Herringbone Pillows(ヘリンボーン・ピローズ)は、スイスの高級家具ブランド「Vitra(ヴィトラ)」が展開する、独創的な染色技術から生まれたクッションコレクションである。ロンドンを拠点とするデザインスタジオ「Raw-Edges(ロウ・エッジズ)」によって手がけられた本作品は、浸染技術(イマージョン・ダイング)への探求心から誕生した、アートと機能性を融合させた逸品として位置づけられる。
幾何学的でありながら手仕事の温もりを感じさせるパターンは、染料への複数回の浸漬によって生み出される独特な色彩の重なりを表現している。交差し重なり合う帯状のパターンは、その名の通りヘリンボーン(ニシンの骨)を想起させる構成でありながら、現代的な感性によって再解釈された新しい視覚言語を提示している。
特徴・コンセプト
Herringbone Pillowsの最大の特徴は、伝統的な染色技法を現代的なプロダクトデザインへと昇華させた点にある。Raw-Edgesは、素材を染料に浸す際に生じる変化と変容に着目し、その偶然性と必然性が織りなす美しさを、再現可能な工業製品へと転換することに成功した。
各クッションの表面を彩るパターンは、異なる色の染料への複数回の浸漬プロセスを経て生み出されたオリジナルデザインをベースとしている。この手法により実現された色彩の濃淡と重なりは、手仕事による有機的な表情を保ちながらも、幾何学的な秩序を持つという、一見相反する要素を見事に調和させている。
素材には100%コットンを使用し、中材にはダックハーフダウンまたはリサイクルポリエステルを採用することで、環境への配慮と快適性を両立させている。この選択は、Vitraが掲げる持続可能なデザインという理念を体現するものであり、美しさと責任を等しく重視する現代のデザイン哲学を反映している。
開発エピソード
Herringbone Pillowsの誕生は、2018年にVitraキャンパス内のVitraHausにおいて、Raw-Edgesが手がけた空間デザインプロジェクトに端を発する。このプロジェクトでは、VitraHausの1フロア全体の家具配置とインテリアデザインが委ねられ、Raw-Edgesは浸染技術をベースとしたパターンを持つクッションや、樹木を思わせる小さな木製オブジェのシリーズを開発した。
これらの試作品は来場者から大きな反響を呼び、その結果、量産化に向けた本格的な開発がスタートすることとなった。浸染という偶然性を含む手法から生まれたデザインを、工業生産において再現することは大きな挑戦であったが、Raw-EdgesとVitraの協働により、オリジナルの美しさを損なうことなく、高品質な製品として市場に送り出すことに成功した。
最終的に誕生したHerringboneコレクションは、クッションのHerringbone Pillowsと、セラミック製の器「Herringbone Vessels」で構成され、素材の特性に応じて色彩とパターンの鮮明さが異なるという、素材への深い理解に基づいたデザインアプローチを示している。
評価
Herringbone Pillowsは、伝統的な工芸技法と現代的な工業デザインの架け橋となる作品として、デザイン界から高い評価を受けている。手仕事の温もりと工業製品の完成度を両立させたこのクッションシリーズは、現代のインテリアデザインにおける新たな可能性を示唆するものとして捉えられている。
特に注目されているのは、偶然性を含む染色プロセスから生まれたパターンを、精密な印刷技術によって再現した点である。この手法は、アート作品のユニークさと工業製品の再現性という、一般的には相容れない要素を見事に融合させており、デザインプロセスにおける新たなアプローチとして評価されている。
また、明快な色彩と幾何学的パターンが生み出す視覚的な新鮮さと喜びは、空間に活力をもたらす要素として、世界中のインテリアデザイナーや建築家から支持を集めている。Vitraの製品ラインナップにおいても、機能性と芸術性を高次元で融合させた代表作のひとつとして位置づけられている。
デザイナーについて
Raw-Edges(ロウ・エッジズ)は、イスラエル出身のデザイナー、Shay Alkalay(シャイ・アルカライ)とYael Mer(ヤエル・メル)によって2007年にロンドンで設立されたデザインスタジオである。両名は、ロンドンの名門ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでプロダクトデザインの修士号を取得後、共同でスタジオを立ち上げた。
Raw-Edgesの作品は、遊び心と実験精神に満ちたアプローチを特徴とし、色彩、パターン、動きを重要な要素として取り入れている。日常的なオブジェクトを新たな視点から捉え直し、驚きと喜びをもたらすデザインを生み出すことを得意としている。彼らの作品は、工業生産品から実験的な一点物まで幅広く、常に既成概念に挑戦し続けている。
主な受賞歴
- A&W 2020 Designers of the Year - デザイン界で最も権威ある賞のひとつ
- Design Miami/Basel Designer of the Future 2009 - 新進デザイナーに与えられる名誉ある賞
- Wallpaper* Design Award - 複数年にわたり受賞
- Elle Decoration International Design Award 2008-09 - ベストファニチャー部門
- iF Gold Award - 国際的に認知度の高いデザイン賞
- Dutch Design Award - オランダの権威あるデザイン賞
彼らの作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ヴィトラ・デザイン・ミュージアム、シカゴ美術館など、世界の主要な美術館のパーマネントコレクションに収蔵されている。また、Vitra以外にも、Louis Vuitton、Stella McCartney、Kvadrat、Moroso、Cappellini、Mutina、Airbnbなど、世界的なブランドとのコラボレーションを手がけており、その活動は国際的な評価を得ている。
基本情報
| 製品名 | Herringbone Pillows(ヘリンボーン・ピローズ) |
|---|---|
| ブランド | Vitra(ヴィトラ) |
| デザイナー | Raw-Edges(Shay Alkalay & Yael Mer) |
| デザイン年 | 2018年(プロトタイプ)/ 2019年(製品化) |
| 素材 | 表地:コットン100% 中材:ダックハーフダウンまたはリサイクルポリエステル100% |
| カラーバリエーション | 複数色展開(イエロー、ブルー、グリーン、ピンク、グレー系など) |
| 製造国 | ドイツ |
| 特徴 | 浸染技術にインスパイアされた幾何学的パターン、手仕事の温もりを感じさせるデザイン |
参考文献
- Vitra Official Website - Herringbone Collection (https://www.vitra.com/)
- Raw-Edges Design Studio Official Website (https://www.raw-edges.com/)
- Design Miami/Basel Archives - Designer of the Future 2009
- MoMA Collection Database - Raw-Edges Works