニズムに対して、遊び心と楽しさを提案するジラードの哲学を体現している。抽象化された造形でありながら、どこか親しみやすさを感じさせるデザインは、モダンデザインに暖かみと人間性をもたらす役割を果たしている。
デザインの背景
アレキサンダー・ジラードは、チャールズ&レイ・イームズやジョージ・ネルソンとともに、戦後アメリカのデザイン界を牽引した人物である。1907年にニューヨークで生まれ、フィレンツェで育ち、ロンドンで建築を学んだ国際的な背景を持つジラードは、世界中の民芸品や民族芸術に深い関心を寄せていた。
1953年にサンタフェに移住したジラードは、10万点を超える膨大な民芸品コレクションを築き上げた。メキシコの死者の日の人形、インドの織物、日本の民芸品、東欧の木製玩具など、世界各地から収集されたこれらの品々は、彼のデザインの重要なインスピレーション源となった。ウッデンドールは、これらのコレクションから得た豊かな文化的要素を、モダンデザインの文脈で再解釈した作品である。
ハーマンミラー社での活動
1952年から1973年まで、ジラードはハーマンミラー社のテキスタイル部門のデザインディレクターを務め、300を超えるテキスタイルデザインを手がけた。幾何学的パターンと鮮やかな色彩を特徴とする彼のファブリックデザインは、当時主流だった中間色のトレンドに対して、生き生きとした喜びと spontaneity(自発性)をもたらした。
製作エピソード
1960年、ヴィトラ社の現名誉会長ロルフ・フェルバウムがサンタフェのジラード邸を初めて訪れた際、その家の魅力に深い感銘を受け、両親に「アメリカで見た中で最も魅力的な家」と手紙に書き送ったという。家中に配置されたウッデンドールをはじめとする装飾品と、世界中から集められた民芸品が織りなす空間は、訪れる者を魅了する特別な世界を作り出していた。
もともと個人的な使用のためだけに作られたウッデンドールは、ジラード自身が「私を個人的に満足させるデザインだけが、生産する価値がある」と語った作品である。1993年のジラードの逝去後、遺族はジラードのアーカイブ(数百の図面、プロトタイプ、サンプル)をヴィトラ デザイン ミュージアムに寄贈。これによって、現在の復刻版の製造が可能となった。
評価と影響
ウッデンドールは、クラシック・モダニズムが拒絶していたもの―色彩、装飾、豊かな内装―を復活させたジラードの功績を象徴する作品として高く評価されている。工芸と工業、ポップカルチャーとハイカルチャー、遊び心のある装飾と巧みな削減という、一見相反する要素を見事に融合させた彼のアプローチは、ポストモダニズムの色彩豊かな言語から、現在のポスト工業デザインやグローバリゼーションに関する議論まで、その後数十年のデザインの発展を先取りしていた。
2016年から2017年にかけて、ヴィトラ デザイン ミュージアムで開催された「Alexander Girard: A Designer's Universe」展では、ウッデンドールを含むジラードの作品が包括的に紹介され、改めてその先見性と現代性が評価された。現在も手作業で製作されるウッデンドールは、デジタル時代においても変わらぬ魅力を放ち続け、インテリアに温かみと個性をもたらす特別な存在として、世界中のコレクターやデザイン愛好家に愛され続けている。
現代における意義
ミニマリズムが主流となった現代のインテリアデザインにおいて、ウッデンドールは空間に生命力と物語性をもたらす重要な役割を果たしている。単なる装飾品を超えて、文化的多様性と手仕事の価値を体現する作品として、持続可能性や文化的アイデンティティが重視される現代において、その意義はますます高まっている。
また、子どもから大人まで幅広い世代に愛されるそのデザインは、世代を超えて受け継がれる価値あるオブジェとしての地位を確立している。木製のギフトボックスに収められた各人形は、特別な贈り物としても人気が高く、人と人との繋がりを深める媒体としての役割も果たしている。
| デザイナー | Alexander Girard(アレキサンダー・ジラード) |
|---|---|
| ブランド | Vitra(ヴィトラ) |
| デザイン年 | 1952年 |
| 素材 | モミ無垢材(手塗り) |
| 製造 | ハンドメイド(手作業による削り出しと彩色) |
| バリエーション | 全22種類(No.1〜No.22) |
| サイズ | 高さ約14.5cm〜30.5cm(モデルにより異なる) |
| パッケージ | 木製ギフトボックス(パンフレット付き) |
| 原産国 | EU |
| 所蔵 | オリジナル:Vitra Design Museum |