プレジデントデスクは、デンマークの巨匠ハンス・J・ウェグナーが1951年に発表した、フリースタンディング型の大型書斎机である。部屋の中央に配置することを前提に設計されたこの作品は、360度いかなる角度から眺めても美しいフォルムを呈し、デンマーク近代家具における最高峰の一つとして国際的に高い評価を受けている。
本作は当初、リー・モブラー社によって製造されていたが、現在はPPモブラー社がその製作を引き継ぎ、型番PP503として今日まで生産が続けられている。ひとつの机を完成させるまでに数百時間を要するとされ、デンマーク家具職人の卓越した技術と情熱の結晶といえる。
特徴・コンセプト
プレジデントデスクの最大の特徴は、伝統的な書斎机が壁際に配置されることを前提としていたのに対し、空間の中心に据えることで存在感を発揮するよう設計されている点にある。左右両側に設けられた引き出しと収納スペースは、タンバードア(蛇腹式スライドドア)によって優雅に隠され、使用時には滑らかに開閉する。この機構は、ウェグナーが追求した機能美の象徴であり、装飾を排しながらも視覚的な豊かさを実現している。
有機的な造形
天板は緩やかな曲線を描き、角には丸みが施されている。この有機的なフォルムは、ウェグナーが木材という素材の本質を深く理解し、その特性を最大限に活かそうとした結果である。無垢材から削り出された各部は、職人の手によって丁寧に仕上げられ、使い込むほどに味わいを増す。
素材と製作技法
主にオーク材やアッシュ材が用いられ、オイル仕上げまたはソープ仕上げが施される。特にタンバードアの製作には高度な技術が求められ、薄く削られた無数の木片を布地やレザーに貼り付けることで、柔軟かつ耐久性のあるスライド機構が実現される。また、引き出しの組み手や接合部には伝統的なダヴテイルジョイント(蟻組み)が採用され、堅牢性と美観が両立されている。
エピソード
「プレジデント」という名称は、この机が持つ威厳ある佇まいに由来する。まさに企業の社長や国家の指導者にふさわしい存在感を備えており、ウェグナー自身もこの作品を自らのキャリアにおける最も野心的なプロジェクトの一つと位置づけていた。
1951年の発表当時、リー・モブラー社との協働によって製作が開始されたが、その複雑な構造ゆえに製造には膨大な時間と労力を要した。後年、PPモブラー社が製作を引き継いだ際にも、創業者のアイナー・ペデルセンはウェグナーとの緊密な協力関係のもと、オリジナルのデザイン意図を忠実に再現することに尽力した。現在もデンマーク・リレロッドにあるPPモブラーの工房では、熟練の職人たちが一脚一脚を手作業で仕上げている。
評価
プレジデントデスクは、20世紀デンマーク家具デザインの到達点として、世界各地の美術館やコレクターから高い評価を受けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめとする主要なデザインミュージアムにおいて、デンマーク・モダンを代表する作品として展示されてきた。
現代においても、その普遍的なデザイン言語と比類なきクラフトマンシップは色褪せることなく、世界中のデザイン愛好家や建築家から支持され続けている。一脚の製作に数ヶ月を要するという希少性も相まって、現代のラグジュアリー市場においても最高級の家具として位置づけられている。
受賞歴・展示
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)パーマネントコレクション所蔵
- デンマーク・デザインミュージアム(旧工芸博物館)展示作品
- ヴィトラ・デザインミュージアム展示歴あり
- 世界各国のデザイン関連展覧会において繰り返し紹介される
基本情報
| デザイナー | ハンス・J・ウェグナー(Hans J. Wegner) |
|---|---|
| デザイン年 | 1951年 |
| 製造元 | リー・モブラー(Ry Møbler)※オリジナル製造 PPモブラー(PP Møbler)※現行製造 |
| 型番 | PP503 |
| 素材 | オーク、アッシュ、ウォールナット等の無垢材 タンバードア用布地またはレザー |
| 仕上げ | オイル仕上げ、ソープ仕上げ |
| 生産国 | デンマーク |
| 分類 | デスク / 書斎家具 |